王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、グレンとデートする 3

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目の前には美味しそうなシフォンケーキ、
生クリームとフルーツがトッピングされ
小さな陶器に入った熱々のチョコレート
ソースが添えられている。
ソースをつけていただく。
美味しい~仄かにオレンジの風味がする。
うん。このチョコレートソース美味しい!

「しかし、旨そうに食うなぁ。アニエス」

目の前には優雅にコーヒーを飲むグレン様。
さすが王族、所作が美しい。

やっぱり、グレン様はシフォンケーキを
注文しなかった。甘い物は嫌いではない
けれど、好きでもないとのこと。
トマトとレタスとベーコンを挟んだ
サンドイッチを食べている。

それも美味しそうだな。
さて、モールさんの魔道具店ですが私達の
あまりの馬鹿っぷりにモールさんに店を
追い出されました。ははは……。

あの白いブーツは試作品だと言っていま
したが、普通の靴より断然素晴らしいので
グレン様が買って下さいました。
完成品も出来次第、届きます。
わーい。楽しみ!

そして念願のシフォンケーキです!
マクドネル卿、本当に美味しいです。
教えてくれてありがとう!

「しかし、そんなに旨そうに食べているの
を見ると少し味が気になるな」

おや、グレン様がケーキに興味を示したぞ。
うん。この美味しさをシェアしたい。

「少し味見します?」

「いいのか、なら少しもらおう。
じゃあ、アニエスが食べさせてくれ」

え?私が食べさせる?これは、いわゆる
『あーん』というやつか?
うわ、恥ずかしい。私は周りを見る。

店内は、ワイバーンの件が尾を引いている
のかお客さんはやや少なめ。
でも、そのお客さんの視線がこちらに集中
している。

そりゃこんな可愛い喫茶店にグレン様の
ような人が優雅にコーヒー飲んでいたら
目立つよね。

王族特有の黒髪に切れ長な金の瞳。
整った顔立ち。第一騎士団の黒地に金の
飾りの制服。黒騎士様だ。
何よりも纏う空気が特別だ。
げっ歯類の群れの中に間違えて黒豹が
入り込んだみたい。

うっ、黒豹が口を開けて待っている。
私は覚悟を決めてケーキを一片フォークに
さして、あーんする。

「うん旨い。アニエスもサンドイッチを
味見してみろ」

破顔したグレン様が私の口許に
サンドイッチを差し出す。
礼を言って手で受け取ろうとしたら
ひょいと避けてまた口許に持って来る。
それを二、三回繰り返すと、いやでも分かる。
これはあれか私も『あーん』しろという
事なのか?恥ずかしい。

グレン様を見るとにっこり笑った魔王顔だ。
無言で早く食べろと圧をかけている。
仕方なくぱくりと一口食べる。
うん。美味しい。

グレン様を見ると全部食えと圧を感じる。
仕方なくぱくぱくと最後の
一欠片まで食べる。

最後の一口はグレン様が私の口に指で軽く
押し込む。私の舌がグレン様の指に触れた。
うわーん。ドキドキする。
グレン様はすっと私の唇をなぞると、
そのまま自分の指をペロリと舐めた。
ヒィィィ。私の口に入った指を舐めた!
なんかエロいよ。恥ずかしい!

真っ赤になりながらサンドイッチを必死で
咀嚼する私を満足そうに見るグレン様。
魔道具店に引き続き喫茶店でも
私達、馬鹿っプルになっている気がする。

「グレン様、恥ずかしいです」

「何が?」

「みんな見てます」

私の言葉に店内を見回すグレン様。
首をコテンと傾けると不思議そうな顔
になる。

「何でよく知りもしない奴等の視線を気に
しなきゃならないんだ?」

そうだよね。グレン様が周りを気にするよ
うな人な訳ないわ。でも、私は恥ずかしい
んです。
一人赤くなる私。


ああ、店を出てもまだ顔が熱い。

「さて、馬車を待たせて腹ごなしに街を
歩くか。どこか行きたい所はあるか?」

「中央公園の薔薇が見頃だそうですよ。
あと、温室になんか珍しい植物があるって
聞いたので行ってみたいです」

「なら、ぶらぶら行ってみるか」

ふふふ、グレン様とお散歩だ。
エスコートされて街を歩く。

「そういえば、モールさんのお話しに出て
きたロイシュタール様というのは……」

歩きながら気になっていた事を聞く。
グレン様が防音結界を張る。
ああ、聞かれちゃマズイか。

「ああ、エリザべート の婚約者だ。
オーウェン地獄のキャンプのメンバーで
一番年上だったから、俺もよく面倒をみて
もらった。兄のような人かな。
優しくて面倒見のいい人だった。今では
南の隣国、キルバンの国王だ」

