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アニエス、街に行く
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「本当に申し訳ありませんが、お取り次ぎ
できません。……すみません何度も足を運ん
でいただいているのに」
第一騎士団の受付の若い騎士様が眉を八の字
にして困ったように謝る。
こちらこそすみません。何度もお邪魔して。
只今グレン様から絶賛避けられ中の私です。
話したいのに話せない。
思わずため息をする。
こんなに避けられるなんて一体、私は何を
したのでしょうか。
とぼとぼと第一騎士団を後にする。
さて、これからどうするかな。こうなると
残る方法は待ち伏せか、騙し討ちだろうな。
とりあえず待ち伏せしてみるか。よし。
今後の方針を決めたところで顔を上げた。
どこで待ち伏せるのがいいかな。
このまま第一騎士団を張り込むか?
でも、これから姫様のお使いで街に行か
なきゃならないし時間がないな。
明日、お休みを頂いてまた来るかな。
そう考えていると前から武人然とした大き
な体躯の騎士様が数名の若い騎士様を引き
連れやって来るのが見える。
第二騎士団長様ゴドフリー・カルヴァン様。
アイリスさんのお父様だ。
私は道の端に避けて頭を下げる。
「アニエスか。女がまた供もつけずに一人
でこんな所にいるな。病み上がりなのに、
何かあったらどうする。余りオーウェンに
心配をかけてやるな」
「すみません。グレン様に用事があったもの
ですから。でも、お会いできなかったので
もう帰ります」
「そうか。グレン様か……仕方ない。この
ところ忙しくされているからな」
そうか、お忙しいのか。会えないのは避け
られいる訳でなく忙しいせいかもしれない。
いや、そんなことないか。やっぱり避けら
れているような気がする。
「王女宮に戻るのならうちの若いのを護衛
に付けるぞ」
「ああ、いえ。これから姫様のお使いで
街に買い物に行きます。いつも一人です
のでお気遣いなく」
「何だと市中に女が一人で買い物など余計
危ないではないか。おい、マクドネル。
お前が供をしろ」
「はい。ザルツコード侯爵令嬢。私がお供
をさせて頂きます。第二騎士団、マクドネル
と申します」
チャコールグレーの短髪の物腰柔らかい
若い騎士様が私に腰を折る。
ああ、しまった。大事になってしまった。
アイリスさん。お父様、過保護なのではな
いのでしょうか。これは断れないヤツだ。
「ゴホン。あ、ああ。ところでアイリスの
奴は元気でやっているか?」
咳払いしつつカルヴァン団長は私に尋ねる。
何で娘の事聞くのにそんなに目が泳いでい
るのでしょうか。
「アイリスさんですか?はい、お元気です。
何か言付けがありますか?」
「……。いや、いい。元気ならばそれで」
目の錯覚かな、何か大型犬がショボくれて
耳と尻尾を垂れているように見える。
うん。可哀想な大型犬と命名しよう。
可哀想な大型犬ことカルヴァン団長は哀愁
を漂わせ第一騎士団へと去って行った。
「どうかされたんですかね。団長様」
私はマクドネル卿に話を振る。
マクドネル卿はクスクス笑っている。
「アイリス様から聞いておられませんか。
長い、長い親子喧嘩の話を」
「喧嘩をされているのですか。早く仲直り
出来るといいですね」
「ははは!いや、失礼。本当にそうですね。
……十二年越しの喧嘩です。早く仲直りして
欲しいものですよ」
「えっ?十二年ですか。長過ぎでしょう。
なんて根気があるの。……面倒臭くないの
でしょうか」
「ザルツコード侯爵令嬢はなかなか楽しい
方ですね。確かに面倒臭いですよ。
馬鹿らしい限りです。ところでグレン様に
用事があったようですが会えなかったとか」
「ええ、取り次いで頂けませんでした。
お忙しいなら仕方がないです」
「おかしいな。私がもう一度、聞いてみま
しょうか?あなたにならどんなに忙しくて
も尻尾を振って飛んで来そうなのに。
………はて?」
「いや、それはないでしょう。実は最近、
避けられているみたいで……マクドネル卿は
グレン様と親しいのですか?」
「騎士学校の同級です。ま、腐れ縁ですね。
しかし、あなたを避ける?あり得ないな。
何をしているのかなあの人は……。
ところでお買い物はどちらまで?」
「プチ・エトワールのチョコレートを買い
に本店まで。あの、マクドネル卿。堅苦し
いので私の事はアニエスとお呼び下さい」
「分かりました。ではアニエス嬢、お供
致します」
マクドネル卿に護衛されながら街に出る。
お目当てのチョコレート店まで来ると私の
足が止まる。
人気のチョコレート店プチ・エトワール。
ここのチョコレートは私の大好物だ。
