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アルフォンス、友の恋を応援する
しおりを挟む王宮舞踏会の夜、舞踏会に参加しない俺は
夜の王宮の庭で一人、ベンチに座りこんで
酒を飲んでいた。
舞踏会のパートナーにアイリスを誘ったが
断られたからだ。やけ酒だな。
別れて十二年、未だに忘れられない。
我ながら女々しいことだ。
よく、王宮の庭で会ったよな。
そんな思い出に浸っていると物凄い形相の
グレンが走って行くのが見える。
あれは厩の方だな。何かあったか?
追いかけようと腰を上げると声をかけられ
る。王太子のアルバートだ。
「アルフォンス!良い所にいた。グレンを
追いかけてくれ。アニエスがまた『穴』に
落ちて跳ばされた。
場所は以前の郊外の森だ。あいつ頭に血が
上ってる。付いててやってくれ!!」
「はあ?回廊の『穴』は厳重に監視されて
るだろ。何でまた落ちるんだよ」
「それが王宮のバルコニーに新しい
『穴』が出現した。それに落ちたんだ」
「マジか!どうなってるんだよ」
外回廊の『穴』は今三つに増えている。
これで四つ目の『穴』だ。本宮のバルコニー
だと?完全に想定外だ。
しかもアニエス……何でまた落ちるんだよ。
「とにかくグレンを追ってくれ!」
「はい、はい。行きますって」
はあ、余り飲んでなくて助かったな。
俺は急いでグレンを追った。
城門の開錠に手間取ったグレンになんとか
王都の外れで追い付き合流した。
俺は乗馬はそれほど得意じゃないんだよ。
尻は痛いし、三時間走りっぱなしの馬ももう
泡を吹きそうだ。
「三の閣の門兵の奴!帰ったら、ただでは
済まさん!!舞踏会だからと酒を飲んで
持ち場にいないなどと言語道断だ!!」
足止めを食らったグレンは怒り心頭だが
俺的には助かった。お陰で追い付いたから。
まあ、サボりはかなり不味いけどね。
こんなにキナ臭くなってきているのに
平和ボケにもほどがある。
確かに締め上げる必要があるな。
目的地に近くなり馬も並足で辺りを窺う。
さっきまで頭から湯気が出そうだった
グレンも少し落ち着いた。
やれやれだ。
「もうじきあの木の辺りだ。今回も跳ば
されたのはここで間違いないか?」
「お前の魔道具が正しいならな」
「あの指輪あげたんだ」
どんな顔で女に指輪を贈ったんだろうな。
俺は思わずニヤニヤする。
「まさかやったその日に発動するとはな。
……正直、助かったよアルフォンス」
「ホントさすがアニエス、人生波瀾万丈だ」
なんて軽口を叩けたのはここまでだった。
グレンの馬が止まった。
「……甘い匂いがする」
「匂い?俺には分からないが……グレン?」
「何だこれ。こんなに強く薫るなんて
むせかえるようだ。……アニエス?」
馬から飛び降りたグレンが駆け出す。
「アニエス?!」
あの木の根元にアニエスが倒れていた。
キャラメル色の髪が地面に広がっているの
が目に入る。真っ白な顔色。
新緑色のドレスは血に染まっていた。
俺も慌てて駆け寄る。
グレンがそっと壊れ物のように抱き起こす
が反応なく、ぐったりとしたままだ。
肩口に獣に噛まれたような深い傷がある。
まさかと思い首に触れるが弱いが脈はある。
よかった……生きてる。
でも、生きてはいるが状態が悪い。
体は冷たいし出血がひどい。
なにより魔力が枯渇していた。
あの、馬鹿みたいに膨大な魔力を持つ
アニエスが魔力切れを起こすなんて
一体何があったんだ。
グレンが治癒魔法を使い始める。
止血はできたが治療は俺の方がいいだろう。
ついてきて本当によかった。
グレンは治癒魔法が得意じゃない。
肩口の傷はきれいに治したが、失った血と
魔力は戻らない。
アニエスを抱いたグレンの手が震えていた。
「とりあえず、ここで出来ることはない。
本当はすぐに横にして休ませたいが
今の情勢だと危険がある。王都へ戻ろう」
前回と同じくアニエスはグレンに抱き抱え
られて王宮へと戻った。
その間、一言も口を開かないグレンは
腕の中のアニエスを魔力でずっと
温めていた。
こんなに取り乱すグレンを初めて見た。
何事にも無関心で、どこか投げやりな所が
あった奴だが……変わったな。
「グレン大丈夫。彼女は強い。助かるさ」
「当たり前だ。死ぬはずがない」
グレンが両手を強く握りしめる。
憔悴したグレンにため息がでる。実は、
アニエスをどこで療養させるかで
かなりもめたのだ。
どうしても王女宮で看ると言う姫様と
義娘は家で看る。連れて帰ると譲らない
オーウェン。
王女宮で看るとなるとグレンやオーウェン
がアニエスに会えない。
オーウェンの所で看ると姫様がアニエスに
会えない。もめた。
結局、グレンに配慮したアルバートが間に
入って王宮で看ることになった。
姫様には俺やアイリス、アルマがアニエス
の様子を毎日報告することで何とか納得
してもらった。まあ、泣かれたけど。
忙しいはずのオーウェンも毎日のように
見舞いに来る。
アニエスは一月経っても目を覚まさない。
すっかり痩せてしまった姿が痛々しい。
まあ、痩せたのはグレンもだが。
こいつは夜も余り眠れていないようだ。
帝国の動きが活発で対応に忙しい中、
アニエスに付き添うグレンがこのまま
倒れなければ良いがと心配した。
だが、それから十日ほどでアニエスが
目を覚ました。よかった。よかった。
心配かけやがって。皆で喜びあった。
グレンはアニエスの部屋を出て廊下で
一人静かに泣いていた。
あのグレンが泣くなんて。
本当に大事なんだな。助かってよかった。
なんだか俺も切なくなった。
俺は孤独なグレンの生い立ちを知っている。
やっと愛し合える女性と出会えた。
このまま彼女とうまくいくといいな。
まあ、アニエスは相当鈍そうだけど……。
俺の恋は叶わなかった。
俺が一番辛い時、側にいてくれたのは
グレンだった。
グレンは 普段は無愛想な奴だが本当は
優しくて愛情深い。
あいつの不器用な優しさがアニエスに
伝わればいいい。俺は長年の友人の
恋が叶うことを心から祈った。
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