王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、帰還する

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目が覚めたら王宮だった。
肩口に傷はなく一瞬、悪い夢でも見たかと
思った。
でも、魔力が枯渇していることで
あれが夢ではないことが分かる。
 
私は確かに白竜と会ったのだ。
白竜にポイ捨てされた私は以前と同じ
王都郊外の森で発見された。

グレン様とアルフォンス様が私を森で
見つけてくれたらしい。
グレン様は私が目覚めた日に側にいて
くれていた。

「目が覚めてよかった」

そう声をかけて、水を飲ませくれた。
何だかグレン様の方が病人みたいな顔色だ。
忙しい最中、暇を見つけてはずっと、
付き添っていてくれたのだと後から聞いた。

でも、グレン様の顔を見た私は、安心して
しまい。水を飲ませてもらって横になると
うつらうつらと再び眠りに落ちた。

それからグレン様に会えていない。
あの日着ていた新緑のドレスは、破れた
うえに血だらけで駄目になってしまった。
せっかく贈ってくれたのに悪いことをした。

助けてくれたこと、付き添ってくれたお礼。
ドレスを駄目にしたお詫び。
それに生贄のこと。
グレン様に話したいことが沢山ある。

会いたいな。
そう思うが体が思うように動かない。
一月以上も眠っていたので、筋力が落ちて
いるうえ、依然魔力は枯渇したままだ。
今はまだ体を休ませることが大事だと
アルフォンス様に言われた。

姫様からはお見舞いの手紙を頂いた。
ゆっくり養生するようにとのことだった。
長くお側を離れてしまい申し訳ない。

ザルツコードのお義母様やアイリスさんに
アルマさんには、泣きながら抱きしめら
れた。

オーウェン義父様はゆっくり頭を撫でて
私の眠っている間のことを話してくれた。
皆に沢山の心配をかけてしまった。
早く元気になろう。気持ちは焦っていたが
他にできることもなく体を休ませることを
優先した。

アルバート殿下、アーサー殿下から
お花が届いた。
うれしいけれど本当に贈って欲しい人から
届かない。
左手に嵌めた金の指輪を見つめ
ため息をする。
ちりちりと胸が痛んだ。

体が元に戻り、魔力が完全に回復するまで
二月かかった。その間にグレン様からの
お見舞いはなかった。以前は沢山花が送られ
てきたが今回はそれもない。

何だか嫌な予感。



※※※※※※※※※※※



「アニエス~!!もう、しょうがない娘ね。
もう、体はなんともないの?無理はしなく
ていいのよ。もう、もう、もう!!
あ~もう、よく顔をみせて!!」

久しぶりに職場に復帰し姫様にお会いする。

両手で私の頬を挟んでぐいぐい引き寄せる。
今日も眩しい男装だ。

「もう、もう連発して牛ですか姫様。
アニエスがびっくりしてますよ?
ふふふ。おかえりなさいアニエス」

アイリスさんがティーポットを片手に
笑顔で呆れたような声を出す。

「あなた達はお見舞いに行けたけど、私は
三ヶ月ぶりにアニエスに会うのよ!
仕方ないでしょう。
少しぐらい舞い上がらせてよ」

姫様はぷんぷん怒りながら、私を抱きしめ
頭を撫でる。久しぶりだなぁ。この雰囲気。

「長らくお側を離れて申し訳ありません」

「いいのよ。帰ってきてくれてありがとう。
おかえりなさい。アニエス」


うう、ご主人様が尊い!何か涙が出てきた。

「あ~もう、アニエス泣いちゃった。
姫様のせいですよ。ほら、泣かないの。
うふふ、アニエスおかえりなさい」

アルマさんが笑顔で姫様に文句を言う。
相変わらず主従の垣根が低い職場だ。

「えっ私のせい?う~泣かないでアニエス。
ホラ、こっちにきて座って。あなたの好きな
プチ・エトワールのチョコレートがあるのよ。
食べて、食べて!」

泣きながらチョコレートを食べてアイリス
さんの淹れたお茶を飲む。
ホッとして私が落ち着いたタイミングで
人払いされた。

ああ、緊張する。
のんぴりと姫様から声がかかる。

「それでどうして『穴』に落ちたのかしら。
何で大怪我したうえ魔力枯渇したの?
まだ、誰にも話してないんですってね。
アニエス?」
 
綺麗な微笑みだけど姫様の金の瞳は笑って
いない。ああ、やっぱりきたか。
そう、まだ私は誰にも白竜の話を
していない。
事が事だけに、誰にどう話していいか分か
らないからだ。
聞かれても適当に誤魔化していた。

