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寂しがり屋な竜
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「昔、とても寂しがり屋な竜がいたんだ」
金竜は私の頭を撫でながら話し始める。
金竜の声は優しく何だかとても落ち着く。
私は静かな気持ちで金竜の話に耳を傾けた。
寂しがり屋の竜は長い長い月日をたった
一匹で過ごしていた。
いつから存在し、いつから竜として
あるのか分からなくなるほどの月日。
寂しくて寂しくて竜は仲間を探した。
竜は数が少なく仲間になかなか会えない。
やっと出会えた仲間は二匹の竜。
番同士の雄と雌。仲の良い二匹に寂しがり
屋の竜は嬉しそうに近寄った。
けれど番の雌を他の雄に見せたくない
雄竜に邪険にされて追い払われた。
仕方なく他の仲間を探しに旅に出た。
長い長い間旅をしたけれど仲間は
見つからず孤独なままだった。
長い旅に疲れた寂しがり屋な竜は黒い森に
住み着いた。
森には魔物が沢山いた。
森にいる魔物は種族ごとに群れており
仲間のいない寂しがり屋の竜は
羨ましかった。
同じ竜でなくてもいい。
仲良くなれないか?
森にいる魔物に近寄ると魔物は寂しがり
屋な竜に怯え、平伏し、かしずいた。
竜はがっかりした。
望んだ関係は結べなかった。
森には動物達もいる。動物達も仲間同士
でいる。魔物は無理でも動物なら?
竜は動物達に近寄った。
動物達は竜に恐れをなし逃げ回った。
寂しがり屋な竜は悲しかった。
なぜ自分には仲間がいないのだろう。
なぜ誰も受け入れてくれないのだろう。
寂しくて寂しくていつも巣穴で泣いていた。
そんなある日、森で見た事のない変な生き
物が倒れているのを見つけた。
近寄るとぐったりしたその小さい変な
生き物は言葉を発した。
「……お水」
水が欲しいのか。
竜は変な生き物に水を与えた。
変な生き物は竜の姿に驚き怯えたが水を
与えるとおいしそうにごくごくと飲んだ。
そして
「ありがとう」
お礼を言われた。
水を飲んだ変な生き物は今度はお腹が
すいたと言う。
変な生き物は何を食べるのだろう?
分からないが動物達が好んで食べる果実や
木の実を採ってきて渡した。
変な生き物は
「おいしい!ありがとう」
またお礼を言ってくれた。
寂しがり屋な竜は嬉しくなった。
変な生き物はまだ子供で森の中で迷って
しまったのだと言う。
村に、家に帰りたいと言う。
村……変な生き物が暮らす群れの
名前らしい。
家に帰りたいと泣く変な生き物に竜は困って
歌を歌って一生懸命あやした。
竜は動物や魔物から変な生き物を守りながら
水や食料を与え数日を過ごした。
変な生き物は泣き止まない。
竜は変な生き物の家を探す事にした。
変な生き物をそっと手しまい空を飛ぶ。
変な生き物の家はすぐに見つかった。
村の側で変な生き物を降ろし別れた。
「ありがとう!」
小さい変な生き物が手を振る。
そんな時、村から大きな変な生き物が
沢山集まって来た。
大きな変な生き物達は竜に石を投げ
先の尖った木の棒を沢山放って来た。
「化け物め!村から出て行け!」
竜には痛くも痒くもないが嫌われた事は
分かった。
竜は悲しくて泣きながら黒い森へと
飛び去った。
巣穴に帰るとまた誰もいない。
小さな変な生き物と過ごした数日は
賑やかで楽しかったのに。
竜の孤独は深まった。
小さな変な生き物と過ごした日々が忘れ
られない。
もう、お腹はすいていないだろうか。
喉は乾いていないだろうか。
泣いてはいないだろうか。
村に様子を見に行きたい。
でも自分は恐れ嫌われる存在。
なぜ自分はこんな姿なのだろう。
竜はポロポロと涙を流した。
また一匹だけの寂しい月日が流れた。
