王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、ビビる

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ん……気持ち悪い。
吐きそう。目を閉じているのにぐるぐる目が
回っている気がする。
だるくて体が動かない。
私は冷たくて固い地面に横たわっている。
グレン様はどこ?

グレン様の気配がない。
起き上がって状況を確認したいけれど今、
起き上がったら絶対に吐く。
唾液がやたら出る。
飲み込むとそれだけで吐きそう。

「キハダ様じゃない?どういう事だ」

「失敗か?この雌は誰だ?」

「何でキハダ様じゃないんだ?」

「アカネ!ちゃんとキハダ様の巣穴の寝所
に道を繋げたんだろうな?!」

「ちゃんと繋げたよ!寝所に横になったら
発動するようにしてたんだ!キハダ様は
お一人で巣穴に籠っているから……なんで
別の奴が巣穴にいるんだよ……」


──なんか揉めてる?
どうやら私はキハダと間違えられて拉致
されたらしい。
複数の人の声が飛び交う。

グレン様に抱かれてキハダの巣穴に向かっ
たところで意識が途絶えているから推測で
しかないけれど。

グレン様、心配しているだろうな。
金竜がグレン様がキレそうだと言っていた。
ひょっとして私が拉致されてキレそうなの
かもしれない。

「おい、この雌……具合が悪そうだぞ?」

「本当だ顔色が悪い。大丈夫かな?
どこかで休ませた方がいいか。おい起きろ。
あんた大丈夫か?」

心配そうに声をかけられる。
なんか悪い人達ではなさそう。
私は目を開けた。

「お、気がついたぞ?あんた大丈夫か?
悪いな……人違いでこんな所に連れて来て
しまって。起きられるか?」

赤い髪の美男が心配そうに私を覗きこんで
私を抱き起こしてくれる。

私を抱き起こしてくれた赤い髪の美男の他に
四人の男が私のすぐ側に立っている。
少し色味の違う赤い髪の男が一人、
青い髪と藍色の髪の男が一人ずつ。
白い髪の男が一人。
みんな美形。瞳は金色。竜だよね?
みんな戸惑いながらも心配そうに私を見る。

ここどこよ?
やっぱり洞窟みたいだけれど目の前には
さらに横穴があって鉄格子が見える。
鉄格子の向こうには沢山の人がうずくまって
いる。壁に寄りかかってぐったりしている
人や地面に横たわっている人も……。
若い女性が多いような気がする。
──牢屋?
人が沢山いるのに静かだ。皆、怯えている。
誰も話さないし息を潜めるように物音一つ
しない。

やだな。牢屋の前で寝ていたの私。

「この人達は?」

「奴隷だ……長老達が密かに人を拐ってきて
奴隷にしているんだ。キハダ様に何とかして
もらいたくてキハダ様の巣穴に強引に道を
繋げたんだけど……悪い。手違いであんたを
巻き込んでしまった」

赤い髪の美男が私に謝る。

……はあ?

あの馬鹿長老達、人を拐って奴隷にしてる?
そういえばコガネを人の奴隷に竜殺しの剣で
刺させたとリョクが言っていたっけ。

何してんのよ……長老達は。

「それで?あなた達はこの人達を助けたい
のですか?」

「ああ、こんな事は間違っている。
ただ、俺達には力がない。だからキハダ様
に助けてもらいたかったんだ」

「キハダの巣穴に『穴』を繋げられるぐらい
ならあなた達だけでも何とかなるのでは?」

「『穴』?」

「あ~道っていうんでしたっけ?」

「あ~道か。それがそうでもなくてな。
この牢獄の結界が強くて歯がたたない。
キハダ様の巣穴に道を繋げる方が簡単
だったんだ」

成る程……で、間違えて私を引きずり
込んだ訳ね。
結界か……う~ん。私に壊せるかな?
ただ、今の私は竜石の浄化で魔力をごっそり
持っていかれているから無理かも。

「仕方がない。キハダ様と会えなかった
んだ。今日は諦めよう」

私が考えこんでいると青い髪の男が私を
抱き起こしてくれている赤い髪の美男に声を
かける。

「でも……かなり弱っている人もいるし、
何よりこれ以上若い女性が無体を強いられる
のは見ていられない」

「は?若い女性が無体を強いられる?
それはどういう事でしょう?」

今、何か聞き逃せない事を言った?

「ほら、この里は男だらけだから……さ?」

私が女性なので言いにくそうに赤い髪の美男
はボソボソと言う。

「それは番とか関係なくただ女性を弄んで
いるという事ですか?拐ってきて閉じ込めた
うえにそんな事を?」

「……あ、うん。そう」

ここにいる五人の男達は恥ずかしそうに
俯く。恥ずべき所業だという事が分かって
いるのね。

何て事してんのよ!
頭にきた!!

