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ア―サ―回想
しおりを挟む『言葉には力が宿るそうよ。
言霊って言うの。
私がお嫁に行く国のお話。だから誰かを
傷つけるようなことを言っては駄目よ。
本当になってしまったら嫌でしょう?』
そう、言っていたのは東の遠国に嫁いで
行った歳の離れた一の姉上だった。
まだ小さな頃に別れたきりだが
私を膝に乗せて話してくれたのを
覚えている。
末に生まれた私は、皆から可愛いがられて
少しばかり我が儘に育った。
そんな私を一番可愛がってくれていたのが
二の姉上であるエリザベートだった。
九つ上のエリザベートは小さな私から
すると、とても大人にみえた。
だからなのか五歳になったある時、とても
ひどい我が儘を彼女に言ったことがある。
快活な姉は乗馬が好きで、良く私を馬に
乗せて遠乗りに連れて行ってくれた。
綺麗な湖や小高い丘の上など、景色の良い
所まで行っては地面に敷物を敷いてお菓子
やサンドイッチを食べる。
お腹が膨れると陽の光を浴びながら姉の膝に
乗って本を読んでもらう。
楽しくて、幸せな時間。
あの日も姉が遠乗りに連れて行ってくれる
はずだった。
約束した時間にいそいそと、姉の元に行くと
今日は急な来客があって遠乗りには行けない
という。約束したのに。連れて行ってくれる
と言った。散々ごねる私に姉が謝る。
「ごめんね。アーサー。どうしても断れない
お客様なの。片付けなければいけないお仕事
もできてしまって、今日はこの宮から出られ
そうにないわ。
遠乗りはまた、今度にしましょう。
本当にごめんね」
「姉上の嘘つき!約束って言った!
嘘つき、嘘つき。そんなに仕事が大事で
好きならずっと、ここで仕事してろよ!!」
私は癇癪を起こして泣きながら姉に
ひどい言葉を言ってしまった。
姉は眉を下げて悲しそうな顔をしていた。
『ずっと、ここで仕事してろよ』
この言葉を言ってしまったことを私は
ずっと後悔している。
この日を境に十二年。大好きな姉に会えなく
なった。姉は本当にずっと宮から出ること
が出来なくなったのだ。
『言霊』は本当にあるの?姉にひどい言葉を
言った罰が当たった。
今でも私はそう思っている。
十二年前のあの日、突然姉の宮から全ての
人間が弾き出され、目に見えない結界が張ら
れてしまった。
いきなり本宮の庭に転移させられた姉の宮の
使用人や文官、護衛騎士は呆然としていた。
そこにはその日の来客である北の帝国の
皇太子とその護衛達もやはり呆然と立ちつく
していていた。
何が起こったのか誰にも分からない。
だが転移魔法が使われたことは確かだった。
あまりのことに気を失う侍女もいた。
無理もない。
この国で転移魔法は禁忌だ。
この国では転移魔法が使用出来ないのだ。
転移魔法のスキルを持つものが何故か
この国では魔法を発動する事が出来ない。
魔法陣や魔道具を使っても無理なのだ。
国を出れば使えるようになることから
国土にかけられた魔法障壁があるのではと
推測されている。
この国のどこかに封印されている白い竜
が関係しているのでは。
そんな神話のような話もあるが
長い間、魔術師達が研究しているが確かな
ことは何一つ分かっていない。
転移魔法が使われた事実。
第二王女宮に結界が張られ、人が弾き出され
てしまい誰も中に入れないこと。
姉の所在どころか安否も分からないという
大事件に王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎ
になった。
魔術師達は必死に結界を解こうとしたが
駄目だった。
やはり誰も宮に入れない。
姉が無事かどうかも分からない。
そんな状態が二週間続いた。為す術がなく
父母や兄にも疲労の色が濃くなった頃。
侯爵令嬢と若い魔術師の二人が王女宮に
入ることが出来たと報告がきた。
二人は本宮の庭園で、逢引中に風で飛ばさ
れた令嬢の帽子を拾おうとして、偶然結界
を越えたらしい。
今では姉の侍女となったアイリスと
魔術師団長アルフォンスのことだ。
二人は姉を見つけくれた。
世話をする者がいない王女宮でたった一人。
でも姉は無事だった。
だが、二人を見た瞬間に大泣きしたそうだ。
報せに行くという二人を行かないでと
引き留めた。ま、無理もない。
仕方なくアイリスが付き添い宥め、
一人でアルフォンスが報せに来たのだが
真相を知った父が怒り狂う。
全ての元凶はあの日の来客である
北の帝国の皇太子オズワルドだった。
姉に横恋慕したオズワルドが力ずくで
姉に関係を迫り必死に応戦した姉の魔力が
何かを発動させてしまったらしい。
「触らないで!ここから出て行って!!」
そう叫んだ姉は女の声を聞いたそうだ。
『助けて欲しいの?』
お願い助けて!!姉は声に反応し叫んだ。
すると一瞬でのし掛かっていた
オズワルドが消えてなくなった。
何とか体を起こすと魔力で意識を奪われ
