69 / 140
第三章.寂寥のお絵かき
エピローグ
しおりを挟む
「うっ……ひっぐ……」
「……帰って来たか」
カルマンと何を話すでも無くただ静かに岩や木を背もたれに座り込み、リーシャとレティシャの帰りを待っていれば二人とも恥も外聞も無く涙を流しながら現れる。
「うぇ、ひっぐ……カルマンごめん、ミーナ殺しちゃった」
「……元々依頼だろうが、謝んな」
レティシャの思い詰めたような告白に胸が締め付けられる想いがする……こちらこそ彼女たちに殺させてしまって謝りたいくらいだ。俺が優柔不断だったせいで……もう少し彼女たちに時間を、と欲張ったせいでギリギリになり、ミーナを殺すどころではなく狩人の相手をしなければならなくなった。
「クレ、ル君……わ、わた……し……わた、し……!」
「……大丈夫だ、リーシャ」
纏まらない胸の内を整理し切れずとにかく『わたし……わたし……』と連呼するリーシャを落ち着かせる……おそらくミーナを殺してしまった事とその間に俺とカルマンの二人が傷ついていたからビックリしてしまったのだろう。
「依頼は遂行できたんだ、帰ろう……」
「は、い……!」
泣き続けるリーシャとレティシャを慰めながら震える身体に鞭を打ち立ち上がり、カルマンと目を合わせて肩を竦める……とにかく激しく魔力を撒き散らしたのだ、ここら一帯の魔力濃度は一時的に急上昇しているはず……新たな狩人が派遣されてくる前に移動しなければならない。
「まったく世話の焼ける騎士様だねぇ……」
「うっさい……ばかぁ……!」
「いったぁ?!」
「なにをやってるんだ……」
レティシャを揶揄って頭を盛大に叩かれたカルマンに溜息を一つ零しながら四人連れだって寒空の下、ミーナの事を想いながら奈落の底へと帰還する。
▼▼▼▼▼▼▼
「帰ったぞ、クソジジイ」
「……今度こそ誰か欠けとるかと思っておったわ、意外とやるじゃねぇか! イヒ、イヒヒッ」
三日かけて奈落の底に帰り着き、受付にてとりあえずの報告を済ましてから書類一式を受け取り、弟子の特権で師匠を呼び付けて待つこと暫し……エントランスに現れた奴は開口一番にとんでもなく失礼な事を言いやがる……殴りたい。
「ん」
「……なんだ?」
いきなり無造作に片手を差し出されても分からないが……この師匠は度々こういった横着をするので面倒臭い。
「報告書に決まっとろう、受付に提出する前に見せんか出来の悪い弟子じゃなぁ……」
「こ、コイツ……!」
「く、クレ、ル君……!」
鼻から息を吐き出しながら眉尻を下げ、さも困ったと言わんばかりにこちらを小馬鹿にしやがる師匠にブチ切れ飛びかかろうとすれば珍しく慌てた様子のリーシャが腰に抱き着き自分の暴走を止めてくれる。
「す、すまん……取り乱した……」
「い、え……大丈、夫……で、す……」
冷静になりリーシャに振り返りつつ椅子に腰を落とせば、今さらながらに自分から身体に触れるような行いをした事を恥じたのか耳まで赤くしながら俯きなんでもないと装う……そっとしておいた方が良いな、うん。
「なんじゃ、リーシャはこんな事で──」
「──お望みの報告書だ! さっさと読めクソジジイ!」
せっかくそっとしてあげようとこちらが決意したのにも関わらず、空気を一切読まないこの老害は赤面するリーシャに言及しようとしやがるのでその顔面に向かって待ち時間の間に書いておいた報告書を叩き付けてやるが……いとも簡単にキャッチしやがる。
「……お前、あの『大樹』のセブルスにいつもこんな感じなの?」
「さ、さすが私と一緒に仕事をしただけはあるわ……!」
「……二人が何に対してショックを受けているのか知らんが、この枯れ木は痴呆老人だぞ」
まぁ確かに師匠は有名な大魔法使いだし、そこは俺も尊敬するところだ……でもノックもせず女性の部屋に入ったり、夕飯を食べた事を忘れたりする様を見続けていればこんな対応に自然となるものだ。
「誰がイケメン世界樹じゃ」
「言ってねぇよ、シロアリに喰われろ」
勝手に人の発言を改竄し捏造する師匠に呆れ果て、奴の寝室に本気でシロアリでも放つかと検討段階に入る。
「まぁいいわ……よく頑張ったな」
「……うるせぇ」
「イヒヒッ! では俺はもう行くでな」
