王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、悩む

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『じゃ、行ってくるわね』

アイリスさんは眩しい笑顔で颯爽と
帝国へと旅立った。
マックス義兄様とカーマイン卿が護衛として
同行している。

カーマイン卿は行きたくないとゴネたけれど
ここで『親分』『子分』が役に立った。
グレン様を無事に連れて帰ってきたら
私の子分になると言っていたカーマイン卿。

本当に私の事を親分と呼び始めた。
……やめて欲しい。
親分、親分と何だか懐かれた。

あんなに私の事を毛嫌いしていたのに。
初対面の時からの振り幅が大き過ぎて
ついていけない。

まあ、親分のお願いじゃ断れないと
アイリスさんの護衛を引き受けてくれた
のでよしとしよう。……イヤだけど。
お陰で最近私は砦では猛獣使いと
呼ばれている。……とてもイヤ。

グレン様に全身キスマークをつけられた朝、
一晩中貪られたせいでだるいし、眠いし、
恥ずかしいしで部屋から外に出れなかった。
あのエロ魔王!何がお仕置きだ。

あんなに嬉々として、色々エロエロな
事を……もう!エロ魔王めぇ~~!!
あ、駄目だ。思い出しただけで赤面する。

ベッドの上で一人、ジタバタと身悶えて
いると、私が具合が悪いと勘違いした
ドーラが心配してお見舞いに来てくれた。
……ごめんなさい。具合は悪くないの。
穴があったら入りたい。

ドーラは私を見ると真っ赤な顔で固まった。
そりゃそうだろうね。恥ずかしい……。

「うわ……またこんなにキスマーク。
仲がいいのはいいけれど、嫁入り前なのに。
……少しは自重しなさいよ。ウェディング
ドレスがお腹が大きくて着られなくなって
も知らないからね」

──それはイヤ。

ドーラにまたキスマークを消してもらった。
私は止血はできるのに、何でキスマークを
消せないのだろう?傷も治せないしね。
消す方も消される方も恥ずかしい。
ごめんねドーラ。


ドーラに何かお礼をしないと……と思って
思い出した。
そういえば、手乗りピイちゃんは
どこに行った?
あれはピンクで可愛いからドーラに
あげようと思っていたのに。
帝国でオズワルドの鼻を噛った後から
行方不明だ。
どこに行っちゃったんだろう。


その疑問の答えは数日後の夜に分かった。



砦の私の部屋に夜遅く、グレン様が
やって来た。
もう就寝しようと夜着に着替えた後だ。
どうしようかと思ったけれど、まあいいか。
今さらだ。
ショールを羽織り部屋に迎え入れる。

「悪いな。夜遅くに。マリオンからの
報告がさっき届いたんだがその件で少しな」

帝国に潜入しているマリオン義兄様からの
報告をグレン様が、何とも言えない顔で
私に告げる。

「……アニエス、お手柄だ。どうやらお前の
豆花が帝国で増殖して帝国の魔物を食い
尽くした。ここ数日、帝国が攻めて来ない
のはそのせいらしい」

「ピイちゃん?ええ~増えたんですかあれ。
ドーラにあげようと思って一匹、
胸ポケットにコサージュ代わりにさして
いたら、オズワルドの鼻を噛ったんです。
殴られている間にいなくなってしまって、
どうしたかなと思っていたらそんな事に……」

「意図して置いてきた訳ではないのか?」

呆れた顔の魔王。
ちょっと何でそんな顔なのよグレン様。

「偶然ですね。あれ、手乗りサイズだっ
たのに魔物を食べたんですか?」

「らしいな。帝国はあれのせいで大混乱だ」

なんと!ピイちゃんたら働き者。
たった一匹だったのに帝国を混乱させる
なんてすごいわ。

「それとお前……一体何を盗んで来たんだ?
豆花の他にもそのせいで混乱しているぞ」

「は?……何も盗んでませんけど?」

なにそれ。
何も盗んでないわよ。
私、泥棒じゃないもん。

「……これも意図してやった訳じゃなさそう
だな。よく思い出してみろ。何か帝国から
持ち帰ってきた物があるだろう?」

ええ~ないですってば……ん?
あれ?ひょっとしたらあれかな
でもあれは……帝国の物じゃないよね。
んん~?そういえば骨を切り取っていたな。
何か帝国にとって大切な物だったのかな。
でも、亡骸を冒涜するのは駄目でしょう。
一応、私のご先祖様だし。
折を見て丁重に葬ってあげよう。

「考え込むな。判断はこちらでする。
事実だけ伝えろ。何を持ってきた?」

「死体ですね」

「は?死体?お前……。で?一体誰の死体
を持って来たんだ」

「金竜です。神殿の地下の洞窟に氷漬けで
いました。なんか骨を切り取ったり、鱗を
剥がしたりされているみたいで可哀想で。
空間収納でお持ち帰りしました。
私のご先祖様なので、どこか良い所に埋葬
してあげたいのですが。
グレン様どこか良い場所を知りませんか?」

グレン様が額に手を当てて呻いている。
どこか具合でも悪い?