要するに性奴隷……。

金竜!駄目だ。腐ってるわよあなたが守り
たかった竜達は!
腹が立ったら気分が悪いのがどこかに
飛んでいった。

まだふらつくけれど何とか立ち上がる。

「お、おい。大丈夫か?ふらついているぞ」

赤い髪の美男が慌ててふらついた私を
支えてくれる。
この人はまともだよね。
普通に親切だ。
竜の中にも良い奴と悪い奴がいる。
当たり前だけれど。

「平気です。私はアニエス。あなた達は?」

「俺はアカネ。そっちの赤い髪の奴は
コキヒ。青い髪の奴がアサギ。それで白い
のがハクジだ」

赤い髪の美男ことアカネが皆の名前を教え
てくれる。

「こんな所にこの人達を一時でも置いて
おけない……私、結界を壊してみます」

「え?!壊すってあんたが?無理だろ。
やめとけよ。下手に魔力を流すと反発して
自分に跳ね返ってくるぞ」

アカネが私を止めるけれど絶対にやめない。

「いやちょっと待て。アニエス……さん?」

「はい?」

ハクジが私の名前を呼ぶ。
何よ?

「……南大陸にいる金竜様の名前がアニエス
じゃなかった?」

「え?!まさか!」

あれ?アカネ達はリョク達と私達の騒動を
知らない?キハダの巣穴に私達がいる事も
知らなかったし。

「は~い。竜化できない出来損ないの
金竜。アニエス・ザルツコードです」

「ええっ!本当に金竜様?!」

「えっ!すみません。俺達なんて無礼な事
をしてしまったんだろう。金竜様を間違え
て拐うなんて……」


真っ青な顔で狼狽える五人。
いや、あなた達は別に無礼じゃないから。
無礼なのはリョク達だからね!

「私は竜化しないし人のつもりだから変に
敬わなくてもいいですよ」

「いや、いやそんな訳にはいきませんよ!」

アカネが敬語になっている。
別にいいのに。

「確かに金竜様なら牢獄の結界を壊せる
かもしれない。でも金竜様……具合が
悪そうですけれど大丈夫ですか?」

「あ~その金竜様って呼び方やめて下さい。
竜石を浄化したので魔力が底をついている
けれど、放っておけないでしょう?」

「え?!竜石を浄化したんですか?
あんな負のエネルギーの塊を……いくら
金竜……あ~アニエス様でも無茶です。
そのうえ、牢獄の結界を壊そうなんて
駄目です。もう少し体調と魔力が回復して
からにしましょう?」

アカネが必死で私を止める。

「駄目そうなら途中でやめます。とりあえず
挑戦するだけ挑戦してみます!」

私はアカネを押しきり前に出る。
牢獄の結界を壊そうと魔力を込めようと
したところでバリバリ、バリンバリンと
大きな音をたてて、牢獄の結界どころか
この洞窟にある複数の『穴』が壊れて
消えていく。

圧倒的な金色の魔力が流れ込んでくる。
あ、グレン様だ。

「結界が!牢獄の結界が壊れた!」

「いや、道も壊れたぞ!これ一体どうなって
いるんだ?!」

「なんだこれ!凄い魔力だ。金竜様の魔力?
……でも、アニエス様のじゃない?」

「え?!どうなっているんだ!」

アカネ達がパニックになる。
あ~うん。
来た、来た。

私の足元に新しい『穴』が出現する。
その『穴』からにょきりと手が出てくる。
左手に私とお揃いの指輪。
掌に金竜の刻印が見える。

『穴』からとても不機嫌なグレン様が
這い上がってくる。

うわ、うわ、うわっ!
目茶苦茶怒ってるぅ~~!!

──魔王降臨。

「え?この魔力……金竜様?」

「金竜様が二人?!」

「え?!金竜様がお怒り?」

アカネ達がグレン様を見て固まる。
あ~うん。怖いわ。そりゃ固まるわ。

グ、グレン様……お顔が怖いです。

「アニエス……呼べと言ったはずだぞ」

地を這うような低い声。
はい。すみません。呼びませんでしたね。

「お前、何かまた一人で無茶な事をしようと
していたな?」

「あはは……あは。す、すみません」

グレン様お見通しですね。ううっ!
笑って誤魔化そうとしたらさらにお顔が
厳しくなりました。

ひいぃぃ!

グ、グレン様、どうどう。
これ、どう宥めたらいいの~~!

絶対零度な魔王様にビビりまくる私でした。














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