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本編
82話 貴人の虜囚 その34
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タロウは会談を終えて学園へ入った、肩が凝ったなーと大きく首を回してみる、先程の会談では皇帝も提督も理解を示したが、やはり時間が欲しいとなっていた、また近習達との打ち合わせや帝都とも相談する必要があるとして明確な返答を避けている、そりゃそうだろうなとタロウも思う、いかに皇帝と言えど即断できる内容では無いし、何よりその二人自体がそのような条約を結んで意味があるのかと懐疑的に考えているように見えた、そうして要塞では帝国軍上層部の打合せが持たれている、皇帝と提督、近習達が集まって喧々諤々とやっている筈で、ここは冷静に話し合わせるべきとタロウは同席する事は無く、王国側の首脳陣が加わることも無い、ただ近衛達とルーツの部下は監視の為と同室しており、ルーツの部下もまたその会話を理解はできるが書き留める事はしていなかった、王国側の誠意の表れであり、帝国にどこまで通じているか分からないが王国の矜持と言えると思える、
「あー・・・どんなもんかなー」
さてと学園内のユーリの事務室を出るタロウ、一度寮に戻り、カトカとゾーイに学園の様子を聞いてみたが、特には聞いてないとの事で、ユーリもどうやらこっちを手伝いに来ているらしい、今朝の様子だと今日は暇だと言っていたように思うも、ソフィアも寮には戻っていない様子で、となればなんやかやと作業をしていると思われる、少しは手伝う事もあるかなと顔を出してみた次第であった、そうして取り合えずと講堂に向かうタロウ、寮で昼寝をしていても構わない状況となっているが、後からソフィアやユーリになんじゃかんじゃと騒がれても困る、いや、それが一番めんどうであったからこそ、ここは顔だけでも出しておくかとの配慮であったりする、すると、
「ありゃ・・・広くなったなー」
講堂に入り目を丸くするタロウ、医官や生徒達がシーツの仕切りを片付けているところであった、その半分が取り払われ講堂本来の姿を取り戻しつつある、そこへ、
「おっ、タロウではないか」
ガッハッハとおっさんの声であった、ん?と振り返り、
「あっ、番頭さん」
思わず馴染みの名が口をついた、しかしすぐにアッしまったと身を仰け反らせる、
「構わん構わん」
さらに愉快そうに微笑むおっさんはレイナウトである、取り巻きである従者を数人連れており、その従者達はムッとタロウを睨みつけている、
「申し訳ない」
慌てて謝罪するタロウ、
「構わんと言っておる、なんだ、お主もここに関わっておったのか?いや、貴様の実力ならそうなるな」
ニヤリと微笑むレイナウト、
「まぁ・・・そうですね、少しばかり協力はしましたが・・・」
タロウは肩を丸くして微笑み、
「どうされました?お越しであるとは伺っておりませんでした」
と丁寧に確認してみる、
「うむ、ほれ、カラミッドからな、ヘルデル軍の戦死者の事を聞いてな・・・」
足を止めて話し出すレイナウト、従者達は訝しげにタロウを睨んでいる、どうやらタロウを知らぬ者ばかりらしい、となるとヘルデルの事務官を連れて来たのかなと察しつつ、なるほどと相槌を打つと、
「お疲れ様ですね、ヘルデル軍の御遺体は確かかなりの数であったかと・・・」
神妙にレイナウトを窺う、
「そうじゃな、まぁ、前のあれよりはよほど少ないし・・・何より、汚れておらなんだ、戦死者である事を考えるとな、嬉しく思うし、ありがたい事だ・・・」
フーと重い溜息をつくレイナウト、
「知った顔もあってな・・・良い・・・近衛で良い兵士であった、有能な男でな・・・まさかと思ったが・・・しかし、そういうものだな、良い男から死んでいく・・・困ったものだ・・・無常よの・・・世の中は・・・」
「そう・・・ですね」
スッと背筋を正すタロウ、レイナウトはゆっくりと肩を落し、従者達も俯き加減となった、
