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本編
82話 貴人の虜囚 その35
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そうしていつのまにやら学園の入口付近まで歩いてきてしまった一行であった、暗い顔をした平民が行き交っており、貴族らしき御夫人達も従者と共に歩いている、
「うおっ、で、リシャルトはどうなった」
レイナウトがハッと気づいて振り返る、あっと顔を見合わせる従者達、呼びに行った一人が戻っておらず、ワタワタと周りを見渡す他無い、何より彼らとしても初めて連れて来られた学園である、どこに何があるかなど全く把握していなかったりするし、本来であれば学園の事務員が付き従うべき所であるが、今日の訪問はお忍びとまではいかないが突然の事で段取りが組まれていなかった、
「・・・致し方ない」
ブスーッと鼻を鳴らすレイナウト、申し訳ありませんと頭を下げる従者達、いやそりゃそうなるだろうと苦笑するタロウである、その瞬間、
「アーーーーーー」
大人数が行き交っているわりには静かなその空間を甲高い子供の声が引き裂いた、何事かと一斉に振り返る大人達、
「タローだーーーー」
さらに叫ぶその声、アッとタロウが振り向いた瞬間、小さな木箱が人波を縫ってタロウに猛進する、なんだと身構えた瞬間ドスンとタロウにぶつかる木箱、ついで、
「あー、ホントだー」
「タローセンセーだー」
「タローだー」
と子供の声が続く、あっそういう事かとタロウが気付いた瞬間、
「エヘヘー、なにやってるのー」
木箱の奥からピョンとミナの顔が覗いた、
「こら、危ないぞ、走るな」
とりあえずメッと優しく叱るタロウ、
「大丈夫ー」
「だいじょばない」
「平気ー」
「平気じゃない」
ムッと睨みあう二人、レイナウトがこれはこれはと目を細め、
「なんじゃ、儂には挨拶はしないのか?」
ニヤリとミナを見下ろした、
「エー・・・あー、誰だっけー、あれー、バントーさん」
木箱と一緒にピョンと跳ねるミナ、
「おう、久しぶりじゃのう」
ニヤーと微笑むレイナウト、
「うん、久しぶりー」
ニヘーとだらしなく微笑むミナである、タロウはおいおいと顔を顰め、ここはしっかりと挨拶させるのが正しいかと思った瞬間、
「これは、先代様、御機嫌麗しゅう」
慌てて駆けて来たマリレーナが勢いよく頭を下げ、エルマとミシェレも先代様?と一瞬首を傾げるも如何にも貴族らしいレイナウトである、ここはマリレーナに倣うのが正しいと背筋を正し一礼する、
「ムッ・・・おうおう、マリレーナであったな、どうしたこんな所で、レアンは確か刺繍とかなんとかと言っておったが」
「はい、その・・・色々ありまして」
サッと顔を上げるマリレーナ、
「お勉強したのー、レキシーのお勉強ー」
ミナがピョンピョン飛び跳ねた、
「おっ、そうかそうか、なんだ・・・あっ、いや、聞いておる、幼児教育であったな」
「はい、本日から本格的にとなっておりまして」
「ねー、面白かったー、あのねー、すんごい昔にねー、みんなで集まって街を作ったんだってー」
「昔・・・そうじゃな、昔じゃな」
「そうなのー、でー、なんかがなんかでなんかになったー」
ピョンと跳ねるミナ、エッと見下ろす大人達、
「・・・ミナ、そのなんかが大事だぞ」
ムゥと眉を顰めるレイナウト、確かにそうだと焦るタロウ、ありゃ流石に早かったかなと口元を歪めるマリレーナとエルマとミシェレ、他の子供達も木箱を抱えてそろそろと集まって来る、何の集団だろうと訝し気に見つめる通りかかった貴族達に平民達、
「そうなの?」
「そうじゃ」
「・・・難しかったー」
「それは致し方ないのう」
やれやれと微笑むレイナウトである、とりあえずニヘーと微笑むミナ、あーとタロウは微笑み、
「で、どした?みんなで来たのか?」
と話題を変える、
「うん、あのね、あのね、おっきいおっちゃんのお手伝いしたー、アメー、いっぱい作ったー」
これだとばかりに木箱を持ち上げるミナ、
「あら、へー・・・そういう事・・・」
スッとエルマに確認するタロウ、