数年後のある日、黒い森に変な生き物達が
迷いこんだ。
魔物に追われぼろぼろの姿で竜に遭遇した。
竜には害意はなかったが変な生き物達は
竜の姿に半狂乱で逃げ出した。
怪我をして動けぬ者を残して。
怪我をして動けぬ者には側に付き添う者が
一人残った。
ふと、その付き添う者が竜へと近寄った。
怪我をして動けぬ者は付き添う者を止めた。
「止せ!危ない!私を置いて逃げろ!」
だが付き添う者はどんどん竜へと歩み寄る。
すぐ真下まで来ると付き添う者は竜へと
声をかけた。竜は戸惑う。
自分に近寄ってくる者など今までいなかった
のだから。
「あなたは私に歌を歌ってくれた竜なの?」
それはあの時、竜が村へと送り届けた小さな
変な生き物だった。
小さな変な生き物は大きくなっていた。
竜は小さな変な生き物が自分の事を覚えて
いてくれた事を喜んだ。
「お願い。助けて。彼は怪我で動けない」
そう乞われた竜は二人を巣穴に運ぶと
水や食料を与え世話をした。
最初、怪我をして動けぬ者は竜を警戒して
いたが傷が癒え動けるようになる頃には
竜に心を開き友達になった。
そして竜と色々と話しをした。
変な生き物の種族名は人間。または人という
のだと竜は教えてもらった。
小さな変な生き物は雌でリイナ。
怪我をして動けぬ者は雄でカイル。
二人は夫婦という番らしい。
カイルの怪我は治ってすでに動けるように
なったが何やら命を狙われているとかで
リイナと共にもうしばらく黒い森で
隠れていたい。力を貸して欲しいという。
リイナとカイル。
初めてできた友達がしばらく一緒に暮らす。
竜は喜んだ。
時折りカイルを探して別の人間達が森に
入りこんでくるが竜が姿を現すと一目散で
逃げていく。
「お前は優秀な護衛だな」
カイルはそう言って笑う。
「あら。優秀な歌手よね?また歌って!」
リイナが歌をねだる。
リイナは竜の歌が大好きだった。
竜は歌う。リイナのために。
竜とリイナとカイル。
数年、仲良く暮らしたがリイナが子を腹に
宿した事をきっかけに黒い森から人の村へ
と帰って行った。
「ありがとう。また遊び来るからな」
「一緒に行ければいいのに。あなたが人の
姿だったら……一緒に行けるのに。
ごめんね。子供が生まれたら見せに黒い森
に戻って来るからね」
竜はまた一匹になった。
また孤独な生活に逆戻り。
竜はリイナとカイルを思っては泣いた。
数ヶ月後、リイナが子供抱いて黒い森に
戻って来た。
竜は喜んで姿を現した。
だがリイナは竜の姿を見ると安心したのか
その場に倒れた。
リイナは血だらけで瀕死だった。
「カイルは殺された。私ももう……。
この子はアイリ……この子をお願い」
リイナは赤子を竜に託すと息絶えた。
竜は泣いた。
人の命は自分と比べとても短い。
それでもカイルとリイナはまだ若い。
なぜ死なねばならなかったのだろう。
竜は泣いた。
初めてできた友を亡くして。
赤子も泣いた。
母の温もりをなくして。
泣き続ける赤子に竜は途方にくれる。
自分にこの子の世話は無理だ。
せめて自分が人の姿だったら……。
『あなたが人の姿だったら……
一緒に行けるのに』
リイナの言葉を思い出す。
自分が一緒だったら……カイルもリイナも
守れたのに。
……人の姿。なれるだろうか。
竜はカイルの姿を思い出す。
自分は雄だ。
真似るなら雌のリイナではなく雄のカイル。
自分の体の内側に魔力を向ける。
人の姿になりたい。
竜は祈るように魔力をこめる。
──竜は人の姿を手に入れた。
カイルに瓜二つの姿。
竜は赤子を抱き上げた。
父親と同じ顔に赤子が笑う。
竜は赤子を連れて旅に出た。
途中、何度もカイルに間違われ襲われ
刺客を葬りながら人里を転々と渡り歩いて
赤子を育てた。
赤子は……アイリは雌だった。