「大丈夫ですか、グレン様」

「お前はなんでもっと早くに言わないんだ。
たぶん帝国の混乱の原因はそれだ。
キルバンから王都に戻った黒竜がお前と
別れて王都に残ったのは、金竜の行方の
手がかりを求めて、武器商人と会うためだ。
もっと早くに言っていれば黒竜は無駄足を
踏まずに、お前と一緒に辺境に戻れたのに」

「武器商人って?」

「俺に竜殺しの剣を売りつけた奴だ。
黒竜が会ってみたいと言うから、
俺が繋ぎをつけた。奴は元々は帝国の
武器商人だったが今はアルトリアの王都に
屋敷を構えているからな」

「グレン様、まさか帝国の武器商人って
モールさんの話に出てきたあの?」

「ああ、そうだ。あの武器商人だ」

「え!だってその武器商人ってアルマさん、
アルフォンス様、モールさんを奴隷として
扱っていた人ですよね?なんでグレン様が
連絡先を知っているんですか?」

「帝国より俺の方が金払いがいいからと
すっかり奴の上得意の客になっている
からだな。
俺と取引するのに帝国にいるより
アルトリアにいる方が都合がいいそうだ」

「もう、グレン様ったら、なんでそんな悪人
とお付き合いしているの~!」

「黒竜にも言われたな?便利だからだ。
金さえ払えば信用出来る奴なんだ。
別に便利で信用出来れば特に人格に問題
があってもかまわないだろう」

グレン様……なんてドライな。
アルマさん達に酷い事をした人なのに……。
さすが魔王……人とは違うわ。

──痛い。グレン様につねられる。
なんで頬をつねるのよ。

「とりあえず、黒竜に連絡するか」

グレン様は右手を上げる。青白い光が
鳥の形になる。伝令鳥?
あれ?小鳥じゃない。フクロウだ。

「フクロウですね。可愛い」

「俺の個人用の伝令鳥だ」

「へえ、魔王の手下なのに、コウモリや
カラスじゃないんですね?」

「誰が魔王だ」

痛い。痛いって。頬をつねるのやめて。

フクロウさんは王都の黒竜の元へと
夜の空へ飛び去った。


「さて、用はすんだな」

グレン様がおもむろに上着を脱ぐ。
あれ?なんで押し倒されているの私。

「ちょっと待って下さい。グレン様?」

「ん?」

「ん?じゃないです。何してるんてすか!」

「何って、脱がしてる」

ああ、なんて早業なの!
もう結構脱がされている。こらエロ魔王!

「お腹が大きくなったらウェディングドレス
が着れなくなっちゃう~~!!」

ドーラの言う通り結婚前にまずいでしょう!

「なんだ。そんな事を気にしているのか。
大丈夫だ。八種類のウェディングドレスを
それぞれ十段階の腹回りのサイズですでに
発注してある。どんなに腹が大きくなって
も平気だぞ?王都からデザイン画が
届いたら見せる。それで気に入らなければ
もう一度、お前の好みで作らせる」

「はい?」

今、何て言ったのこの魔王。
八種類のウェディングドレスをそれぞれ
十段階の腹回りのサイズで発注……。
八×十=八十。
何、ウェディングドレスを八十着も作って
いるの勝手に!しかもどんなに腹が大きく
なっても平気って……子供作る気、満々だ!

馬鹿なの?馬鹿でしょ?グレン様?

「結婚前にお腹が大きくなったら
まずいでしょう!順序を守りましょう!」

「世間体なら気にしなくてもいいぞ?
世間の方を黙らせるから。
怖いのはオーウェンだけだが、奴も孫を
見たら絶対に堕ちるから大丈夫だ。
世継ぎの王子が生まれたから、早く子供が
出来た方がいいしな」

あ、そうか。
お妃候補や側近候補として必要なのか。
でも、結婚まで一年でしょ?
それまで待てないのこの人は!
高位貴族の結婚で一年の婚約期間ってわりと
短いのに~。

「もう!キスマークが恥ずかしいし!」

「そういえば、またこの間のやつ消したな。
他人に消されるぐらいなら仕方がない。
俺が消してやるから」

きゃ~すでに手つきが怪しい。
ひぇっ!

「でも、やっぱり恥ずかし~い~い!!」

ジタバタする私。
するとグレン様が首をコテンと傾ける。

「嫌なのか?」

その顔はズルい!何、そのおねだり顔は。

「……嫌じゃない……です」

私の返事に満面の笑顔になるグレン様に
見惚れる。その隙に口付けられる。

優しい口付けに陥落。

結局、甘い夜を過ごした。

お腹が大きくなる日は近い。
そんな気がした。
















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