「はい、エレイン会長が作業をしながらでも食べれるからと」
エルマが優しく微笑む、
「そっか、じゃ、ほら、ちゃんと届けないとだろ?」
「うん、お届けするー、エレイン様どこー?」
「あー・・・どこかな?」
ハテと学園の奥へ視線を向けるタロウ、
「あっ、先程聞いております、一階の奥の教室との事でした」
エルマもスッと視線を向ける、そこへ、
「こちらでしたか」
リシャルトがバタバタと駆けて来る、呼びに行った従者も同行していた、
「おう、では・・・なんだったかな?」
レイナウトが笑顔でタロウを窺う、
「あー・・・まずは・・・子供達ですかね」
タロウがポンとミナの頭に手を乗せる、ウンと大きく頷くミナ、リシャルトに事情を話すと、分かりましたと先導された、そして、
「あーーーーー、お嬢様いたーーーーー」
今度は教室に響くミナの叫び声、何だと顔を上げる作業中の貴族達とメイド達、こらまてと慌てて押さえ付けるタロウであった。
「うふふー、美味しー・・・」
「でしょー、えっとね、えっとね、みんなで作ったのー、おっきいおっちゃんとフロールちゃんのお母さんが小さくして、こうやってね、ころころーって板でね、丸めたのー」
アンシェラが目を真っ赤に染めつつ笑顔を見せ、ミナがピョンピョン飛び跳ね身振り手振りで大袈裟に説明し、アーレントはブロースも来ていると聞いてダッと廊下に走り出し、従者の一人が慌てて追いかけていった、
「これも作りたいなー・・・」
そろそろとアンネリーンを見上げるアンシェラ、
「そうですね、でも、これは教わっていないかしら?」
ニコリと微笑みコロカロと飴玉を口中で転がすアンネリーン、あっさりとした甘みがジンワリと口中を支配し、なるほどこれは溶けにくい黒糖なのだなと察するも、しかし黒糖のそれとは甘みの感覚が異なるようで、これはこれでまるで別の菓子なのだなと実感する、
「すこしばかり手間がかかるのです」
レアンがムフンと胸を張る、
「そうなの?」
「はい、そう聞いております」
レアンはニヤリとエレインを見つめ、あっさりと明確な返答を放棄してしまった、レアンとしてもそこまで詳しく無かった為である、エレインは笑顔で受け取り、
「そうですね、少しばかり・・・料理とは思えない手法で作ります、それと温度管理ですとか時間もかかりますので、このアメも昨日仕込んで漸く完成したものですね」
「まぁ・・・一晩かかるの?」
これには素直に目を丸くするアンネリーン、ユスティーナとレアン、マルヘリートもそうなんだと小さく驚いた、
「はい、フフッ、これもタロウさんに教わった技術なのです」
ネーとミナに微笑むエレイン、ウフフーと満面の笑みを浮かべるミナ、そしてガリッと心地良い音が響く、アッとミナはわざとらしく目を見開き、
「エヘヘ、嚙んじゃった・・・」
ムフーと微笑む、
「こりゃ、嚙んではならんのだろう?」
「そうだけどー、噛んでもいいのー、美味しいのー」
「駄目ですよ、すぐ無くなってしまいます」
エレインがやんわりと窘める、
「そうなの?」
「そうですよ、だから、上品にゆっくりと味わうのが作法です、味を楽しむ菓子なのですから」
笑顔で答えるエレイン、なるほどそうなんだーと他のテーブルに座る貴族達、メイド達もアメが詰まった藁箱を見つめる、商会の子供達が運び込んだ木箱にはさらに小さな藁箱に分けられたアメ玉が大量に詰まっていた、それらをどうぞと子供達が各テーブルに届けて回り、ミナ以外の子供達はすぐに隣りの教室に逃げ出してる、その教室に母親がいる為もあるし、なにより如何にも貴族らしい女性達の集まりである、緊張もしていたようであるし、いたたまれないのであろう、そうしてこれは丁度良いなと茶を淹れて一服する事とした一同であった、かれこれ午前の半分以上の時間、静かな教室での作業を続けており、そういう雰囲気でもあった、遺体の面会の後ともあって緊張感もあったが、それも時間が経てば薄れるというもので、しかしなんとヘルデル公爵夫人であるアンネリーンとその子供達までが参加する事態となり、違う意味での緊張感が醸成されていたりする、それらの複雑な雰囲気がミナの叫び声で簡単に吹き飛ばされ、さらにはこの甘味と暖かいお茶でやっと笑顔を取り戻した御婦人方に御令嬢方、メイド達であった、
