霊力ゼロの陰陽師見習い

テラトンパンチ

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決勝戦後半――暴走

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 決勝戦のグラウンドに、異様な緊張が張り詰めていた。
 玄弥は尾一本で必死に刺客の攻撃を防いでいたが、異常な強さに押され、胸の奥に疼きが広がる。

 「……もう……九尾の尾を……二本出すしか……」
 焦りの中で、尾がもう一本伸び、体を覆うように旋回した。
 九尾の尾二本の解放と同時に、圧倒的な力が全身を貫く。

 尾の速度と威力は桁違いだった。
 剣を弾き、霊力波を返し、空気を裂く音が戦場全体に轟く。
 刺客は一歩も退けず攻撃を試みるが、次第に押してきている。

 しかし

 制御なんか全く出来なかった。
 尾二本の動きは、まるで自ら意志を持ったかのように暴れ、刺客だけでなくグラウンドの砂や障害物、霊障まで巻き込む。
 観客席から悲鳴が上がる。砂が舞い上がり、石片や霊具が飛び散る。

 「……やばい……!」
 自分の力を完全に制御できないことに、玄弥は焦る。
 尾の動きは止めどなく、敵味方問わず周囲を巻き込む暴力となった。

 尾の暴走は玄弥の意識に響き、視界は赤く滲む。
 しかし、マトリの声を聞いた瞬間、胸の奥で小さな光が灯る。
 その光に導かれるように、マトリが玄弥の背中に回り、抱きしめた。

 「大丈夫……私がいる……安心して……」
 小さく震える声と柔らかな体温が、暴走しそうな力を一瞬だけ鎮める。

 尾の力が少しずつ安定し、荒れ狂う旋回も収まっていく。
 地面の破壊はまだ残るが、玄弥自身の制御は戻り、深呼吸と共に力を整えることができた。

 刺客は圧倒され、力尽きて倒れる。
 玄弥はまだ尾を完全に引っ込められないが、暴走は抑えられた。

 「……ありがとう……マトリ……」
 胸に熱が残る中、玄弥はかすかに微笑む。
 マトリは肩越しに頷き、安心した表情で抱き続ける。

 グラウンドは静まり帰っている。
 玄弥は勝利を手にしたが、同時に力と代償の現実を思い知った。

 大会の決勝――勝利の代償と、仲間の支えが、戦場に刻まれる。
 それは、これからの戦いの覚悟を、玄弥の胸に深く刻み込む出来事だった。

――

決勝戦の喧騒が去ったグラウンドには、まだ破壊の名残が色濃く残っていた。
 抉れた地面、焦げた砂、霊力の余波で歪んだ空気。

 西園寺玄弥は、保健室のベッドに横になりながら天井を見つめていた。
 胸の奥が焼けるように熱く、血管を霊力が流れるたびに疼く。
 尾を二本解放した代償は、想像以上に重かった。

 「……やっぱり、無茶した」

 呟いた瞬間、椅子に座っていたマトリが顔を上げた。
 「無茶……した、って……分かってたなら……」
 言葉は責める調子ではなく、ただ静かな心配だった。

 「でも、出さなきゃ……やられてた」
 玄弥は視線を逸らす。

 刺客の異様な強さ。
 人の身体を器にしながら、冷たい妖気で満ちた存在を思い出していた。

 ――

 この学園は、日本に存在する陰陽師一族の子弟が集められた、対妖怪専門機関。
 外の世界では知られていないが、裏側では長い戦争が続いている。

 妖怪の王を頂点とする魔王軍。
 人の世を侵食し、霊的支配を狙う異形の勢力。

 その直下に控えるのが――
 4大天魔と呼ばれる、妖怪王直属の最高幹部。

 酒呑童子。
 四尺坊。
 その他、名を秘した二柱。

 そして彼らに仕える無数の眷属と刺客たち。

 今回、学園に紛れ込んだ存在もまた、その一端だった。

 玄弥の血筋は、ただの陰陽師ではない。
 遥か昔、妖怪の王を封印した陰陽師の末裔。
 だが、呪いにより衰退していく。
 ――血脈に封印を刻み、力を凝固させる呪詛。

 元々妖怪の王と九尾には因縁があった。
 九尾とは遥か昔に恐れられていた妖怪である。

 一本の尾でさえ、常人離れした霊力。
 二本出せば、戦況を覆す力。
 では9本だったら?
 ‥使い方次第では世界は滅ぶ。

――
 時間は戻りグラウンド
 「……怖かった?」

 マトリが、そっと尋ねた。

 玄弥は少しだけ黙ってから、頷いた。
 「自分が、何を壊すか分からなかった」

 尾二本を解放した瞬間、視界が赤に染まり、
周囲の声が遠ざかり、ただ“破壊すべき存在”だけが見えていた。

 ――もし、マトリの声がなかったら。

 あのまま暴れていた。
 仲間さえ巻き込んでいたかもしれない。

 マトリは指先をぎゅっと握りしめ、言った。
 「でも……戻ってきた」

 玄弥を見つめる瞳には、逃げない意志があった。

 「玄弥くんは……戻ってきた。
 だから……大丈夫」

 窓の外では、ムツミが風を弄びながら空を見上げている。
 「なんかさぁ……嫌な予感するんだよねー」
 教師に聞こえないよう小声で呟く。

 魔王軍の動き。
 四天王の刺客。
 学園への侵入。

 偶然ではない。

 ――狙いは、明らかに“玄弥”だ。

 保健室に戻ったムツミが、軽い調子で言った。
 「ま、でもさ。生きてたんだからいいじゃん」

 玄弥は小さく笑った。

 だが胸の奥の疼きは消えない。
 尾を出すたびに、自分は人から遠ざかる。

 それでも――

 「……次は、もっと制御できるようになる」

 その言葉に、マトリは静かに頷いた。

 仲間がいる。
 守りたい日常がある。

 そして、背後には確実に迫る――
 魔王軍という巨大な影。

 戦争は、もう始まっている。
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