セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

文字の大きさ
311 / 1,445
本編

36話 講習会と髪飾り その2

しおりを挟む
「ふー、緊張したのー」

「ふー、疲れたー」

寮の食堂でレアンとミナがソーダ水を片手に溜息を吐いた、その隣りのレインは鼻息を荒くしたのみである、

「どうでした?講習会」

ソフィアがニコニコとレアンを労う、

「うむ、良い感じじゃ、懸念していた点はその通りであったがの、ま、後は連中の考えしだいかのう、難しいようであれば、料理の開発もエレイン会長に任せようかと思っておるのじゃ」

「あら、でも、それは大変じゃない?」

「うむ、じゃからの、今日はある意味で、何と言ったか・・・試金石かの」

「まぁ」

ソフィアは驚いて見せる、

「うむ、前向きに取り組める者とそうでない者、料理そのものは難しい物ではないが、分野としてはまるで異なる事をやらせようとしているからの、そういう意味で選別が必要かとも思っての」

「厳しいですね」

「そうじゃのう、楽しんで取り組んで貰えば嬉しいのだが、古い者には難しいかもしれん、ま、そこは母上と父上の考え次第だの」

レアンはソーダ水を大きく呷る、

「グハー、美味いのう」

「ねー、ミナもお仕事したのよー」

ミナがレアンを真似て大きく呷る、

「こら、ミナ、こぼすわよ」

「んー、大丈夫ー」

「無理するでない、まったく」

レアンがニコニコとミナを見つめ、ミナはムフフと笑顔で返す、

「しかし、あの絵は良いの、どうしたのじゃ額装するとは凝っておるの」

レアンが視線を暖炉に移した、

「でしょー、ガクエンチョーとレインと一緒に書いたのよー」

「そうか、あー、綺麗な方がレインが書いたのじゃな」

「むー、どっちも綺麗でしょー」

「そうだの、ミナの方は元気があって良いのう」

「むふふ、みんなそう言ってくれるのー」

「それと、それは何じゃ?じっくり見ても良いか?」

レアンの視線はあっさりと黒板へ移った、黒板の隣りの壁には改築予定の図面が貼られており、黒板には生徒達の要望が箇条書きで乱雑に記されている、

「どうぞ、研究の一環ですね、寮の改築計画です」

ソフィアが端的に説明する、

「ほう、どのような研究じゃ?」

「あー、地下の下水道に関してはお聞き及びですか?」

「うむ、父上から概要は聞いている、今のところは問題が無い故に放置で構わんとそう仰っていたが」

「そうですか・・・はい、それの実証実験ですね、あの遺跡でどのような事をしていたかを検証する為の改築ですね」

「ほう、それは興味があるのう」

レアンは席を立って図面に向かう、

「風呂場か・・・わざわざ作るのか・・・それと貯水槽?・・・トイレ・・・おう、この鏡の並んだ壁は良さそうだのう」

「そうですね、完成したら是非お使い下さい、歓迎しますよ」

「貯水槽とはあれか、水を貯めるのか?」

「はい、大きめの樽を使用する予定です」

「ほう、しかし、3階に貯水槽となると水を汲み上げるのが大変ではないか?風車でも置くのか?」

「あら、流石お嬢様、そこに気付くとは」

ソフィアがニコリと微笑み席を立つとレアンの側に歩み寄る、

「この図面の肝は貯水槽と上水道の配管なのです、このほそい線ですね、貯水槽から各階へ通して、最終的には外へと流れます、貯水槽への水の供給は今のところは秘密という事で御容赦下さい、完成してから目にするのが理解が早いです」

ソフィアは図面を指し示しつつ説明する、

「む、これもあれか、上の方のあれなのか?」

レアンはムッとしてソフィアを見上げる、

「そう思って頂ければ・・・今のところはですね、研究所としましても上手くいくかどうか不明な点が多くて、ここで変に知識を入れられても困るとの事でした、故に詳細は実際の物が出来てからという事でお願いします」

ソフィアは研究所の名前で上手いこと隠蔽する事としたらしい、昨日も似たような事を言ったな等と思いつつ愛想笑いをレアンへ向けた、

「むう、研究所か・・・すると、王家直轄であったか、まったく」

レアンはそれで納得したのか鼻息を荒くする、

「申し訳ありません、しかし、現時点で言えることは、こちらの検証が上手くいけばモニケンダムに・・・それどころか王国全体に富を齎す物になるとそう御理解下さい、お嬢様が力を入れている食事作法もですが、こちらの仕掛けも王国の常識を覆すほどのものになると研究所では・・・」