「ムー、でも、いいの、いっぱい作ったからー、おっきいおっちゃんがねー、味見していいよーって言ったの、だからみんなで二個ずつ食べたー」
「こりゃ、それでは味見になっておらんだろ」
ニヤリと微笑むレアン、
「美味しかったからいいのー」
「その理屈は合わんぞ」
「どうでもいいー」
「どうでもいいとはなんじゃ」
「だから美味しかったらいいのー、ねー」
プンと顔を振ってアンシェラに同意を求めるミナ、
「美味しいからいいー」
アンシェラもピョンと跳ねた、でしょーと微笑むミナ、こりゃそういう問題では無いと譲らないレアン、すっかり上機嫌になったアンシェラであったが、ミナが来るまでアンネリーンに抱き着いてグスグスと鼻を鳴らして泣いており、マルヘリートもどうしたものかとすっかり困ってしまっていた、それも致し方ない、あの大量の遺体を前にし、一つ一つと丁寧に確認し、祈りを捧げる行為は幼児には辛かったようである、幼児らしい感受性もあるし、本能的な忌避感もあったであろう、天幕内の冷たいと感じるほどの寒さも良くなかった、三つ目の遺体に向かったあたりで怖いーと泣き叫んでしまった為、マルヘリートと共に天幕を後にし教室に入っていた、そうしてアンシェラはアンネリーンが戻るまでマルヘリートに抱き着いたまま動こうとせず、レアンもエレインもユスティーナにもなんとも出来なかったのである、而してアンネリーンが教室に入ってもその機嫌が直る事は無く、ミナが駆け込んできて漸く笑顔を取り戻している、恐らくであるがアンシェラもアンネリーンに抱き着いて落ち着いてはいたのであろうが、今度はどうやって普段通りに振る舞うべきか戻る切っ掛けが無かったのであろう、丁度良い所にミナが来てくれたものだと安堵したアンネリーン達であった、
「あーーー、忘れてたー」
ミナがピョンと飛び跳ねた、今度は何だと見つめる大人達、
「ソフィーとガクエンチョウセンセーにも持って行くのー、えっと、えっと、どこー?」
ワタワタと慌てだすミナ、そういう事かとエレインは微笑み、
「はいはい、じゃ、取り合えず学園長先生かしら」
スッと腰を上げた、
「うん、いっぱい作ったからーっておっきいおっちゃんが言ってたー」
「そうねー」
エレインは指示通りに動いてくれたのだなと微笑む、昨日からの準備で、エレインは折角だから何かお出ししましょうとマンネルらと相談し、作業をしながらであればやはりアメが良いだろうとなって準備を指示している、どうせだから大量に作って学園関係者にも配りましょうともなっていた、
「えっと・・・あっ、この箱じゃないの、あっちー」
バタバタと駆け出すミナ、あー、行っちゃったーと寂しそうにその背を見つめるアンシェラ、
「・・・そうね、じゃ、アンシェラも行く?学園の中を見て回りましょうか」
マルヘリートが優しく微笑み、行くーと叫んで立ち上がるアンシェラ、羨ましそうに見つめるも立ち上がる事の無いレアン、しかし、
「ほら、レアンも行きなさい、どうせ飽きたんでしょ」
ユスティーナがニンマリと微笑む、ムッとレアンが睨み返すもそこは親子である、すっかり見透かされていた、なにせレアンは見るからに作業速度が落ちていたのだ、最初の一二枚は真剣に取り組んでいたのであるが、三枚目以降なんともやる気の無さが見て取れた、そしてアンネリーンが来てからは一枚も完成させていない、やれやれと横目で見ていたユスティーナである、
「・・・まぁ・・・学園内であれば詳しいですから・・・」
ムスッと顔を顰めて立ち上がるレアン、マルヘリートはまったくと微笑みつつアンシェラの手を引き、
「ほら、行きましょう」
と先に立つ、はいはいと続くレアン、そこへ、
「これ、これがガクエンチョウセンセーにあげる分ー」
と木箱を抱えたミナが戻って来た、
「はい、じゃ、こちらですよ」
エレインが先に立つと、
「俺も行くー」
とアーレントが飛び込んできて、さらに男の子の集団が飛び込んできた、オワッと驚くエレイン、あらまと微笑む大人達、
「ミナだけでいいのにー」
ブーと言い返すミナ、
「よくない、俺もーー」
