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本編
68話 冬の初めの学園祭 その11
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それから着々と準備が進められている様子で、タロウ達保護者組は静かにその様子を見守っていた、ユーリの指導に三人は真面目に耳を傾けており、ゾーイがそれを補佐する形で動き回っている、どうやら杖の先に魔力を溜めそれを仕掛けに流す仕組みのようで、タロウはなるほどなーと素直に感心していた、やがて見物人達もガヤガヤと騒がしくなってきたなと感じ始める頃合いで、学園長が事務員に何やら指示を出すと、事務員はサッと学園内に向かい、やがてガンガンと学園の鐘が鳴り、さらに学園内では事務員や講師達がこちらでの催事を広報し始めたらしい、学園内からも見物客がドヤドヤと内庭へ出てくるのが確認できた、そして、公務時間終了の鐘が街中に響いた、無論その鐘の音は学園にも届く、すると学園長がユーリに何やら指示を出し、ユーリもコクリと頷いた様子で、三人もいよいよかとその表情を引き締めた、タロウとソフィアとしてはミナがやたら真剣な顔である事に思わず微笑んでしまい、レイナウトもまた孫娘の様子にニコニコと相好を崩している、そして、
「では、お集まりの皆様、本日はお忙しい中、王国立バーク魔法学園、学園祭に御来場頂いた事、誠に光栄に思います」
学園長が舞台の最下段に立って観衆を見渡し大声で語り掛ける、この学園祭の開会式は催されておらず、どうやらこれがそれの代わりとなるらしい、
「先日、とある実験によって街を騒がせた事も記憶に新しいと思いますが、それは前回の祭りで御容赦頂けたと思います、確か土鍋祭りと、そう呼ばれているとか、大変な名誉であります」
観衆の間から小さな笑い声が起こった、土鍋祭りはあくまで異名である、誰ともなく発した言葉が人口を膾炙しどうやら首謀者にも届いたらしい、それを知って思わず笑ってしまったのであった、
「本日も、やはり当学園と言えばこちらの光柱を外す事は出来ないと考えます、行政、商工ギルドの協力を得まして、学園祭を彩るべく設置したいと考えます」
オォーっと低い歓声が響いた、
「設置期間は明日の夕刻まで、故に本日の夜も、だいぶ寒くはなっておりますが、街中は明るくなるかと思います、どうか、紳士の皆様は上品に遊び、淑女の皆様におかれましてはどうかその怒りを優しさに変えて、学園の祭りを共に楽しんで頂きたいと思います」
ドッと男達の笑い声が響くが、女達の非難の声も混じっている、何とも素直な反応であった、
「それでは、皆様刮目下さい」
学園長は深々と頭を垂れて降壇した、いよいよかと観衆はざわめく、そして、ユーリが用意された杖の一本をレアンに手渡す、レアンは小さく頷いて杖を手にすると舞台の二段目に上がった、ゾーイがそのすぐ後ろに控えている、高い舞台の為何かあったら補佐する為であった、レアンは一度観衆を見渡し笑顔を振り撒く、知っている者が見ればそれが伯爵令嬢であると一目で理解したであろう、しかし、前回の祭りのような華美な衣装では無く、今日は上品ではあるが訪問着であった、しかし、それを口にする者は居らず、皆シンと静まり返ってレアンを見詰めている、そして、レアンは最上段に据えられた巨大な土鍋を確認し、ゆっくりと杖を舞わせる、先端から魔力の輝きが溢れだし光の軌跡となったそれはフワリと舞台に降りかかった、そのまま流れるように杖を、コン、と小さく土鍋にぶつけ杖の先を土鍋に掲げる、すると魔力の光がゆっくりと土鍋に積もっていった、どうやら前回のそれとはまた違った仕組みらしい、レアンはユーリから事前に聞いてはいたがまるで異なる反応にこれで良いのかと不安になるが、一身に受ける視線の手前その表情を変える事は無かった、そして、土鍋から魔力が溢れるかと思った瞬間、パッと強烈な光が周囲を満たし、それはすぐに一本の柱となって天空に吸い込まれた、瞬きをする間もない一瞬の出来事で、レアンはオオッと黄色に輝く光柱を見上げ、観衆もまた言葉も無く一筋の光線を見上げている、しかしゆっくりと低い感嘆の声が漏れだし、やがてそれは大きな渦となり、拍手と歓声の声に取って代わった、
