サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第三章.寂寥のお絵かき

11.お忍び

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「リーシャ、今日は外で遊ぼう」

「外……で、すか……?」

 期日までもう三日とない今日、朝早く起きて来たリーシャに外出する事を告げる……帝都中にばら撒いた誤魔化しは最早看破され通用せず、ジリジリと包囲されつつある。むしろなぜここまで狩人達の動きが遅かったのかが疑問ではあるが、罠と考えるしかあるまい。

「あぁそうだ、伯爵からも許可は得ている」

「そ、う……で……す、か……」

 リーシャが目に見えて落ち込んでしまう。瞳に薄く涙の膜を張り、両手の指を弄りながら下に俯きながら小さく暗い声で返信をする……彼女も気付いたのだろう、最早これ以上は全員の命を危険に曝すだけだと……彼女を、ミーナを殺すのだと。

「……すまないな」

「い、え……クレ、ル君……は悪、く……あり、ま、せ……ん……」

「そうか……」

 右手で自らの胸をトントンと軽く叩きながら深呼吸をしてから涙を拭い、眉尻を下げながらこちらを見上げてくるリーシャに胸が締め付けられる……彼女やレティシャに殺させる訳にはいかないな。

「おはよう……って何してるのよ?」

「レティシャか、今日は外出して遊ぼう」

「クレルが……? ふーん?」

 腕を組みながらわざわざ台の上に登ってこちらを見下ろしながら怪訝な表情をするレティシャに対してなんとも言えない気持ちを抱く……そろそろ慣れてくれると良いのだが、未だに彼女は俺と話す時は高圧的に見下した体を取らないとダメらしい。

「あら、皆もう起きているのね」

「今日は外に遊びに行くんですって」

「……外に? 私は庭の隅から出られないのだけれど?」

 ミーナが現れた途端に色めき立つカルマンの肩を掴み引き寄せるが片手で払われ、ピエロらしい笑顔を心掛けながら彼はミーナへと近付く……また余計な事を言わないだろうかというこちらの心配など努めて無視してそのままミーナの近くに跪く。

「えぇ、その通りですお嬢様……ですからお忍びでこっそり出ましょうね?」

「……あなた、結構悪いピエロさんなのね?」

「道化師ですから、面白可笑しくするのがお仕事です」

 その場でカルマンは供物であるお金を対価として無詠唱で魔法を行使し、ミーナの全体が隠れるくらいのブーケを創り出して被せる……首元で留め具を付けてからそっと腕に乗せるように抱き寄せるその様はとてもではないが守銭奴には見えない。

「……悪い魔法使いさんに攫われてしまうのかしら?」

「手品が得意なピエロが楽しい場所に案内するだけですよ」

 こちらに対して目線で合図を送りながらあくまでも魔法を手品と、魔法使いではなくピエロだと言い張る彼に俺も付き合うべきだろう……供物である羊毛を対価として無詠唱で魔法を行使してマフラーを創り出し、顔の半分まで隠れるように巻いてあげる。

「寒さがキツイ季節だ、必要だろう」

「準備が整いましたね、さぁ参りましょうか」

「……ふふ、楽しみね?」

 ……聡い子だ、こちらの対応に自分の運命を悟ったのだろう……目尻に涙を溜めながらもしっかりとカルマンの肩を掴み既に泣き始めているリーシャとレティシャに微笑みかける。

「さぁ、お友達も一緒にお外に遊びに行きましょう?」

「うっ、ひっぐ……し、仕方ないわね!」

「は、はい……ぐすっ」

 こっそりと別邸から出て裏庭の橋の方にある柵の緩い所を外して敷地外へと躍り出る……ここ数日間でカルマンと歩き回り、帝都でもこの近辺ならば地理がある。そのまま路地裏を経由して目立たないように、人の目になるだけ触れないようにして入街管理局へと辿り着く。