その後、大きく育ったアイリは
自分を育ててくれた竜に恋をした。
二人は番になった。
種族は違えど仲睦まじく子宝にも恵まれた。
竜はアイリとの子孫を残すために
自分とアイリの体を魔力で作り変えた。
アイリから生まれた子供は人が二人、
竜が二人。竜の子供達は長命で長い年月を
父親と共に過ごした。
人の子供達は人ではあるが竜の血が混じって
魔力が高く、その内一人がカイルを殺した
血族を滅ぼし人の王となった。
人の子供達は寿命が人と同じ。
竜より短い生だったが多くの子孫を残した。
その血筋の者に竜は血と鱗を与えた。
与えられた者は竜の血の契約者として
竜の力を手に入れた。
血の契約者の中には人から竜へと変体する
者もいた。
竜と人との繁殖はこうして始まった。
寂しがり屋の竜は家族を手に入れた。
もう寂しくはない。
けれどカイルとリイナを思い出し、時々
泣きながら歌を歌った。
寂しがり屋な竜の血族は他の竜の血も交え
竜の数を増やしていった。
「竜族の始まりの物語だね。竜は人との
間に子孫を残すために人化した。
血が薄くなっても血と鱗……竜の魔力を
与えれば竜化する個体がでる。
アニエスやグレンは竜の血族で竜の血で
目覚め、鱗によって竜化した。
人から生まれたのに竜になるのはそういう
事情があるんだ」
金竜の話す寂しがり屋の竜の話。
要するに遠いご先祖様な訳ね。
「竜からしても長い年月がたった。
人と竜の間にも色々あって……
まあ、僕の事も含めてだけれど。
竜の中にも本来の人との繋がりをすっかり
忘れている者がいる。
人の癖にと蔑む者も。
リョクみたいな偏った考えの者も多い。
竜族が人との関わりを捨て元の孤独を選ぶの
なら、それでもいい。
人との間に子をなさなければ、いずれは
緩に竜は数を減らしていく。
だから互いに殺し合うのだけは……何とか
避けられないだろうか」
金竜の悲しそうな顔。
この人は竜も人も好きで大事なんだね。
う~ん。
正直。竜とか人とかどうでもいい。
黒竜とは友達で大事にしたい。
白竜は申し訳なさが大部分。
黒竜の大事な人だし大切にしたい。
青竜や赤竜も最初は何だコイツと思ったけど
意外にいい奴らでもう友達だと思う。
カナイロはカリナさんとの事を応援して
あげたいし……。
結局、種族じゃなくて個人同士の繋がりが
私には大事。
人の中にも最低な奴はいるし。
竜の中にも最低な奴はいる。
そんなの当たり前だよね。
ごめん。金竜。
私には人と竜の間を取り持ち殺し合いを
止めさせるなんて
大きな使命は果たせません。
力づくで従わせる事はできると思うけれど
本当の解決には程遠いし。
「金竜。私にできるのは小さな繋がりを
大事にする事だけしかできないよ?」
「うん。それでいいと僕も思う。君には
望まない物を背負わせたから。
気負わないでいてくれたら助かる。
ただ、始まりの物語をどこか頭の片隅に
覚えていてくれたら嬉しい」
……それ、結構プレッシャーだよ。金竜。
複雑な気持ちでいると金の私と黒の私が
金竜を睨む。
「それ、圧力だから!」
金竜が叱られてしょげている。面白い。
「私達は全面的にあなたとグレンの味方だ
からね?何かあったら絶対に助けてあげる」
黒の私に抱きしめられる。
「あなたは自由にしていいのよ。愛しい子」
金の私に抱きしめられる。
くすぐったい。
何だか姫様やアイリスさん。アルマさんと
いるみたい。
ああ、姫様達に会いたいな。
「あ!アニエス、そろそろ戻らないと
グレンがキレそう」
金竜が叫ぶ。……グレン様がキレる。
それはまずい。
「まあ君は一人じゃない。グレンがいるし
僕らもいるよ?それだけ伝えたくてね」
金竜が私を抱きしめる。
う~ん。私って何だか色々な人に甘やか
されている気がするなぁ。
ご先祖様。心配かけてごめんね?
