サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第四章.救えない

5.擬似親子

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「ふんふん♪」

「……やけにご機嫌だな?」

 むっ! しまった、久しぶりにガイウス先輩と二人っきりになれたから浮かれてしまった……なんとか誤魔化さなければ俺は羞恥で死ぬだろう。

「……あれだ、これから潜入するだろ?」

「あぁ、そうだな」

「ガイウス先輩が父親、俺が娘だ」

 これだ! これしかない! 理不尽で信じられない事に俺の身長は140あるかないか程度しかない……いつもなら指摘されると怒るところだが、今はむしろ身長が低くて良かったと安堵する。……先ほどのシーラにおちょくられた時は本当に腹立たしかったが。

「いいのか? いつもなら怒るだろ?」

「親子設定が一番怪しまれないからな、仕事に私情は挟まんさ」

「……そうか」

 なんとか誤魔化せたか? 素直になれない俺も悪いが、鈍感なガイウス先輩の事だし大丈夫だろう……今さら士官学校時代から慕っていたなど、バレたくはない。怖い。

「立派になったな」

「あぅ……」

 そう言って俺の頭を撫でるガイウス先輩……この人はいつもそうだ、未だに人を子ども扱いして自然な動作でこちらの弱い部分に触れてくる……真性の誑しだ。

「あっ……すまんな、つい癖でな」

「いや……今は親子って設定だから構わない」

 ぐぬぬ、ガイウス先輩は昔から俺を女として見ない事が悔しい……が、役得だとも感じている自分が腹立たしい。……けど、今日はこれを免罪符にしよう、そのために班決めをしたのだから。……これは決して私情ではない、俺がガイウス先輩を好きじゃなかったとしても、これがベストな選択だったんだ、そうだ。

「む、むしろ抱っこしてくれても構わなにゃい、なひ、にゃひ……………………ない」

 噛んだ?! こ、このタイミングで噛むなよ! なんか俺だけ意識してるのが丸わかりじゃないか、ふざけるなよ?! あ~~~恥ずかしい!! 耳まで熱いじゃないか!!

「……その方が違和感なさそうだな」

「えっ、わっ! ちょっ?! おい?!」

 こちらが羞恥に悶えている間、呑気に考え込んでいたガイウス先輩が突然に俺の膝裏へと腕を通して担ぎ上げる……こちらの葛藤なんて知らないで平然とこういう事をする! 鈍いけど好き! ……じゃなくて、顔が近い!

「が、ガイウスしぇんぱい……か、顔が……」

 や、ヤバい! これはヤバいよぉ……決して整っているとは言えないけど、野性味溢れる逞しくも男らしい強面の顔が近くて……太い首と幅広の肩、筋骨隆々で硬い胸板から聞こえる気がする心音と力強く俺を支える腕が……全身でガイウス先輩を感じ取れてヤバいよぉ……。

「ふっ……お互いまだ独身なのに親子を演じるとはな」

「あっ……そ、そうだな! パパすごーい!」

「ハッハッハ、すごいだろー!」

 何をはしゃいでいるんだ俺は……今は大事な任務中で私情を挟むべき時ではないし、ガイウス先輩もそんなつもりは微塵も無いだろう……それにこれから敵地に潜入するんだ、気を引き締めろ! ……そっか、ガイウス先輩まだ独身なんだ。

「ぱ、パパー! お、お腹空いたー!」

 そうだ、俺の羞恥心などクソ喰らえだ……どうせガイウス先輩にこの想いは通じないのだから、精一杯に子どもを演じてやろうじゃないか。

「ハッハッハ、そうかそうか! ……顔が赤いぞ?」

「うるさい、こちとらいい歳した大人なんだよ」

「……そうだったな」

 ぐぅ……やっぱりガイウス先輩は俺を大人の女性として見ていないのか、クソッタレ!  もう、どうしようもないので、悔しくも安堵するという複雑な心境に重い蓋をして任務に集中する。

「パパー! あそこのお店から良い匂いがするよー?」

「じゃあ寄ってみるか!」

「やったー!」

 ……子どもの真似事をするのは結構辛いものがある。……なによりもガイウス先輩が微妙な目で見てくるのが本当に辛い。

「なに食べようかなー?」

 我慢しつつもガイウス先輩から抱っこされている幸福感を感じながら件の飲食店に入る……店の奥にバーになるであろうカウンター席の向こう側にマスターと、その背後に厨房へと続く道があり、手前の出入口側にはテーブル席が乱立しているありふれた間取り……一見して反社会的勢力の拠点だとは思えないな、当たり前だが。

「あん?」

「親子連れか」

 子どもらしい声を出しながら店内に入った俺たちに文字通りの先客が反応する……まぁ予想していたが彼らの内の7割強はガナン人だな、いつもなら申請されているのか確認してしょっぴくところだが今は潜入捜査中……我慢だな。……まぁ見た目的にはちゃんと腕章を付けているしな。

「ヴェロニカは何が食べたい?」

「んっーとね?」

 下唇に人指し指を当てながら小首を傾げる自分に悶えそうになるがそれも我慢だ……こちらを警戒しているのか、露骨ではないがさりげなく何人かが観察している。恐らく見知らぬレナリア人が入店して来たからだろう。

「メニューは……なんだこれは」

「……どうした?」

  開いたメニュー表を見てその内容に思わず素が出てしまう……いかんな、ちゃんと演技しなければバレてしまう。しかしながらこれは仕方がないだろう……なんだキュウリのサンドイッチとか、うなぎゼリーパイとか不味そうな料理は。

「あっいや……見てパパー! すごい名前のお料理だよー?」

「……ブリーティア地方の料理か」

 同じくメニュー表を開いたガイウス先輩が露骨に顔を顰める……ブリーティア地方料理だと? あの皇帝陛下すら口にしないと悪名高い? なぜそんな料理を……いや、部外者たる客を遠ざけるためか? これを捜査のために高い頻度で食べに来るなど拷問ではないか……。

「……ブレックファーストならちゃんと美味しいから大丈夫だ。それに常駐する彼らの為かガリア料理やゲルマニア料理もある」

「よ、良かった……」

 確かに後ろの方をよく見れば他の地方の料理が小さく、本当に小さく載っていた……分かりづらいわ! いや態とそうしてるんだろうが、肝が冷える。

「これからしばらく通う事になる、早めに見つけられて良かったな」

「そうだな、気を付けねばなるまい」

 俺は身体の大きさに比例して少食だからな、こんな不味い飯でお腹を膨れさせたくはない……まぁなにはともあれ──

「──パパー! 私これがいいー!」

 ガイウス先輩と擬似親子を演じてやろうじゃないか、たとえ空しくなろうとも。

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