購入するには並ばないといけない。
予約販売やお届けなど一切ない。
どんな高貴な身分の方でも並ばせる強気な
お店なのでいつも長蛇の列が出来る。
今日も長い列が出来ているのだが、その列に
……何か変なものが見える。
立ち止まったままの私に不審に思ったマクド
ネル卿が声をかけてくる。
「アニエス嬢、どうかされましたか」
「マクドネル卿。何であの人達は平気で
穴の上に立っているのでしょう?」
「穴ですか。どこに穴があるのでしょう?」
「あの列に並んでいる人達の足の下です。
大きな穴があるでしょう?」
「……。」
「……。」
私にしか見えてませんでした。
「アニエス嬢、穴と言うのは例の『穴』の
事でしょうか?」
「ええ、例の『穴』の事です」
「それがあの行列の下にあるのですか?」
「ありますね」
「……とりあえず、人を呼びしょうか」
「……そうですね」
私とマクドネル卿は顔を見合せてため息を
ついた。市中に『穴』の出現。
わりと緊急事態だよね。
それにしても何であの人達は『穴』に落ちな
いのだろう。
私は落ちるのに。
「今は私には見えませんが、そのうち私に
もここにある『穴』が見えるようになるの
ですよね?因みに王宮にある『穴』は
私でも見えます」
「過去の例からいえばそうなります。最初、
魔力の強い者にしか見えていなかった『穴』
が徐々に魔力の弱い者やない者にも見える
ようになって……数が増えます」
「どのくらいで魔力のない者にも見えるよう
になるのでしょうか」
「回廊の『穴』は三ヶ月ほどで。バルコニー
の『穴』は二週間ぐらいだったそうです」
「見えるようになるまでの時間が短くなって
いる訳ですね。何だか嫌な予感がしますね」
「ええ、しばらくプチ・エトワールのチョコ
レートが食べらなくなりそうですね」
「そこですか……いえ事態が悪化している
と言う意味だったのですが。
プチ・エトワールは支店が何軒かあるから
本店が営業できなくてもチョコレートは
召し上がれますよ?」
マクドネル卿はちょっと呆れたような顔で
肩をすくめる。
そんな事、私だって知ってます。
「本店、オリジナルレシピのチョコレートも
支店で売ってくれますかね?」
「さ、さあ。それはどうでしょうか。
……ははは、とりあえず人を呼びますね?」
マクドネル卿は右手を挙げて光る青い鳥を
出現させ空に放った。伝令鳥ですね。
以前アルフォンス様も使っていたな。
……嫌な予感ね。本当に。
私は伝令鳥の飛んで行った空を
じっと見つめていた。
できません。……すみません何度も足を運ん
でいただいているのに」
第一騎士団の受付の若い騎士様が眉を八の字
にして困ったように謝る。
こちらこそすみません。何度もお邪魔して。
只今グレン様から絶賛避けられ中の私です。
話したいのに話せない。
思わずため息をする。
こんなに避けられるなんて一体、私は何を
したのでしょうか。
とぼとぼと第一騎士団を後にする。
さて、これからどうするかな。こうなると
残る方法は待ち伏せか、騙し討ちだろうな。
とりあえず待ち伏せしてみるか。よし。
今後の方針を決めたところで顔を上げた。
どこで待ち伏せるのがいいかな。
このまま第一騎士団を張り込むか?
でも、これから姫様のお使いで街に行か
なきゃならないし時間がないな。
明日、お休みを頂いてまた来るかな。
そう考えていると前から武人然とした大き
な体躯の騎士様が数名の若い騎士様を引き
連れやって来るのが見える。
第二騎士団長様ゴドフリー・カルヴァン様。
アイリスさんのお父様だ。
私は道の端に避けて頭を下げる。
「アニエスか。女がまた供もつけずに一人
でこんな所にいるな。病み上がりなのに、
何かあったらどうする。余りオーウェンに
心配をかけてやるな」
「すみません。グレン様に用事があったもの
ですから。でも、お会いできなかったので
もう帰ります」
「そうか。グレン様か……仕方ない。この
ところ忙しくされているからな」
そうか、お忙しいのか。会えないのは避け
られいる訳でなく忙しいせいかもしれない。
いや、そんなことないか。やっぱり避けら
れているような気がする。
「王女宮に戻るのならうちの若いのを護衛
に付けるぞ」
「ああ、いえ。これから姫様のお使いで
街に買い物に行きます。いつも一人です
のでお気遣いなく」
「何だと市中に女が一人で買い物など余計
危ないではないか。おい、マクドネル。
お前が供をしろ」
「はい。ザルツコード侯爵令嬢。私がお供
をさせて頂きます。第二騎士団、マクドネル
と申します」
チャコールグレーの短髪の物腰柔らかい
若い騎士様が私に腰を折る。
ああ、しまった。大事になってしまった。
アイリスさん。お父様、過保護なのではな
いのでしょうか。これは断れないヤツだ。
「ゴホン。あ、ああ。ところでアイリスの