「まぁ、致し方ない、戦争とはそういうものだ・・・今更嘆いても致し方無い、せめて・・・事後の面倒を見てやる程度だな・・・確か幼い子供もおったはずだ・・・生活に苦しまぬよう配慮しよう、その程度しか出来ぬものだ・・・そうだ、向こうはどうなっておる?要塞を落としたとは聞いている」
スッと顔を上げるレイナウト、
「あら・・・流石お耳が早い」
「何を言う、昨晩やっと報告が届いてな、いや、あの転送陣か、あれに慣れてしまうとどうにも物事が遅く感じられてならん、なによりこんなに終結が早まるとは思っておらなんだ、儂はてっきり一月はかかると思っておったのだがな、聞けば両殿下の活躍があったらしいが、どうなっている」
「どうもなにも、そこらへんはほら、公爵閣下よりお聞き下さい、常に前線にありましたから私よりも詳しいかと」
「あれがそんなに話し好きに見えるか?」
「それはだって・・・親子でしょ」
「分かっておらんな、親子だからこそ、話しが成り立たん事もある」
「ありゃま・・・いや、確かにそうかもですね・・・」
思わず苦笑するタロウ、
「そうなのだ・・・まぁいい、そうだ、カラミッドはどこにおる?向こうか?」
「いえ・・・いや、どうでしょう、今朝の会議にはいらっしゃいましたが、こちらに戻られてるかな?どうなんでしょう?」
「そうか、では、リシャルトか・・・一度戻るか」
レイナウトがスッと振り返り、従者の一人がハッと背筋を正してそのまま校舎へ走った、あっリシャルトさんはこっちにいるんだよなと思い出すタロウ、ここ数日カラミッドの隣りにはおらず、代わりの従者が冷や汗を流しながらカラミッドに従っていた、
「丁度いい、貴様も来い、荒野について相談したいのじゃ」
ニヤリと微笑むレイナウトである、あっこりゃまた面倒そうだとタロウは眉根を寄せるも、公爵閣下があれだから必要かもなと瞬時に思い直し、
「はいはい、話し相手程度は務まるものと思います」
と軽く微笑んでみた、
「おう、それでよい、での」
取り合えず校舎へ向けて歩き出すレイナウトである、タロウがその隣に並び従者達がゾロゾロとついて来る、そうしてレイナウトが言うにはやはりクンラートでは難しかろうという何とも答えようがない問題であった、流石レイナウトも立派な為政者である、自分の子供であろうともその実力は把握し、決して過大評価はしないようで、軍事についてはあれに任せておけば問題は少ないが、それ以外がからっきしであるとあっさりと口にする、あー確かにそうなるよなーと苦笑するしかなかったタロウである、その偏った能力がアンネリーンの苦労の始まりであり、やらせてみればなんとかなると思っていたレイナウトの落ち度であった、レイナウト曰く、やはり新しい領地の開拓となればそう簡単なものではなく、興味が無いとして放っておいたりしたらそれこそ王国中から笑われる事になりかねない、挙句資源としても耕作地としても有望視されている荒野なのであるからここをしっかりと発展させてこそ公爵家の名を上げる事にもなるとの事で、どうやらレイナウトはすでに戦後を見据えているのであろう、また荒野の領有を認められたからこそ王家への恨みは棚上げともなっている、王国の内部的混乱を避ける目的でも荒野の開発は有用なのであった、
「人的な課題もあると思うのですよね」
タロウがふと考えていた事を口にした、
「それもあるのだ」
フヌーと鼻息を荒くするレイナウト、
「やはりですか・・・」
「うむ、どう考えてもな、労働力も人材も足りんでな、それこそあれだ、公爵家の領地とほぼ同じ大きさの土地を与えられたようなものだ、それもただっぴろい岩ばかりの土地となるとな、いや、その岩にこそ価値があるのは理解しておる、しかし、そこに居住し、作業するとしてもだ、そう簡単に人が集まるものでも無い、さらにはあの焼け跡が儂らとしては中心部とするしかないが、しかし、まずは岩を掘り出して、整地して、材木を運んで、あっ、その前に街道を整備しなければならん、それだけでも数年がかりよな、転送陣を有効活用するとしても、そこは王家に助力を願うしかないのだが、だから、いや、そうだ、貴様だけでもこちらに与せよ、格段に手数が増える」
