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グレン、思い悩む
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「アニエス嬢、身体強化で全速力で走って
行きましたけど大丈夫でしょうか。
それにしてもグレン様。
あんた馬鹿でしょう。よりによって惚れた
女に向かって普通、
匂いが駄目なんて言いますかね?
もう、あんなに泣かせて。
知りませんよ、オーウェン様に殺されても」
マクドネルが呆れたように肩をすくめる。
「違う、言葉が足りなかったんだ。泣かす
つもりはなかった!」
「はい、はい、御託はいいからさっさと追
いかけて下さいよ。
あんたアニエス嬢を避けてたんですって?
彼女嘆いてましたよ。しかも、女性と抱き
合っているのを見られてます。
誤解があるなら早く何とかしないと後悔し
ますよ。たった一言で人の縁なんて簡単に
切れるんですから」
マクドネルの言葉が胸に刺さる。
アニエスを追いかけようとしてカタリナに
目が行く。
「すまない、カタリナ。どうか元気で」
「いいえ。グレン、よかった。最後にあなた
とあなたの好きな人に会えて。
さよなら、グレン。どうかお元気で。
さあ、早く追いかけて!」
頭を下げるカタリナ。
今日出会ったのは偶然。驚いて懐かしくて、
そして思いやれなかった事を謝った。
やはり、当時はオーウェンから脅されてい
たようだ。
だがあの時の事は誰のせいでもない
と笑った。明日、夫仕事の関係で隣国に
発つそうだ。
移住するのでもう、戻らない。
子供も二人いて今は幸せだという。
別れの抱擁をした。
まさか、アニエスに見られるとは思いもし
なかった。
だがやっと、あの苦い別れでなく笑って
別れられる。
刺さった棘が抜けた気分だ。
俺も頭を下げる。さよなら、カタリナ。
「この女性は私が、責任を持ってお送りし
ます。いいからあんたは早く追いかけて!」
マクドネルに背中をばんと叩かれる。
頷くと俺は急いでアニエスを追いかけ走り
出した。
少し距離を置こうとは思っていたが、
こんなに急に突き放すつもりはなかった。
ましてや匂いが駄目なんて、それだけ聞い
たら、そりや誤解されるに決まっている。
指輪で追跡出来るが、それすらいらない。
アニエスの残り香がまだ残っている。
それを追いかける。
王都郊外の森でアニエスを探す中、
むせ返るほど薫る甘いアニエスの匂いを
嗅いだ。あの時から、俺はおかしい。
森の中で倒ていたアニエスを見た時には
息が止まるかと思った。
流れる血、抱き起こしても全く力のない
冷たい体。なによりも魔力が枯渇していた。
このままでは死んでしまう。
震える手で治癒魔法をかける。
何とか止血したが俺にはこれ以上無理だ。
見かねたアルフォンスが代わってくれた。
よかった。アルフォンスが来てくれて。
肩口の傷は治ったが意識が戻らない。
どんどん冷たくなるアニエスの体を抱きし
め、温めながら王都に戻った。
その間、ドレスに染み込んだ甘いアニエス
の血の匂いに酔いそうになる。
体の中から沸騰しそうだ。
胸をかきむしりたくなる。
どうにかなりそうだった。
アニエスの意識はなかなか戻らない。
王宮の一室に寝かされたまま、ぴくりと
もしない。
暇を作っては側にいることしかできない
もどかしさ。
そんな中で強くたちこめるアニエスの匂い。
くらくらする。
横たわるアニエスの薄く開いた唇。白い首
筋に欲情する。抱きたい。
このまま、めちゃくちゃにしてやりたい。
好き勝手に貪り、貫きたい。
そのまま血を吸い、骨まで残さず喰ってし
まいたい。
眠るアニエスに手を伸ばしそうになる。
──今、俺は何を考えた?
