王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、舞踏会に行く

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成り行きでグレン様と王宮舞踏会に行く
ことになってしまった。姫様に報告したら
大笑いされた。何故?解せぬ。

「ところでドレスはどうするの?
オーウェン様にお願いするのかしら。
それとも私のドレスを仕立直して着る?」

今日も男装の姫様、何だか楽しそう。

いや、いや、いや。姫様のドレスとか
畏れ多くて無理です。

「それがグレン様から昨日、ドレスが届き
まして。それで着付けをどうしようかと」

「えっ!もう届いたの?だって申し込まれて
まだ三日でしょ。早くない?
でも、十日前のお誘いであまり時間がない
から既製のドレスを見繕ったのかしら」

「ですかねぇ」

ちらりと後ろにある箱を見る。

「あら、それ?ええ~見せて、見せて!」

「あっ!私も見た~い」

「うん。私にも見せて?」

アルマさんとアイリスさんもノリノリだ。

「まあ……これは既製品じゃないわ。
かなり前から作らせていたわね。
このレベルの物は手間も時間もかなり
かかるわよ。
刺繍もレースも素晴らしいものだわ。
新緑のドレス。アニエスの瞳の色ね。
でも、この豪華な金糸の刺繍……。
グレンの瞳の色を意識してるのかしら。
ふふふ、あのグレンにこんな芸当ができる
なんて……やだ、愛されてるわねアニエス」

「はい?」

あれ?姫様が変なことを言い出したぞ。


「アニエス、私達に任せなさい?
ふふふ、野生の子リスを華麗なご令嬢に
してあげる。うふふふ。
とりあえず入浴に香油でマッサージね。
あと一週間!!さあ、時間との闘いよ」

「まあ、腕が鳴るわ。アニエス、ほとんど
お手入れしてないものね。ふっふっふっ。
大丈夫。着付けに髪結い、お化粧もすべて
私達に任せなさい。ああ、楽しみ。こんな
楽しいイベント、他にないわ」

お姉さま達が怖いです。
助けを求め、思わず姫様を見る。
姫様は少し眉をさげながら困ったように
笑う。
その顔は諦めてと言っていた。



※※※※※※※※※※



アイリスさん、アルマさんの地獄のエステ
週間が終わり、あっという間に舞踏会当日。
一週間間でお姉さま二人に磨きに磨かれ
一皮剥けてツルツル、ツヤツヤです。

「まあ、アニエス!!素敵だわ」

出来上がった私を見て姫様が満面の笑顔。
アイリスさん、アルマさんも満足そう。
疲れたけど……着付けをお願いして良かった。
最初はグレン様のお屋敷で着付けをする
はずだったのだけれど、オーウェン様から
止められた。姫様達に相談するようにと勧め
てくれたのだ。

「それって連れ込み防止よね。着付けたら
帰りの着替えもお屋敷でとか言ってそのまま
お泊まりになりかねないもの。
私に頼んで正解。グレンも私には文句言え
ないしね。
駄目よ。簡単に連れ込まれちゃ。
グレンも油断も隙もないわね。
心配性のお義父様がいて良かったわ。
やだ、アニエス。お義父様からも愛されて
いるわね。ふふふ、あのオーウェンがねぇ」

「はい?」

あれ?また姫様が変なこと言い出したぞ。

「まあ、せっかく綺麗にできたのだもの
楽しんでらっしゃい。社交デビューでしょ」

「はい。姫様行って参ります」

何かよく分からないが、とりあえず返事を
しておこう。うん。

本宮に繋がる回廊は閉鎖されているので
女神像の庭に出る。本宮の庭園に入ると
すぐに月明かりの中、グレン様が静かに
佇んでいた。
今日は騎士服でなく礼服だ。見目麗しい方
は何を御召しになっても良くお似合いです。
思わず見惚れるが、
いけない。お待たせしてしまったようだ。


「お待たせして申し訳ありません」

「いや、俺が早く来すぎたんだ。アニエス
……綺麗だ。ドレスがよく似合っている。
すまないが左手を出しくれないか」

うん?エスコート?あれ、左手?
言われるまま左手を差し出すと、そっと手を
とられ左手の薬指に指輪が嵌められる。
黒い不思議な石が嵌め込められた細い金の
指輪。え~と。

「グレン様?」

「お守りだ。防御魔法の魔道具。何かあった
時のために身に付けておいて欲しい」

「何かあった時って……」

「ただのお守りだ。発動しなければそれで
いい。時間だ。行くぞ」

「はあ……」

何かよく分からないうちにエスコート
され会場に向かう。
ヤバい緊張してきた。
実は今日は社交界デビューです。

婚約破棄前はデビューできるレベルに
なっていないと言われてデビュタントすら
していない。

だから嫌だったのに。
古傷が痛むなぁ……。

元婚約者に、元養家。侯爵家に伯爵家だ。
王宮舞踏会でしょ?いるだろうな……。
やだなぁ。ロベルト様に会いたくないなぁ。
何か失敗して目立ちたくないなぁ。
入場待ちで扉の前にいると胃が痛くなっ
てきた。