「へー・・・大したもんだ・・・」
「でしょー、結構苦労したのよー」
「そうなのか?」
「そりゃもう・・・色々とね・・・」
「それはお疲れ様」
タロウとソフィアも光柱を感慨深く見上げており、
「これは素晴らしい・・・なるほど、カラミッドが興奮する訳だな・・・」
「はい、こちらは現状この街でしか見れないものになっておりますので、先代様にお見せできた事嬉しく思います」
レイナウトの呟きにライニールが静かに頷く、
「そうだな、先日の壺のあれも素晴らしかったが、これはまた・・・度肝を抜かれるとはこの事だ・・・これはあれか、ユーリさんが開発したのか?」
「はい、そのように聞いております、何でも実験中にたまたま出来たとか、しかし、一度目は暴走したとも聞いております、実際に三日三晩街を照らしておりました、これよりもより大規模で刺々しいものであったと思います」
「ほう・・・その報告は耳にしているが・・・三日三晩か・・・それは凄いな・・・いや、魔法というやつはまったく、どこまで何が出来るやら・・・見当もつかん」
「まったくです」
二人もまた光柱を見上げたままに感心するしかなかった、するとレアンがゾーイの手を借りて舞台から下り、次にマルヘリートが舞台に上がったようで、しかし、マルヘリートは初めて目にする光柱を前にしてその足は重かった、それも当然であろう、レアンは何度か目にしている為に恐怖心は薄らいでいるが、初見であればまず感じるのが恐怖である、先程まで何も無かった場所にいきなり巨大な柱が屹立し、それが光り輝いて周囲を照らしているのだ、離れていれば単純に綺麗だなとも思えるであろうが、その根本に立つと、美しさよりも根源的な恐怖が湧き上がってくるもので、しかし、マルヘリートも気丈である、公爵令嬢としての矜持もあればレアンに対する意地もある、年長者としてだらしない姿は見せられない、マルヘリートはグッと唇をかみ締めると、二段目に置かれた三つの土鍋を睨みつけた、ユーリの説明によるとその土鍋には予めそれぞれ別の魔法が仕込まれているらしい、ついては杖の先の魔力を出来るだけ均等に注ぐようにと指示を受けている、ユーリは若干面倒な作業である為マルヘリートを抜擢したのであった、恐らくミナでは難しく、レアンはその立場上最も目立つ作業を頼みたかった、そして、マルヘリートは観衆を見渡す事無く作業を始める、コンコンコンと杖の先を土鍋に触れさせ、その先から溢れだす可視化された魔力を丁寧に注いでいく、土鍋に降り積もったそれは軽く揺らめくとその色を変えた、赤、青、緑である、これはどういう仕掛けなのかとマルヘリートは手を止めそうになるが、ここは作業が先と湧き上がる疑問を抑えて魔力を振り分ける、すると、こちらも土鍋から魔力が溢れだしそうになった瞬間、三つの光柱がスッと立ち上がった、先程のそれとは違い、こちらは何ともゆったりとした動きである、これには観衆も驚きの声を上げた、先日から見て来た光柱はいずれもあっという間に生成されており、緩やかに立ち上る光柱は初めて目にするものであったのだ、そしてその三本の光柱はゆっくりと吸い込まれるように天に上るが、やがて中央の光柱に触れたと思うとその黄色の光に絡み付いて行く、まるで蛇のような蔦のようなとても魔法とは思えない、生物を感じさせる動きであった、