ここはとアーレントを押しのけ叫ぶブロース、はいはい、じゃみんなで行きましょうと大きく手を叩いたエレインであった。
「うおっ、で、リシャルトはどうなった」
レイナウトがハッと気づいて振り返る、あっと顔を見合わせる従者達、呼びに行った一人が戻っておらず、ワタワタと周りを見渡す他無い、何より彼らとしても初めて連れて来られた学園である、どこに何があるかなど全く把握していなかったりするし、本来であれば学園の事務員が付き従うべき所であるが、今日の訪問はお忍びとまではいかないが突然の事で段取りが組まれていなかった、
「・・・致し方ない」
ブスーッと鼻を鳴らすレイナウト、申し訳ありませんと頭を下げる従者達、いやそりゃそうなるだろうと苦笑するタロウである、その瞬間、
「アーーーーーー」
大人数が行き交っているわりには静かなその空間を甲高い子供の声が引き裂いた、何事かと一斉に振り返る大人達、
「タローだーーーー」
さらに叫ぶその声、アッとタロウが振り向いた瞬間、小さな木箱が人波を縫ってタロウに猛進する、なんだと身構えた瞬間ドスンとタロウにぶつかる木箱、ついで、
「あー、ホントだー」
「タローセンセーだー」
「タローだー」
と子供の声が続く、あっそういう事かとタロウが気付いた瞬間、
「エヘヘー、なにやってるのー」
木箱の奥からピョンとミナの顔が覗いた、
「こら、危ないぞ、走るな」
とりあえずメッと優しく叱るタロウ、
「大丈夫ー」
「だいじょばない」
「平気ー」
「平気じゃない」
ムッと睨みあう二人、レイナウトがこれはこれはと目を細め、
「なんじゃ、儂には挨拶はしないのか?」
ニヤリとミナを見下ろした、
「エー・・・あー、誰だっけー、あれー、バントーさん」
木箱と一緒にピョンと跳ねるミナ、
「おう、久しぶりじゃのう」
ニヤーと微笑むレイナウト、
「うん、久しぶりー」
ニヘーとだらしなく微笑むミナである、タロウはおいおいと顔を顰め、ここはしっかりと挨拶させるのが正しいかと思った瞬間、
「これは、先代様、御機嫌麗しゅう」
慌てて駆けて来たマリレーナが勢いよく頭を下げ、エルマとミシェレも先代様?と一瞬首を傾げるも如何にも貴族らしいレイナウトである、ここはマリレーナに倣うのが正しいと背筋を正し一礼する、
「ムッ・・・おうおう、マリレーナであったな、どうしたこんな所で、レアンは確か刺繍とかなんとかと言っておったが」
「はい、その・・・色々ありまして」
サッと顔を上げるマリレーナ、
「お勉強したのー、レキシーのお勉強ー」
ミナがピョンピョン飛び跳ねた、
「おっ、そうかそうか、なんだ・・・あっ、いや、聞いておる、幼児教育であったな」
「はい、本日から本格的にとなっておりまして」
「ねー、面白かったー、あのねー、すんごい昔にねー、みんなで集まって街を作ったんだってー」
「昔・・・そうじゃな、昔じゃな」
「そうなのー、でー、なんかがなんかでなんかになったー」
ピョンと跳ねるミナ、エッと見下ろす大人達、
「・・・ミナ、そのなんかが大事だぞ」
ムゥと眉を顰めるレイナウト、確かにそうだと焦るタロウ、ありゃ流石に早かったかなと口元を歪めるマリレーナとエルマとミシェレ、他の子供達も木箱を抱えてそろそろと集まって来る、何の集団だろうと訝し気に見つめる通りかかった貴族達に平民達、
「そうなの?」
「そうじゃ」
「・・・難しかったー」
「それは致し方ないのう」
やれやれと微笑むレイナウトである、とりあえずニヘーと微笑むミナ、あーとタロウは微笑み、
「で、どした?みんなで来たのか?」
と話題を変える、
「うん、あのね、あのね、おっきいおっちゃんのお手伝いしたー、アメー、いっぱい作ったー」
これだとばかりに木箱を持ち上げるミナ、
「あら、へー・・・そういう事・・・」
スッとエルマに確認するタロウ、
「はい、エレイン会長が作業をしながらでも食べれるからと」
エルマが優しく微笑む、
「そっか、じゃ、ほら、ちゃんと届けないとだろ?」
「うん、お届けするー、エレイン様どこー?」
「あー・・・どこかな?」
ハテと学園の奥へ視線を向けるタロウ、
「あっ、先程聞いております、一階の奥の教室との事でした」