ギロリとタロウを睨むレイナウト、急な勧誘にエヘヘと誤魔化し笑いを浮かべるしかないタロウであった、まぁその気持ちは良く分かる、タロウも要塞の雑事が片付き落ち着けば次はこの地の開発が問題となるなと考えていたところで、しかしどう考えても労働力が足りないのであった、巨岩を掘り起こすにも埋め直すにも、耕作するにも労働力が必須となる、巨岩を掘り起こし砕くだけであれば既に魔力による手法が確立されてはいるが、それであってもやはり人力である事に変わりない、そこから先を考えれば単純な労働力とそれを養う大きな仕組みが必要となる、巨岩からは確かに有用な鉱物は産出されるであろうが、それはどこまでいっても鉱物であり、食糧では無い、農業技術が未発達な王国にあっては、すぐに金となる鉱物よりも食料の方が遥かに貴重であるのも問題であった、
「それこそ、王家も交えてしっかりと取り組みませんと」
タロウは曖昧な笑みのままそう答えるしかなった、
「そうか?」
「えぇ、ただ、その労働力に関しては帝国の人民を引き入れるという方法もあるかと思うのですよ」
「なんだそれは?」
「移民政策というものでしてね、しかし・・・これもまた色々と・・・難しいのです、なので、やはりこれも王家を交えて相談頂くのが良いのかなと思います」
「移民・・・帝国から入れるのか?」
「そうなりますね、特にほら、帝国は奴隷が多いですから、奴隷を買い付けるのは帝国内では合法であります、その奴隷を他国に売りつける事もまた合法、しかしながら王国ではね、それらは全て違法となるのですが・・・つまりは奴隷を買い付けて王国に連れて来る事に何の問題もないのです、但し王国に踏み入った時点で奴隷からは解放される・・・本人が望めばですし、その手法を王家が認めればでしょうけどね・・・正直正当な手段ではないように思いますし、何より金がかかる・・・ですが、国家同士の付き合いとはそういうものです、互いの統治手法を尊重するとなるとね、なんとも悪辣で下品に見えるやり方というものも正当な手段になりましょう」
「・・・それは良いな・・・なるほど、人的資源としての奴隷か・・・しかし・・・いや、奴隷か・・・」
ムーと首を傾げるレイナウト、そのまま、
「その奴隷よ・・・正直、儂は好かんが、配下の貴族共が王家を好まないのはそこでな」
「・・・と、いいますと?」
「ほれ、儂らが王家に負け併合されたのは貴様も理解していよう、それは致し方ないと誰もが認めるところであるが、問題はその後よ、人身売買と奴隷の廃止だな、これが問題でな、今でも、あの頃は良かったと声高に叫ぶ貴族達が多くてな」
あらまと目を丸くするタロウ、
「西も同じだ、向こうの公国もな、奴隷を手広く扱っていたのだが、それが一斉に廃止されてな、その恨みを抱いている貴族共が多いのが現実だ、しかしそれも儂が生まれる前の話よ、あれからもう何十年も経っている、その口うるさい連中にその頃の記憶なぞある訳も無い、それでもギャーギャーとうるさいのは奴隷を扱うのが楽だと思い込んでいるからであろうな」
「そりゃまた・・・そうなるのか・・・」
ヘーっと感心するタロウである、
「儂でもな、その奴隷を扱っていた頃の生活なぞ知りもせんがな・・・儂が見るに領地の管理もままならん、商売も下手な貴族ほどうるさいように感じる、恐らく奴隷を使いつぶせる安価な労働力として夢想しておるのだろう、しかし、想像するにそう簡単ではあるまい・・・」
「確かにそうなのですが・・・」
再びあらまと感心するタロウ、
「であろう?少し考えればわかるものだ、金で買ってきた人材が指示通りに動く訳も無い、ましてその生活全ての面倒を見なければならんのだぞ、挙句に大人数を雇うとなるとそれだけで奴隷の方が力が上になる、どう考えても割に合わん、素直に給金を払って人を雇った方が遥かにマシだ、第一、その給金を払う相手は領民であり国民なのだ、高い税金も回りまわって平民の懐に入るとなればより金が回っていくものだ、特に大人数が集まる都会ではな、その金の回りこそが豊かさの証よ」
「いや・・・まったくその通りなのですが・・・」
