霊力ゼロの陰陽師見習い

テラトンパンチ

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復帰、陰陽師見習いの成長

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玄弥は久しぶりに学園の教室に足を踏み入れた。
 休んでいた理由は怪我だけ。霊力回復や九尾の存在など、誰も知らない。

 クラスメイトたちはちらりと視線を向けるだけだ。
 「……怪我はもう大丈夫なのか?」
 口に出す者もいれば、ただ興味深そうに見つめる者もいる。
 玄弥は無言で自分の席に向かい、腰を下ろした。

 黒板には今日の課題が書かれている。
 ――基礎霊術:自分の霊を顕現せよ

 九尾はまだ霊力不足で顕現できない。
 だが、玄弥の手元で小さな狐の霊が形を取り始める。
 前回は霊力が枯渇していて、まともに形を作れなかった課題だ。

 「……行けるか」
 深呼吸し、霊力を手先に集中させる。
 小さな狐の霊は、光の粒子のように宙に浮かび、指示に従ってちょこちょこと動く。

 最初はぐらつき、形も崩れやすかったが、霊力が戻ったことで以前より安定して浮かぶようになる。
 手を動かすたびに、狐は体の向きを変え、周囲を警戒するかのように軽やかに跳ね回った。

 教室の空気は静まり返る。
 クラスメイトたちは何が起こっているのか分からず、ただ玄弥の手元に目を奪われる。
 「……すごい……前はできなかったのに」
 小さな囁きが聞こえるが、誰も直接話しかける者はいない。

 先生が近づき、狐の霊を観察する。
 「西園寺、形は安定しているな。以前とは雲泥の差だ」
 玄弥は軽くうなずく。
 「はい。今回は霊力も回復しているので、比較的スムーズに形にできました」

 授業が進むにつれ、玄弥は基礎霊術の課題を次々にこなしていく。
 小さな狐の霊は指示に従い、軽やかに動く。前回は手も足も出なかった課題を、今は難なく操作できる。

 九尾は背中で静かに震え、内心で感嘆する。
 「……ふむ、これなら次の段階も楽しみだ」
 声は出さないが、背中の感覚から玄弥の成長を確かに感じ取っていた。

 授業が終わると、クラスメイトたちは小さくざわめき、視線を向けるだけだった。

昼休みのチャイムが鳴ると、教室の空気が少し緩んだ。
 玄弥は自分の弁当を開き、静かに箸を持つ。
 休んでいたのは怪我のため。クラスメイトたちはそれしか知らず、視線を向けるだけだ。

 「……玄弥くん」
 声をかけられ、振り向くとマトリが少し緊張した面持ちで立っていた。
 その隣には、ドライな表情のミユキ。

 「……昼、ここでいい?」
 ミユキの言い方は淡々としている。圧迫感はないが、存在感は強い。

 「もちろん。どうぞ」
 玄弥は軽く笑みを浮かべ、弁当を手前に寄せる。

 マトリは小さな声でつぶやくように言った。
 「……久しぶりだね、玄弥くん」
 目を伏せ気味に、箸で少しだけ弁当をつつく。

 ミユキは淡々と口を開く。
 「昼ご飯くらい、普通に食べたいだけね」
 言葉はそっけないが、昼休みの時間を邪魔するものではない。

 玄弥は軽くうなずき、箸を動かす。
 「そうだね。久しぶりにみんなと話すのも悪くない」

 最初は少しぎこちない沈黙が続く。
 マトリは時折、箸先を眺めながら小さな声で質問する。
 「……この間、休んでた間、どうしてたの?」

 玄弥は肩をすくめ、少し微笑む。
 「怪我で休んでただけさ」
 あまり深くは話さない。

 ミユキは黙って食事を進め、時折玄弥の様子をチラリと見る。
 「……相変わらず、あまり喋らないタイプね」
 ドライだが、距離感は適切で、圧迫感はない。

 マトリは小さな笑みを浮かべ、少しずつ会話に参加する。
 「玄弥くん……戻ってきてくれて嬉しい」
 玄弥は静かに応える。
 「ありがとう、マトリ」

 食堂はざわついているが、この三人の空間だけは、少し落ち着いた時間が流れていた。

 昼休みが終わると、クラスメイトたちはざわめきながら席に戻る。
 玄弥は箸を置き、二人を見て心の中で小さく呟いた。
 「……こういう時間も、大事だな」

食堂の片隅で、一人の男子生徒が弁当を広げる手を止めた。

 視線の先には、玄弥がマトリとミユキと一緒に昼食をとっている光景。

 マトリは少し緊張した様子で、箸先を揺らしている。
 それに気づき、玄弥は自然に笑みを返す。
 ミユキはドライな態度を崩さず、淡々と会話に参加している。

 男子生徒の胸の奥がざわついた。
 「なんで、俺じゃなくてあの二人と……」
 小さく呟いた言葉に、焦りと嫉妬が混ざる。

 弁当を口に運ぶ手は止まったまま。味はまったく感じられず、目はどうしても三人に向いてしまう。

 「ずるい……」
 小さく漏れる声。純粋な嫉妬だけがそこにある。怒りや敵意はまだ芽生えていないが、心の奥底で、自分もあの輪に入りたいという欲求が静かに燃えていた。

 男子生徒は深いため息をつき、箸を置く。
 「……今は我慢するしかない……」
 切ない気持ちを押し殺すように言葉を吐く。

 しかし、その胸のざわめきは消えることなく、静かに膨らんでいく。
 この小さな嫉妬が、やがて行動へと変わる日が来る――本人はまだ知らないまま。
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