63 / 140
第三章.寂寥のお絵かき
10.似顔絵
しおりを挟む
「むむっ中々に難しいわね……」
「まだぁ?」
レティシャが感情を爆発させ号泣してからさらに三日が経過ている……既に期日まで一週間を切っており、そろそろ自分達の仲間が死んだ事に対して狩人たちの目を誤魔化す事も難しく、これ以上は奴らの罠が完成するばかりで何かあった時に凌ぎきれない可能性が高い。
「ちょっと待ってなさい、この天才である私があなたを目一杯可愛く描いてあげるから!」
「ほんとぉ~?」
だが今も仲良くお互いに似顔絵を描きあっている彼女たちに『そろそろミーナを殺せ』などとは口が裂けても言えない……言いたくはない。さすがにこの状況ではカルマンもあまり言及はしたくはないようだ。
「この私が描くのよ? 当たり前じゃない!」
「そお? 期待してるわね?」
しかしこちらのそんな雰囲気を感じ取ってはいるのか、リーシャは時折不安気にこちらを覗き見ては何かを言いかけ目を逸らし、レティシャは威嚇するように偶にこちらを睨み付けてくる……これは相当に不味い。
「リーシャは……あなた意外と上手いのね」
「あ、あり……がと、う……?」
「……もっと胸を張りなさいよね!」
「は、い……」
ミーナの似顔絵を描きながらもこちらをチラチラと見てくる彼女たち……こちらが言及しなくとも物理的な期日が近付いている事もあり、やはり焦燥感があるのだろう。特にレティシャはミーナの境遇に同情し共感してしまっている……彼女には殺害は難しいかも知れない。
「私もうすぐ二人の似顔絵できるわよ?」
「は、早いわね? さすが私の友達といったところかしら?」
「すご、い……で……す、ね……」
どうしたものか、やはり意図的に距離を置いている俺とカルマンの二人で殺害するしかないのかも知れんが……やはりミーナが完全な魔物になってしまったり、狩人の罠が発動した時のために戦力は多い方が良いのだが……僕だって歳下の彼女に同情するし、仲良くなれたのに殺すなんて無理だもんね、仕方ないよね……。
「というかもう出来たわ」
「どれどれ、見せて頂戴?」
ミーナがこちら側へとキャンパスを裏返して見せてくれたリーシャとレティシャの似顔絵は相変わらず色が赤系統のみではあったが二人とも中々見せない笑顔であり、とても美しく綺麗だった……やはりミーナの絵の才能は素晴らしいものなのだろう。
「やっぱりあなたたちは泣いていたり、怒っていたり、オドオドするよりも笑顔の方が可愛いわ」
「あ、当たり前じゃない! 私は絶世の美女だもの!」
「ぅ……そ、そう……で……すか、ね……?」
……不味い、俺も彼女たちの微笑ましく仲睦まじいこの光景を眺めていて本当にミーナを殺害できるのか自信が段々と持てなくなってきている。早めに事を済ました方が良い理由が増えてしまった。
「……クレル、ちょっといいか」
「……なんだ」
彼女たちを眺めながら頭を悩ませていると外から帰ってきたカルマンが神妙な面持ちでこちらに声を掛けてくる……事態が大きく動いたか。
「仮面は付けていないが狩人と思わしき人物がこの近辺を彷徨いている」
「……数は?」
「少なくとも四人は居そうだ」
「そうか……」
やはり狩人が来たか……派遣されて来たということは罠が大体張り終えた後と見て良いだろう、非常にこの先ミーナを殺害してから帰還するのが難しくなった。
「どうする? 俺はさっさと殺して逃げた方が良いと思うが?」
「……どうせ罠は完成しているんだ、もう少し待とうじゃないか」
もう少し……もう少しだけ彼女たちに時間を与えたい。このどうしようもない現実から一時目を逸らし、魔法使いとしてのやるせない義務から解放されて、普通の女の子として仲良く遊ぶ時間を彼女たちに。
「……別に構わないが、金は貰うぞ」
「……それよりも似顔絵を見たらどうだ?」
まぁどうせそう来るだろうなとは思っていたさ……コイツだけだなブレないのは。金さえ貰えればそれで良いのだろう……とりあえず意識を逸らすために自然な流れで話題を変える。
「ふむ……やはり絵を描いた方が良いな」
「だろ?」
「無駄に生かす事で俺らの命が危険に曝されるんだ、相応の対価は貰わないとな」
「……」