グレン様が懐かしそうに目を細める。
ああ、やっぱりロイシュタール様が姫様の
『ロイ』なんだなぁ。
いつも元気な姫様だけれど、毎年結婚式を
挙げるはずだった日だけは元気がない。
アイリスさんからそう聞いている。

去年は食事を一切受け付けなくて心配した。
一人で泣いて部屋で過ごす姫様。
その日一日だけはアイリスさんも遠避ける。

「まだ、結婚されず姫様を待たれていると
聞きましたが、国王が三十路を過ぎて独身
というのは、隣国では問題になっていない
のでしょうか?」

姫様が『私を待たないで結婚して』と
手紙に書いているのを私達は知っている。
いつかロイ様が姫様以外の人と結婚する日
が来るかも知れない。

姫様がいつもロイ様からの手紙を受け取る
時、緊張するのは、手紙に結婚すると書いて
いないか心配しているからだ。
読み進めるうちにホッとしたような顔を
しているのも私達は知っている。

「問題にならない訳がない。臣下から
嫁を貰えと大変な事になっているさ。
ただあの人はなぁ。物腰が柔らかいから
皆、騙されるが強かで必要ならどんな残忍
な事も出来るから。色々手を尽くして
見事に押さえ込んでいるな」

「意外ですね。姫様からは私の優しい
『ロイ兄様』としか聞いていないですけど」

「アルトリアには人質として成人するまで
囚われていた第二王子。兄である王太子が
亡くなり、王太子へ、その後あの人が国王
になった途端、国力がすぐに逆転した。
今では、キルバンの方が国力がある。
こちらが人質を出さねばならない立場だ。
そんな国王がただの優しい人の訳がない。
ただ、あの人はエリザベートを溺愛して
いるからな。
彼女にとっては優しい恋人なんだろうよ」

グレン様はため息をつく。
何とかならないのかな王女宮の結界。

「ところで、オーウェン地獄のキャンプと
いうのは何なのでしょう?」

ずっと気になっていたんだよね。
何?グレン様が地獄と評するキャンプ
というのは一体……。

「ああ、王家の影や暗殺者を育てるための
養成課程だな。どういうつもりか、それに
王族の子供やオーウェンが連れてくる子供
……人材候補が強制参加させられた。
子供だけで北や南の辺境の森に放置された
り、魔物の群れと戦わされたし、冗談の
ようなきつい武術訓練を課されたな。
お陰で卒業メンバーの結束が強い。

俺達のグループはオーウェンの子供達、
ロイシュタール、アルバート、俺、
アイリス、マクドネル、カーマイン。
後にアイリスが怪我が元で抜けて、代わり
にアルフォンスとアルマが加入した」

「マクドネル卿にカーマイン卿もですか」

「そうカーマインのあの女嫌いはアイリス
の負傷に関係があるんだ。あの時、
アイリスとペアを組んでいたのがカーマイン
でな。アイリスを見失って負傷させたと
責任を感じていたところに、何も知らない
カルヴァンと、全てを知っている
オーウェンに締め上げられて……
拗れたんだ。
女は弱くて面倒臭い。
寄るな、触るな、近寄るなと暴言を吐く
ようになった。ジジイども、一体どんな
締め上げをしたらああなるんだ……。
すまない。そういう事情だからあいつの事
は大目に見てくれないか?」

なんと、ムフフオレンジにはそんな過去が。
いや、私は何とも思っていませんとも。

「因みにオーウェン様は……」

「王家の影を支配する悪魔だな」

魔王に悪魔呼ばわりされるお義父様。
しかし、これ?私が聞いてもいい内容?

王家の秘密を、アッサリばらすグレン様に
びっくり。


──後で口を塞がれたりしないよね?
ちょっとびくびくする私でした。








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