セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

36話 講習会と髪飾り その1

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「追い出されたー」

内庭で洗濯に勤しむソフィアの元にミナが寂しそうに項垂れて顔を出した、ついさっき馬車の音がしたとミナが騒ぎ表にでるとクレオノート家の馬車であった、六花商会側に停まった為、ソフィアが止めるのも構わずミナは事務所に走り出し、暫くしてこの有様である、

「あら、お仕事だったの?」

ソフィアは忙しく働きながらミナに問う、今日は六花商会の事務所にて料理の講習会であった、エレインとテラが忙しく動き、先程カトカまでもが荷物を抱えて事務所へ向かったのである、

「うん、なんか、人がいっぱいだったー、で、お嬢様が、仕事じゃ、待っとれって言ってたー」

ミナはつまらなそうに座り込み、レインはその背後でフンスと鼻を鳴らす、

「そっか、じゃ、待ってなさい、あれでしょ講習会だっけ?勉強会だっけ?でしょ」

「うん、なんかそう言ってた、エレイン様もテラさんもカトカさんも相手してくんなかった・・・忙しそうだった、知らない人いっぱいいたし・・・」

ミナはブーブー言いながら地面に指で何かを書き始める、しかし、特に何かを書いているわけではないらしい、丸や三角が適当に並び、形がある何かになりそうでなるわけではない様子である、

「ま、そういう日もあるわよ、みんなお仕事してるんだから・・・」

「そうだけどー」

ミナは悲しそうにソフィアを見上げる、

「まったく、仕方ないのー、ミナも仕事するか?」

レインが見かねて提案する、

「お仕事?お買い物?」

「それもじゃがな、うむ、ソフィア、何かあるか?」

「あー、そうね、うーん、あ、お家のお掃除しましょうか」

「えー、掃除ー」

「そうよ、お家の一階って掃除してないからね、綺麗にお掃除してくれたら嬉しいなー」

「えー、でもー」

ミナはウジウジと口を尖らせる、

「そうだの、どれやるか、掃除も大事なお仕事じゃぞ」

レインが腕捲りをしてニヤリと笑う、

「うー、分かったー、やるー」

「あら、嬉しいわ、道具は倉庫から持ってきて、宜しく頼むわよ」

ソフィアは汚れを落としたシーツをまとめて搾りながら笑顔を見せた、

「ほら、行くぞ、競争じゃ」

レインがサッと寮内へ戻り、

「あ、待ってー」

ミナも勢いよく立ち上がるとその背を追った。



「では良く聞いて下さい」

事務所では黒板を背にしたライニールが居並ぶ先輩達を前にして堂々と主旨説明を始めた、集められたのはクレオノート伯爵家に仕える料理人と調理を主にするメイド達、10名程である、彼らは長テーブルを机として整然とライニールの言葉に耳を傾けているがやはりその顔は緊張の為か、はたまた慣れない環境の為か、ライニールへの反感の為か、何にしろ一様に渋く不愉快そうなものであった、しかし、そのような状況でも不満の一つも出ないのは、この場にレアンとユスティーナの姿があるからであろう、主人である二人が誰よりも真面目な顔でライニールの文言を静かに傾聴している、口から生まれたと自身でもそう言って憚らないメイドの一人も、年長で若い者を馬鹿にすることを当然としている料理人の重鎮も、雇用主の前では軽口どころか溜息も押し殺し表面だけでも真面目にならざるをえない様子である、

「というわけです、では次に料理の流れを説明致します」

今日の講師役はライニールである、参加者達はライニールの口上は挨拶のみと思っていた様子でやや不穏な空気となるが、ライニールは全く意に介さずに経緯と主旨を説明し終えると、主題となる料理の構成について講義を始めた、

「現時点では構想であります、料理を5~6品供する事を考えております、大きく分けますと、まずは軽い物、次にその日の主となる料理、次に甘味となります、付随するものとして適時パンを提供する事になるかと思います」

ライニールは黒板にカッカッと小気味よい音を立て板書する、それを見ながらカトカは自前の黒板に書き付けていた、数枚の木簡をテーブルに並べ、参加者の中では最も忙しそうである、カトカは本日は書記として参加していた、エレインとテラと共に最も後ろのテーブルに座を占めている、カトカは今朝方ユスティーナとレアンから直々にその役を仰せつかっていた、資料としても、記録としてもしっかりとしたものを残したいという二人の要望があり、エレインがそういう事ならとカトカに頼み、ユーリにも大急ぎで許可を得た、昨日、テラやケイランと下準備に忙しくしたがそれでも足りない事があるのだなと、レアンは難しいものだと一つ学んだ様子であった、

「さらに付随するものとしては酒類又は白湯になります、こちらは顧客の要望に答えるように致します、現状のようにテーブルに供して終わりとは致しません、さらに、調味料の類も出来うるだけテーブル上には置かない事が肝要と考えます」

ライニールは料理そのものに関しては詳しい説明は省いている、その話題になると料理人達の方が遥かに上であり、ライニールでは太刀打ちなど出来はしない、故に、その周りにある事を重点的に言葉にし板書していく、この講習会の肝が正にそこにあるからでもある、

