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第30話
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森の風は容赦なく冷たく、枝葉が軋み、小屋の壁がわずかに震える。
その小さな小屋の中――粗末な寝台に横たわるハイデンの呼吸は荒く、額には熱が滲んでいた。慣れない環境と連日の緊張と呪詛の残滓、それらが重なり彼の体力は限界を超えていた。
「……ハイデン、大丈夫か?」
クリスの低い声が耳元で揺れる。
視界は霞み、焦点が定まらない。
立ち上がろうとした足にも、もはや力は入らなかった。
「だいじょ……ぶ、だ……」
かすれた声で言いかけたが、言葉にならない。
肺がうまく膨らまず、熱が頭を揺らし、世界が遠のいていく感覚がある。
(……後ろには、まだアゼルがいる……)
まだ、あの光景が思い浮かべられる。
自分の存在すべてを否定する、あの冷たい眼差しの姿が。
(また……僕は――)
意識がじりじりと削られる。
クリスがそっと肩に触れた瞬間、ハイデンの体内で魔力が逆流した。
「……っ、まただ……」
唇が震え、体の奥底で魔力が暴れ始めていた。制御がきかない。
幼いころから幾度も経験し、いまでも経験している予兆だ。
「ハイデン落ち着け。大丈夫だ、俺が――」
「やめろッ!!」
ハイデンはそのまま絶叫のような声をあげ、思わずクリスの胸を押し返す。
だが、その手には力がなくすぐに支え直されてしまう。それでも、ハイデンは必死だった。
「……僕を、僕の事はおいていってよ、クリス……」
荒い息、潤んだ瞳。唇の色は青白い。
「僕は……また誰かを傷つける……壊す……!」
「そんなこと、あるか……」
「あるんだよ!!」
小さな小屋の空気が震えた。
重ねてきた静かな日々も、クリスの声も、その全てが一瞬で崩れてしまう未来が恐怖となって胸を締めつける。
「……わかってるだろ……?僕が、どんな存在か、わかるだろう……このままだと、暴走する」
「俺は、そんなお前を――!」
「殺したくないんだ、クリス!」
その言葉に、クリスの呼吸が止まる。
「……君が死ぬのを……僕のせいで、君が壊れるのを……見たくないんだ」
ハイデンの瞳から涙がゆっくりと零れ落ちる。頬を伝い、小屋の床に小さな音もなく落ちる。
「お願いだから……僕を、助けようとしないで。助けた分だけ……君が傷ついてしまう。僕を……殺す前に、離れてくれ……」
掠れた声で、必死に訴える。
「僕が、僕でいられるうちに……一人にしてくれよ……」
嗚咽交じりの声とともに、またひとしずく、涙が土に落ちた。
その音に、クリスはぎゅっと拳を握る。胸の奥が裂けるように痛かった。
「……クリス……」
わずかに顔を上げたハイデンの瞳は、どこまでも脆くて――けれど、それでも拒絶しようとしていた。
「離れろって言ってるだろう!頼むから!!」
彼は掠れた声で叫び、クリスを振り払おうと体をよじった。
だが、その身に残る力は弱く、震えが全身を支配している。
押し返そうとしても、クリスの腕は、びくともしなかった。
「クリス……!」
その声を、クリスは遮った。
躊躇なく、けれどとても静かに――彼の唇を塞ぐ。
突然の行動に、ハイデンは目を見開いた。
「ん……!」
強くも、荒々しくもなかった。ただただ、深く、優しく。けれど、それはあまりにも切実でどうしようもなく感情に満ちたキスだった。
「……っ……や、めっ……」
抗おうとしたハイデンの手が、クリスの胸元を掴む。けれど力が入らない。押し返すことができず、唇を奪われたまま、ただ身体だけが震えていた。
クリスは何も言わず、もう一度彼の唇に口づける。
最初よりも長く、深く――まるで、自分のすべてをその口づけに込めるように。
唇が離れたあとも、クリスはその額をそっと重ねる。
「……もう、いい……無理に言わなくていい。俺にぶつけてくれて構わない」
「でも……!」
「俺は、お前が何者でも――それでもお前を見捨てない。絶対に」
クリスのその声に、ハイデンの肩が揺れた。
静かに、そっとクリスの手が彼の頬に添えられている。冷たい指先を、温かい掌が包み込んだ。
「こわいよ……僕は……」
「怖がっていい。お前はずっと一人で背負いすぎた」
クリスの手が、そっとハイデンの肩に触れ、背を撫でる。
その動きが、ごく自然に、服の上から優しく肌を探るようになっていく。
「お前の全部を、受け止めさせてほしい」
クリスの囁くような声。
けれど、その瞳は揺るぎない意志でハイデンを見つめていた。
「お前が、俺でいられるうちに……って言ったよな」
クリスの唇が、耳元に触れる。
「じゃあそのお前を……今、全部、俺に預けてくれ」
震えながら、ハイデンは唇をかすかに開いた。
「……クリス……」
涙に濡れた瞳で見つめ返し、ゆっくりと、自分から唇を重ねていく。
