刺されて始まる恋もある

神山おが屑

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「月兎、今日飲みに行かね?」

「ごめん、今日バイトだわ、また合コン?」

「おうよ、ぜってぇ今年のクリスマスは女の子と過ごしてやる!」

大学からの付き合いで少し引っ込み思案な俺の数少ない友達である花岡誠はなおかまこと、今年二十歳になったのをいいことに週に3回のペースで合コンに参加している。

明るい花岡は目鼻立ちもはっきりしており所謂イケメンであり、大学内では結構女子からも人気らしい。ただ俺の知る限り彼女がいたことは無い、何故なら

「あ~まじ、創成魔女っ子のルアたんみたいな女の子空から降ってこないかな~」

「あ、そういえば今日雨とか言ってたな傘忘れた」

いつものように訳の分からない妄想を口にする花岡を無視し空に目をやる。

察しの通り花岡はオタクである、さらに合コンでは、
「初恋は昔のローカルアニメの主人公ルアたんでいつかルアたんみたいな女子に出会えると信じてます!」と毎回開口一番挨拶をする。

顔はいいが所謂残念なイケメンである花岡は顔だけで判断してはダメだと女子に思わせ他のフツメン達でも合コンで輝けるため毎日のように合コンに引っ張りだこだ。

少し暗めで顔も特に特徴もない俺とは正反対ではあるが同じアニメ好きであり、何よりローカルアニメ創成魔女っ子を知っていたのがきっかけで俺は花岡に親友認定されたようだ。

いわく「創成魔女っ子好きに悪いヤツはいない!」だそうだ。

「あ、そろそろ行かないと、んじゃバイト頑張っ!叔父さんによろしく!」

「んー、ルアたんに会えるといいな~」

「そう言ってくれるのはお前だけだ!またな!」

からかいのつもりで言ったのだが純粋な花岡は心からの満面の笑みで俺にハグして去っていった。
花岡が俺にハグをするのは良くあることだ。
そのせいで最近それを見た女子たちが俺たちに恋人疑惑をかけて「付き合ってるの?」と聞いてきたこともある。

が、「ごめん、月兎は可愛いけどルアたんとは違うタイプだ」と真面目な顔で告ってもいないのに振られそれを見ていた女子たちから改めて花岡は「見る用イケメン」と認定されていた。

そんな可哀想な友の背中を見送りっていると周囲の女子たちがざわつき始めた。

「見て、城田君だ、この間も雑誌に出てたけどほかの男なんて目じゃないくらい目立ってた」

「マジで芸術の域だよね~」


城田雪人しろたゆきと、名前通りの透けるような真っ白な肌に整ったそれぞれの顔パーツが完璧に配置され、スラッとした手足に程よくついた筋肉、どこぞの美術館に飾られてもおかしくないような容姿の男。
大学内で城田雪人を知らないものはいないイケメンである。

入学式初日に二桁に告白されただの、女子が全員城田に見惚れ講義にならず教授がマイクでブチ切れただの数多くの噂が流れ大学内にその名を轟かせた。

さらに大学内だけでなく田舎から出てきたらしい城田はすぐにスカウトの目にとまったが芸能界に興味が無いと断ったもののスカウトも引き下がらず読モのアルバイトだけならと時々雑誌のモデルをしているらしい。

顔は良いが愛想は悪いらしくあまり人と話すことは無いらしいが女子達には逆にその冷たい感じがいいらしく名前と合わせて雪の王子と呼ばれているとかいないとか。

まぁ、自分とは一生関わることは無いだろうと思った矢先、何を思ったか雪の王子様がこちらに向かって歩いてきてピタリと目の前で止まった。

黒川月兎くろかわつきと君、これ君のでしょ?教室の前に落ちてた」

驚いてフリーズしていると城田は俺の学生証を差し出してきた。
カバンに付けたカードケースが外れていたようだ。

「あ、ありがとう、でもなんで俺のって」

「事務室に届けようと思ったけど写真と同じ顔が居たから」

確かに学生証には写真があるがプチ大学デビューして髪型も変えコンタクトにした俺は学生証の写真とは別人のようだとよく言われるので不思議に思っていると痺れを切らしたのか

「要らないの?」

「あ、ごめん、本当ありがとう助かった」

お礼を言って慌てて受け取ると

「気をつけろよ、じゃあ」

とだけ言って去っていった。気をつけろという前に少し笑った気がして男相手なのにドキッとしてしまった。

周りの女子達がまたクールだの優しいだの騒いでいる。

俺は周りからの好機の目に耐えられずそそくさとバイトに向かった。
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