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第21話
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午後の光はまだ柔らかいというのにあれ以来調子が悪くて仕方がない。
軽い頭痛と、鼻の奥に残る微かな痛み。季節の変わり目によくある体調不良――だが、それだけでは済まない感じがしてならなかった。
ハイデンは屋敷の窓辺に腰を下ろし、額に手を当てながら、ぼんやりと庭を眺めていた。頬を撫でる風の感触はいつもと変わらない。だけど、心の中はどこか落ち着かない。
(……やっぱり、変、だよな?)
最近、クリスの様子が妙だ――視線の向け方、距離の取り方、言葉の温度……どれも以前と微妙に違っている気がする。
(……まるで、僕の【変化】を測っているみたいで、すごく気持ち悪いぞ)
そんな考えがよぎるたび、胸の奥にチクリと刺さる痛みが残る。
信頼しているはず――少なくとも、唯一まともに会話ができる相手だ。けれどそれでも、あの静かな男が時折見せる何かを探るような目が、ものすごく引っかかっていた。
(もしかして……俺が壊れるのを、待ってるんじゃないか?)
そんな疑念さえ、頭の端で浮かぶようになった。
ため息をついて立ち上がると、ふと、玄関のあたりに微かな気配を感じ、思わず窓から身を乗り出し、前庭の方に目をやる。
「……どうして?」
思わず呟いてしまった。
そこに立っていたのは、見覚えのある二人の姿。学園で最も華やかな存在だった少女であり、ヒロインでもあるリリア・セントマリア。そしてその隣には、彼女を守るように立つ騎士、カミル・ド・セリーヌ。
その姿は、まるで夢の断片から抜け出してきたかのようだった。
(……なんで、【彼女】が、ここに?そもそも住所なんて教えてないし、僕はお前たちに関わっていないぞ!?)
そもそもこの屋敷は王都の片隅、地図にも載らない場所だ。学園の貴族たちが足を運ぶような場所ではないし、この場所を知っている唯一の人間は、身内のみ。
なのに、彼女はここにいるのか理解が出来ない。迷いなく、まっすぐに門の前に立っていた。
戸惑いながらも、ハイデンは息を静かに吐き、玄関へと向かう。
ゆっくりと扉を開けると、そこに立っていた少女、リリアが花のように笑って一歩踏み出した。
「ごきげんよう、ハイデン・ヴァルメルシュタイン様」
まるで、旧知の友人に挨拶するような口調。
だが、その笑みには奇妙な決意が滲んでいるかのように。
「……こんにちはお嬢さん。僕に何か御用ですか?」
ハイデンの声はかすれ気味だった。熱のせいではなく、混乱が言葉を曇らせている。
リリアは、ちらとカミルを見たあと、ハイデンへと視線を戻す。
そもそもハイデンはリリアの【物語】には参加していないので、ここでは初対面のはずだ。しかし、リリアはまるで全てを知っているかのようにハイデンを見ているようにも見える。
嫌な予感が胸を締め付けている感覚――それはどうやら当たっていたらしい。
「ハイデン様、あなたが私の前に現れないと、私が幸せになれないの」
「……は?」
「あなたが私たちの【敵】にならないと、私の物語が崩れてしまうわ」
「ちょ、何を言って――」
その言葉はまるで凍りついた空気の中に落とされた針のように、音もなくハイデンの胸を突き刺す。
そして、目の前の少女はまるでこの世界が【物語】のように語ってくる。
リリアの言葉を聞いて、ハイデンは目を見開く。
(……もしかして彼女も僕と同じ【転生者】?)