「それはどういうことだ?」

「そうですね、学園から報告はいっていると聞いておりますが・・・何にしろこの図面の目的が完遂されれば誰もが理解し、納得出来るはずとそう考えております」

ソフィアは曖昧な表現で誤魔化す事とした、レアンは眉根の皺をより深くするがそれ以上質問を投げる事は無かった、ムスッとした顔のまま図面へと視線を戻す、

「百聞は一見にしかず、百見は一考にしかず、百考は一行にしかず、百行は一果にしかず」

レインがボソリと呟き、

「ムー、レインがまた難しい事言ってるー」

ミナがソーダ水を弄びながら不満そうにレインを睨む、

「ふふん、そのままじゃ、そのままじゃよ」

レインはにやりと微笑み、と同時にソフィアの鋭い視線がレインへ向かう、

「おう、そうだ、スイカを持っていくか?メロンも残り少ないぞ」

ソフィアの厳しい視線を誤魔化すようにレインはレアンへ笑いかけた、

「む、あの美味いメロンか」

レアンは簡単に機嫌を直して振り返る、

「うむ、スイカも美味いぞ、な、ミナ?」

「うん、スイカもすんごい甘いのよー」

「ほう」

レアンは楽しそうに二人の元へ駆け寄った、

「いいの?二人がいいならお裾分けする?」

ソフィアがやれやれと微笑む、

「する、お裾分けー、菜園いこー」

ミナがピョンと立ち上がる、

「お裾分けか、申し訳ないのう」

レアンが言葉とは裏腹に嬉しそうな満面の笑みである、

「そうじゃの、どれ、選ばせてやるか、美味しいやつを選べるか?お嬢様に?」

レインは挑戦的な視線をレアンに投げかけ、

「む、目利き勝負か、受けて立つぞ」

「うむ、その意気やよし、行くぞ」

レインが席を立つやいなや厨房へ走り、

「うん」

ミナも駆け出した、

「む、負けるか」

レアンも負けじと走り出す、

「こら、走るな」

ソフィアの食堂を震わせる程の一喝が響いたが時すでに遅し、3人の背はソフィアの視界から綺麗に消えていた。



「こちらでしたか」

ライニールがヒョイと内庭へ顔を出した、菜園では3人がキャッキャと楽しそうに騒いでいる、

「おう、ライニールか、スイカとメロンを頂いたぞ、極上品じゃ」

レアンが嬉しそうに両手で抱えた二つの果実を見せつける、共に丸々と大きく重そうで、陽光を受けて健康的にピカピカと輝いている、

「むふふ、幻の一品なのよー」

「そうだの、しかし、お嬢様が選んだブツはどうかのう」

「むう、絶対に美味しいぞ、この大きさといい重さといい、一級品であろう、音も良いではないか」

「どれを選んでも一級品じゃぞ」

「そうなのよー」

「ならどれでもいいじゃろー」

「ふふん、どうじゃろうのう、食してみなければな」

レインの悪そうな笑顔にレアンはなにをと言い返す、3人はけたたましく騒ぎ続け、ライニールはヤレヤレと優しく微笑みつつ、

「御館様も喜ばれます、お嬢様が自慢ばかりなされておりましたから」

「そうであったか」

カラカラとレアンは笑い、

「そうか自慢しておったか」

「えへへー、美味しいもんねー」

ミナとレインも嬉しそうである、ライニールはレアンからスイカとメロンを受け取ると、

「さ、お嬢様、試作品が出来ました、試食を是非お願い致します」

笑顔はそのままに用向きを伝える、

「おう、そうか、どうだ、塩梅は?」

「上々かと、渋っていた料理長もやはりその道の熟練です、素晴らしい一皿となっております」

「そうか、うむ、ミナ、レイン行くぞ、我が家自慢の料理長が作る逸品じゃ、ソフィアさんの料理にも負けぬ味を約束しよう」

レアンが振り向いた、

「え、いいの?」

「ほう、楽しみじゃの」

「勿論じゃ、美味い物は皆で食さねばの」

「えー、でも、でも、ソフィーの料理はセカイイチなのよー、タロウが言ってたー」

「ほう、では料理長の料理はモニケンダムイチだぞ」

「えー、どっちが上なのー」

「はっはっは、どっちも美味いのじゃ、だろ?」

「そうじゃぞ、ほれ、行くぞ」

レアンが率先して厨房へ入り、ミナとレインも嬉しそうにそれに続いた、ライニールは手にした果物の処理に一瞬苦慮し、

「馬車に置きますか・・・」

そう呟いて3人の後へ続いたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...