優しい表情で、まるで父親の様にこちらの頭に掌を置く師匠にぶっきらぼうに返しながらその腕を払い除ける……そのまま去っていく奴を見送りながら鼻を鳴らす。
「ふーん、なるほどねぇ……?」
「……なんだ、カルマン」
「別に?」
こちらを意味深に見て声を発するカルマンを睨み付けながら問い掛ければ興味ないと言わんばかりにそっぽを向かれるが……リーシャとレティシャにそんな気遣いが出来るはずもなく、興味津々にこちらを眺めているのが腹立たしい。
「……まぁいい、邪魔者も居なくなったし始めるぞ」
「あぁ、そうだな」
「火、着けるわよ」
「で、は……せーの、で……」
真ん中のテーブルに乗せられたワンホールのケーキの上へと立てられた蝋燭へとレティシャが火を付け、リーシャが辿々しく音頭を取る。
「せー、の……」
「『誕生日おめでとう、ミーナ』」
盛大にとはいかないが、丁度今日が誕生日であったミーナを四人で慎ましやかに……けれども万感の想いを込めて祝福する。
▼▼▼▼▼▼▼
「……帰って来たか」
カルマンと何を話すでも無くただ静かに岩や木を背もたれに座り込み、リーシャとレティシャの帰りを待っていれば二人とも恥も外聞も無く涙を流しながら現れる。
「うぇ、ひっぐ……カルマンごめん、ミーナ殺しちゃった」
「……元々依頼だろうが、謝んな」
レティシャの思い詰めたような告白に胸が締め付けられる想いがする……こちらこそ彼女たちに殺させてしまって謝りたいくらいだ。俺が優柔不断だったせいで……もう少し彼女たちに時間を、と欲張ったせいでギリギリになり、ミーナを殺すどころではなく狩人の相手をしなければならなくなった。
「クレ、ル君……わ、わた……し……わた、し……!」
「……大丈夫だ、リーシャ」
纏まらない胸の内を整理し切れずとにかく『わたし……わたし……』と連呼するリーシャを落ち着かせる……おそらくミーナを殺してしまった事とその間に俺とカルマンの二人が傷ついていたからビックリしてしまったのだろう。
「依頼は遂行できたんだ、帰ろう……」
「は、い……!」
泣き続けるリーシャとレティシャを慰めながら震える身体に鞭を打ち立ち上がり、カルマンと目を合わせて肩を竦める……とにかく激しく魔力を撒き散らしたのだ、ここら一帯の魔力濃度は一時的に急上昇しているはず……新たな狩人が派遣されてくる前に移動しなければならない。
「まったく世話の焼ける騎士様だねぇ……」
「うっさい……ばかぁ……!」
「いったぁ?!」
「なにをやってるんだ……」
レティシャを揶揄って頭を盛大に叩かれたカルマンに溜息を一つ零しながら四人連れだって寒空の下、ミーナの事を想いながら奈落の底へと帰還する。
▼▼▼▼▼▼▼
「帰ったぞ、クソジジイ」
「……今度こそ誰か欠けとるかと思っておったわ、意外とやるじゃねぇか! イヒ、イヒヒッ」
三日かけて奈落の底に帰り着き、受付にてとりあえずの報告を済ましてから書類一式を受け取り、弟子の特権で師匠を呼び付けて待つこと暫し……エントランスに現れた奴は開口一番にとんでもなく失礼な事を言いやがる……殴りたい。
「ん」
「……なんだ?」
いきなり無造作に片手を差し出されても分からないが……この師匠は度々こういった横着をするので面倒臭い。
「報告書に決まっとろう、受付に提出する前に見せんか出来の悪い弟子じゃなぁ……」
「こ、コイツ……!」
「く、クレ、ル君……!」
鼻から息を吐き出しながら眉尻を下げ、さも困ったと言わんばかりにこちらを小馬鹿にしやがる師匠にブチ切れ飛びかかろうとすれば珍しく慌てた様子のリーシャが腰に抱き着き自分の暴走を止めてくれる。
「す、すまん……取り乱した……」
「い、え……大丈、夫……で、す……」
冷静になりリーシャに振り返りつつ椅子に腰を落とせば、今さらながらに自分から身体に触れるような行いをした事を恥じたのか耳まで赤くしながら俯きなんでもないと装う……そっとしておいた方が良いな、うん。
「なんじゃ、リーシャはこんな事で──」
「──お望みの報告書だ! さっさと読めクソジジイ!」