我に返って慌てて部屋を出た。
火照る体をもて余し屋敷に帰ると風呂場
に籠った。
冷たい水を浴びて、少し頭が冷えたところ
で余りの浅ましさに嫌悪をいだく。
瀕死の病人相手に、何を考えたんだ俺は。
自分が信じられなかった。
そもそも、抱きたい、までは分かる。
……たが、喰ってしまいたいと言うのは
なんだ?
例えるのなら飢餓だ。
何度か口にしたアニエスの血の甘い味を
思い出し、
自分のおぞましさに思わずえずく。
ふと、鏡を見ると己れの姿が映っている。
左胸に白い鱗が数枚生えていた。
「何だ、これは」
『近寄らないで、この化け物』
母親の声が聞こえた気がした。
とうとう人ではなくなったのか?
やはり俺は化け物なのか。
信じられない思いで鱗に触れる。
チクチクと刺すような痛みが
鱗の辺りに広がる。
その後、アニエスは意識を取り戻した。
ほっとすると同時にもう、一緒にはいられ
ないと思った。
俺はアニエスを避け始めた。
だが、カタリナと再会した日。
ふと、アニエスの匂いがしたと思い見ると、
アニエスがマクドネルに腰を抱かれて身を
寄せていた。
他の男が俺のモノに触ている。
強い怒りが沸き上がる。
怒りのまま近寄るとまた、アニエスの匂いに
酔いそうになる。
思わず鼻を押さえ、余計なことを口走る。
そして泣いて逃げられた。
うまくいかない。
本当は好きな女性を泣かせたくない。
また、俺は好きな女性を泣かせるのか?
全力で走って追いかける。
クソ、何で身体強化を使って逃げるんだ。
逃げ足の速さに舌打ちする。
なかなか追い付けない事にイラつく。
追い付いてどう話す?
いつか君を喰ってしまいそうだと言えるか?
共にある未来がないのに、無様に求めて
しまうこの気持ちをどう伝える?
会えなくて辛い。
会っても辛い。
どうすればいいんだ。
──いた!追い付いた!
アニエスの姿が目に入る。だが、俺に気付
いたアニエスが速度を上げる。
クソ、止まれよ。
何で全力で逃げるんだ!
俺も速度を上げる。
爆走する俺達を街の住民が呆然と見送る。
「グレン様の馬鹿!何で追いかけてくるの」
アニエスが叫ぶ。
「逃げられたら追うのは当たり前だろ!」
俺も叫ぶ。
「そんな狩猟本能捨てて下さい。私の事、
避けてたクセに!臭いって言ったクセにぃ。
グレン様なんて嫌いだ!」
泣きながら逃げるアニエス。
嫌いの一言が胸に突き刺さる。
思わず魔法を放った。
蔦蔓で足首を絡め取り逆さ吊りにする。
アニエスはまた蔓を焼こうとするが
氷結魔法で封じ込める。
学習能力のない奴だな。同じ手を食らって
どうするんだ。
息を整え、逆さ吊りになって暴れる
アニエスを見上げる。
スカートが捲り上がって足が丸見えだ。
絶景だな。
本当に綺麗な足だ。
ああ、撫で回したい。舐め回したい。
ずっと眺めていたい。
やはり、俺は変態かも。
まあ、俺が変態でも国が滅びる訳でも
あるまい。何となく開き直った。
「グレン様のばか~!また、私を逆さ吊り
にしてぇ~!馬鹿、馬鹿!降ろしてよぅ」
じたばたするアニエスを見ていたら
笑いが込み上げてきた。
もう、どうでもいい。
過去も未来もすべて、現在があるならこの時を大事にしよう。
すまない。アニエス。俺は我が儘に生きる
事を決めた。
凍った蔓を砕いて落ちて来るアニエスを
抱き止める。
「臭いんでしょ?放してよぅ!!」
「臭いなんて言ってない。旨そうな匂い
なんだ。思わず喰らってしまいそう。
怖かったんだ。お前、凄い旨そうだから」
「は?」
呆けたように口を半開きにして俺の顔を見
上げるアニエス。
顔に『この肉食獣、何を言い始めた?』と
書いてある。
俺は片手でアニエスの頭を引き寄せ
──そのまま口付けた。
行きましたけど大丈夫でしょうか。
それにしてもグレン様。
あんた馬鹿でしょう。よりによって惚れた
女に向かって普通、
匂いが駄目なんて言いますかね?