金竜が私をそっと離すと頷く。
足元の地面がグニャンと柔らかく
穴を開ける。
──落ちる。
落ちながら金竜と金の私。黒の私を見る。
三人とも私に手を振っている。
とても優しい顔。
それこそ小さな愛しい子供に向けるような
柔らかい笑顔。
落ちていく。
──暗転する。
私の意識はそこで途絶えた。
金竜は私の頭を撫でながら話し始める。
金竜の声は優しく何だかとても落ち着く。
私は静かな気持ちで金竜の話に耳を傾けた。
寂しがり屋の竜は長い長い月日をたった
一匹で過ごしていた。
いつから存在し、いつから竜として
あるのか分からなくなるほどの月日。
寂しくて寂しくて竜は仲間を探した。
竜は数が少なく仲間になかなか会えない。
やっと出会えた仲間は二匹の竜。
番同士の雄と雌。仲の良い二匹に寂しがり
屋の竜は嬉しそうに近寄った。
けれど番の雌を他の雄に見せたくない
雄竜に邪険にされて追い払われた。
仕方なく他の仲間を探しに旅に出た。
長い長い間旅をしたけれど仲間は
見つからず孤独なままだった。
長い旅に疲れた寂しがり屋な竜は黒い森に
住み着いた。
森には魔物が沢山いた。
森にいる魔物は種族ごとに群れており
仲間のいない寂しがり屋の竜は
羨ましかった。
同じ竜でなくてもいい。
仲良くなれないか?
森にいる魔物に近寄ると魔物は寂しがり
屋な竜に怯え、平伏し、かしずいた。
竜はがっかりした。
望んだ関係は結べなかった。
森には動物達もいる。動物達も仲間同士
でいる。魔物は無理でも動物なら?
竜は動物達に近寄った。
動物達は竜に恐れをなし逃げ回った。
寂しがり屋な竜は悲しかった。
なぜ自分には仲間がいないのだろう。
なぜ誰も受け入れてくれないのだろう。
寂しくて寂しくていつも巣穴で泣いていた。
そんなある日、森で見た事のない変な生き
物が倒れているのを見つけた。
近寄るとぐったりしたその小さい変な
生き物は言葉を発した。
「……お水」
水が欲しいのか。
竜は変な生き物に水を与えた。
変な生き物は竜の姿に驚き怯えたが水を
与えるとおいしそうにごくごくと飲んだ。
そして
「ありがとう」
お礼を言われた。
水を飲んだ変な生き物は今度はお腹が
すいたと言う。
変な生き物は何を食べるのだろう?
分からないが動物達が好んで食べる果実や
木の実を採ってきて渡した。
変な生き物は
「おいしい!ありがとう」
またお礼を言ってくれた。
寂しがり屋な竜は嬉しくなった。
変な生き物はまだ子供で森の中で迷って
しまったのだと言う。
村に、家に帰りたいと言う。
村……変な生き物が暮らす群れの
名前らしい。
家に帰りたいと泣く変な生き物に竜は困って
歌を歌って一生懸命あやした。
竜は動物や魔物から変な生き物を守りながら
水や食料を与え数日を過ごした。
変な生き物は泣き止まない。
竜は変な生き物の家を探す事にした。
変な生き物をそっと手しまい空を飛ぶ。
変な生き物の家はすぐに見つかった。
村の側で変な生き物を降ろし別れた。
「ありがとう!」
小さい変な生き物が手を振る。
そんな時、村から大きな変な生き物が
沢山集まって来た。
大きな変な生き物達は竜に石を投げ
先の尖った木の棒を沢山放って来た。
「化け物め!村から出て行け!」
竜には痛くも痒くもないが嫌われた事は
分かった。
竜は悲しくて泣きながら黒い森へと
飛び去った。
巣穴に帰るとまた誰もいない。
小さな変な生き物と過ごした数日は
賑やかで楽しかったのに。
竜の孤独は深まった。
小さな変な生き物と過ごした日々が忘れ
られない。
もう、お腹はすいていないだろうか。
喉は乾いていないだろうか。
泣いてはいないだろうか。
村に様子を見に行きたい。
でも自分は恐れ嫌われる存在。
なぜ自分はこんな姿なのだろう。
竜はポロポロと涙を流した。
また一匹だけの寂しい月日が流れた。
数年後のある日、黒い森に変な生き物達が
迷いこんだ。
魔物に追われぼろぼろの姿で竜に遭遇した。
竜には害意はなかったが変な生き物達は
竜の姿に半狂乱で逃げ出した。
怪我をして動けぬ者を残して。