「……またお前たちか、今度は子どもが増えているようだが──」

「──これで良いか?」

「……」

 管理局員がまた何かを言い募る前に目の前に高額紙幣の束を放り投げ、黙った彼を無視して帝都から脱出する……そのまま朝の冷えた空気を吸い込みながら目的地を目指す。

「ねぇ、ミーナは私たちと遊んで楽しかった?」

「もちろんよ、あなた達が居てくれて良かったわ」

 涙を流しながらいつもの高圧的な態度も鳴りをひそめ、半ば縋るようにしてレティシャがミーナに対してこれまで楽しかったかを聞く様はまるでこれから永遠の別れの様で切ない思いを抱かせる。

「似、顔……絵……上手、く……出来、ま……せ、んで……した……」

「大丈夫よ、上手く描けてたわ」

 終ぞ上手くミーナの似顔絵を描けなかったと後悔するように涙を流し、懺悔するかの様な面持ちのリーシャがくしゃくしゃになった絵を大事に胸に抱える仕草に辛くなる。

「私は平気なのにあなた達は辛そうね?」

「だ、だって……!」

「す、すい……ませ、ん……」

 本当になぜだろうな……これから殺される側ではなく、殺す側がボロボロと涙を流し続けている……これではどっちが可哀想なのかわからないではないか。

「いいじゃないですか、お嬢様は彼女たちの似顔絵を描けたのでしょう?」

「そうよ?」

「ふふ、でしたらあなたの唯一であり最高の『価値』を以て贈り物が出来たではないですか」

「──」

 ……本当にカルマンはどこまでもブレないな、普通ここで唯一の価値とまでは言い切らないとは思うが……彼女たちの表情を見るに問題ないどころか救われたようだ。

「そうね……私はお友達にとても大きな『価値』を残せたのね」

「えぇそうですとも、彼女たちも『対価』としてあなたに最高の時間をくれたでしょう?」

「えぇそうね、私のお友達は最高の『価値』を持っているわ」

 最早リーシャとレティシャからはすすり泣く声しか聞こえない。俺に、僕に出来ることは何もないけれど……せめて楽に、誰にも邪魔されず彼女たちの最後の時間を守り通そうと誓う。

「ほら着きましたよ、ここです」

「……綺麗な所ね?」

 目的地であるこの場所は帝都から少し離れた所にありながら魔力残滓が濃ゆく残り人の出入りが少ない森を抜けた先にある湖で、魔力を纏うその水は常にその色の濃淡を変化させる。

「さて、邪魔者である道化師は退散しますので後はご自由に……」

「……ありがとう」

「か、感謝するわ……」

「あ、り……がと、う……ご、ざい、ま……す……」

 カルマンから目配せを貰い、頭を下げながらお礼を言う彼女たちを背後に森へと戻る……ある程度進み、丁度真ん中辺りにある広場へと躍り出る。

「……出てこい無粋な狼共め」

「……」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……四人か」

 泣いて、感情の波が乱れていた彼女たちは気付いてはいなかっただろうが先ほどからこちらの後をコソコソと付けやがって……絶対に許さん。

「アイツらの最期は邪魔させんし、余韻を潰す様な真似もさせん」

「うっわ、クレルの奴怒っていやがる……」

 絶対に彼女たちの別れを邪魔はさせないしミーナを殺して心の整理が付いていない彼女たちを殺させるような事もさせない……そんなものは絶対に僕が許さない!

「ガナン人風情が……友情ごっこか」

「魔物同士惹かれ合うのだろう? 人間様には理解できんな」

「ごちゃごちゃ五月蝿いんだよ」

「あ?」

 人間かそうでないかなどどうでもいい……彼らにとっては重大な違いなのだろうがこちらにとっては心底興味が無い、無いが……そんな事で彼女たちの想いを穢されるのは我慢ならない。

「これから駆除する虫と語るな、俺たちの任務は──」

「──いいからかかってこい、犬」

「……殺す」

 無粋な犬共が武器を抜いたのを確認しながら供物を握り締め、魔法を発動する。

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