「ほれ、鉱山労働も同じだな、刑務作業として囚人を働かせてはいるが、実の所な、正当に作業員を雇っている鉱山と比べて半分以下の採掘量なのだ、それでもな、人件費を考えれば安上がりであるし、牢に入れておいても無駄になるからと働かせてはいるがな、儂としては無駄だと思っておる、管理する側の人件費を考えるとな、どう考えても割に合わん、あれではあれだ、管理者をそのまま働かせた方が遥かに効率的だ、囚人三人に一人の監視者だぞ、であればその囚人を叩き出して監視者が働けば良い、それで採掘量が同じであればなんの問題も無いし、そうなるだろうなとも目算してしまう」
「そう・・・なのですか・・・」
「そういうものだ、まったく、あほらしい」
フンスと鼻息を荒くするレイナウト、これはまたやはりレイナウトは違うなとすっかり感心するタロウであった。
「あー・・・どんなもんかなー」
さてと学園内のユーリの事務室を出るタロウ、一度寮に戻り、カトカとゾーイに学園の様子を聞いてみたが、特には聞いてないとの事で、ユーリもどうやらこっちを手伝いに来ているらしい、今朝の様子だと今日は暇だと言っていたように思うも、ソフィアも寮には戻っていない様子で、となればなんやかやと作業をしていると思われる、少しは手伝う事もあるかなと顔を出してみた次第であった、そうして取り合えずと講堂に向かうタロウ、寮で昼寝をしていても構わない状況となっているが、後からソフィアやユーリになんじゃかんじゃと騒がれても困る、いや、それが一番めんどうであったからこそ、ここは顔だけでも出しておくかとの配慮であったりする、すると、
「ありゃ・・・広くなったなー」
講堂に入り目を丸くするタロウ、医官や生徒達がシーツの仕切りを片付けているところであった、その半分が取り払われ講堂本来の姿を取り戻しつつある、そこへ、
「おっ、タロウではないか」
ガッハッハとおっさんの声であった、ん?と振り返り、
「あっ、番頭さん」
思わず馴染みの名が口をついた、しかしすぐにアッしまったと身を仰け反らせる、
「構わん構わん」
さらに愉快そうに微笑むおっさんはレイナウトである、取り巻きである従者を数人連れており、その従者達はムッとタロウを睨みつけている、
「申し訳ない」
慌てて謝罪するタロウ、
「構わんと言っておる、なんだ、お主もここに関わっておったのか?いや、貴様の実力ならそうなるな」
ニヤリと微笑むレイナウト、
「まぁ・・・そうですね、少しばかり協力はしましたが・・・」
タロウは肩を丸くして微笑み、
「どうされました?お越しであるとは伺っておりませんでした」
と丁寧に確認してみる、
「うむ、ほれ、カラミッドからな、ヘルデル軍の戦死者の事を聞いてな・・・」
足を止めて話し出すレイナウト、従者達は訝しげにタロウを睨んでいる、どうやらタロウを知らぬ者ばかりらしい、となるとヘルデルの事務官を連れて来たのかなと察しつつ、なるほどと相槌を打つと、
「お疲れ様ですね、ヘルデル軍の御遺体は確かかなりの数であったかと・・・」
神妙にレイナウトを窺う、
「そうじゃな、まぁ、前のあれよりはよほど少ないし・・・何より、汚れておらなんだ、戦死者である事を考えるとな、嬉しく思うし、ありがたい事だ・・・」
フーと重い溜息をつくレイナウト、
「知った顔もあってな・・・良い・・・近衛で良い兵士であった、有能な男でな・・・まさかと思ったが・・・しかし、そういうものだな、良い男から死んでいく・・・困ったものだ・・・無常よの・・・世の中は・・・」
「そう・・・ですね」
スッと背筋を正すタロウ、レイナウトはゆっくりと肩を落し、従者達も俯き加減となった、
「まぁ、致し方ない、戦争とはそういうものだ・・・今更嘆いても致し方無い、せめて・・・事後の面倒を見てやる程度だな・・・確か幼い子供もおったはずだ・・・生活に苦しまぬよう配慮しよう、その程度しか出来ぬものだ・・・そうだ、向こうはどうなっておる?要塞を落としたとは聞いている」
スッと顔を上げるレイナウト、
「あら・・・流石お耳が早い」
「何を言う、昨晩やっと報告が届いてな、いや、あの転送陣か、あれに慣れてしまうとどうにも物事が遅く感じられてならん、なによりこんなに終結が早まるとは思っておらなんだ、儂はてっきり一月はかかると思っておったのだがな、聞けば両殿下の活躍があったらしいが、どうなっている」