もし、自分の考えが間違ってなければ、今言っている事が理解出来る。
ハイデンは汗を静かに流しながら、静かに笑った。
「……何を、言っている?」
自分でも声が震えているのがわかった。
だが、リリアは変わらず穏やかな声で続ける。
「このままじゃ、あなたは【物語】の役割を果たせない。ゲームが止まったままなんです――私自身が【幸せなハッピーエンド】を迎えるには、あなたが動かなきゃいけないの」
その【物語】という言葉に、ハイデンの背筋が冷たくなる。
つまり、勝手に敵になって、勝手にやられろ、死んでくれと言っているようなモノなのだ。ハイデンは嫌そうな顔をしながらリリアに言う。
「……帰れ」
ハイデンは低く呟いた。
だがリリアは一歩も引かず、むしろ一歩、門の内側へと進み出る。
「あなたがここに閉じこもっていても、終わらないの。運命は抗うためにあるんでしょう?」
それは、自分が過去に何度も思った言葉だった。
抗いたい、変えたいと願って、必死に耐えてきた――でも。
そして、リリアの言葉はハイデンにとっては勝手すぎる言葉だ。彼女が幸せになりたいから、自分には死ねと言っているようなもの。
(それでも僕は……望んだわけじゃない)
扉の前で立ち尽くすハイデンに、風が吹く。屋敷の静寂を破り、どこか遠くから花の香りを運んでくる。
そしてその中で、リリアの瞳だけが、奇妙に澄んでいた。
「あなたが表舞台に立つ【敵】にならなければ物語は始まらないのよ」
リリアの声は微笑を含みながらも、どこか祈るように、そして命令のように響いていた。
そのまま、ハイデンの返答を待つこともなく彼女は言葉を重ねる。
「アレン様も、ライオネル様も、カミル様も……皆、舞台の上であなたを待ってるの。あなたが姿を現し、暴れて、狂ってくれなければ……誰も【あなた自身】に気づけない」
その姿、その声音、その眼差し――すべてが異質だった。
まるで彼女だけが別の世界に生きているかのように、目の前の現実を【演出】としか捉えていない。
(……本気で言っているのか?)
頭の奥がじん、と痛んだ。
高熱のせいだけじゃない。あの言葉の意味をハイデンは理解出来ない。
「……僕は、そんなもののために生きてるわけじゃない」
重く、かすれた声が唇から漏れる。
その一言に、リリアの表情が微かに揺れる。
「……いいえ、違うわ。あなたは【そういう役】なのよ。破滅を背負ってリリアに試練を与えて、最後に――救われるべき、哀しい人」
まるで台詞でも読むかのように。
誰かが決めた脚本をなぞるように。
それが、ハイデンにはたまらなく恐ろしく、気持ち悪かった。
「僕は何もかも全て諦めていた……けど、今は違うんだ。帰ってくれ」
ハイデンは変わった。全てを諦めていた、死を待っていたはずなのに、今は生きたいと願ってしまっている。
全ては、クリスのおかげで。
この世界を自由に生きても、勝手にしても、それは自分自身の意思なのだからリリアには関係ないだろうと、ちょっとだけ苛立ちを覚えながら。
しかしリリアは違うらしい。
その言葉に微笑んだまま、そっと腰の小袋に手を差し入れる。
「……じゃあ、思い出させてあげます。貴方が誰なのか、何を背負ってるのか。ここで全部……引きずり出してあげる」
そう言って、彼女は掌に一枚の鏡のような装飾品を取り出す。
精巧な銀の縁に中央には濃い紫の宝石が埋め込まれ、不穏な光を帯びていた。
ハイデンの喉が、ひとつ、微かに鳴る。
(――魔術具?)
その瞬間、リリアの指が宝石の中央を撫でた。
「《記憶開示の呪詛――始めましょう、【貴方の役目】を」
カチ、と空気が変わる音がした。
ハイデンの足元から、魔術式が円を描いて広がっていく。目には見えぬはずの文様が、床に、空気に、肉体に焼きつくように広がり、冷たい圧力が肺を締めつける。
「……っく……やめろ……ッ!」
突然体が熱が弾けるように、視界が染まる。
目の奥に、強制的に【過去】の映像が押し込まれてくる。
記憶――?
