サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
94 / 140
第五章.美しくありたい

3.密航

しおりを挟む
「……出航したようだな」

「……(コクッ」

 遠くで鳴り響く長声一発の音にこの船が出航した事を知る……体感的にはまったく揺れを感じない事に素直に驚くと共に、『スカーレット領』や『ウィーゼライヒ領』の山間の村の様な田舎では分からなかった『レナリア帝国の文明』の発達具合を知る。

「『解錠アンロック』」

 魔法使いなら誰でも使えるであろう『汎用魔法』を行使して内側からコンテナの鍵を開ける……何のことはない、鍵自体を『対価』にまったく同じ鍵を作るだけ。反則的だが、これなら『等価交換』でもあるしバレる事は無い。

「……暗いな」

「……(コクッ」

 コンテナ等の積荷が詰め込まれている場所は薄暗く、それでいて肌寒い程度に冷えている……やはり中には飲食物などもあるのか、高温多湿などを避けているせいだろう。大丈夫だとは思うが風邪には気を付けないといけない。

「まるで迷路だな……出口はどこだ?」

「……見当、たり……ませ、ん……ね」

 薄暗い部屋……というよりも区画といった方が正しいくらいに広い空間の天井スレスレまでに荷物が積み上げられており、少し辺りを見回したくらいではどの方角を向いているのかすら把握できない。

「……とりあえず移動しよう」

「……(コクッ」

 俺たちが忍び込んだコンテナはこれから向かう『ブリーティア領』の領主へと向けた荷物らしいからな。それほど重要な荷物であるならば、作業員達が重さの違和感を伝えているはず……すぐにでもそれなりの地位の者が確認しに来るだろう。

「『カレー市』から『ドーヴァー市』までの海峡は狭い、すぐにでも着くだろう……それまでにバレなければ良いが……」

 『フランソワ領・カレー市』から『ブリーティア領・ドーヴァー市』までの海峡はとても狭く、この蒸気船であるならばだいたい一時間と少々で着くだろう。……それまでバレないようにコソコソと隠れ回るハメになるが仕方がない。

「……(ジッ」

「大丈夫だ、今さら見つかってしまうような事は──」

「……そこに誰かいるのか?」

「「っ?!」」

 人の声に急ぎリーシャの口を手で抑えながら抱き寄せ、近くのコンテナの影に潜む……それと同時に先ほどまで自分達が居た場所をライトの光が照らす。……危なかったな。

「……迂回しよう(ボソッ」

「……(コクッ」

 下手に移動を続ければバレてしまう危険性があったが……ライトの光にさえ注意すれば見回りを避けられると分かったのは収穫だったな。そのままリーシャを伴ってコンテナを中心に回るようにして先ほどの人影をライトの光と一緒に見送る……と同時に非常階段を見つける。

「丁度いい、上がるぞ」

「……(コクッ」

 普段はあまり使われていないのか錆び付き、狭い非常階段をゆっくりと、辺りを警戒しながら登っていく……できれば暫く潜伏できて周囲の状況を把握できるような場所に繋がっていれば良いのだが。

「……………………誰も居ないな」

「……(コクッ」

 非常階段を登った先には緊急脱出用だと思われるもはや使えるのかどうかさえ分からないボロボロのボートがあり、その隣の扉を開いて外に出るのだろう……まともに機能しそうには思えないが。

「……人の話し声が聞こえるな」

 どうやらここはすぐ上が甲板になっているらし……船員達の怒声と走り回る音が聞こえてくる。ここなら直ぐにでも異変を察知できるだろう。

「リーシャ、頼めるか?」

「……(コクッ」

 リーシャに頼みこの船を構成する鉄を操って貰い、人一人がバレない程度に甲板を覗き込めるくらいの小さな穴を開け、もしもの緊急脱出をちゃんと行えるように錆び付いたボートとその隣の扉を修繕して貰う。

「……綺麗だな」

「……(コクッ」

 時折開けた穴から甲板の状況を確認し、人の流れを把握しながら修繕した扉を開けて流れる海をリーシャと共に見る……雲一つない快晴にユラユラと揺れる海鳥達、下に目を向ければ心地よい音を奏で、船の足跡を残す海。

「海って綺麗なんだな……」

「……(コクッ」

 さざ波の演奏に合わせて歌う海鳥達の曲を聞き、涼しい色合いの景色に強制的に目を奪われながら独り言を呟けばリーシャが律儀に相槌を打ってくれる。……彼女は本当に真面目で、未だにバレないように声を出さないようにしているところに微妙な気持ちにはなるが。

「……たまにはこんな時間があっても良いな」

「……(コクッ」

 ただ静かに、穏やかに……景色と一緒に流れていく時間に身を任せ、いつも慌ただしく、常に警戒し気を張るような魔法使いの生活をほんの一時だけ忘れてしまう。……どうせ直ぐに『ブリーティア領』には着くのだから、良いだろう……少し、本当に少しだけ気を抜くだけだ。

「……」

「……」

 最低限の警戒は忘れてはいないがリーシャと一緒に、この貴重な時間をただ贅沢に……ただ過ごすという心が穏やかになる『文化的』な時間を使い方をしていく……ただ黙って。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~

悠月
ファンタジー
 これは、狭い世界に囚われ、逃げ続けていた内気な貴族令嬢が、あるきっかけで時間が巻き戻り、幼い頃へ戻った。彼女は逃げるように、過去とは異なる道を選び、また周囲に押されながら、徐々に世界が広がり、少しずつ強くなり、前を向いて歩み始める物語である。  PS:  伝統的な令嬢物語ではないと思います。重要なのは「やり直し」ではなく、「箱の外」での出来事。  主人公が死ぬ前は主に引きこもりだったため、身の回りに影響する事件以外、本の知識しかなく、何も知らなかった。それに、今回転移された異世界人のせいで、多くの人の運命が変えられてしまい、元の世界線とは大きく異なっている。  薬師、冒険者、店長、研究者、作家、文官、王宮魔術師、騎士団員、アカデミーの教師などなど、未定ではあるが、彼女には様々なことを経験させたい。 ※この作品は長編小説として構想しています。  前半では、主人公は内気で自信がなく、優柔不断な性格のため、つい言葉を口にするよりも、心の中で活発に思考を巡らせ、物事をあれこれ考えすぎてしまいます。その結果、狭い視野の中で悪い方向にばかり想像し、自分を責めてしまうことも多く、非常に扱いにくく、人から好かれ難いキャラクターだと感じられるかもしれません。  拙い文章ではございますが、彼女がどのように変わり、強くなっていくのか、その成長していく姿を詳細に描いていきたいと思っています。どうか、温かく見守っていただければ嬉しいです。 ※リアルの都合で、不定期更新になります。基本的には毎週日曜に1話更新予定。 作品の続きにご興味をお持ちいただけましたら、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです。 ※本作には一部残酷な描写が含まれています。また、恋愛要素は物語の後半から展開する予定です。 ※この物語の舞台となる世界や国はすべて架空のものであり、登場する団体や人物もすべてフィクションです。 ※同時掲載:小説家になろう、アルファポリス、カクヨム ※元タイトル:令嬢は幸せになりたい

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...