刺されて始まる恋もある

神山おが屑

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俺のバイト先は個人経営の居酒屋だが店やオーナーの雰囲気がかなりオシャレで値段も少しお高めのためか客層も大人びた人が多い居酒屋というよりバルと言った方がしっくり来るようなお店だ。

オーナーは花岡の伯父でバイトを探している時花岡に紹介して貰い働いている。
花岡の父の一回り上の兄らしく還暦を過ぎているらしいがロマンスグレーの髪が良く似合っており、花岡の血縁と言うだけあって顔も整っているため歳を感じさせないイケおじである。

こんなイケおじなのに結婚はしていないらしい。
花岡自身は伯父と一緒に働くのが気恥しいらしく別のところでバイトしているらしい。

「黒川君、今日お客さん多くて大変だったでしょだいぶお客さんも引いてきたし片付け終わったらあがってもらっていいから」

「はい、ありがとうございます」

金曜の夜ということもあり常に満席だったお客さんも二組だけになっていた。
制服を着替え挨拶をしようとして昼間の花岡との会話をふと思い出した。

「オーナー、お疲れ様です。あー花岡がよろしくって言ってました。」

「何がよろしくだよ、どうせ今日も合コンでしょ?あんなどうしようもない奴だけどこれからも誠と仲良くしてやってくれると助かるよ」

「いえ、僕の方こそ仲のいい友達は花岡くらいなので感謝してます。」

「ふふ本当に君が友達で良かったよ、じゃあ夜も遅いから気をつけて帰ってね」

「はい、お先に失礼します。」

花岡にソックリの笑顔にほっこりしながら路地に繋がる店の裏口を出ると大通りの方が何やら騒がしい。

既に23時を過ぎているが、普段はこのくらいの時間になるとこの辺りは人通りも少なく静かだが、そんなこと気にした様子もなく女性が声を荒らげている。

大通りを通らないと大分遠回りになる為そっと路地から顔を出す。

男の方は背中を向けていてよく見えないが女の方は綺麗な顔をしているが痩せているというより痩せ細ったというのがピッタリくる不健康そうな細さの女性がその細さからは想像できないほどの怒鳴り声を上げて叫んでいた。

「どうして!私、あなたの為にこんなに痩せて、エステにも行って身体磨いて整形までした、この服だって、貯金も全部使ったのに!」

「そんなことひとつも頼んでないし、そもそも君が誰なのかも分からない」

ものすごく出ずらい場面が帰り道で繰り広げられ出るに出られない、ホストとのもめ事かとも思ったがどうやら違うらしい男がクズなのか女が思い込みの激しいストーカーなのかはたまたその両方か。

「!?そんな!前に告白したでしょ!そしたらせめて身だしなみに気をつかえって!だから私、私、、ねぇ私と付き合ってよ!」

「正直、告白されすぎてどの時のことか分からないし、そんな気持ちを押し付けられても迷惑だ」

「!?」

どうやら男がいけ好かない奴なのは確かなようだがどちらかというと男の言う通り女の好きの押付けのように思える。

いつまでも盗み聞きしているのも居心地が悪いので女がショックを受けて黙ってる間にこっそり横を通って帰ろうとした時女がさっきまでより少し低いトーンでポツリと呟いた。

「死んでやる、」

「は?」

「死んでやる!私と付き合ってくれないなら死んでやるから!ねぇ雪人君!私より雪人君のこと想ってる人なんかいないんだから!」

「え、」

死んでやるという言葉にも驚いたがそれに続いて出てきた名前に思わず驚きの声を上げてしまった。

「黒川?」

そこに居たのは紛れもなく城田雪人その人でありバッチリ目が合い名前まで呼ばれてしまった。

「何よアンタ盗み聞きとかさっさと消えて、、」

フリーズしている俺に女が怒鳴りつけてくるが途中で言葉が止まり女もフリーズする。

それもそのはず今俺は城田雪人にほっぺにキスをされている。

「遅かったねバイト終わったの?待ってたんだよ」

さっきまで女に出していた声とは全く違う昼間とも違う甘い声色で訳の分からないことをのたまい始め、訳が分からず口をパクパクとさせることしが出来なかった。

「(さっきの話聞いてたんでしょ?悪いけど話合わせて)あーごめんね人前では恥ずかしかった?」

俺にしか聞こえないよう耳元で囁いた後俺の反応に対する言い訳をした。

「俺、見ての通りゲイだから、この子が俺の彼氏、世間体もあるから黙っておくつもりだったけど、だからアンタが何を言おうと付き合うつもりは無いよ」

俺がまだ理解出来ずにいると城田は嘘の設定をペラペラと話し出した。

女もまだ理解出来ていないのかパクパクと言葉を出せずにいる。

「じゃ帰ろうか月兎君」

女がフリーズから戻ってまた叫び出す前に城田と城田に肩を抱かれた俺は街にきえた。
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