【完結】契約結婚だったはずが、冷徹公爵が私を手放してくれません!

22時完結

文字の大きさ
2 / 10

冷徹公爵の素顔

しおりを挟む

ヴィンセント・クラウス――冷徹公爵と呼ばれる彼の本当の姿を知る者は、王都にはほとんどいなかった。常に冷静沈着で、感情を表に出さず、利害関係に基づいて行動する男。それが彼の評判だった。しかし、リリアが少しずつ彼の生活に入り込む中で、彼の隠された一面が少しずつ姿を現そうとしていた。

公爵としての日常

ヴィンセントは、早朝から深夜まで仕事に追われる生活を送っていた。公爵家の領地は広大で、そこには何千もの人々が暮らしている。その統治は一筋縄ではいかず、彼の一日はほとんど執務室での仕事に費やされていた。

「次の件はこれです、公爵様」
秘書のエレオノーラが資料を持ち込むと、ヴィンセントは目を通しながら的確な指示を出す。

「領地北部の灌漑工事について、現場監督を一度ここに呼び寄せて詳しい報告を受けるべきだ。それから、この新しい貿易契約に関しては税率の調整が必要だな……」

淡々と仕事をこなす彼の姿に、エレオノーラは密かに感嘆していた。ヴィンセントの冷徹な判断力と行動力は、領民たちの生活を豊かにしてきた。だが、その一方で彼は人間らしい感情を押し殺し、ただ効率的な統治者として生きているように見える。

「公爵様、少しお休みになられたほうが……」
そう進言するエレオノーラに対し、ヴィンセントは首を横に振るだけだった。

「無駄な時間を使うつもりはない。必要なことが山積みだ」

そう答える彼の声には、どこか寂しさを感じさせるものがあった。エレオノーラはそれ以上何も言わず、部屋を後にした。

リリアの存在

そんなヴィンセントの生活に、小さな変化をもたらしたのがリリアだった。彼女は結婚後も、彼に過剰な干渉をすることなく、自分の役割を全うしようと努めていた。しかし、庭の手入れを始めたことで、彼女の姿が彼の目に入るようになったのは事実だった。

ある日、仕事の合間にヴィンセントは書類を手にしたまま窓辺に立った。ふと庭を見下ろすと、そこにはリリアの姿があった。花に水をやりながら、使用人たちに指示を出している彼女の顔は、汗に濡れていたが、どこか楽しそうに見えた。

「……公爵夫人がここまで動くとは、意外だな」

彼は無意識にそう呟いた。そして、次の瞬間、自分が彼女を見つめていたことに気づき、眉をひそめた。
「くだらないことに気を取られている暇はない」

そう自分に言い聞かせ、再び執務室に戻った。

公爵のもう一つの顔

リリアが庭を整える日々を送る中、ヴィンセントの知られざる一面が徐々に浮かび上がり始めた。

その日、リリアは花の手入れを終えた後、使用人からヴィンセントの書斎へ届け物を頼まれた。貴重な書類が入った箱を持ち、緊張しながら彼の執務室の扉を叩いた。

「入れ」
短い返事が返ってきた。

リリアが部屋に入ると、ヴィンセントは書類に目を通しながら座っていた。
「お届け物です、公爵様」
リリアが箱を机の上に置くと、ヴィンセントは手を止めて顔を上げた。

「わざわざ君が届ける必要はなかったのでは?」
冷たい言葉だったが、その声には疲労の色が滲んでいた。

「いえ、たまたま私が手が空いていましたので。それよりも、公爵様は少しお休みになられたほうがよろしいのではありませんか?」
リリアが恐る恐る言うと、ヴィンセントは眉をひそめた。