怪我をして動けぬ者には側に付き添う者が
一人残った。
ふと、その付き添う者が竜へと近寄った。
怪我をして動けぬ者は付き添う者を止めた。
「止せ!危ない!私を置いて逃げろ!」
だが付き添う者はどんどん竜へと歩み寄る。
すぐ真下まで来ると付き添う者は竜へと
声をかけた。竜は戸惑う。
自分に近寄ってくる者など今までいなかった
のだから。
「あなたは私に歌を歌ってくれた竜なの?」
それはあの時、竜が村へと送り届けた小さな
変な生き物だった。
小さな変な生き物は大きくなっていた。
竜は小さな変な生き物が自分の事を覚えて
いてくれた事を喜んだ。
「お願い。助けて。彼は怪我で動けない」
そう乞われた竜は二人を巣穴に運ぶと
水や食料を与え世話をした。
最初、怪我をして動けぬ者は竜を警戒して
いたが傷が癒え動けるようになる頃には
竜に心を開き友達になった。
そして竜と色々と話しをした。
変な生き物の種族名は人間。または人という
のだと竜は教えてもらった。
小さな変な生き物は雌でリイナ。
怪我をして動けぬ者は雄でカイル。
二人は夫婦という番らしい。
カイルの怪我は治ってすでに動けるように
なったが何やら命を狙われているとかで
リイナと共にもうしばらく黒い森で
隠れていたい。力を貸して欲しいという。
リイナとカイル。
初めてできた友達がしばらく一緒に暮らす。
竜は喜んだ。
時折りカイルを探して別の人間達が森に
入りこんでくるが竜が姿を現すと一目散で
逃げていく。
「お前は優秀な護衛だな」
カイルはそう言って笑う。
「あら。優秀な歌手よね?また歌って!」
リイナが歌をねだる。
リイナは竜の歌が大好きだった。
竜は歌う。リイナのために。
竜とリイナとカイル。
数年、仲良く暮らしたがリイナが子を腹に
宿した事をきっかけに黒い森から人の村へ
と帰って行った。
「ありがとう。また遊び来るからな」
「一緒に行ければいいのに。あなたが人の
姿だったら……一緒に行けるのに。
ごめんね。子供が生まれたら見せに黒い森
に戻って来るからね」
竜はまた一匹になった。
また孤独な生活に逆戻り。
竜はリイナとカイルを思っては泣いた。
数ヶ月後、リイナが子供抱いて黒い森に
戻って来た。
竜は喜んで姿を現した。
だがリイナは竜の姿を見ると安心したのか
その場に倒れた。
リイナは血だらけで瀕死だった。
「カイルは殺された。私ももう……。
この子はアイリ……この子をお願い」
リイナは赤子を竜に託すと息絶えた。
竜は泣いた。
人の命は自分と比べとても短い。
それでもカイルとリイナはまだ若い。
なぜ死なねばならなかったのだろう。
竜は泣いた。
初めてできた友を亡くして。
赤子も泣いた。
母の温もりをなくして。
泣き続ける赤子に竜は途方にくれる。
自分にこの子の世話は無理だ。
せめて自分が人の姿だったら……。
『あなたが人の姿だったら……
一緒に行けるのに』
リイナの言葉を思い出す。
自分が一緒だったら……カイルもリイナも
守れたのに。
……人の姿。なれるだろうか。
竜はカイルの姿を思い出す。
自分は雄だ。
真似るなら雌のリイナではなく雄のカイル。
自分の体の内側に魔力を向ける。
人の姿になりたい。
竜は祈るように魔力をこめる。
──竜は人の姿を手に入れた。
カイルに瓜二つの姿。
竜は赤子を抱き上げた。
父親と同じ顔に赤子が笑う。
竜は赤子を連れて旅に出た。
途中、何度もカイルに間違われ襲われ
刺客を葬りながら人里を転々と渡り歩いて
赤子を育てた。
赤子は……アイリは雌だった。
その後、大きく育ったアイリは
自分を育ててくれた竜に恋をした。
二人は番になった。
種族は違えど仲睦まじく子宝にも恵まれた。
竜はアイリとの子孫を残すために
自分とアイリの体を魔力で作り変えた。
アイリから生まれた子供は人が二人、
竜が二人。竜の子供達は長命で長い年月を
父親と共に過ごした。
人の子供達は人ではあるが竜の血が混じって
魔力が高く、その内一人がカイルを殺した
血族を滅ぼし人の王となった。