せっかくそっとしてあげようとこちらが決意したのにも関わらず、空気を一切読まないこの老害は赤面するリーシャに言及しようとしやがるのでその顔面に向かって待ち時間の間に書いておいた報告書を叩き付けてやるが……いとも簡単にキャッチしやがる。
「……お前、あの『大樹』のセブルスにいつもこんな感じなの?」
「さ、さすが私と一緒に仕事をしただけはあるわ……!」
「……二人が何に対してショックを受けているのか知らんが、この枯れ木は痴呆老人だぞ」
まぁ確かに師匠は有名な大魔法使いだし、そこは俺も尊敬するところだ……でもノックもせず女性の部屋に入ったり、夕飯を食べた事を忘れたりする様を見続けていればこんな対応に自然となるものだ。
「誰がイケメン世界樹じゃ」
「言ってねぇよ、シロアリに喰われろ」
勝手に人の発言を改竄し捏造する師匠に呆れ果て、奴の寝室に本気でシロアリでも放つかと検討段階に入る。
「まぁいいわ……よく頑張ったな」
「……うるせぇ」
「イヒヒッ! では俺はもう行くでな」
優しい表情で、まるで父親の様にこちらの頭に掌を置く師匠にぶっきらぼうに返しながらその腕を払い除ける……そのまま去っていく奴を見送りながら鼻を鳴らす。
「ふーん、なるほどねぇ……?」
「……なんだ、カルマン」
「別に?」
こちらを意味深に見て声を発するカルマンを睨み付けながら問い掛ければ興味ないと言わんばかりにそっぽを向かれるが……リーシャとレティシャにそんな気遣いが出来るはずもなく、興味津々にこちらを眺めているのが腹立たしい。
「……まぁいい、邪魔者も居なくなったし始めるぞ」
「あぁ、そうだな」
「火、着けるわよ」
「で、は……せーの、で……」
真ん中のテーブルに乗せられたワンホールのケーキの上へと立てられた蝋燭へとレティシャが火を付け、リーシャが辿々しく音頭を取る。
「せー、の……」
「『誕生日おめでとう、ミーナ』」
盛大にとはいかないが、丁度今日が誕生日であったミーナを四人で慎ましやかに……けれども万感の想いを込めて祝福する。
▼▼▼▼▼▼▼
0
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する
青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。
両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。
母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。
リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。
マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。
すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。
修道院で聖女様に覚醒して……
大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが
マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない
完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく
今回も短編です
誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ワケあり公子は諦めない
豊口楽々亭
ファンタジー
精霊の加護により平和が守られている、エスメラルダ公国。
この国の公爵家の娘、ローゼリンド公女がある日行方不明になった。
大公子であるヘリオスとの婚約式を控えた妹のために、双子で瓜二つの兄である公子ジークヴァルトが身代わりになることに!?
妹になり代わったまま、幼馴染みのフロレンスと過ごすうち、彼女に惹かれていくジークヴァルト。
そんなある日、ローゼリンドが亡骸となって発見されて……───最愛の妹の死から始まる、死に戻りの物語!!
※なろう、カクヨムでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる