セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

53話 新学期 その9

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その夜、深夜と呼ばれる時間になると学園のユーリの事務室から二つの人影がヌルリと滑り出た、二つの影は無言で学園内を進み、やがて、学園の2階にある修練場を見下ろす部屋に至る、そこは王族達が酒宴や茶会を開いた部屋であった、

「そろそろかしら?」

「そうね、やっと力尽きてくれそうね」

大きく開かれた木戸から光柱の光が差し込み、魔法による煌々とした光が二人の顔を照らしている、修練場には荒縄で境界線が示され、その内側に光柱を背にして衛兵が数人立っていた、夜の見物客はいない、初日の狂騒は幻であったかと思うほどに動く者は居らず、ただ、学園外には今日も屋台が出ている様子で、そちらから時折遠慮の無い酔客達の大きな笑い声が響いて来ていた、

「取り敢えず、このまま?」

「そうね、ロキュス大先生が光が収まったら弟子達に試させたいって」

「今度はそれかー」

「そうね、あと、うちの学部長達も試す気満々みたい」

「それはそれは、大人気じゃない」

「でもねー」

「うん、大した事にはならないような気がするわね」

「そうなのよ、どうせなら小さい物を作りますって言ったんだけどね」

「納得しなかった?」

「うん」

「そりゃそうよね」

「そうなのよ、ま、小さいものなら大先生でも作れると思うしね、どこまで解析できたのかは分からないけど」

「再現できると思う?」

「どうかしら?大先生としては数人で同時発動する事を考えているみたい」

「ありゃ、それ、戦争の時に失敗したやつじゃない?」

「そうよ、多分だけど」

「少しは進歩したのかしら?」

「どうだろう?ゾーイさんやリンドさんは微妙な顔してたな、多分上手くいってないんだと思う」

「そうなんだ・・・ま、色々やってもらうしかないわね」

「そうね」

「あっ、クロノスがね、灯台に使えないかって、考えておいてくれって」

「灯台?」

「うん」

「何それ?」

「ほら、北ヘルデルにある、岬の所に塔が立ってたじゃない、で、上で火を焚いてる感じの」

「・・・あー、あれかー・・・あれって何に使ってるの?」

「暗くなってから漁するときに目印にしてるらしいわよ、よく知らないんだけど」

「へー、漁ってあれでしょ、網投げたりするんでしょ」

「そうじゃないの?私だって詳しくないわよ」

「それもそうか、ふーん、何?有効利用を思いついた?」

「そうじゃないの?あれもちゃんとした領主様だからね」

「ちゃんとしてるのかしら?」

「そこそこじゃないの?陛下に聞く限り可もなく不可もなくって感じかしら?」

「なら十分ね」

「そうなの?」

「為政者に完璧を求めちゃ駄目よ、神様じゃないんだから、そうあろうとするのが大事なんじゃない?何事も」

「あら、珍しく優しいのね」

「まぁね」

「で、どうする?」

「うーん、現状を確認してからかな・・・ほら、せめて・・・そうね、ゾーイさんくらい使える人がいればね、何とでもなるんだけど、そんな人居ないしね」

「そうよねー、カトカさんやサビナさんでもいいんじゃない?」

「あー、あの子らはだって、得意不得意がはっきりしてるから、でもそうか、あの子らくらいなら普通に居るかしら?」

「普通には居ないでしょうけど、探せば居るんじゃない?」

「かもね、あ、向こうの研究所にもそれなりのが何人か居たな、それにやらせるか・・・それが良さそうね、うん、その上で、光系統か炎系統で灯りの魔法が得意なら尚良しって感じ?」

「精霊魔法でもいいんじゃない?エレインさんとか結構上手よ」

「そうみたいね、ま、松明でも使えるようにする予定だからいいんだけど、灯りとしては弱くなっちゃうかな・・・ま、いいや、作ってみないと・・・そうなると、人材は良しとして、結界の方ね、虚空結界だと寿命がね」

「そうね・・・あんたの陶器板のあれは使えない?」

「考えてはいる・・・んだけど、ガラスで再現できないかなって思ってる」

「あら、カッコイイわね」

「うん、でも釉薬が乗るかどうかなのよね、陶器板に陣を描いてそれにガラスを重ねてもいいかなって、でも、ならあれね、ガラスは邪魔になるのかなって感じ?やってみなきゃだけど、ちょっと時間かかるかな?」

「なるほど・・・いいんじゃない、面白そう」

「あんたやる?」

「無理」

「簡単に言わないでよ」

「私はあんたほど頭の出来が良くないのよ」

「はっ、そんな事全く思ってもないくせに」

「・・・わかる?」

「そりゃもう」

「ただ、少なくともあんたほど真面目ではないからね、飽きっぽいし」

「あら、それは認めるの?」

「まぁね」

「殊勝な事で」

ユーリが呆れ顔でフルフルと顔を振った瞬間、唐突に闇が訪れた、修練場ではバタバタと歩き回る音が響き、街路からは悲鳴と歓声の入り混じった奇妙な叫び声が響いてくる、そして、準備していた松明が灯されたようで、修練場には赤い灯火が蠢き、学園からは複数人の影が走り出る、

「良かった、最後はあっさりしたものね、想定通りかな?」

「そうね、何かあったらと思って来たけど」

「ん、あとは大先生に任せましょうか」

「明日も早いしねー」

「さっさと戻りましょう、捕まったらそれはそれで面倒よ」

二つの影が音も無く暗い学園の廊下へと紛れて消えた。



翌朝、新学期の始まりであり、新入生達の本格的な学園生活の始まりの日である、早起き組の面々にはケイスが加わっており、昨日よりも念入りに洗顔とおめかしに余念が無い、それなりに緊張しているのであろう、食事中もどこか不安そうにソワソワとしており、ケイスは、

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

優しい声をかけ、

「そうですね、今日は式典と授業内容の説明程度です、あっ生活指導もあるかな・・・」

オリビアも冷静な言葉で大した事は無いと告げる、

「そうなんですよね、聞いてはいるんですが・・・」

「うん、落ち着かないです」

「なんだろ、ゾワゾワする」

グルジアを始めルルもサレバも浮足立っている様子であり、コミンとレスタはいつも以上に言葉が少ない、

「ま、何かあったら私もジャネットも居るし」

「そうですね、ユーリ先生もいらっしゃいますから」

先輩二人は自分達も初日はこんな感じだったなと微笑みを浮かべ、

「どうしたのー?」

ミナが落ち着かない雰囲気を察して生徒達を見渡した、

「ふふっ、今日からまた授業があるんです、みんな初めてだから緊張してるんですよ」

オリビアが優しく説明すると、

「そうなんだー、いいなー、ミナも行きたいなー」

「そうですね、もう少しおっきくなったら行きましょうね」

「おっきくならなきゃ駄目?」

「ちょっと難しいと思います、ミナちゃんはちゃんと勉強してますから、もしかしたらついていけるかもしれませんけど、勉強は難しいですから」

「ブー、そうなんだー」

ミナが寂しそうに俯いた、

「午後にはみんな帰って来ますから」

「うん、あっという間だよ」

ルルとサレバが明るく微笑むがどこかぎこちない、

「待ってるー」

「そうね、待っててね」

グルジアも優しいがどこか硬い笑顔をミナに向けた、やがて、ジャネットとエレインが起きて来て、ユーリものそりと顔を出す、そして、

「じゃ、今日は私と一緒に登園するわよー」

ユーリが食事を終えた直後に大きく伸びをしながら一同に声を掛けた、身支度を終え鏡の前や暖炉の前をウロウロとしていた一同が一斉にユーリを見つめる、

「えっ、どうしたんです?」

ケイスが驚いてユーリを見上げ、

「うん、何?今日何かあるの?」

ジャネットも目を剥いた、

「えっと、入園式?」

「それは知ってます」

「じゃ、あれ、学園の説明会?」

「それも知ってますよー」

惚けた事を言い続けるユーリにジャネットとケイスは眉根を寄せて不満そうな視線を向ける、

「あー、なんだっけ、昨日ね、ダナに言われてさー、初日は寮の先生が先導するものなんだってー」

他人事のように言うユーリである、

「えっ、そんな風習があったのですか?」

「風習って、大袈裟だなー」

ユーリはカラカラと笑い、

「まぁね、そうらしいよ、ほら、硬くなっちゃって不安な子もいるからって事らしいわね、ま、そういう行事だと思いなさい」

「なら、私らでいいんじゃないですか?」

ジャネットがムンと寂しいが厚さはある胸を張る、

「そう思うけどね、一応先生だし、ちゃんとした大人がいるんだから、学園の顔を立てる事も大事よ」

ユーリはそう言って踵を返す、

「それって学園の顔を立てる事になるのかな?」

ジャネットの素直な疑問に、ユーリは知らないわーと即座に答え、

「じゃ、支度するから待っててー、それと、大きい袋を持ってくと楽よー」

ヒラヒラと手を振りながら階段へ向かう、

「あっ、そうだ、うん、みんな袋ある?」

「えっと・・・」

とバタバタと袋を取りに自室へ戻る面々であった。
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