倒れていたはずの侍女や護衛騎士の姿も
そこにはなかった。
部屋には姉一人。
「誰か。誰か来て!」
叫んでも呼び鈴を鳴らしても誰も来ない。
痛む体を引きずりながら人を探し王女宮を
歩くが誰もいない。
「どうして誰もいないの……」
姉は本宮に繋がる外回廊に出るため
扉を開けようとして、何か見えないものに
弾き飛ばされ床に倒れ込む。
嫌な予感に震えながら庭に出る。
女神像から先は本宮の庭に繋がっている。
だが、女神像は見えてもその先には
何もない。真白な空間が広がるだけ。
「私だけ閉じ込められたの?」
出口を求めて歩き回るが宮から出ること
は出来なかった。
そのまま十二年。
姉は『呪われ宮』と揶揄される第二王女宮
で生きることを余儀なくされた。
幸いアイリス、アルフォンス、
アルフォンスの妹のアルマの三人が王女宮
と本宮を行き来できることが分かり。
生活物資や手紙を送ることができるように
なって何とか姉の生活は安定した。
しかし、安定した途端に姉は閉じ込められ
ているだけで元気なのだからと
仕事をすると言い出し、
アルフォンスやアルマに書類や手紙を持たせ
本宮と遣り取りし、公務の書類仕事や決裁を
やり始めてしまった。
『ずっと、ここで仕事してろよ』
まさに私が言った言葉の通りになって
しまった訳だ。
大事な娘をこんな目に合わされた父は当然
帝国に抗議した。
いくつかの小競り合いを経て、
このままでは全面戦争になる一歩手前で
皇帝はオズワルドを廃嫡して幽閉し、
我が国に多額の賠償金を支払った。
怒りは収まらないがこのまま戦を続ける訳
にもいかず。
これで手打ちとなった。
姉には婚約者がいた。隣国の王太子だ。
二年後に結婚する日取りも決まっていた。
当然、結婚は白紙になった。
だが、幼なじみで相思相愛の婚約者を諦め
られず王太子……今では国王となった彼は姉
との婚約を解消していない。
今でも手紙の遣り取りをしている。
待っていてくれるのだろう。
姉が解放される日を。
一方、 侯爵令嬢ながら姉の侍女になった
アイリスは十二年姉に寄り添い、側を離れず
結婚もしていない。
アルフォンスとも……別れてしまった。
アルフォンス、アルマの兄妹も結婚はして
いない。
三人ともに姉を思って身を固めることなく
側にいてくれているのだろう。
本当に申し訳なく思う。
十年経ったある日、前の第三騎士団長であ
るオーウェンがアニエスという令嬢を王宮に
連れてきた。街で拾ったという。
十年ぶりに現れた姉の侍女になれる存在。
ふわふわのキャラメル色の髪に新緑の大き
な瞳。どこか小動物を思わせる可愛いさが
あり、つい頭を撫でたくなる。
姉は彼女を時々、子リスちゃんと
呼んでいるらしい。
その子リスちゃんことアニエスは……。
色々……おかしい。
彼女の両手には信じられないぐらい強力な
隷属の腕輪が嵌められていた。
所謂、奴隷の腕輪だ。彼女は単なる魔力封じ
の腕輪だと思っているが、実際は魔力どころ
かその意思さえ奪われる。完全な人形にする
ためのものだった。
そんな腕輪を嵌められたアニエスは魔力
こそ封じられているが、いたって健やかで
ケロリとしており、腕輪を鑑定した
アルフォンスは頭を抱えていた。
術式は帝国のもの。解析にはかなりの
時間がかかる。
我が国の帝国の印象は最悪だ。帝国の術
を施されたアニエスを姉の側に置いても
良いのか。父は反対した。
だが、兄はアルフォンスに監視させれば
いいと強引に姉付きの侍女にしてしまった。
そしてしばらくすると第二王女宮と本宮
を繋ぐ回廊に魔法的な『穴』が出現し、
その穴に落ちたアニエスが王都郊外の森まで
転移する事件が起きる。
高い木の枝にぶら下がるアニエス。
偶然その場に私達が遭遇し、
救助したのだがアニエスを一目見た時から
従兄弟のグレンの様子がおかしい。
まあ、元々変り者ではあるのだが。
それはもうメロメロだった。
人が恋に堕ちる瞬間を初めて見た。
スカートがめくり上がり、足が丸見え状態
で木の上にぶら下がる女に一目惚れする
グレンの感性は、私にはよく分からない。
まあ、確かに綺麗な足ではあったが……。
……… いや、いや。
ともかく大事件だった。
その後『穴』はどんどん大きくなり
しかも数を増やしている。
外回廊は封鎖され厳重に監視されている。
アニエスの腕輪は、アルフォンスが二年
かけて外した。
腕輪の外れたアニエスは、規格外の魔力の
持ち主だった。
それが分かりグレン相手に
模擬戦をさせてみたが……。
グレンが勝ちはしたが、その余りの戦いの
異様さに兄である王太子アルバートを始め
皆が無言で固い表情をしている。
演習場ではアニエスを抱き抱えたグレンが
蕩け顔でクルクル回っている。
両者を見て私は深いため息をついた。
何かが動き始めている。
……そんな予感がした。
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