……そうだな、俺やリーシャとレティシャはミーナに同情してしまっているために彼女が長く生き、これまでの人生の穴を埋めるように長く友達で居てやる事で彼女の笑顔という対価を貰ってはいるが……この良くも悪くも魔法使いらしいカルマンにはそんなものに価値は無いのだろう。
「……にしても笑顔のアイツら可愛いな」
「ふっ……そうだな」
「今笑ったな……?」
二人とも普段はあまり笑わないからな、リーシャは常にビクビクオドオドしており相手の顔色を窺いながら隠れるし、レティシャは弱い自分を隠すために常に見栄を張りながら高圧的になるか号泣するかだしな……カルマンが思わず感嘆の言葉を漏らすのも仕方がないと言える。
「その笑顔が対価じゃ……ダメか?」
「……」
ミーナの描いた絵を物色していたカルマンに改めて問い掛けてみる……先ほど彼は『可愛い』と、彼女たちの笑顔に『価値』を見出したのだ。それを無視する事は出来ないだろう。
「……今回だけだ、次からは手数料が発生する」
「ふっ……了解した」
ムスッとした表情のカルマンが隣に乱暴に座り込む……そのまま言葉なく、珍しく少し口の端が持ち上がっている彼と一緒に彼女たちの様子を見守るのだった。
▼▼▼▼▼▼▼
「まだぁ?」
レティシャが感情を爆発させ号泣してからさらに三日が経過ている……既に期日まで一週間を切っており、そろそろ自分達の仲間が死んだ事に対して狩人たちの目を誤魔化す事も難しく、これ以上は奴らの罠が完成するばかりで何かあった時に凌ぎきれない可能性が高い。
「ちょっと待ってなさい、この天才である私があなたを目一杯可愛く描いてあげるから!」
「ほんとぉ~?」
だが今も仲良くお互いに似顔絵を描きあっている彼女たちに『そろそろミーナを殺せ』などとは口が裂けても言えない……言いたくはない。さすがにこの状況ではカルマンもあまり言及はしたくはないようだ。
「この私が描くのよ? 当たり前じゃない!」
「そお? 期待してるわね?」
しかしこちらのそんな雰囲気を感じ取ってはいるのか、リーシャは時折不安気にこちらを覗き見ては何かを言いかけ目を逸らし、レティシャは威嚇するように偶にこちらを睨み付けてくる……これは相当に不味い。
「リーシャは……あなた意外と上手いのね」
「あ、あり……がと、う……?」
「……もっと胸を張りなさいよね!」
「は、い……」
ミーナの似顔絵を描きながらもこちらをチラチラと見てくる彼女たち……こちらが言及しなくとも物理的な期日が近付いている事もあり、やはり焦燥感があるのだろう。特にレティシャはミーナの境遇に同情し共感してしまっている……彼女には殺害は難しいかも知れない。
「私もうすぐ二人の似顔絵できるわよ?」
「は、早いわね? さすが私の友達といったところかしら?」
「すご、い……で……す、ね……」
どうしたものか、やはり意図的に距離を置いている俺とカルマンの二人で殺害するしかないのかも知れんが……やはりミーナが完全な魔物になってしまったり、狩人の罠が発動した時のために戦力は多い方が良いのだが……僕だって歳下の彼女に同情するし、仲良くなれたのに殺すなんて無理だもんね、仕方ないよね……。
「というかもう出来たわ」
「どれどれ、見せて頂戴?」
ミーナがこちら側へとキャンパスを裏返して見せてくれたリーシャとレティシャの似顔絵は相変わらず色が赤系統のみではあったが二人とも中々見せない笑顔であり、とても美しく綺麗だった……やはりミーナの絵の才能は素晴らしいものなのだろう。
「やっぱりあなたたちは泣いていたり、怒っていたり、オドオドするよりも笑顔の方が可愛いわ」
「あ、当たり前じゃない! 私は絶世の美女だもの!」
「ぅ……そ、そう……で……すか、ね……?」
……不味い、俺も彼女たちの微笑ましく仲睦まじいこの光景を眺めていて本当にミーナを殺害できるのか自信が段々と持てなくなってきている。早めに事を済ました方が良い理由が増えてしまった。
「……クレル、ちょっといいか」
「……なんだ」
彼女たちを眺めながら頭を悩ませていると外から帰ってきたカルマンが神妙な面持ちでこちらに声を掛けてくる……事態が大きく動いたか。
「仮面は付けていないが狩人と思わしき人物がこの近辺を彷徨いている」
「……数は?」
「少なくとも四人は居そうだ」
「そうか……」
やはり狩人が来たか……派遣されて来たということは罠が大体張り終えた後と見て良いだろう、非常にこの先ミーナを殺害してから帰還するのが難しくなった。