「以上、ここまでが料理の構成に関する内容になります、質問はありますか?」

ライニールが振り返り参加者を睥睨する、皆、理解しているのかしていないのか、渋い顔はそのままであり、積極的に口を開く者も無い、軽く居住まいを正したり、額をポリポリと掻く者もいるが、皆、理解の程度が読み取れない面相であった、ライニールはややその顔を曇らせつつもこういうものだと自分に言い聞かせつつ、次の議題を手元の木簡で確認する、ライニールにとって気休めとなるのはユスティーナとレアンの満足そうな顔と、屋敷の者達とは異なった実に真剣な眼差しを向けるエレインとテラの存在である、さらに壁際に立ち心配そうに注視するケイランの姿も助けとなった、

「宜しいですね」

ライニールは意識して笑顔を作ると、

「次に、食器に関してです、経緯に於いて説明しました通り」

ライニールは側のテーブルに置いた木箱から三つ揃いの銀食器を取り出しつつ講義を進める、そこから食事作法の確立と給仕に関する構想が説明された、

「今説明した事に関しては、構想に沿った料理が出来たら、改めて構築する事となるかと思います、その場合、給仕にたずさわるメイドの教育が必要となるかと考えます」

ライニールはそう締め括った、ライニールもやはり慣れない事をしている為か額に汗を掻いており、その声量は当初よりやや落ちてきている、ライニールとしては参加者の反応が鈍いのは覚悟の上であり、想定していた事であったが、鈍いどころか皆無である、レアンやユスティーナの眼前である為虚勢を張っていたが、若干の無力感が両肩に覆いかぶさってくる、しかしライニールは事前に用意した木簡をザッと眺め、講義として必要な項目は一通り済んだ事を確認すると、改めて言葉に力を込め、

「講義は以上になります、では、実際の料理の一例を紹介します」

ライニールは大きく吐息を吐いて、空元気を振り絞ると明るい声で壁際に立つケイランへ指示を出す、ケイランは静かに一礼すると厨房へ向かい、盆に3種の皿を持って戻ってきた、

「それでは、こちらがその一例になります、皆さん席は自由に」

ライニールは盆を丸ごと受け取り一番手前のテーブルに静かに置いた、3種の皿はマヨソースを使ったサラダ、アイスケーキを使用したデザート、そしてもう一つは伯爵邸で昨日の夕食で供された肉料理である、しかし、その姿は大きく変わっており、適度な大きさに刻まれた肉料理を中心に茹で野菜が飾られ、マヨソースと塩と酢が流星のようにその周りを彩っている、

「これは・・・」

「なんと・・・」

そこでやっと参加者にちょっとした反応がある、目の前に置かれた料理人の口からやっと言葉らしきものが聞こえ、後ろの席の者も腰を上げて前の者の肩越しに3種の料理に視線を向ける、

「皆さんにはこちらのような料理を作っていただきます」

ライニールはニヤリと微笑みつつ参加者の一人一人の反応を探る、

「いや、ライニール、黙って聞いていたが、これを作るのか?」

「うむ、量も少ないし、大皿に対して空きが大きすぎる、これでは、豪華さが足りないし、物足りない・・・」

「そうだ、このような皿では御館様が出し渋っていると思われてしまう」

「皿いっぱいに盛ってこそではないのか?」

「そうね、えっと、これを一皿一皿作るのよね、すごい手間じゃない」

料理人から不平らしい言葉が次々と出てくる、しかし、ライニールは静かに頷きつつ、

「先程も話しましたが、料理については、見て楽しむ、味で楽しむ、香りを楽しむ、この3点が重要です、そしてもう一つ」

ライニールは人差し指を立てると、

「会話を楽しむ・・・いいですか、皆さんにこれから取り組んで頂く事は、料理を供するのみならず、会食の場を彩る料理の開発とそれを中心とした会食という名の社交場を作り上げる事なのです」

ライニールはフンスと鼻息を荒くして、

「皆さんにお願いするのは、より美しく、より楽しめる、より美味なる料理です、皆さんの料理の腕は御館様も奥方様もなんの不満もありません、それどころかモニケンダムで一番、王国内でも比肩するもの無しとの評価です、その皆さんの腕を見込んで、協力頂きたいのです、それは今までの常識を全て覆す料理です、皆さんの意見は全くもってその通りです、しかし、味と香りを楽しめますが、見て楽しめますか?ただ皿に盛られた料理で?この皿をじっくりと御覧下さい、美しいと思いませんか、さらに、食べやすいのです、肉をわざわざその場で切り分ける必要も無く、好みの調味料で好みの味に調整できる、その調味料さえ皿の上の彩なのです、さらに申せば、この皿の上には食べられない物は乗せておりません、実に合理的と思いませんか?想像して下さい、このような皿が一品一品供され、その度に感嘆の声を上げるやんごとなき方々の様子を、一皿一皿に話題が生まれ、会話が盛り上がる、料理人として至福の時ではないですか?」

ライニールはここが攻め時と興奮しつつ言葉を続ける、

「正に今、目にしているこのような料理を開発して欲しいのです、さらに言いましょう、構想する一連の食事作法にまつわるあらゆる事項が完成した暁には、このモニケンダムの料理が、皆さんの努力が、貴族社会の新たな会食作法として普及していくものと、そう確信しておるのです」

ライニールは力強く言い放ち、レアンとユスティーナが頼もしそうに頷く、カトカの手が走り、エレインとテラはその情熱に感嘆の吐息を漏らした。
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