奴は元気でやっているか?」
咳払いしつつカルヴァン団長は私に尋ねる。
何で娘の事聞くのにそんなに目が泳いでい
るのでしょうか。
「アイリスさんですか?はい、お元気です。
何か言付けがありますか?」
「……。いや、いい。元気ならばそれで」
目の錯覚かな、何か大型犬がショボくれて
耳と尻尾を垂れているように見える。
うん。可哀想な大型犬と命名しよう。
可哀想な大型犬ことカルヴァン団長は哀愁
を漂わせ第一騎士団へと去って行った。
「どうかされたんですかね。団長様」
私はマクドネル卿に話を振る。
マクドネル卿はクスクス笑っている。
「アイリス様から聞いておられませんか。
長い、長い親子喧嘩の話を」
「喧嘩をされているのですか。早く仲直り
出来るといいですね」
「ははは!いや、失礼。本当にそうですね。
……十二年越しの喧嘩です。早く仲直りして
欲しいものですよ」
「えっ?十二年ですか。長過ぎでしょう。
なんて根気があるの。……面倒臭くないの
でしょうか」
「ザルツコード侯爵令嬢はなかなか楽しい
方ですね。確かに面倒臭いですよ。
馬鹿らしい限りです。ところでグレン様に
用事があったようですが会えなかったとか」
「ええ、取り次いで頂けませんでした。
お忙しいなら仕方がないです」
「おかしいな。私がもう一度、聞いてみま
しょうか?あなたにならどんなに忙しくて
も尻尾を振って飛んで来そうなのに。
………はて?」
「いや、それはないでしょう。実は最近、
避けられているみたいで……マクドネル卿は
グレン様と親しいのですか?」
「騎士学校の同級です。ま、腐れ縁ですね。
しかし、あなたを避ける?あり得ないな。
何をしているのかなあの人は……。
ところでお買い物はどちらまで?」
「プチ・エトワールのチョコレートを買い
に本店まで。あの、マクドネル卿。堅苦し
いので私の事はアニエスとお呼び下さい」
「分かりました。ではアニエス嬢、お供
致します」
マクドネル卿に護衛されながら街に出る。
お目当てのチョコレート店まで来ると私の
足が止まる。
人気のチョコレート店プチ・エトワール。
ここのチョコレートは私の大好物だ。
購入するには並ばないといけない。
予約販売やお届けなど一切ない。
どんな高貴な身分の方でも並ばせる強気な
お店なのでいつも長蛇の列が出来る。
今日も長い列が出来ているのだが、その列に
……何か変なものが見える。
立ち止まったままの私に不審に思ったマクド
ネル卿が声をかけてくる。
「アニエス嬢、どうかされましたか」
「マクドネル卿。何であの人達は平気で
穴の上に立っているのでしょう?」
「穴ですか。どこに穴があるのでしょう?」
「あの列に並んでいる人達の足の下です。
大きな穴があるでしょう?」
「……。」
「……。」
私にしか見えてませんでした。
「アニエス嬢、穴と言うのは例の『穴』の
事でしょうか?」
「ええ、例の『穴』の事です」
「それがあの行列の下にあるのですか?」
「ありますね」
「……とりあえず、人を呼びしょうか」
「……そうですね」
私とマクドネル卿は顔を見合せてため息を
ついた。市中に『穴』の出現。
わりと緊急事態だよね。
それにしても何であの人達は『穴』に落ちな
いのだろう。
私は落ちるのに。
「今は私には見えませんが、そのうち私に
もここにある『穴』が見えるようになるの
ですよね?因みに王宮にある『穴』は
私でも見えます」
「過去の例からいえばそうなります。最初、
魔力の強い者にしか見えていなかった『穴』
が徐々に魔力の弱い者やない者にも見える
ようになって……数が増えます」
「どのくらいで魔力のない者にも見えるよう
になるのでしょうか」
「回廊の『穴』は三ヶ月ほどで。バルコニー
の『穴』は二週間ぐらいだったそうです」
「見えるようになるまでの時間が短くなって
いる訳ですね。何だか嫌な予感がしますね」
「ええ、しばらくプチ・エトワールのチョコ
レートが食べらなくなりそうですね」
「そこですか……いえ事態が悪化している
と言う意味だったのですが。
プチ・エトワールは支店が何軒かあるから
本店が営業できなくてもチョコレートは
召し上がれますよ?」
マクドネル卿はちょっと呆れたような顔で
肩をすくめる。
そんな事、私だって知ってます。
「本店、オリジナルレシピのチョコレートも
支店で売ってくれますかね?」
「さ、さあ。それはどうでしょうか。
……ははは、とりあえず人を呼びますね?」
マクドネル卿は右手を挙げて光る青い鳥を
出現させ空に放った。伝令鳥ですね。
以前アルフォンス様も使っていたな。
……嫌な予感ね。本当に。
私は伝令鳥の飛んで行った空を
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