「どうする? 俺はさっさと殺して逃げた方が良いと思うが?」
「……どうせ罠は完成しているんだ、もう少し待とうじゃないか」
もう少し……もう少しだけ彼女たちに時間を与えたい。このどうしようもない現実から一時目を逸らし、魔法使いとしてのやるせない義務から解放されて、普通の女の子として仲良く遊ぶ時間を彼女たちに。
「……別に構わないが、金は貰うぞ」
「……それよりも似顔絵を見たらどうだ?」
まぁどうせそう来るだろうなとは思っていたさ……コイツだけだなブレないのは。金さえ貰えればそれで良いのだろう……とりあえず意識を逸らすために自然な流れで話題を変える。
「ふむ……やはり絵を描いた方が良いな」
「だろ?」
「無駄に生かす事で俺らの命が危険に曝されるんだ、相応の対価は貰わないとな」
「……」
……そうだな、俺やリーシャとレティシャはミーナに同情してしまっているために彼女が長く生き、これまでの人生の穴を埋めるように長く友達で居てやる事で彼女の笑顔という対価を貰ってはいるが……この良くも悪くも魔法使いらしいカルマンにはそんなものに価値は無いのだろう。
「……にしても笑顔のアイツら可愛いな」
「ふっ……そうだな」
「今笑ったな……?」
二人とも普段はあまり笑わないからな、リーシャは常にビクビクオドオドしており相手の顔色を窺いながら隠れるし、レティシャは弱い自分を隠すために常に見栄を張りながら高圧的になるか号泣するかだしな……カルマンが思わず感嘆の言葉を漏らすのも仕方がないと言える。
「その笑顔が対価じゃ……ダメか?」
「……」
ミーナの描いた絵を物色していたカルマンに改めて問い掛けてみる……先ほど彼は『可愛い』と、彼女たちの笑顔に『価値』を見出したのだ。それを無視する事は出来ないだろう。
「……今回だけだ、次からは手数料が発生する」
「ふっ……了解した」
ムスッとした表情のカルマンが隣に乱暴に座り込む……そのまま言葉なく、珍しく少し口の端が持ち上がっている彼と一緒に彼女たちの様子を見守るのだった。
▼▼▼▼▼▼▼
0
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する
青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。
両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。
母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。
リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。
マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。
すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。
修道院で聖女様に覚醒して……
大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが
マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない
完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく
今回も短編です
誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ワケあり公子は諦めない
豊口楽々亭
ファンタジー
精霊の加護により平和が守られている、エスメラルダ公国。
この国の公爵家の娘、ローゼリンド公女がある日行方不明になった。
大公子であるヘリオスとの婚約式を控えた妹のために、双子で瓜二つの兄である公子ジークヴァルトが身代わりになることに!?
妹になり代わったまま、幼馴染みのフロレンスと過ごすうち、彼女に惹かれていくジークヴァルト。
そんなある日、ローゼリンドが亡骸となって発見されて……───最愛の妹の死から始まる、死に戻りの物語!!
※なろう、カクヨムでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる