サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第五章.美しくありたい

2.無賃乗船

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「あ、あの……クレ、ル君……?」

 目的地である『ブリーティア領』へと渡るのに最短の航路がある『フランソワ領』一大湾口都市『カレー市』にて、対岸の『ドーヴァー市』に渡るための船に乗り込むべく丁度良い積荷を物色しているとリーシャから控え目に声を掛けられ、手を止める。

「どうした、リーシャ」

「い、え……その、です……ね?」

 背後の彼女へと振り返り声を掛けるも、リーシャは眉間に眉を寄せて困ったような、されども仕方のないとでも言いたげな表情でこちらを見上げ、言葉を発する。

「そ、の……本、当にする、んで……すか?」

「? ……あぁ、するぞ?」

 一瞬何を聞いているのか分からなかったが……なるほど、本当に密航するのかと聞いているのだな。確かに黙って乗り込んでいたのがバレたら船上では逃げ場は無いし、リーシャが不安に思うのも無理はない。

「だ、大丈、夫……です、か?」

「…………多分」

「……(ジッ」

 不安気に瞳を揺らし、大丈夫なのかと問うてくるリーシャに対して暫く考え込んでから適当に、というよりも考えても現実はどうなるかさっぱり分からないというのが正しいが……そんな雰囲気を全面に押し出して回答すれば、リーシャはただ無言でこちらの顔を覗き込んでくる。

「…………(ジッ」

「…………だ、大丈夫だって! それにこれ以外に海を渡る方法はないだろ?」

「……そ、うです……ね……今、はクレル、君を……信じ、よ……うと、思いま、す」

 リーシャの無言の抗議に根負けして両手を上げながら現実的な説得をすれば、聡明な彼女の事、すぐに渋々とだが納得してくれこちらを信頼するポーズを取ってくれる。

「そうと決まれば、リーシャも丁度よく紛れ込めるような積荷を探してくれ」

「は、い……任せ、てくだ……さ、い……」

 リーシャの手も借りて乗り込む時にバレずに潜伏できるような二人分の隙間があり、尚且つすぐに点検などもされなさそうな、そんな都合の良い積荷を探し出す。

「少し狭いが……このコンテナが良さそうだな」

 その途中でガッチガチに固められた錠を魔法で解錠し、中を開いてみれば藁やおが屑、だろうか? そのような物を敷き詰められているコンテナを見つける……ここまで厳重に施錠され梱包されているのであれば重要な物が収められているのだろう。……であるならば、ただの荷揚げ業者などに確認させるはずもなく、積み込んで暫くした後にそれなりの身分の者が点検しに来るだろう……という事は乗り込めてからも少しだけなら抜け出す時間もあるはず。

「? 見つか、りまし……たか?」

「あぁ……時間もないし急ごう」

 そのコンテナを見つけ、リーシャに対して返事をすると同時にそれなりに近い位置から作業員だと思われる者達の気合いの入れる声が聞こえ、急いで彼女を伴ってコンテナへと侵入……後に中から施錠をし直す。

「「……」」

 コンテナの中は酷く狭い……リーシャと対面する形でお互いの肩に顎を置くような密着した姿勢に必然的になってしまう。リーシャの息遣いが耳のすぐ側で聞こえて擽ったく、左胸に当たる柔らかい感触とそれを押し上げるように早鐘を打つ心臓の音……ほぼ真っ暗であるというのにここまで近いせいなのか、リーシャの耳が真っ赤になっているのがハッキリと分かる。

「そ、その……すまん……もう少し広い所を探せば良かったな……」

「い、え……じ、時間……もあり、ま……せ、んでした、し……」

 リーシャに詫びるように小声で反省している旨を述べると彼女は擽ったそうに身動みじろぎをする……その動作で擦れる彼女の胸と脚にどうすれば良いのか分からなくなると同時に、彼女の返事を聞きながら『これは確かに擽ったいな』と、〝耳元で囁かれる破壊力〟を思い知る。

『よっこいしょっ……と? あれっ? …………おーい! これこんなに重かったかー?!』

「「?!」」

 外から聞こえてくる作業員の言葉に一気に肝を冷やす……可能性は低いがこんな所に魔法使いが忍び込んでいる事がバレてしまえば師匠クソジジイのお使いどころの話ではない。

『あん? どれどれ……お? 本当に重ぇな?』

『だよな? これ一度中身を確認した方が良くないか?』

 不味い不味い不味いッ!! もしや本当に確認されてしまうのではないか? そんな不安が拭えない……リーシャと二人して自身の口を手で塞ぎ、できるだけ音を漏らさない努力も虚しく……早く打つ鼓動の音が酷く煩く感じる。

『そうだな、浮浪児なんかが紛れ込んでちゃあ堪らねぇ』

 もはやこれまでか、もしもの時のために腰の『供物』に手を伸ばす……そんな些細な身動みじろぎの音でさえ聞こえなくなるくらいに……リーシャと二人、どっちの音なのか分からないくらいにお互いの心臓が大声を上げて暴れる。

『……いや、待て』

『あぁ? なんだよ?』

 さぁ、もうすぐで解錠される……というところでなにやら作業員達にトラブルか何かが発生したらしく、その作業が一時中断されてしまう……が、そんなものはただの延命に過ぎず、むしろひと思いにしてくれという欲求が勝る。

『……これウィンザー家の紋章が入ってんじゃねぇか?! こんなん俺らが確認したら逆に首が飛ぶぞ!!』

『マジかよ?! 『ブリーティア領主』へ向けた積荷とか……さっさっと積んでしまおうぜ』

 良かった、本当に良かった……やはり重要な積荷であり、それに乗り込むという俺の判断は間違ってはいなかったらしい。……これが他のただの積荷であったならば、重さに違和感を持たれてから直ぐに暴かれていただろう。

「「……………………ぶはぁ」」

 コンテナの揺れと作業員の声の大きさから無事に船に詰め込まれた事を察した俺とリーシャは二人して大きく息を吐く……つ、疲れた。緊張し過ぎて死にそうだった……。

「ふ、ふふ……ふふふっ」

「? リーシャ?」

 そんな事を考えていれば不意に、リーシャが耳元で笑い出す。そんなに笑う方ではない彼女の事だ……なにがそんなに可笑しかったのか、気になってしまい問い質す。

「い、え……ただ…………このコンテ、ナで……良、かっ……たです、ね……?」

「……あぁ、そうだな」

「ふふふっ」

「はははっ」

 直前までのやり取りの続きか、そんな事を言い出す彼女に僕も可笑しくなって笑い出す。確かに狭いのを気にしないでも大丈夫だよね、助かったんだからさ。

「「…………ふふっ」」

 まだまだ荷を積み上げる作業は外で続いてるため、こちらの存在をバレないように僕ら二人が笑いを堪えるのにはそれなりの労力が必要だった。

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