王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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プリシラ、辺境にて 3

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国軍が辺境に援軍として到着して一月。
やっと辺境伯領軍と国軍が連携できるように
なってきた。
ここに至るまで、まあ色々あったわ。

まず、着任早々に辺境伯領軍の
グレンへの舐めた態度にラケットがキレた。

雷神を怒らせてどうする。
ラケットの怒りの電撃に多数の負傷者を
出した。敵に倒れる負傷者よりも
ラケットの電撃にやられる奴の方が多い。
お陰で治癒魔法の使える者が駆り出され
無駄に魔力を消耗した。
マークもヘロヘロに疲れていたわ。
気の毒に。
ラケットもやられた奴等もアホだろ!

辺境伯領軍の兵は兵で今度は
グレンの副官であるカーマインの
辺境伯アイザックへの態度の悪さにキレた。

かなりの人数でカーマインに闇討ちを
かけた。カーマインにケンカを売る。
馬鹿だろ。派手に全滅。
多数の負傷者が出て、また治癒魔法士の
魔力を消耗。

カーマインもやられた奴等もアホだろ!

そしてアシェンティ子爵。
娘のアニエスがグレンと婚約した事を知り
なんで勝手に婚約したと拗ねた。

なんで勝手にって、今のアニエスは
ザルツコード侯爵家の養女だ。
アシェンティ子爵に反対する権利はない。

あ~でもグレンも悪い。
娘のどこが好きなんだと実の父親に
問われて『足』とキッパリ答える。
『足』はないだろう!『足』は!
正直に答えてどうする。足フェチが!
『嘘は言っていない』と堂々とするな!
……グレンってこんな奴だった?

結局、腕力対決。グレン、年寄り相手に
何するのよ鬼畜。
腕力でねじ伏せ、調教済み。
今ではグレンに忠実な部下になった。
本当に辺境の男は強い奴が好きだよね。

アシェンティの熊子爵は辺境では腕が立つ
事で有名。それを倒したと、この一件で
グレンの株は急上昇した。
単純だよね。

グレンも熊もアホだろ!

そんな紆余曲折の後、今はいい感じに
纏まっている。

グレンは誰に何を言われても全く動じない。
静かに上から目線。我が道を行く。
しかも魔力だだ漏れで。物凄い圧力。
静かなのが逆に怖いらしい
まあ、あの魔力をだだ漏らしにされたら
ビビるよね。
もう、グレンに逆らう奴はいない。

ただ、不安材料は私の夫の元婚約者。
モニカ・グラガン子爵令嬢。
今は帝国の間諜である父親と共に拘束
されているが、これまでこちらに不利な
噂や中傷、デマをかなり流していた。

その火消しがまだ出来ていない。
彼女達を野放しにしたお陰で
多くの間諜や不満分子を炙り出す事が
出来た反面、その誤った情報を信じる者が
多数存在する現在の状況。
どこに馬鹿がいるかわからない。

おかしな真似をする奴が出なければ
よいのだけれど……。
もっと早くに彼女達を拘束しておけば
よかったのかもしれない。
匙加減が難しい。


帝国の軍勢はその数を減らしてはいるが
ほぼ毎日、戦闘がある。
その戦闘は帝国兵よりも魔物が主戦力と
なっていて厄介だ。

自分達の戦力を温存し、いくらでも調達
出来る魔物でこちらを弱らせる。
そんな魂胆が見える。

ただ、グレン、ラケットの両将軍。
カーマイン、アシェンティの熊子爵。
それに、それに、うちの夫!
本当に普段はおっとりお馬鹿さんだが
戦う姿はカッコいい!
ふふふ。

魔力の桁外れに強い武将がいるお陰で
まだこちらも余裕はある。
辺境伯領の兵は魔物の討伐の経験が豊富だ。
国軍の兵に、情報提供し良い関係を
構築している。

帝国に使役されている魔物は後、どれくらい
いるのだろう。
魔物さえいなければ話は簡単なのに。






「静かだな?」

優雅にお茶を飲みながらグレンがポツリ
と言う。
ここ数日、帝国からの攻撃がない。
警戒は怠ってはいないが、一月に及ぶ戦闘
で疲れた兵達にはちょっとした小休止と
なっていた。

「帝国もさすがに疲弊したのでは?このまま
撤退してくれるかもしれません」

アイザックが応じる。
それはないだろう。
我が夫よ。国防最前線の辺境で生まれ、
常に魔物と戦って育ってきたのになんで
こんなに呑気に育ったのだろう。不思議だ。
グレンにこの呑気さを前に愚痴ったら
首をこてんと傾げ
『辺境人の全般的な気質かもな。アニエスも
アニエスの兄達も同じような呑気者だぞ』
と言って笑った。
へー彼女は呑気なのか。ふうん。

確かに辺境の人達は呑気な者が多い。
面白いなぁ。

「何かあるな。砦の中にもおかしな動きが
ないか確認しろ。プリシラ、魔力の回復は
どうだ?」

防衛結界を十日近く張り続けたせいで
枯渇まではいかなくとも疲弊した私は
この一月はひたすら回復待ちだ。

「そうね七割ぐらいかな?」

「万全ではないか……だがもしもの時は
頼むぞプリシラ」

「分かってますって。もしもに備えて
私は休ませてもらいますとも」

本音を言えば私も戦いたい。
でも、再び防衛結界を張るためには
今は大人しくしているしかない。
あ~イライラする。あ~暴れたい!

「あ、黄色い閃光が。伝令鳥が来る。敵が
動きましたね」

窓際に立っていたマリオンが声をあげる。
窓の外に無数の黄色い鳥が飛んで来る。
敵襲の報せだ。
グレンとアイザックが無言で立ち上がる。

「行ってらっしゃい。気をつけて」

二人に声をかける。
アイザックがピタリと止まるとツカツカと
私の側にやってくる。
ん?何だ。

「行って来るよ。プリシラ」

そう言ってアイザックは私の頬に
キスをした。
しかもリップ音付きで。

グレンとマリオンが苦笑している。
──え?何、何が起こったの?
顔が熱い。え?キスされた。
頬にキス!
え~~!どうしよう!
思わず頬に手をやる。体が熱い。
アイザックを見ると彼も真っ赤だ。

「結婚して二年。ずいぶん微笑ましい夫婦
ですね。独り身には目の毒です」

マリオンが笑いながら言う。

「はは!仲が良くて何よりだ。プリシラ
ご夫君を借りる。後は頼んだぞ」

グレンがとてもいい笑顔で言う。

「……笑わないでよ。恥ずかしい。
もう、二人とも無事に帰ってきてよね」

笑顔のグレンもまだ顔の赤いアイザックも
私に手を振り出陣して行った。



──夫は、私の元へ帰って来てくれた。

でも……

グレンはそのまま帰っては来なかった。

















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