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本編
68話 冬の初めの学園祭 その12
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「ありがとねー、カトカさん」
ソフィアが大荷物を両手に下げて食堂に入ると、
「すいません、寝てましたー」
「なーにー?」
と暖炉の前、新開発の寝台で二つの影がピョコンと立ち上がる、
「あら、二人して昼寝?」
ソフィアがニコリと微笑む、二つの影はミーンとティルであった、共に寝ぼけ眼のようでボウッとあらぬ方向を見ている、寝台にはエレインが使っていないからと綿の入った敷物が敷かれていた、貴族様御用達の高級品である、普段藁を敷き詰めて寝ている平民にとっては正に高嶺の花とまで言える品で、昨日ミナが動きたくないと駄々をこねるのも致し方ないと誰もが認める程に心地良い寝台と化してしまっていた、さらに毛布が二枚備え付けられている、昨晩ミナがその寝台で眠ってしまった為で、タロウもソフィアもこのまま寝かせて置くのが静かでいいかと毛布を持ち込み、他の面々はその幸せそうな寝顔を見つめ心底うらやむほどであった、
「そうなんですよー、私の寝台を奪った大罪人です」
カトカはその傍の椅子に腰掛け書を開いていた様子である、ニヤリと二人を見つめた、
「それは極悪人だわね、どう?気持ち良かった?」
「はい、とってもー」
「うん、もう離れられないですー・・・」
普段はその職業柄、気を張って凛としている二人であるが、年相応もしくは幼児退行でもしたのかと思われる程のだらしない様子にソフィアもカトカも思わず微笑んだ、
「そっか、まぁそのうち売り出されるだろうからね、ゆっくりお金を貯めておきなさいな」
ソフィアはよっこいしょと荷物をテーブルに持ち上げる、
「なんですか?買い出しにも行ったんです?」
「農学科?のお野菜よ、安くてね、物も良いから大量に買ってきちゃった」
「へー、それは良かったですねー、そっか、農学科か・・・確か農家さんに研修だか実習だかに行ってるとか」
カトカは書を閉じて腰を上げ、ソフィアに歩み寄り荷物を覗き込む、カトカは本日は留守番であった、ソフィアは当初学園祭に行く気は無かったらしく、生徒達は是非来て欲しいと懇願するが、寮の仕事があるからねーと仕事を理由に見事な出不精を発揮していた、しかしユーリがカトカを留守番に置くからあなたは顔を出しなさいと口を挟み、カトカはそうですよーと援護する始末で、そっちの方が問題だろうとソフィアは反論するが、カトカとしては学園祭はおろか出し物の受付等以ての外でやりたくないと明け透けに頬を膨らませており、それはそれで駄目だろうと少しばかりの口論の末、結局ソフィアはミナに同行する事になったのである、而して今朝方カトカは一行を見送った後、王国では唯一である豪華な寝台に寝そべりその寝心地を満喫した、来客も無く、気付けばミーンとティルに起こされる始末で大変にばつが悪かった、しかしその二人も寝台の魔力に見事に取り込まれたようで、カトカとしてはまぁこれでおあいこかしらと、自分の恥辱は相殺された事にした、
「らしいわね、で、これが冬キャベツ」
「あらおっきいですねー」
「でしょー、で、玉ねぎとー、カブー」
「あらこれも・・・へー、丸々してるー」
「全くよ、今日はお野菜中心だわねー、どれもこれも美味しそう」
ソフィアとカトカが仲良く戦利品を覗いていると、その背後の二人はやっと完全に覚醒したようで、しかし、その寝台の魅力には抗えずノロノロと後ろ髪を引かれながら何とか足を下ろしスリッパを引っ掛けた、幼児のようなグズリっぷりである、
「あっ、ミナちゃん達はどうしたんです?」
「まだ見物しているわよ、向こうでタロウと合流してね、あと、ユーリとも、なんだかんだと騒いでいたわ」
「それは良かった」
「カトカさんはいいの?お留守番任せちゃって言う事じゃないし、昨日も話したけどさ、面白かったわよ、それなりに」
「いいんですよ、私は人が多い所は苦手で・・・」
「そうなの?もう、まぁ、人が少ないところでも目立つからね、カトカさんは」
「別にそういう意味ではないですよー」
「あら謙遜かしら?あっ、でもあれよ、フィロメナさん達も来てたわね、やたら目立ってたわ」
「あっ、そうなんですか?」
「うん、染髪とか調髪とかでお世話になりますーって、フィロメナさんも律儀というか礼儀正しいというか、あの見た目とは大違いよね」
「そりゃだって、遊女さんならその辺得意なんじゃないですか?商売柄」
「そりゃ得意だろうけど・・・あっ、カトカさんはあれねフィロメナさんに教えを乞うべきね」
「何をですかー」
「男の転がし方」
「またそんな事言ってー」
「だって、カトカさんなら簡単でしょ、楽してチヤホヤされなさいよ」
「だったらソフィアさんもそうすればいいんですよー」
「私は駄目、女に媚び売る男は嫌い」
「それは私もです」
「あら・・・じゃ駄目ね」
「駄目ですよ」
「残念、そういう悪女なカトカさんも見てみたかったなー」
「悪女って・・・酷いなー」
二人がケタケタと笑っていると、漸くその後ろの二人も仕事だなと決意を固めたようで、
「えっと、今日はどうします?」
「お野菜が中心ですか?」
と二人の会話に割り込んだ、
「そのつもりー、あっ、あんたらはどう?お祭り行かないの?」
ソフィアはニコニコと振り返る、どうやらソフィアは学園祭を殊の外気に入ったらしい、それとも単なる社交辞令であろうか、
「明日の午前中に行こうかと思ってましたけど、どうでしょう?」
「どうって言われてもだけど、今日は結構混んでたわよ朝から」
「そうなんですかー」
「午後になってからも凄くてね、ほら、光柱が目立つ・・・というか、あんなのがあったらそりゃ集まるわよね、焚火に飛び込む虫みたいなものよ」
「またそんな言い方してー」
「だって、ホントにそうなのよ、警備の人達がヒーヒー言ってたわね、だから、明日も似たようなもんじゃないのかなって思うわよ」
「なるほど、じゃ、やっぱり午前中の方がまだ良さそうですね、人が仕事している内に楽しみましょう」
「そうなるわねー、じゃ、何を作ろうかしらー・・・冬キャベツ・・・軽く湯がいただけでも甘くて美味しいわよね」
「ですねー、あっ、マヨソース作りましょう」
「そうね、他には・・・」
「トウフを所望します、トウフと炒めて下さい、オカラでも可です、いいえ、ここはオカラと炒めるべきです、トウフはそのままが一番宜しいと思います、トウフです、トウフで全てを解決できます」
「それは無理ねー」
「何でですかー」
「だって、準備してないもの、あれ一晩水に漬けないとだからね、大豆を」
「ぶー、じゃ、毎日漬けて下さいよー、トウフー」
「はいはい、可愛い顔でねだっても無理は無理よー、あっ、でもあれか、明日はトウフにしようかしら・・・タロウさんが揚げても美味いぞって言ってたのよね・・・」
「なんですかそれ?」
「焼いてもそのままでも美味いけど、揚げたら揚げたでまた違うとか・・・美味しそうよね、あと鍋にしてもいいぞーって、そりゃスープに入れても美味しいんだから鍋で煮ても一緒よねって思ったんだけど、なんか違うらしいのよね、鍋は鍋だろって訳の分かんない事言ってたわ・・・あれにやらせるか・・・良く分かんないし・・・」
「マジですか・・・いえ、絶対美味しいですよ、保証しますよ、トウフですよ、何やっても美味しいですよ、絶対ですよ、間違いないですよ」
「そんな興奮しないの、じゃ、そういう事で、今日は他に・・・」
と本腰を入れて支度に取り掛かるソフィア達であった。
そして寮では夕食が終わる頃合いとなる、闇が濃くなりつつある曇天の下、学園の光柱は見事なその威容でもって街を照らし続けていた、夜の街は当然のように活気に包まれ、学園前の大路では屋台の群れが盛況となっている、正に祭りの光景で、祭りの雰囲気が街を包んでいる、
「これはまた形が違うのだな」
「はい、ユーリ先生が折角だからと工夫したのです」
「そうなのか?お前忙しいんじゃなかったのか?」
「それはだって、折角だもん、ゾーイも居たし」
「あれも有能だな、壺も皿も使いやすい、大したもんだ」
「タロウの意見も入れたのよ、最初の壺はほら、転がってたから使ってみただけらしいしね、本人曰く魔法陣の練習用だって、それでも凄いけどね、まぁ、もう少し改良していくみたいだから、気長に待ちなさいよ」
「そういうものか?まぁいい、で、量産はするのか?」
「それはそっちでやるんじゃないの?」
「こっちで出来るなら頼むよ、改良も進めるんだろ?結局さ」
「そうだけど・・・まぁ、ちょっと算段できるかなーって感じにはなってるのよね、こうなるとゾーイに任せるか・・・他にもお願いしたい仕事はあるんだけど、こっちが先よね、ある程度段取りできれば管理するだけになる・・・そう上手くはいかないでしょうけど・・・私としては便利になる分には嬉しいのよね、でも人を選ぶからな・・・その点が気掛かりかしら?」
「確かにな」
「もう少し先になるけど・・・まぁ、その内にあんたの方が形になればそれはそれでいいんじゃないの?」
「まぁな、こっちはこっちで動くさ、別に一か所でやらなければならない事じゃない」
「そうなるわね」
冬で夜だというのに木窓が開け放たれ、光柱の強い光が差し込む学園内の一室に、ボニファースの姿が在った、他にはイフナースとクロノス、ユーリと学園長、さらに各軍団長とロキュス、行政の高官達の姿もある、かなりの大人数であったが、皆光柱を見下ろして又は見上げて言葉も無い様子で、それが当たり前の事として会話を継続しているのはボニファースら一握りであった、設えられたテーブルには豪華な食事が並び、それを彩るのは先日の壺の照明と、新たに作られた小皿の照明である、さらに暖炉も焚かれていた、もう外はすっかり冬の夜の寒さとなっている、
「うん、まぁ、済ませてからでもゆっくり見物しよう、お陰で夜は長くなったからな、気兼ねする事もなく・・・ほれ、者ども座れ、儂は腹が減った」
木窓に群がる男達にボニファースが苦笑いを浮かべる、どれもこれも中年を過ぎた男ばかりだというのに童のような顔で光柱に見入っており、光柱の複雑な光を受けるその並んだ顔は幻想的と言えなくはないが、そこはせめて美女か美男かせめて子供でないと絵にはならないであろう、
「でだ、明日に関しては双方了解済みであったな?」
ボニファースはどうやらこちらの言葉が届いていない部下達をまったくと放り出して席に着いた、続けてイフナースとクロノスが座りロキュスも悔しそうに顔を顰めながら木窓から離れて席を定め、ユーリと学園長はどうしたものかとお歴々の背中を見つめる、ボニファースからは正式な場ではない為席次等どうでもよいと宣告されてはいたが、だからといって勝手に座る訳にはいかない二人である、何より慣れていない、知らぬ顔も多くあり、困惑しきりであった、
「はい・・・そうだな、学園長」
クロノスがめんどくさいと学園長を呼びつけ、顎でそこに座れと指示を出す、学園長は慌ててクロノスの前の席に座った、ボニファースの斜め前、上席である、
「はい、先日、先代公爵様同席の上でクレオノート伯に直接お伝えしております」
「どうだった?反応は?」
「はっ、機嫌良く笑っておられました、その折には・・・但し」
「どう心変わりをするかは分らんな」
「はい、それはどうしようも・・・ただ、本日お会いしました先代公爵様からは特に何とも言われておりません、純粋に祭りを楽しんでいた様子であります」
「そうか、ならば良い・・・明日に関しては計画通り、で、先日の報告に関しては皆耳に入れているのか?」
「通達は回しております、より詳しくはこの場でと、書面だけでは事の重大性は把握できないかと、場合によっては・・・いや、調査隊の状態である程度実証できるかと思います、調査隊には無理をさせますが、これもまた調査の一環・・・ただこの件は調査隊には伏せております、事前に知っているとそれだけで症状を呼び込む場合もあるかと思いますので、逃げ出す口実にもなりかねないと考えます・・・まぁ、そのような腑抜けは選抜しておりませんが、念には念を・・・」
「そうだな・・・」
ボニファースは静かに頷く、そして、ゆっくりと振り返り、
「いい加減にせんか、ガキでも童でもあるまい、いい歳こいた大人共が雁首揃えて何をやっているかー!!」
特大の雷がその口から発せられ、学園の二階、貴賓室として重宝するその部屋を大きく震わせた、これには流石の男達もやっと木窓を離れ、そこへ、
「失礼します」
とリンドがタロウとルーツを伴って入室した、
「あら、これはまた・・・」
タロウはリンドからボニファースとクロノスが酒を欲しがっているとしか聞いておらず、仕方が無いとウィスキーの瓶をあるだけ用意して足を運んでおり、ルーツはお前もそろそろちゃんと顔を出しておけとクロノスから言われた為に渋々とリンドに付いて来た程度である、共に表に出る事は好まず裏で画策する事を良しとする参謀型の性格であった、陰険で根暗と評するのが正しいかもしれない、つまりこのようなあからさまな御前会議というか食事会に喜んで出席するような思考を持ち得ていない、
「おう、お前らはこっちだ」
クロノスが大声で二人を呼びつける、どうやら二人が考えていたような気楽な飲み会では無いらしい、それはジロリと二人を睨んだお歴々の顔とその数を見れば明らかで、その中でも見事なまでにユーリは一人浮いていた、何せ女性として列席しているのは彼女だけなのである、
「では、頂くか、夕刻を過ぎても気楽に食事を楽しめるのは良いな、蝋燭も薪も金がかかる事に変わりはない、その点この壺も皿も良い品だ・・・その分仕事の時間が増えるのは考えものだがな」
軽く愚痴りつつフォークを手にするボニファースであった。
ソフィアが大荷物を両手に下げて食堂に入ると、
「すいません、寝てましたー」
「なーにー?」
と暖炉の前、新開発の寝台で二つの影がピョコンと立ち上がる、
「あら、二人して昼寝?」
ソフィアがニコリと微笑む、二つの影はミーンとティルであった、共に寝ぼけ眼のようでボウッとあらぬ方向を見ている、寝台にはエレインが使っていないからと綿の入った敷物が敷かれていた、貴族様御用達の高級品である、普段藁を敷き詰めて寝ている平民にとっては正に高嶺の花とまで言える品で、昨日ミナが動きたくないと駄々をこねるのも致し方ないと誰もが認める程に心地良い寝台と化してしまっていた、さらに毛布が二枚備え付けられている、昨晩ミナがその寝台で眠ってしまった為で、タロウもソフィアもこのまま寝かせて置くのが静かでいいかと毛布を持ち込み、他の面々はその幸せそうな寝顔を見つめ心底うらやむほどであった、
「そうなんですよー、私の寝台を奪った大罪人です」
カトカはその傍の椅子に腰掛け書を開いていた様子である、ニヤリと二人を見つめた、
「それは極悪人だわね、どう?気持ち良かった?」
「はい、とってもー」
「うん、もう離れられないですー・・・」
普段はその職業柄、気を張って凛としている二人であるが、年相応もしくは幼児退行でもしたのかと思われる程のだらしない様子にソフィアもカトカも思わず微笑んだ、
「そっか、まぁそのうち売り出されるだろうからね、ゆっくりお金を貯めておきなさいな」
ソフィアはよっこいしょと荷物をテーブルに持ち上げる、
「なんですか?買い出しにも行ったんです?」
「農学科?のお野菜よ、安くてね、物も良いから大量に買ってきちゃった」
「へー、それは良かったですねー、そっか、農学科か・・・確か農家さんに研修だか実習だかに行ってるとか」
カトカは書を閉じて腰を上げ、ソフィアに歩み寄り荷物を覗き込む、カトカは本日は留守番であった、ソフィアは当初学園祭に行く気は無かったらしく、生徒達は是非来て欲しいと懇願するが、寮の仕事があるからねーと仕事を理由に見事な出不精を発揮していた、しかしユーリがカトカを留守番に置くからあなたは顔を出しなさいと口を挟み、カトカはそうですよーと援護する始末で、そっちの方が問題だろうとソフィアは反論するが、カトカとしては学園祭はおろか出し物の受付等以ての外でやりたくないと明け透けに頬を膨らませており、それはそれで駄目だろうと少しばかりの口論の末、結局ソフィアはミナに同行する事になったのである、而して今朝方カトカは一行を見送った後、王国では唯一である豪華な寝台に寝そべりその寝心地を満喫した、来客も無く、気付けばミーンとティルに起こされる始末で大変にばつが悪かった、しかしその二人も寝台の魔力に見事に取り込まれたようで、カトカとしてはまぁこれでおあいこかしらと、自分の恥辱は相殺された事にした、
「らしいわね、で、これが冬キャベツ」
「あらおっきいですねー」
「でしょー、で、玉ねぎとー、カブー」
「あらこれも・・・へー、丸々してるー」
「全くよ、今日はお野菜中心だわねー、どれもこれも美味しそう」
ソフィアとカトカが仲良く戦利品を覗いていると、その背後の二人はやっと完全に覚醒したようで、しかし、その寝台の魅力には抗えずノロノロと後ろ髪を引かれながら何とか足を下ろしスリッパを引っ掛けた、幼児のようなグズリっぷりである、
「あっ、ミナちゃん達はどうしたんです?」
「まだ見物しているわよ、向こうでタロウと合流してね、あと、ユーリとも、なんだかんだと騒いでいたわ」
「それは良かった」
「カトカさんはいいの?お留守番任せちゃって言う事じゃないし、昨日も話したけどさ、面白かったわよ、それなりに」
「いいんですよ、私は人が多い所は苦手で・・・」
「そうなの?もう、まぁ、人が少ないところでも目立つからね、カトカさんは」
「別にそういう意味ではないですよー」
「あら謙遜かしら?あっ、でもあれよ、フィロメナさん達も来てたわね、やたら目立ってたわ」
「あっ、そうなんですか?」
「うん、染髪とか調髪とかでお世話になりますーって、フィロメナさんも律儀というか礼儀正しいというか、あの見た目とは大違いよね」
「そりゃだって、遊女さんならその辺得意なんじゃないですか?商売柄」
「そりゃ得意だろうけど・・・あっ、カトカさんはあれねフィロメナさんに教えを乞うべきね」
「何をですかー」
「男の転がし方」
「またそんな事言ってー」
「だって、カトカさんなら簡単でしょ、楽してチヤホヤされなさいよ」
「だったらソフィアさんもそうすればいいんですよー」
「私は駄目、女に媚び売る男は嫌い」
「それは私もです」
「あら・・・じゃ駄目ね」
「駄目ですよ」
「残念、そういう悪女なカトカさんも見てみたかったなー」
「悪女って・・・酷いなー」
二人がケタケタと笑っていると、漸くその後ろの二人も仕事だなと決意を固めたようで、
「えっと、今日はどうします?」
「お野菜が中心ですか?」
と二人の会話に割り込んだ、
「そのつもりー、あっ、あんたらはどう?お祭り行かないの?」
ソフィアはニコニコと振り返る、どうやらソフィアは学園祭を殊の外気に入ったらしい、それとも単なる社交辞令であろうか、
「明日の午前中に行こうかと思ってましたけど、どうでしょう?」
「どうって言われてもだけど、今日は結構混んでたわよ朝から」
「そうなんですかー」
「午後になってからも凄くてね、ほら、光柱が目立つ・・・というか、あんなのがあったらそりゃ集まるわよね、焚火に飛び込む虫みたいなものよ」
「またそんな言い方してー」
「だって、ホントにそうなのよ、警備の人達がヒーヒー言ってたわね、だから、明日も似たようなもんじゃないのかなって思うわよ」
「なるほど、じゃ、やっぱり午前中の方がまだ良さそうですね、人が仕事している内に楽しみましょう」
「そうなるわねー、じゃ、何を作ろうかしらー・・・冬キャベツ・・・軽く湯がいただけでも甘くて美味しいわよね」
「ですねー、あっ、マヨソース作りましょう」
「そうね、他には・・・」
「トウフを所望します、トウフと炒めて下さい、オカラでも可です、いいえ、ここはオカラと炒めるべきです、トウフはそのままが一番宜しいと思います、トウフです、トウフで全てを解決できます」
「それは無理ねー」
「何でですかー」
「だって、準備してないもの、あれ一晩水に漬けないとだからね、大豆を」
「ぶー、じゃ、毎日漬けて下さいよー、トウフー」
「はいはい、可愛い顔でねだっても無理は無理よー、あっ、でもあれか、明日はトウフにしようかしら・・・タロウさんが揚げても美味いぞって言ってたのよね・・・」
「なんですかそれ?」
「焼いてもそのままでも美味いけど、揚げたら揚げたでまた違うとか・・・美味しそうよね、あと鍋にしてもいいぞーって、そりゃスープに入れても美味しいんだから鍋で煮ても一緒よねって思ったんだけど、なんか違うらしいのよね、鍋は鍋だろって訳の分かんない事言ってたわ・・・あれにやらせるか・・・良く分かんないし・・・」
「マジですか・・・いえ、絶対美味しいですよ、保証しますよ、トウフですよ、何やっても美味しいですよ、絶対ですよ、間違いないですよ」
「そんな興奮しないの、じゃ、そういう事で、今日は他に・・・」
と本腰を入れて支度に取り掛かるソフィア達であった。
そして寮では夕食が終わる頃合いとなる、闇が濃くなりつつある曇天の下、学園の光柱は見事なその威容でもって街を照らし続けていた、夜の街は当然のように活気に包まれ、学園前の大路では屋台の群れが盛況となっている、正に祭りの光景で、祭りの雰囲気が街を包んでいる、
「これはまた形が違うのだな」
「はい、ユーリ先生が折角だからと工夫したのです」
「そうなのか?お前忙しいんじゃなかったのか?」
「それはだって、折角だもん、ゾーイも居たし」
「あれも有能だな、壺も皿も使いやすい、大したもんだ」
「タロウの意見も入れたのよ、最初の壺はほら、転がってたから使ってみただけらしいしね、本人曰く魔法陣の練習用だって、それでも凄いけどね、まぁ、もう少し改良していくみたいだから、気長に待ちなさいよ」
「そういうものか?まぁいい、で、量産はするのか?」
「それはそっちでやるんじゃないの?」
「こっちで出来るなら頼むよ、改良も進めるんだろ?結局さ」
「そうだけど・・・まぁ、ちょっと算段できるかなーって感じにはなってるのよね、こうなるとゾーイに任せるか・・・他にもお願いしたい仕事はあるんだけど、こっちが先よね、ある程度段取りできれば管理するだけになる・・・そう上手くはいかないでしょうけど・・・私としては便利になる分には嬉しいのよね、でも人を選ぶからな・・・その点が気掛かりかしら?」
「確かにな」
「もう少し先になるけど・・・まぁ、その内にあんたの方が形になればそれはそれでいいんじゃないの?」
「まぁな、こっちはこっちで動くさ、別に一か所でやらなければならない事じゃない」
「そうなるわね」
冬で夜だというのに木窓が開け放たれ、光柱の強い光が差し込む学園内の一室に、ボニファースの姿が在った、他にはイフナースとクロノス、ユーリと学園長、さらに各軍団長とロキュス、行政の高官達の姿もある、かなりの大人数であったが、皆光柱を見下ろして又は見上げて言葉も無い様子で、それが当たり前の事として会話を継続しているのはボニファースら一握りであった、設えられたテーブルには豪華な食事が並び、それを彩るのは先日の壺の照明と、新たに作られた小皿の照明である、さらに暖炉も焚かれていた、もう外はすっかり冬の夜の寒さとなっている、
「うん、まぁ、済ませてからでもゆっくり見物しよう、お陰で夜は長くなったからな、気兼ねする事もなく・・・ほれ、者ども座れ、儂は腹が減った」
木窓に群がる男達にボニファースが苦笑いを浮かべる、どれもこれも中年を過ぎた男ばかりだというのに童のような顔で光柱に見入っており、光柱の複雑な光を受けるその並んだ顔は幻想的と言えなくはないが、そこはせめて美女か美男かせめて子供でないと絵にはならないであろう、