「どうもなにも、そこらへんはほら、公爵閣下よりお聞き下さい、常に前線にありましたから私よりも詳しいかと」
「あれがそんなに話し好きに見えるか?」
「それはだって・・・親子でしょ」
「分かっておらんな、親子だからこそ、話しが成り立たん事もある」
「ありゃま・・・いや、確かにそうかもですね・・・」
思わず苦笑するタロウ、
「そうなのだ・・・まぁいい、そうだ、カラミッドはどこにおる?向こうか?」
「いえ・・・いや、どうでしょう、今朝の会議にはいらっしゃいましたが、こちらに戻られてるかな?どうなんでしょう?」
「そうか、では、リシャルトか・・・一度戻るか」
レイナウトがスッと振り返り、従者の一人がハッと背筋を正してそのまま校舎へ走った、あっリシャルトさんはこっちにいるんだよなと思い出すタロウ、ここ数日カラミッドの隣りにはおらず、代わりの従者が冷や汗を流しながらカラミッドに従っていた、
「丁度いい、貴様も来い、荒野について相談したいのじゃ」
ニヤリと微笑むレイナウトである、あっこりゃまた面倒そうだとタロウは眉根を寄せるも、公爵閣下があれだから必要かもなと瞬時に思い直し、
「はいはい、話し相手程度は務まるものと思います」
と軽く微笑んでみた、
「おう、それでよい、での」
取り合えず校舎へ向けて歩き出すレイナウトである、タロウがその隣に並び従者達がゾロゾロとついて来る、そうしてレイナウトが言うにはやはりクンラートでは難しかろうという何とも答えようがない問題であった、流石レイナウトも立派な為政者である、自分の子供であろうともその実力は把握し、決して過大評価はしないようで、軍事についてはあれに任せておけば問題は少ないが、それ以外がからっきしであるとあっさりと口にする、あー確かにそうなるよなーと苦笑するしかなかったタロウである、その偏った能力がアンネリーンの苦労の始まりであり、やらせてみればなんとかなると思っていたレイナウトの落ち度であった、レイナウト曰く、やはり新しい領地の開拓となればそう簡単なものではなく、興味が無いとして放っておいたりしたらそれこそ王国中から笑われる事になりかねない、挙句資源としても耕作地としても有望視されている荒野なのであるからここをしっかりと発展させてこそ公爵家の名を上げる事にもなるとの事で、どうやらレイナウトはすでに戦後を見据えているのであろう、また荒野の領有を認められたからこそ王家への恨みは棚上げともなっている、王国の内部的混乱を避ける目的でも荒野の開発は有用なのであった、
「人的な課題もあると思うのですよね」
タロウがふと考えていた事を口にした、
「それもあるのだ」
フヌーと鼻息を荒くするレイナウト、
「やはりですか・・・」
「うむ、どう考えてもな、労働力も人材も足りんでな、それこそあれだ、公爵家の領地とほぼ同じ大きさの土地を与えられたようなものだ、それもただっぴろい岩ばかりの土地となるとな、いや、その岩にこそ価値があるのは理解しておる、しかし、そこに居住し、作業するとしてもだ、そう簡単に人が集まるものでも無い、さらにはあの焼け跡が儂らとしては中心部とするしかないが、しかし、まずは岩を掘り出して、整地して、材木を運んで、あっ、その前に街道を整備しなければならん、それだけでも数年がかりよな、転送陣を有効活用するとしても、そこは王家に助力を願うしかないのだが、だから、いや、そうだ、貴様だけでもこちらに与せよ、格段に手数が増える」
ギロリとタロウを睨むレイナウト、急な勧誘にエヘヘと誤魔化し笑いを浮かべるしかないタロウであった、まぁその気持ちは良く分かる、タロウも要塞の雑事が片付き落ち着けば次はこの地の開発が問題となるなと考えていたところで、しかしどう考えても労働力が足りないのであった、巨岩を掘り起こすにも埋め直すにも、耕作するにも労働力が必須となる、巨岩を掘り起こし砕くだけであれば既に魔力による手法が確立されてはいるが、それであってもやはり人力である事に変わりない、そこから先を考えれば単純な労働力とそれを養う大きな仕組みが必要となる、巨岩からは確かに有用な鉱物は産出されるであろうが、それはどこまでいっても鉱物であり、食糧では無い、農業技術が未発達な王国にあっては、すぐに金となる鉱物よりも食料の方が遥かに貴重であるのも問題であった、