それは拒絶ではなく、ハイデンがクリスを受け入れる選択だった。
深く、優しく、二人は静かに夜の中で重なっていった。
その小さな小屋の中――粗末な寝台に横たわるハイデンの呼吸は荒く、額には熱が滲んでいた。慣れない環境と連日の緊張と呪詛の残滓、それらが重なり彼の体力は限界を超えていた。
「……ハイデン、大丈夫か?」
クリスの低い声が耳元で揺れる。
視界は霞み、焦点が定まらない。
立ち上がろうとした足にも、もはや力は入らなかった。
「だいじょ……ぶ、だ……」
かすれた声で言いかけたが、言葉にならない。
肺がうまく膨らまず、熱が頭を揺らし、世界が遠のいていく感覚がある。
(……後ろには、まだアゼルがいる……)
まだ、あの光景が思い浮かべられる。
自分の存在すべてを否定する、あの冷たい眼差しの姿が。
(また……僕は――)
意識がじりじりと削られる。
クリスがそっと肩に触れた瞬間、ハイデンの体内で魔力が逆流した。
「……っ、まただ……」
唇が震え、体の奥底で魔力が暴れ始めていた。制御がきかない。
幼いころから幾度も経験し、いまでも経験している予兆だ。
「ハイデン落ち着け。大丈夫だ、俺が――」
「やめろッ!!」
ハイデンはそのまま絶叫のような声をあげ、思わずクリスの胸を押し返す。
だが、その手には力がなくすぐに支え直されてしまう。それでも、ハイデンは必死だった。
「……僕を、僕の事はおいていってよ、クリス……」
荒い息、潤んだ瞳。唇の色は青白い。
「僕は……また誰かを傷つける……壊す……!」
「そんなこと、あるか……」
「あるんだよ!!」
小さな小屋の空気が震えた。
重ねてきた静かな日々も、クリスの声も、その全てが一瞬で崩れてしまう未来が恐怖となって胸を締めつける。
「……わかってるだろ……?僕が、どんな存在か、わかるだろう……このままだと、暴走する」
「俺は、そんなお前を――!」
「殺したくないんだ、クリス!」
その言葉に、クリスの呼吸が止まる。
「……君が死ぬのを……僕のせいで、君が壊れるのを……見たくないんだ」
ハイデンの瞳から涙がゆっくりと零れ落ちる。頬を伝い、小屋の床に小さな音もなく落ちる。
「お願いだから……僕を、助けようとしないで。助けた分だけ……君が傷ついてしまう。僕を……殺す前に、離れてくれ……」
掠れた声で、必死に訴える。
「僕が、僕でいられるうちに……一人にしてくれよ……」
嗚咽交じりの声とともに、またひとしずく、涙が土に落ちた。
その音に、クリスはぎゅっと拳を握る。胸の奥が裂けるように痛かった。
「……クリス……」
わずかに顔を上げたハイデンの瞳は、どこまでも脆くて――けれど、それでも拒絶しようとしていた。
「離れろって言ってるだろう!頼むから!!」
彼は掠れた声で叫び、クリスを振り払おうと体をよじった。
だが、その身に残る力は弱く、震えが全身を支配している。
押し返そうとしても、クリスの腕は、びくともしなかった。
「クリス……!」
その声を、クリスは遮った。
躊躇なく、けれどとても静かに――彼の唇を塞ぐ。
突然の行動に、ハイデンは目を見開いた。
「ん……!」
強くも、荒々しくもなかった。ただただ、深く、優しく。けれど、それはあまりにも切実でどうしようもなく感情に満ちたキスだった。
「……っ……や、めっ……」
抗おうとしたハイデンの手が、クリスの胸元を掴む。けれど力が入らない。押し返すことができず、唇を奪われたまま、ただ身体だけが震えていた。
クリスは何も言わず、もう一度彼の唇に口づける。
最初よりも長く、深く――まるで、自分のすべてをその口づけに込めるように。
唇が離れたあとも、クリスはその額をそっと重ねる。
「……もう、いい……無理に言わなくていい。俺にぶつけてくれて構わない」
「でも……!」
「俺は、お前が何者でも――それでもお前を見捨てない。絶対に」
クリスのその声に、ハイデンの肩が揺れた。
静かに、そっとクリスの手が彼の頬に添えられている。冷たい指先を、温かい掌が包み込んだ。
「こわいよ……僕は……」
「怖がっていい。お前はずっと一人で背負いすぎた」
クリスの手が、そっとハイデンの肩に触れ、背を撫でる。
その動きが、ごく自然に、服の上から優しく肌を探るようになっていく。
「お前の全部を、受け止めさせてほしい」
クリスの囁くような声。
けれど、その瞳は揺るぎない意志でハイデンを見つめていた。
「お前が、俺でいられるうちに……って言ったよな」
クリスの唇が、耳元に触れる。
「じゃあそのお前を……今、全部、俺に預けてくれ」
震えながら、ハイデンは唇をかすかに開いた。
「……クリス……」
涙に濡れた瞳で見つめ返し、ゆっくりと、自分から唇を重ねていく。
それは拒絶ではなく、ハイデンがクリスを受け入れる選択だった。
深く、優しく、二人は静かに夜の中で重なっていった。
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