   本当はグレン様に一番に話したい。
でも、会えない時間が長くなるにつれて
怖くなってきた。

色々と私の知らない事情もあるだろうし、
あなた生贄だったのですね。……とも言い
出し辛い。
グレン様を傷つけたくない。
もう生贄に求められる事はないのだから
このまま黙っていようか。

でも白竜の事はこのまま放ってはおけない。

私の主は姫様だ。話すなら姫様に最初に
お話しせねば。

王女宮に上がる前に腹を括ってきた。
でも、王族の生贄の事。
姫様が傷つかなければ良いのだけれど。

「実は……」

少し、緊張しながら全てを話す。
話が進むにつれて姫様の顔色が悪くなる。

「白竜……。生贄ね。グレンの前に生贄にな
ったのは、きっと私の伯父様ね。
三十で急な病で亡くなったと言われていた
けれど本当は人柱になったのね」

姫様は両手で顔を覆った。

「神殿に託宣すると言ったわね。
なら神殿の上層部と……間違いなくお父様も
知っているわね。
お兄様は知っているのかしら。
もしも知っているのなら……」

姫様は肩を震わせている。
どうしよう、やっぱりショックだったんだ。
泣いてる?

「ここを出たら首を締め上げてやる」

「えっ?」

「お父様に至っては首を落としてやる」

顔を上げた姫様は鬼の形相です。
まさかのお怒りです。
こんな怒った姫様初めて見ました!

「自分の兄を生贄に差し出しただけで
なくグレンまで。
まさかグレンの事を引き取ったのは、生贄
にするためとか言わないでしょうね。
もしもそうなら……」

「……もしもそうなら?」

「油をかけて焼き殺してやる!」

ひいいいい~怖いです姫様。
意外と激しいところがあったのですね。
びっくりです。

「何よりどれほど竜が長生きか分からない
けれど、生き物ならばいずれ死ぬのよ。
結局魔術式は崩壊するのに、生贄を差し
出して時間稼ぎしても限界があるわ」

「数百年続いているみたいですが、何か手
を打っているのでしょうか」

「手がかりがあるとすると神殿か王宮、
魔術師塔……まさかアルフォンスが知って
いるとか言わないわよね。
もしもそうなら……」

今度は何ですか。どきどきします。

「二度とアイリスに会わせてやらないから」

「えっ?」

「えっ?じゃないわよ。あの二人、元恋人
同士なの。アルフォンスはまだアイリスを
諦めてないから罰としては最高刑よ」

「えええ~それ本当ですか」

「鈍いわね。まあ、子リスちゃんらしいか」

知らなかった。
アルフォンス様がモテるのに女性に見向き
もしないのは、そのせいか。

「しかも別れた原因の一つがこの私よ。
アイリスは私に付き添うために結婚しない
のよ。だから別れた」

「そんな……姫様のせいだなんて」

「本当のことよ。
ねえ、思うのだけれど、この宮の結界は
白竜のせいなのかもしれない。
『助けて欲しいの?』
オズワルドに襲われた時にそう私に尋ねる
女の声を聞いたのよ。
ちょっと幼い感じの可愛い声だった」

白竜は確かに可愛い声をしていた。
物凄く怖かったけど。

「白竜は魔力で防御結界を張っていると
言ってましたから、何か関係があるかも
しれません」


「結果的に私は結界に閉じ込められたけど
あのままオズワルド達を弾き飛ばしてくれ
なかったら、きっとあいつに陵辱されてた。
結界があるからこそ、あの時も今も私は守
られているのかもね」

そうか、そういう考え方もあるのね。

「でも、生贄のことは別よ。絶対に許す
訳にはいかない。
国王としては民を救うために必要なら
王族が命を差し出すのは当然だと言うかも
しれないけど。どうせいずれ破綻するもの
のために命をかけるなんて馬鹿らしいわ。
足掻けるだけ足掻くわよアニエス」

「はい」

「グレンに話しなさい。多分、あなたが
死にかけたお陰で自分の命が助かったと
知ったら怒ると思うけど、話さないとね。
グレンをよろしくねアニエス」

「はい。ですが私、グレン様に避けられて
いるような気がするのですが。
本当に会えないんですよ。どうしましょう」

うん。自分で言っていて落ち込んできた。
手紙や言付けを渡しても断られるか無視
されるのだ。

「あら、イヤだ。今度はグレンがアニエス
を避けるのね。ちょっと前までアニエスが
グレンを避けてたのに」

うう、そうでした。
避けられるのがこんなに辛いなんて……。
ごめんなさいグレン様。
でも、私の場合は腕輪のせいで不可抗力
だと思いますが。グレン様は自分の意思で
私を避けてますよね。
嫌われたのかな。それはイヤだな。

「まあ、頑張って追いかければ?あとね。
アルフォンスを呼んで貰えるかしら」

綺麗な笑顔。でも、姫様の金色の瞳は
笑ってはいなかった。








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