「でだ、明日に関しては双方了解済みであったな?」
ボニファースはどうやらこちらの言葉が届いていない部下達をまったくと放り出して席に着いた、続けてイフナースとクロノスが座りロキュスも悔しそうに顔を顰めながら木窓から離れて席を定め、ユーリと学園長はどうしたものかとお歴々の背中を見つめる、ボニファースからは正式な場ではない為席次等どうでもよいと宣告されてはいたが、だからといって勝手に座る訳にはいかない二人である、何より慣れていない、知らぬ顔も多くあり、困惑しきりであった、
「はい・・・そうだな、学園長」
クロノスがめんどくさいと学園長を呼びつけ、顎でそこに座れと指示を出す、学園長は慌ててクロノスの前の席に座った、ボニファースの斜め前、上席である、
「はい、先日、先代公爵様同席の上でクレオノート伯に直接お伝えしております」
「どうだった?反応は?」
「はっ、機嫌良く笑っておられました、その折には・・・但し」
「どう心変わりをするかは分らんな」
「はい、それはどうしようも・・・ただ、本日お会いしました先代公爵様からは特に何とも言われておりません、純粋に祭りを楽しんでいた様子であります」
「そうか、ならば良い・・・明日に関しては計画通り、で、先日の報告に関しては皆耳に入れているのか?」
「通達は回しております、より詳しくはこの場でと、書面だけでは事の重大性は把握できないかと、場合によっては・・・いや、調査隊の状態である程度実証できるかと思います、調査隊には無理をさせますが、これもまた調査の一環・・・ただこの件は調査隊には伏せております、事前に知っているとそれだけで症状を呼び込む場合もあるかと思いますので、逃げ出す口実にもなりかねないと考えます・・・まぁ、そのような腑抜けは選抜しておりませんが、念には念を・・・」
「そうだな・・・」
ボニファースは静かに頷く、そして、ゆっくりと振り返り、
「いい加減にせんか、ガキでも童でもあるまい、いい歳こいた大人共が雁首揃えて何をやっているかー!!」
特大の雷がその口から発せられ、学園の二階、貴賓室として重宝するその部屋を大きく震わせた、これには流石の男達もやっと木窓を離れ、そこへ、
「失礼します」
とリンドがタロウとルーツを伴って入室した、
「あら、これはまた・・・」
タロウはリンドからボニファースとクロノスが酒を欲しがっているとしか聞いておらず、仕方が無いとウィスキーの瓶をあるだけ用意して足を運んでおり、ルーツはお前もそろそろちゃんと顔を出しておけとクロノスから言われた為に渋々とリンドに付いて来た程度である、共に表に出る事は好まず裏で画策する事を良しとする参謀型の性格であった、陰険で根暗と評するのが正しいかもしれない、つまりこのようなあからさまな御前会議というか食事会に喜んで出席するような思考を持ち得ていない、
「おう、お前らはこっちだ」
クロノスが大声で二人を呼びつける、どうやら二人が考えていたような気楽な飲み会では無いらしい、それはジロリと二人を睨んだお歴々の顔とその数を見れば明らかで、その中でも見事なまでにユーリは一人浮いていた、何せ女性として列席しているのは彼女だけなのである、
「では、頂くか、夕刻を過ぎても気楽に食事を楽しめるのは良いな、蝋燭も薪も金がかかる事に変わりはない、その点この壺も皿も良い品だ・・・その分仕事の時間が増えるのは考えものだがな」
軽く愚痴りつつフォークを手にするボニファースであった。
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旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
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※若干の百合風味を含みます。
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