「それこそ、王家も交えてしっかりと取り組みませんと」
タロウは曖昧な笑みのままそう答えるしかなった、
「そうか?」
「えぇ、ただ、その労働力に関しては帝国の人民を引き入れるという方法もあるかと思うのですよ」
「なんだそれは?」
「移民政策というものでしてね、しかし・・・これもまた色々と・・・難しいのです、なので、やはりこれも王家を交えて相談頂くのが良いのかなと思います」
「移民・・・帝国から入れるのか?」
「そうなりますね、特にほら、帝国は奴隷が多いですから、奴隷を買い付けるのは帝国内では合法であります、その奴隷を他国に売りつける事もまた合法、しかしながら王国ではね、それらは全て違法となるのですが・・・つまりは奴隷を買い付けて王国に連れて来る事に何の問題もないのです、但し王国に踏み入った時点で奴隷からは解放される・・・本人が望めばですし、その手法を王家が認めればでしょうけどね・・・正直正当な手段ではないように思いますし、何より金がかかる・・・ですが、国家同士の付き合いとはそういうものです、互いの統治手法を尊重するとなるとね、なんとも悪辣で下品に見えるやり方というものも正当な手段になりましょう」
「・・・それは良いな・・・なるほど、人的資源としての奴隷か・・・しかし・・・いや、奴隷か・・・」
ムーと首を傾げるレイナウト、そのまま、
「その奴隷よ・・・正直、儂は好かんが、配下の貴族共が王家を好まないのはそこでな」
「・・・と、いいますと?」
「ほれ、儂らが王家に負け併合されたのは貴様も理解していよう、それは致し方ないと誰もが認めるところであるが、問題はその後よ、人身売買と奴隷の廃止だな、これが問題でな、今でも、あの頃は良かったと声高に叫ぶ貴族達が多くてな」
あらまと目を丸くするタロウ、
「西も同じだ、向こうの公国もな、奴隷を手広く扱っていたのだが、それが一斉に廃止されてな、その恨みを抱いている貴族共が多いのが現実だ、しかしそれも儂が生まれる前の話よ、あれからもう何十年も経っている、その口うるさい連中にその頃の記憶なぞある訳も無い、それでもギャーギャーとうるさいのは奴隷を扱うのが楽だと思い込んでいるからであろうな」
「そりゃまた・・・そうなるのか・・・」
ヘーっと感心するタロウである、
「儂でもな、その奴隷を扱っていた頃の生活なぞ知りもせんがな・・・儂が見るに領地の管理もままならん、商売も下手な貴族ほどうるさいように感じる、恐らく奴隷を使いつぶせる安価な労働力として夢想しておるのだろう、しかし、想像するにそう簡単ではあるまい・・・」
「確かにそうなのですが・・・」
再びあらまと感心するタロウ、
「であろう?少し考えればわかるものだ、金で買ってきた人材が指示通りに動く訳も無い、ましてその生活全ての面倒を見なければならんのだぞ、挙句に大人数を雇うとなるとそれだけで奴隷の方が力が上になる、どう考えても割に合わん、素直に給金を払って人を雇った方が遥かにマシだ、第一、その給金を払う相手は領民であり国民なのだ、高い税金も回りまわって平民の懐に入るとなればより金が回っていくものだ、特に大人数が集まる都会ではな、その金の回りこそが豊かさの証よ」
「いや・・・まったくその通りなのですが・・・」
「ほれ、鉱山労働も同じだな、刑務作業として囚人を働かせてはいるが、実の所な、正当に作業員を雇っている鉱山と比べて半分以下の採掘量なのだ、それでもな、人件費を考えれば安上がりであるし、牢に入れておいても無駄になるからと働かせてはいるがな、儂としては無駄だと思っておる、管理する側の人件費を考えるとな、どう考えても割に合わん、あれではあれだ、管理者をそのまま働かせた方が遥かに効率的だ、囚人三人に一人の監視者だぞ、であればその囚人を叩き出して監視者が働けば良い、それで採掘量が同じであればなんの問題も無いし、そうなるだろうなとも目算してしまう」
「そう・・・なのですか・・・」
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