いや、それだけじゃない。
ゲームの中で何度も見た【あの場面】が繰り返し流される。
自分が【ハイデン】というキャラクターとして暴走し、破滅していった断片。転生前に自分が見ていた地獄が、今、身体の内側から侵食してくる。
掌が震え、吐き気が喉を上がり、膝が崩れかけた。
「……っ、く……こんな……ッ!」
「ねえ、思い出して。貴方が誰だったか。そしてどう終わるべきだったかを」
リリアは、笑っている――狂気にも似た、純粋で澄んだ笑みだった。
「あなたが壊れれば、私たちは正しく動けるの。だから、お願い――【舞台】に戻ってきて」
そして呪詛の光が、ハイデンの額に触れた瞬間、体が侵食される感覚に陥る。
「……やめろって言っているだろうが!!」
叫びとともに、ハイデンの中から魔力が噴き上がった。
抑え込まれていた力が解放され呪詛の文様を内側から焼き切るように暴れだす。
風が唸りを上げ、空間が歪む。
リリアが後退り、カミルが彼女をかばって前に出ようとする。
だが――次の瞬間。
ハイデンは、玄関の扉を激しく閉めた。
内側に、彼自身の防御結界が走り、外界との接触を遮断する。
肩で息をしながら、ハイデンはドアにもたれかかり、静かに目を閉じた。
本来のゲームのお話ならば、このまま暴走していき、周りの人間たちを、周囲に住んでいた人たちを無差別に殺してしまい、そこから壊れていくのがゲームのハイデンの役割だ。
しかし、ハイデンはそんな事をしたくない。
その中には【クリス】がいるのだ。
(まずい……また、こうやって……力に呑まれる……だが、抑えなければならないっ)
背中を支える木の感触が、ひどく遠かった。
このまま、自分があの【役】に戻っていくのだとしたら――ああ、本当に。
(クソ、やっぱり……生きてるだけじゃ、足りなかったんだな)
いつの間にか、そのように思ってしまったハイデンの姿があった。
軽い頭痛と、鼻の奥に残る微かな痛み。季節の変わり目によくある体調不良――だが、それだけでは済まない感じがしてならなかった。
ハイデンは屋敷の窓辺に腰を下ろし、額に手を当てながら、ぼんやりと庭を眺めていた。頬を撫でる風の感触はいつもと変わらない。だけど、心の中はどこか落ち着かない。
(……やっぱり、変、だよな?)
最近、クリスの様子が妙だ――視線の向け方、距離の取り方、言葉の温度……どれも以前と微妙に違っている気がする。
(……まるで、僕の【変化】を測っているみたいで、すごく気持ち悪いぞ)
そんな考えがよぎるたび、胸の奥にチクリと刺さる痛みが残る。
信頼しているはず――少なくとも、唯一まともに会話ができる相手だ。けれどそれでも、あの静かな男が時折見せる何かを探るような目が、ものすごく引っかかっていた。
(もしかして……俺が壊れるのを、待ってるんじゃないか?)
そんな疑念さえ、頭の端で浮かぶようになった。
ため息をついて立ち上がると、ふと、玄関のあたりに微かな気配を感じ、思わず窓から身を乗り出し、前庭の方に目をやる。
「……どうして?」
思わず呟いてしまった。
そこに立っていたのは、見覚えのある二人の姿。学園で最も華やかな存在だった少女であり、ヒロインでもあるリリア・セントマリア。そしてその隣には、彼女を守るように立つ騎士、カミル・ド・セリーヌ。
その姿は、まるで夢の断片から抜け出してきたかのようだった。
(……なんで、【彼女】が、ここに?そもそも住所なんて教えてないし、僕はお前たちに関わっていないぞ!?)
そもそもこの屋敷は王都の片隅、地図にも載らない場所だ。学園の貴族たちが足を運ぶような場所ではないし、この場所を知っている唯一の人間は、身内のみ。
なのに、彼女はここにいるのか理解が出来ない。迷いなく、まっすぐに門の前に立っていた。
戸惑いながらも、ハイデンは息を静かに吐き、玄関へと向かう。
ゆっくりと扉を開けると、そこに立っていた少女、リリアが花のように笑って一歩踏み出した。
「ごきげんよう、ハイデン・ヴァルメルシュタイン様」
まるで、旧知の友人に挨拶するような口調。
だが、その笑みには奇妙な決意が滲んでいるかのように。
「……こんにちはお嬢さん。僕に何か御用ですか?」
ハイデンの声はかすれ気味だった。熱のせいではなく、混乱が言葉を曇らせている。
リリアは、ちらとカミルを見たあと、ハイデンへと視線を戻す。
そもそもハイデンはリリアの【物語】には参加していないので、ここでは初対面のはずだ。しかし、リリアはまるで全てを知っているかのようにハイデンを見ているようにも見える。
嫌な予感が胸を締め付けている感覚――それはどうやら当たっていたらしい。
「ハイデン様、あなたが私の前に現れないと、私が幸せになれないの」
「……は?」
「あなたが私たちの【敵】にならないと、私の物語が崩れてしまうわ」
「ちょ、何を言って――」
その言葉はまるで凍りついた空気の中に落とされた針のように、音もなくハイデンの胸を突き刺す。
そして、目の前の少女はまるでこの世界が【物語】のように語ってくる。
リリアの言葉を聞いて、ハイデンは目を見開く。
(……もしかして彼女も僕と同じ【転生者】?)
もし、自分の考えが間違ってなければ、今言っている事が理解出来る。
ハイデンは汗を静かに流しながら、静かに笑った。
「……何を、言っている?」
自分でも声が震えているのがわかった。
だが、リリアは変わらず穏やかな声で続ける。
「このままじゃ、あなたは【物語】の役割を果たせない。ゲームが止まったままなんです――私自身が【幸せなハッピーエンド】を迎えるには、あなたが動かなきゃいけないの」
その【物語】という言葉に、ハイデンの背筋が冷たくなる。
つまり、勝手に敵になって、勝手にやられろ、死んでくれと言っているようなモノなのだ。ハイデンは嫌そうな顔をしながらリリアに言う。
「……帰れ」
ハイデンは低く呟いた。
だがリリアは一歩も引かず、むしろ一歩、門の内側へと進み出る。
「あなたがここに閉じこもっていても、終わらないの。運命は抗うためにあるんでしょう?」
それは、自分が過去に何度も思った言葉だった。
抗いたい、変えたいと願って、必死に耐えてきた――でも。
そして、リリアの言葉はハイデンにとっては勝手すぎる言葉だ。彼女が幸せになりたいから、自分には死ねと言っているようなもの。
(それでも僕は……望んだわけじゃない)
扉の前で立ち尽くすハイデンに、風が吹く。屋敷の静寂を破り、どこか遠くから花の香りを運んでくる。
そしてその中で、リリアの瞳だけが、奇妙に澄んでいた。
「あなたが表舞台に立つ【敵】にならなければ物語は始まらないのよ」
リリアの声は微笑を含みながらも、どこか祈るように、そして命令のように響いていた。
そのまま、ハイデンの返答を待つこともなく彼女は言葉を重ねる。
「アレン様も、ライオネル様も、カミル様も……皆、舞台の上であなたを待ってるの。あなたが姿を現し、暴れて、狂ってくれなければ……誰も【あなた自身】に気づけない」
その姿、その声音、その眼差し――すべてが異質だった。
まるで彼女だけが別の世界に生きているかのように、目の前の現実を【演出】としか捉えていない。
(……本気で言っているのか?)