エルマもスッと視線を向ける、そこへ、
「こちらでしたか」
リシャルトがバタバタと駆けて来る、呼びに行った従者も同行していた、
「おう、では・・・なんだったかな?」
レイナウトが笑顔でタロウを窺う、
「あー・・・まずは・・・子供達ですかね」
タロウがポンとミナの頭に手を乗せる、ウンと大きく頷くミナ、リシャルトに事情を話すと、分かりましたと先導された、そして、
「あーーーーー、お嬢様いたーーーーー」
今度は教室に響くミナの叫び声、何だと顔を上げる作業中の貴族達とメイド達、こらまてと慌てて押さえ付けるタロウであった。
「うふふー、美味しー・・・」
「でしょー、えっとね、えっとね、みんなで作ったのー、おっきいおっちゃんとフロールちゃんのお母さんが小さくして、こうやってね、ころころーって板でね、丸めたのー」
アンシェラが目を真っ赤に染めつつ笑顔を見せ、ミナがピョンピョン飛び跳ね身振り手振りで大袈裟に説明し、アーレントはブロースも来ていると聞いてダッと廊下に走り出し、従者の一人が慌てて追いかけていった、
「これも作りたいなー・・・」
そろそろとアンネリーンを見上げるアンシェラ、
「そうですね、でも、これは教わっていないかしら?」
ニコリと微笑みコロカロと飴玉を口中で転がすアンネリーン、あっさりとした甘みがジンワリと口中を支配し、なるほどこれは溶けにくい黒糖なのだなと察するも、しかし黒糖のそれとは甘みの感覚が異なるようで、これはこれでまるで別の菓子なのだなと実感する、
「すこしばかり手間がかかるのです」
レアンがムフンと胸を張る、
「そうなの?」
「はい、そう聞いております」
レアンはニヤリとエレインを見つめ、あっさりと明確な返答を放棄してしまった、レアンとしてもそこまで詳しく無かった為である、エレインは笑顔で受け取り、
「そうですね、少しばかり・・・料理とは思えない手法で作ります、それと温度管理ですとか時間もかかりますので、このアメも昨日仕込んで漸く完成したものですね」
「まぁ・・・一晩かかるの?」
これには素直に目を丸くするアンネリーン、ユスティーナとレアン、マルヘリートもそうなんだと小さく驚いた、
「はい、フフッ、これもタロウさんに教わった技術なのです」
ネーとミナに微笑むエレイン、ウフフーと満面の笑みを浮かべるミナ、そしてガリッと心地良い音が響く、アッとミナはわざとらしく目を見開き、
「エヘヘ、嚙んじゃった・・・」
ムフーと微笑む、
「こりゃ、嚙んではならんのだろう?」
「そうだけどー、噛んでもいいのー、美味しいのー」
「駄目ですよ、すぐ無くなってしまいます」
エレインがやんわりと窘める、
「そうなの?」
「そうですよ、だから、上品にゆっくりと味わうのが作法です、味を楽しむ菓子なのですから」
笑顔で答えるエレイン、なるほどそうなんだーと他のテーブルに座る貴族達、メイド達もアメが詰まった藁箱を見つめる、商会の子供達が運び込んだ木箱にはさらに小さな藁箱に分けられたアメ玉が大量に詰まっていた、それらをどうぞと子供達が各テーブルに届けて回り、ミナ以外の子供達はすぐに隣りの教室に逃げ出してる、その教室に母親がいる為もあるし、なにより如何にも貴族らしい女性達の集まりである、緊張もしていたようであるし、いたたまれないのであろう、そうしてこれは丁度良いなと茶を淹れて一服する事とした一同であった、かれこれ午前の半分以上の時間、静かな教室での作業を続けており、そういう雰囲気でもあった、遺体の面会の後ともあって緊張感もあったが、それも時間が経てば薄れるというもので、しかしなんとヘルデル公爵夫人であるアンネリーンとその子供達までが参加する事態となり、違う意味での緊張感が醸成されていたりする、それらの複雑な雰囲気がミナの叫び声で簡単に吹き飛ばされ、さらにはこの甘味と暖かいお茶でやっと笑顔を取り戻した御婦人方に御令嬢方、メイド達であった、
「ムー、でも、いいの、いっぱい作ったからー、おっきいおっちゃんがねー、味見していいよーって言ったの、だからみんなで二個ずつ食べたー」
「こりゃ、それでは味見になっておらんだろ」
ニヤリと微笑むレアン、
「美味しかったからいいのー」
