サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第五章.美しくありたい

4.魔女の森

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「ここが……」

「……」

 リーシャと二人、『ブリーティア領』を構成する島々の中心である一つ『大ブリーティア島』の西南西に位置する巨大な森……そこの入口で立ち止まり、見上げていた。

「……木々の一つ一つがデカいな」

「……(コクッ」

 森の木々はそれぞれが見上げるほど高く、幅は俺が手を広げてもまだ足りないくらい太い……葉は広葉樹でありながらそのほぼ全てが赤か白で、それを見るこちらの気分をなんとも言えないものにさせる。

「……とりあえず、行くか」

「そ、うで……すね……」

 一歩踏み出した森の中は深い霧に包まれて陽の光もあまり届いてはいないようで、そのデカい木々のせいもあってか遠近感が狂わずには居られない。

「……リーシャ、気付いてるか?」

「……(コクッ」

 どうやらこの森自体が大量の魔力残滓を内包しているらしい。……どこにこれだけの魔力を溢れさせる核があるのかは分からないので、この土地を浄化させる事は出来ないが、まぁ……あの師匠クソジジイが放って置いているのであれば大丈夫なのであろう。ただ……。

「……迷ったな」

「……えぇ、完、全……に迷い、ま……した、ね」

 ここまで魔力を豊富に含んだ土地で、森という生命が育まれているのにも驚きだが……それ以上に足を踏み入れるまで俺たち魔法使いがその魔力に気付かず、あまつさえ──迷うとは。

「どうやら、この霧自体にも魔力が含まれているらしいな?」

「正反、対に……引き……返し、てみ、て……もダメで、し……た、ね……」

まさか森に入ってすぐに問題発生とはな……もはや自分たちがどの方角を向いているのかどころか、ちゃんと地面に立っているのかすら把握できない。……正反対に引き返し、元の道に戻るという方法もダメ元で試してみたがダメだった。

「……まぁ森の中では〝真っ直ぐに進む〟という事はできないからな」

「そ、うなん……で、す……ね……」

「あぁ」

 真っ直ぐに進もうにも森の木々が邪魔をし、迂回していく内に少しずつデタラメな方角へと進んでしまう……この森のように広大であれば逸れる方角も大きくなるだろうし、巨大な木々と霧のコンボで遠近感すら釈然としない……それに魔力残滓が絡んでいるのだから……尚さらだ。

師匠クソジジイめ……こうなる事を態と教えなかったな?」

「……」

「帰ったら目の前でお使いの品を燃やしてやる!」

 あの野郎……絶対にこうなると分かってて何も言わずに行かせやがってぇ! やっぱり新人にやらせるには厄介な案件だったじゃないか! 本当に許さん、絶対にだ!

「ま、まぁそん、な……に怒、らず……に、ね?」

「……そうだな」

 恥ずかしい事に、リーシャに窘められてしまった……こういう時こそ冷静にならなければならないのに、うっかり師匠クソジジイ憎しで我を忘れてしまった。

「気持、ち……を……切り替、え……ましょ──キャッ?!」

「リーシャ?!」

 リーシャの言葉が途中で悲鳴に切り替わったのを聞き咎め、すぐ様に背後に振り返ってみても彼女の姿はない……一体どこへ消えたというのか。先ほどまですぐ後ろに居たというのに。

「リーシャッ!! どこだ?! 返事をしてくれッ!!」

 不味いぞ……こんな迷いやすい森の中で離れ離れになるなど、冗談ではない! たとえ何処に居るのかが判明しても辿り着けるか怪しい、いつ再会できるのかまったく予想が立てられない。

「リーシャッ!! 何処に──」

「──クレ、ル……君!!」

「リーシャッ?!」

 こちらの声に返事をするリーシャの声が頭上から聞こえ、即座に上を見上げれば……なぜかリーシャの片足首を木の枝が絡め取っており、彼女をそのまま吊るしていた。

「魔物……ではないか、森全体に含まれてるのと同じ量の魔力しかない」

「うぅ……」

「……降りられないか?」

 一瞬だけ魔物かと身構えたが、目の前でリーシャを吊るす木からは森全体を漂う以上の魔力も、意思も、何も感じられない……おそらく魔力残滓によって土地が汚染されている影響ではないかと思うが……そもそも汚染されているのなら、ここまでの森は育たない。どれも原因とするには理由が弱い。

「……受け止、め……てくれま、す……か……?」

「あぁ、下で受け止めよう」

「……『我が願いの対価は断ち切る鉄刃 望むは私を戒める 不幸を断つ力』」

 リーシャが腰にストックしてある『供物』である小さな刃を『対価』として魔法を行使し、造り出した鉈のような鎌で木の枝を裁ち切る。……やはり魔力を含んでいるせいか頑丈で、等級の低い『供物』ではすんなりとはいかなかったようだ。

「キャッ──」

「──おっと」

 自分の足首を絡め取る枝を切り離したリーシャが地面に激突する前に両手を広げて受け止める……彼女はコミュ障であると共に酷い運動音痴だからな、一人だけであったなら無駄に貴重な『供物』を消費しなくてはこの窮地(?)を脱する事は出来なかっただろう。

「あり、が……とう……ごさ、い……ま、す……」

「あぁ構わない……だが、運動しないとな?」

「…………」

「……そこで黙るのか」

 気恥ずかしげにこちらに対して礼を言うリーシャに構わないとしながらも、あれくらいの高低差くらいは着地できるように運動しなければと告げれば……両手で顔を隠してそっぽを向いてしまう。

「まぁ、良いか……このままでも──」

「──そこに居るのは誰だい?」

「「?!」」

 今日何度目の驚きか……突然背後から聞こえてくるしわがれた声に急いでリーシャを抱き直して飛びずさり、その声の主に向き直る。……やはりこの森では何かを察知する事は極めて困難な様だ。まさか意思のない木の枝だけでなく、人の接近にすら気付かないとは。

「おやおや、魔法使いが二人とは……珍しいねぇ?」

「……お前は何者だ?」

 振り返った視界に入って来たのは身体のほとんどを黒いローブで隠した腰の曲がった老婆である。その白髪は長くもありながら一部分が禿げてしまっており、片目は潰れ、顔中の至る所に吹き出物ができており、今も一部が破裂して汚らしい汁を撒き散らしている……その様は酷くて痛々しい。

「人をジロジロ見るんじゃないよ」

「……失礼した」

「いいよ、いきなり話し掛けて私も悪かったさね……ヒョヒョヒョ!」

 このような魔力残滓が溢れる森で得体の知れない老婆と出くわすとは……本当に今日は運が悪いらしい。リーシャを抱く手で彼女を軽く叩き、合図を送る……いつでも魔法が行使できるように。

「それで私の名前だったね? 私の名前は──」

 リーシャと二人で目の前の老婆を注視する……名乗る振りをして少しでも不審な動きを見せれば即座に討伐する心積りで警戒を怠らない、が……。

「──アグリー醜い

 ……どうやら彼女がお目当ての、師匠クソジジイの知り合いらしい。

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