人の子供達は寿命が人と同じ。
竜より短い生だったが多くの子孫を残した。
その血筋の者に竜は血と鱗を与えた。
与えられた者は竜の血の契約者として
竜の力を手に入れた。
血の契約者の中には人から竜へと変体する
者もいた。
竜と人との繁殖はこうして始まった。
寂しがり屋の竜は家族を手に入れた。
もう寂しくはない。
けれどカイルとリイナを思い出し、時々
泣きながら歌を歌った。
寂しがり屋な竜の血族は他の竜の血も交え
竜の数を増やしていった。
「竜族の始まりの物語だね。竜は人との
間に子孫を残すために人化した。
血が薄くなっても血と鱗……竜の魔力を
与えれば竜化する個体がでる。
アニエスやグレンは竜の血族で竜の血で
目覚め、鱗によって竜化した。
人から生まれたのに竜になるのはそういう
事情があるんだ」
金竜の話す寂しがり屋の竜の話。
要するに遠いご先祖様な訳ね。
「竜からしても長い年月がたった。
人と竜の間にも色々あって……
まあ、僕の事も含めてだけれど。
竜の中にも本来の人との繋がりをすっかり
忘れている者がいる。
人の癖にと蔑む者も。
リョクみたいな偏った考えの者も多い。
竜族が人との関わりを捨て元の孤独を選ぶの
なら、それでもいい。
人との間に子をなさなければ、いずれは
緩に竜は数を減らしていく。
だから互いに殺し合うのだけは……何とか
避けられないだろうか」
金竜の悲しそうな顔。
この人は竜も人も好きで大事なんだね。
う~ん。
正直。竜とか人とかどうでもいい。
黒竜とは友達で大事にしたい。
白竜は申し訳なさが大部分。
黒竜の大事な人だし大切にしたい。
青竜や赤竜も最初は何だコイツと思ったけど
意外にいい奴らでもう友達だと思う。
カナイロはカリナさんとの事を応援して
あげたいし……。
結局、種族じゃなくて個人同士の繋がりが
私には大事。
人の中にも最低な奴はいるし。
竜の中にも最低な奴はいる。
そんなの当たり前だよね。
ごめん。金竜。
私には人と竜の間を取り持ち殺し合いを
止めさせるなんて
大きな使命は果たせません。
力づくで従わせる事はできると思うけれど
本当の解決には程遠いし。
「金竜。私にできるのは小さな繋がりを
大事にする事だけしかできないよ?」
「うん。それでいいと僕も思う。君には
望まない物を背負わせたから。
気負わないでいてくれたら助かる。
ただ、始まりの物語をどこか頭の片隅に
覚えていてくれたら嬉しい」
……それ、結構プレッシャーだよ。金竜。
複雑な気持ちでいると金の私と黒の私が
金竜を睨む。
「それ、圧力だから!」
金竜が叱られてしょげている。面白い。
「私達は全面的にあなたとグレンの味方だ
からね?何かあったら絶対に助けてあげる」
黒の私に抱きしめられる。
「あなたは自由にしていいのよ。愛しい子」
金の私に抱きしめられる。
くすぐったい。
何だか姫様やアイリスさん。アルマさんと
いるみたい。
ああ、姫様達に会いたいな。
「あ!アニエス、そろそろ戻らないと
グレンがキレそう」
金竜が叫ぶ。……グレン様がキレる。
それはまずい。
「まあ君は一人じゃない。グレンがいるし
僕らもいるよ?それだけ伝えたくてね」
金竜が私を抱きしめる。
う~ん。私って何だか色々な人に甘やか
されている気がするなぁ。
ご先祖様。心配かけてごめんね?
金竜が私をそっと離すと頷く。
足元の地面がグニャンと柔らかく
穴を開ける。
──落ちる。
落ちながら金竜と金の私。黒の私を見る。
三人とも私に手を振っている。
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落ちていく。
──暗転する。
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『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
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