「その理屈は合わんぞ」
「どうでもいいー」
「どうでもいいとはなんじゃ」
「だから美味しかったらいいのー、ねー」
プンと顔を振ってアンシェラに同意を求めるミナ、
「美味しいからいいー」
アンシェラもピョンと跳ねた、でしょーと微笑むミナ、こりゃそういう問題では無いと譲らないレアン、すっかり上機嫌になったアンシェラであったが、ミナが来るまでアンネリーンに抱き着いてグスグスと鼻を鳴らして泣いており、マルヘリートもどうしたものかとすっかり困ってしまっていた、それも致し方ない、あの大量の遺体を前にし、一つ一つと丁寧に確認し、祈りを捧げる行為は幼児には辛かったようである、幼児らしい感受性もあるし、本能的な忌避感もあったであろう、天幕内の冷たいと感じるほどの寒さも良くなかった、三つ目の遺体に向かったあたりで怖いーと泣き叫んでしまった為、マルヘリートと共に天幕を後にし教室に入っていた、そうしてアンシェラはアンネリーンが戻るまでマルヘリートに抱き着いたまま動こうとせず、レアンもエレインもユスティーナにもなんとも出来なかったのである、而してアンネリーンが教室に入ってもその機嫌が直る事は無く、ミナが駆け込んできて漸く笑顔を取り戻している、恐らくであるがアンシェラもアンネリーンに抱き着いて落ち着いてはいたのであろうが、今度はどうやって普段通りに振る舞うべきか戻る切っ掛けが無かったのであろう、丁度良い所にミナが来てくれたものだと安堵したアンネリーン達であった、
「あーーー、忘れてたー」
ミナがピョンと飛び跳ねた、今度は何だと見つめる大人達、
「ソフィーとガクエンチョウセンセーにも持って行くのー、えっと、えっと、どこー?」
ワタワタと慌てだすミナ、そういう事かとエレインは微笑み、
「はいはい、じゃ、取り合えず学園長先生かしら」
スッと腰を上げた、
「うん、いっぱい作ったからーっておっきいおっちゃんが言ってたー」
「そうねー」
エレインは指示通りに動いてくれたのだなと微笑む、昨日からの準備で、エレインは折角だから何かお出ししましょうとマンネルらと相談し、作業をしながらであればやはりアメが良いだろうとなって準備を指示している、どうせだから大量に作って学園関係者にも配りましょうともなっていた、
「えっと・・・あっ、この箱じゃないの、あっちー」
バタバタと駆け出すミナ、あー、行っちゃったーと寂しそうにその背を見つめるアンシェラ、
「・・・そうね、じゃ、アンシェラも行く?学園の中を見て回りましょうか」
マルヘリートが優しく微笑み、行くーと叫んで立ち上がるアンシェラ、羨ましそうに見つめるも立ち上がる事の無いレアン、しかし、
「ほら、レアンも行きなさい、どうせ飽きたんでしょ」
ユスティーナがニンマリと微笑む、ムッとレアンが睨み返すもそこは親子である、すっかり見透かされていた、なにせレアンは見るからに作業速度が落ちていたのだ、最初の一二枚は真剣に取り組んでいたのであるが、三枚目以降なんともやる気の無さが見て取れた、そしてアンネリーンが来てからは一枚も完成させていない、やれやれと横目で見ていたユスティーナである、
「・・・まぁ・・・学園内であれば詳しいですから・・・」
ムスッと顔を顰めて立ち上がるレアン、マルヘリートはまったくと微笑みつつアンシェラの手を引き、
「ほら、行きましょう」
と先に立つ、はいはいと続くレアン、そこへ、
「これ、これがガクエンチョウセンセーにあげる分ー」
と木箱を抱えたミナが戻って来た、
「はい、じゃ、こちらですよ」
エレインが先に立つと、
「俺も行くー」
とアーレントが飛び込んできて、さらに男の子の集団が飛び込んできた、オワッと驚くエレイン、あらまと微笑む大人達、
「ミナだけでいいのにー」
ブーと言い返すミナ、
「よくない、俺もーー」
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異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
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