もう、あんなに泣かせて。
知りませんよ、オーウェン様に殺されても」
マクドネルが呆れたように肩をすくめる。
「違う、言葉が足りなかったんだ。泣かす
つもりはなかった!」
「はい、はい、御託はいいからさっさと追
いかけて下さいよ。
あんたアニエス嬢を避けてたんですって?
彼女嘆いてましたよ。しかも、女性と抱き
合っているのを見られてます。
誤解があるなら早く何とかしないと後悔し
ますよ。たった一言で人の縁なんて簡単に
切れるんですから」
マクドネルの言葉が胸に刺さる。
アニエスを追いかけようとしてカタリナに
目が行く。
「すまない、カタリナ。どうか元気で」
「いいえ。グレン、よかった。最後にあなた
とあなたの好きな人に会えて。
さよなら、グレン。どうかお元気で。
さあ、早く追いかけて!」
頭を下げるカタリナ。
今日出会ったのは偶然。驚いて懐かしくて、
そして思いやれなかった事を謝った。
やはり、当時はオーウェンから脅されてい
たようだ。
だがあの時の事は誰のせいでもない
と笑った。明日、夫仕事の関係で隣国に
発つそうだ。
移住するのでもう、戻らない。
子供も二人いて今は幸せだという。
別れの抱擁をした。
まさか、アニエスに見られるとは思いもし
なかった。
だがやっと、あの苦い別れでなく笑って
別れられる。
刺さった棘が抜けた気分だ。
俺も頭を下げる。さよなら、カタリナ。
「この女性は私が、責任を持ってお送りし
ます。いいからあんたは早く追いかけて!」
マクドネルに背中をばんと叩かれる。
頷くと俺は急いでアニエスを追いかけ走り
出した。
少し距離を置こうとは思っていたが、
こんなに急に突き放すつもりはなかった。
ましてや匂いが駄目なんて、それだけ聞い
たら、そりや誤解されるに決まっている。
指輪で追跡出来るが、それすらいらない。
アニエスの残り香がまだ残っている。
それを追いかける。
王都郊外の森でアニエスを探す中、
むせ返るほど薫る甘いアニエスの匂いを
嗅いだ。あの時から、俺はおかしい。
森の中で倒ていたアニエスを見た時には
息が止まるかと思った。
流れる血、抱き起こしても全く力のない
冷たい体。なによりも魔力が枯渇していた。
このままでは死んでしまう。
震える手で治癒魔法をかける。
何とか止血したが俺にはこれ以上無理だ。
見かねたアルフォンスが代わってくれた。
よかった。アルフォンスが来てくれて。
肩口の傷は治ったが意識が戻らない。
どんどん冷たくなるアニエスの体を抱きし
め、温めながら王都に戻った。
その間、ドレスに染み込んだ甘いアニエス
の血の匂いに酔いそうになる。
体の中から沸騰しそうだ。
胸をかきむしりたくなる。
どうにかなりそうだった。
アニエスの意識はなかなか戻らない。
王宮の一室に寝かされたまま、ぴくりと
もしない。
暇を作っては側にいることしかできない
もどかしさ。
そんな中で強くたちこめるアニエスの匂い。
くらくらする。
横たわるアニエスの薄く開いた唇。白い首
筋に欲情する。抱きたい。
このまま、めちゃくちゃにしてやりたい。
好き勝手に貪り、貫きたい。
そのまま血を吸い、骨まで残さず喰ってし
まいたい。
眠るアニエスに手を伸ばしそうになる。
──今、俺は何を考えた?
我に返って慌てて部屋を出た。
火照る体をもて余し屋敷に帰ると風呂場
に籠った。
冷たい水を浴びて、少し頭が冷えたところ
で余りの浅ましさに嫌悪をいだく。
瀕死の病人相手に、何を考えたんだ俺は。
自分が信じられなかった。
そもそも、抱きたい、までは分かる。
……たが、喰ってしまいたいと言うのは
なんだ?