頭の奥がじん、と痛んだ。
高熱のせいだけじゃない。あの言葉の意味をハイデンは理解出来ない。
「……僕は、そんなもののために生きてるわけじゃない」
重く、かすれた声が唇から漏れる。
その一言に、リリアの表情が微かに揺れる。
「……いいえ、違うわ。あなたは【そういう役】なのよ。破滅を背負ってリリアに試練を与えて、最後に――救われるべき、哀しい人」
まるで台詞でも読むかのように。
誰かが決めた脚本をなぞるように。
それが、ハイデンにはたまらなく恐ろしく、気持ち悪かった。
「僕は何もかも全て諦めていた……けど、今は違うんだ。帰ってくれ」
ハイデンは変わった。全てを諦めていた、死を待っていたはずなのに、今は生きたいと願ってしまっている。
全ては、クリスのおかげで。
この世界を自由に生きても、勝手にしても、それは自分自身の意思なのだからリリアには関係ないだろうと、ちょっとだけ苛立ちを覚えながら。
しかしリリアは違うらしい。
その言葉に微笑んだまま、そっと腰の小袋に手を差し入れる。
「……じゃあ、思い出させてあげます。貴方が誰なのか、何を背負ってるのか。ここで全部……引きずり出してあげる」
そう言って、彼女は掌に一枚の鏡のような装飾品を取り出す。
精巧な銀の縁に中央には濃い紫の宝石が埋め込まれ、不穏な光を帯びていた。
ハイデンの喉が、ひとつ、微かに鳴る。
(――魔術具?)
その瞬間、リリアの指が宝石の中央を撫でた。
「《記憶開示の呪詛――始めましょう、【貴方の役目】を」
カチ、と空気が変わる音がした。
ハイデンの足元から、魔術式が円を描いて広がっていく。目には見えぬはずの文様が、床に、空気に、肉体に焼きつくように広がり、冷たい圧力が肺を締めつける。
「……っく……やめろ……ッ!」
突然体が熱が弾けるように、視界が染まる。
目の奥に、強制的に【過去】の映像が押し込まれてくる。
記憶――?
いや、それだけじゃない。
ゲームの中で何度も見た【あの場面】が繰り返し流される。
自分が【ハイデン】というキャラクターとして暴走し、破滅していった断片。転生前に自分が見ていた地獄が、今、身体の内側から侵食してくる。
掌が震え、吐き気が喉を上がり、膝が崩れかけた。
「……っ、く……こんな……ッ!」
「ねえ、思い出して。貴方が誰だったか。そしてどう終わるべきだったかを」
リリアは、笑っている――狂気にも似た、純粋で澄んだ笑みだった。
「あなたが壊れれば、私たちは正しく動けるの。だから、お願い――【舞台】に戻ってきて」
そして呪詛の光が、ハイデンの額に触れた瞬間、体が侵食される感覚に陥る。
「……やめろって言っているだろうが!!」
叫びとともに、ハイデンの中から魔力が噴き上がった。
抑え込まれていた力が解放され呪詛の文様を内側から焼き切るように暴れだす。
風が唸りを上げ、空間が歪む。
リリアが後退り、カミルが彼女をかばって前に出ようとする。
だが――次の瞬間。
ハイデンは、玄関の扉を激しく閉めた。
内側に、彼自身の防御結界が走り、外界との接触を遮断する。
肩で息をしながら、ハイデンはドアにもたれかかり、静かに目を閉じた。
本来のゲームのお話ならば、このまま暴走していき、周りの人間たちを、周囲に住んでいた人たちを無差別に殺してしまい、そこから壊れていくのがゲームのハイデンの役割だ。
しかし、ハイデンはそんな事をしたくない。
その中には【クリス】がいるのだ。
(まずい……また、こうやって……力に呑まれる……だが、抑えなければならないっ)
背中を支える木の感触が、ひどく遠かった。
このまま、自分があの【役】に戻っていくのだとしたら――ああ、本当に。
(クソ、やっぱり……生きてるだけじゃ、足りなかったんだな)
いつの間にか、そのように思ってしまったハイデンの姿があった。
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