つい、隣のグレン様を見る。

「君でも緊張するんだな」

「はい?緊張ぐらいしますよ。私だって
人間ですよ。何だと思っているのですか」

「はは!俺にそんな口きく奴が緊張だと?
大丈夫だ。俺にエリザベート、アーサーの
他に身分の高い奴なんてアルバートと国王
と王太子妃しかいない。
普段の環境を考えてみろ。
ましてや今夜は俺のエスコートだぞ?
何か言ってくるような身の程知らずが
いると思うか?」

「そういえばそうですね」

言われてみると確かにそうでした。
ふと、力が抜ける。変なの。
あんなに怖いと思っていたグレン様の
隣がこんなに安心できるなんて。

「せっかくの社交デビュー。
やっとの思いでオーウェンからアニエスの
エスコートする権利を奪ったんだ。
余計なことを考えず、楽しんで欲しい」

あ~。オーウェンお義父様ね。
私の社交デビューのエスコートは自分が
するとゴネてましたね。
結局、お義母様が風邪で寝込まれたので
付き添いのため、泣く泣くお許し下さった。

『だから、もっと早く私のエスコートで
デビュタントを済ませばよかったのに……』

怨めしそうにオーウェン様に言われたな。
そんなこと言われても……。
私だって賭けに負けていなければ
社交デビューなんて考えてもいなかったし。
そもそも、私をエスコートして何が楽しい
のだろう。解せぬ。
 
「 ザルツコード侯爵家が養女アニエスが
国王陛下にご挨拶申し上げます」

緊張しながらカーテシーをする。

「うむ。そなたがアニエスか。やっと会え
たな。一度会って礼が言いたかった。
エリザベートがいつも世話になっているな。
これからもよろしく頼むぞ」

姫様の目元と鼻筋は国王陛下ゆずりだった
のですね。良く似てらっしゃいる。
過分なお言葉を陛下からいただき挨拶は
何とか無事に終わった。
  
さて、どうしても避けられない国王陛下
への挨拶を無難に済ませ。やっとのことで
緊張タイム終了です。やった終わった~と
思っていたら。
ダンスタイムです。まあ、舞踏会だから。
   
  当然、グレン様と踊るのだけれどこれが
ひどい。一曲目は普通に踊っていたのに。
二曲目、段々ステップが速くなる。
グレン様がニヤリと口角を上げた途端。
いや、速い。速い。速いってば!
身体強化使わないと間に合わないダンスって
一体ナニ?
ほら、他の方々が動きを止めて呆然とこちら
を見てます。
音楽も私達に合わせて段々速くなっていく。

「グレン様、速いです」

「ははは!さ、回るか」

イヤ~高速回転させるのやめて。
ぐるぐる回され目が回りそう。
このままいいようにされてたまるもの
ですか。

私もステップを速める。
でもグレン様はしれっと、さらに速く
しかも勝手にアレンジをいれてくる。

ムカつく。負けるものか。
もう、周りなんか関係ない。
すでに何かよく分からない勝負になってい
た。あっ、曲が終わる。決めなきゃ。

フィニッシュポーズを決める。

よし、決めたぞ。あれ?

しん。静寂に包まれる。
あっ、やっちゃいました?
ノリノリでグレン様に付き合ってポーズを
決めた自分が恥ずかしい。
と思ったら一斉にどよめきと拍手の嵐。
どっちにしろ恥ずかしい。
これもグレン様のせいだ。

「もう、なんてことさせるんですか!」

「よくついてきたな。面白かったぞ。
途中で身体強化を使っただろう。ダンスで
身体強化って馬鹿だろう」

「あなたが無理させたのでしょう!
もう、恥ずかしいです」

「ふはは。そんなに頬を膨らませて怒ると
リスみたいだぞ。たまらんな。その顔」

グレン様、お腹抱えて笑うのはやめて
下さいよ。まったく失礼な。

「……君たちは何をしているのかな?」

ふと、私達の背後から声をかけられる。
振り向くとやや呆れ顔の皇太子殿下が
シャンパングラスを片手に立っていた。

あっ、やっぱり。騒ぎすぎ?
やっちゃいました?
どうしよう……。


私は思わずグレン様の服の裾を握りしめ
すがるように目線を向けた。
頭の中を『不敬罪』という単語がぐるぐると
回っていた。







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