「君もエレオノーラのようなことを言うのか」

しかし、その言葉の裏に隠された微かな苦笑を、リリアは見逃さなかった。

「少しだけでも外の空気を吸われるのは、悪くないと思います。実は庭に新しい花が咲いたんです。見にいらっしゃいませんか?」

リリアの提案に、ヴィンセントは一瞬考えるような素振りを見せたが、やがて書類を脇に置き、椅子から立ち上がった。
「そこまで言うなら、少しだけ見に行ってやる」

初めての穏やかな時間

ヴィンセントが庭を訪れたのは、久しぶりのことだった。リリアが案内した花壇には、色とりどりの花が咲き誇り、穏やかな香りが漂っていた。

「この庭が、ここまで変わるとは思わなかった」
ヴィンセントは低い声でそう言いながら、手を伸ばして一輪の花に触れた。

「ありがとうございます。公爵様にそう言っていただけるなんて嬉しいです」
リリアが微笑むと、ヴィンセントは彼女の顔を一瞥した。その笑顔に、彼は一瞬心が揺れるのを感じたが、すぐに目をそらした。

「……この程度で満足するな。庭の管理はこれからが本番だ」
そう告げる彼の声には、少しだけ柔らかさがあった。

その後、ヴィンセントは庭を一周し、短いながらもリリアと会話を交わした。彼にとっては些細な時間だったが、リリアにとっては大きな一歩だった。

変わり始めた二人の関係

それ以来、ヴィンセントはリリアのことを意識するようになった。彼女の存在が、彼の冷徹な日常に小さな暖かさをもたらしつつあった。しかし、彼はそれを認めることを拒み続けていた。

一方でリリアも、彼の言葉の端々に垣間見える優しさに気づき始めていた。冷徹な仮面の奥に隠された彼の素顔――それを知りたいという思いが、リリアの胸に芽生え始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

冷酷な旦那様が記憶喪失になったら溺愛モードに入りましたが、愛される覚えはありません!

香月文香
恋愛
家族から虐げられていた男爵令嬢のリゼル・マギナは、ある事情によりグレン・コーネスト伯爵のもとへと嫁入りすることになる。 しかし初夜当日、グレンから『お前を愛することはない』と宣言され、リゼルは放置されることに。 愛はないものの穏やかに過ごしていたある日、グレンは事故によって記憶を失ってしまう。 すると冷たかったはずのグレンはリゼルを溺愛し始めて――!? けれどもリゼルは知っている。自分が愛されるのは、ただ彼が記憶を失っているからだと。 記憶が戻れば、リゼルが愛されることなどないのだと。 (――それでも、私は) これは、失われた記憶を取り戻すまでの物語。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

会えば喧嘩ばかりの婚約者と腹黒王子の中身が入れ替わったら、なぜか二人からアプローチされるようになりました

黒木メイ
恋愛
伯爵令嬢ソフィアと第一王子の護衛隊長であるレオンの婚約は一年を迎えるが、会えば口喧嘩、会わなければ音信不通というすれ違いの日々。約束を破り続けるレオンと両親からの『式だけでも早く挙げろ』という圧に我慢の限界を迎えたソフィアは、ついに彼の職場である王城へと乗り込む。 激しい言い争いを始めた二人の前に現れたのは、レオンの直属の上司であり、優雅な仮面の下に腹黒な本性を隠す第一王子クリスティアーノ。 王子は二人が起こした騒動への『罰』として、王家秘伝の秘薬をレオンに服用させる。その結果――なんとレオンとクリスティアーノの中身が入れ替わってしまった!全ては王子の計画通り。 元に戻るのは八日後。その間、ソフィアはこの秘密がバレないよう、文字通り命がけで奔走することとなる。 期限付きの入れ替わり生活は、不器用な婚約者との関係をどう変えるのか? そして、この騒動を引き起こした腹黒王子の真の目的とは? ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※他サイトからの転載。

25番目の花嫁 ~妹の身代わりで嫁いだら、冷徹公爵が私を溺愛し始めました~

朝日みらい
恋愛
王都の春。 貴族令嬢リリアーナ・エインズワースは、第一王子ライオネル殿下との婚約を一方的に破棄された。 涙を見せないことが、彼女に残された唯一の誇りだった。だが運命は、彼女を思いがけない方向へ導く。 「氷の公爵」と呼ばれる孤高の男、ヴァレンティーヌ公爵。 二十四人の花嫁候補を断り続けた彼の元へ、「二十五番目の花嫁」として赴いたリリアーナ。 家の体裁のための結婚――そう割り切っていたはずなのに、氷のような瞳の奥に垣間見えた孤独が、彼女の心に小さな炎を灯してゆく。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

処理中です...