例えるのなら飢餓だ。
何度か口にしたアニエスの血の甘い味を
思い出し、
自分のおぞましさに思わずえずく。
ふと、鏡を見ると己れの姿が映っている。
左胸に白い鱗が数枚生えていた。
「何だ、これは」
『近寄らないで、この化け物』
母親の声が聞こえた気がした。
とうとう人ではなくなったのか?
やはり俺は化け物なのか。
信じられない思いで鱗に触れる。
チクチクと刺すような痛みが
鱗の辺りに広がる。
その後、アニエスは意識を取り戻した。
ほっとすると同時にもう、一緒にはいられ
ないと思った。
俺はアニエスを避け始めた。
だが、カタリナと再会した日。
ふと、アニエスの匂いがしたと思い見ると、
アニエスがマクドネルに腰を抱かれて身を
寄せていた。
他の男が俺のモノに触ている。
強い怒りが沸き上がる。
怒りのまま近寄るとまた、アニエスの匂いに
酔いそうになる。
思わず鼻を押さえ、余計なことを口走る。
そして泣いて逃げられた。
うまくいかない。
本当は好きな女性を泣かせたくない。
また、俺は好きな女性を泣かせるのか?
全力で走って追いかける。
クソ、何で身体強化を使って逃げるんだ。
逃げ足の速さに舌打ちする。
なかなか追い付けない事にイラつく。
追い付いてどう話す?
いつか君を喰ってしまいそうだと言えるか?
共にある未来がないのに、無様に求めて
しまうこの気持ちをどう伝える?
会えなくて辛い。
会っても辛い。
どうすればいいんだ。
──いた!追い付いた!
アニエスの姿が目に入る。だが、俺に気付
いたアニエスが速度を上げる。
クソ、止まれよ。
何で全力で逃げるんだ!
俺も速度を上げる。
爆走する俺達を街の住民が呆然と見送る。
「グレン様の馬鹿!何で追いかけてくるの」
アニエスが叫ぶ。
「逃げられたら追うのは当たり前だろ!」
俺も叫ぶ。
「そんな狩猟本能捨てて下さい。私の事、
避けてたクセに!臭いって言ったクセにぃ。
グレン様なんて嫌いだ!」
泣きながら逃げるアニエス。
嫌いの一言が胸に突き刺さる。
思わず魔法を放った。
蔦蔓で足首を絡め取り逆さ吊りにする。
アニエスはまた蔓を焼こうとするが
氷結魔法で封じ込める。
学習能力のない奴だな。同じ手を食らって
どうするんだ。
息を整え、逆さ吊りになって暴れる
アニエスを見上げる。
スカートが捲り上がって足が丸見えだ。
絶景だな。
本当に綺麗な足だ。
ああ、撫で回したい。舐め回したい。
ずっと眺めていたい。
やはり、俺は変態かも。
まあ、俺が変態でも国が滅びる訳でも
あるまい。何となく開き直った。
「グレン様のばか~!また、私を逆さ吊り
にしてぇ~!馬鹿、馬鹿!降ろしてよぅ」
じたばたするアニエスを見ていたら
笑いが込み上げてきた。
もう、どうでもいい。
過去も未来もすべて、現在があるならこの時を大事にしよう。
すまない。アニエス。俺は我が儘に生きる
事を決めた。
凍った蔓を砕いて落ちて来るアニエスを
抱き止める。
「臭いんでしょ?放してよぅ!!」
「臭いなんて言ってない。旨そうな匂い
なんだ。思わず喰らってしまいそう。
怖かったんだ。お前、凄い旨そうだから」
「は?」
呆けたように口を半開きにして俺の顔を見
上げるアニエス。
顔に『この肉食獣、何を言い始めた?』と
書いてある。
俺は片手でアニエスの頭を引き寄せ
──そのまま口付けた。
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