「おおっ、これは凄いな、いや、美しい」
レイナウトが目を丸くして快哉の声を上げた、
「ですねー、いや、これは見ものですよ」
「うん、でもなんか・・・」
「目が回りそう・・・」
「確かに」
タロウとソフィアも思わずその口元を緩めている、ウネウネとのたうつ三本の光柱はやがてその動きを定めたのかそれぞれ別の方向へ鎌首をもたげてピタリと止まった、マルヘリートはそれを見上げ、これでいいのかなと不安そうにユーリを伺う、ユーリはニコリと笑顔で答えた、マルヘリートはホッと安堵しゆっくりと舞台を下りる、そしていよいよミナの番であった、ミナはポケーっと光柱を見上げていたが、ユーリにそっと肩を叩かれ杖を手渡されると、大きく頷いて意気揚々と舞台に向かう、ゾーイに迎えられ最下段の中央部、一際大きな土鍋の前に陣取った、
「いいの?いいの?」
しかしそこはいかにミナであっても不安になるのかゾーイを見上げて手が止まる、ゾーイはそりゃそうだよなと微笑みつつ、そっとミナの手にした杖に手を添えた、ミナはそれで安心したのか真剣な瞳で土鍋を見つめ、杖の先を土鍋にかざした、ゆっくりと魔力が零れ落ち、ゾーイは優しく傾きを調整する、そして、土鍋から魔力が溢れだす瞬間、パッと魔力が七色に変色し、音も無く立ち上がった、ワッとミナは驚いて杖を抱き寄せ、杖はゾーイにぶつかりそうになるがゾーイはサッと身を躱す、そして土鍋から立ち上がったそれはゆっくりとミナとゾーイを巻き込み舞台を覆い尽くすと七色の光を保ったままフワリと羽のように花弁のように広がった、それは先日の祭りの時にも見られた光の幕である、その幕の下でミナは言葉も無く立ち尽くし、ゾーイはどうやらこれも計算通りに上手くいったようだとホッと一息吐いた、
「これはまた・・・」
「美しいな、凄いな、あれがこうなるのか・・・」
「なに、あんたでも分らなかった?」
「そりゃお前、うん、分らんよ、まさか・・・いや、これはやりすぎだろ」
「そうかしら?いいんじゃないのお祭りだし」
「そうだけどさ、本来あれはだって・・・まぁいいか・・・」
「そういう事よ、いいの、いいの」
「だな、良い事にしようか」
レイナウトはただ黙って完成した光柱の芸術を見つめており、タロウは呆れるがソフィアの寛容さに仕方が無いと理解を示すしかなった、結界魔法そのものはタロウが開発したものである、魔族の魔法攻撃に対する防御として何とかかんとか編み出したものであったが、確かにその活用を真逆にすればこの程度の芸当は難しく無かった、さらに言えば不可視化こそが結界魔法の重要な要素であり、見えなくする事にこそタロウは頭を悩ませたのである、しかし眼前にあるこれはその努力を根底から覆し、さらに結界そのものの存在理由と活用法を大きく変えた代物であった、
「・・・そうか、これがあれかな・・・戦場の技術が民間に下りた結果・・・確かに悪くは無いのだろうな・・・」
タロウはしみじみと呟く、本来であれば血生臭い場所でしか結界魔法のようなものは活用されないであろう、それがこうして娯楽として形を変えて目の前にあるのだ、それもこの世の物とは思えないほどに美しくまた利便性も高い、やはり話しで聞くだけでは実感が伴わないもので、目にする事が何よりも大事だなと再認識し、さらにこの技術が元になって壺やら皿やらが照明器具として活用され始めている、自身も加担してはいるがその原型はゾーイが作った物で、さらにその原型はソフィアとユーリが作ったこれである、恐らくその照明器具はこれからより広まっていく事は誰も疑問に思わないほどに確実なことで、そしてタロウは考える、こちらに来てからどうしても技術にしろ知識にしろ常に周りの者達を下に見て来た、態度に出す事は出来るだけ抑えて来たが滲み出るそれは勘の良い者ならすぐに気付いたであろうし、不愉快にも感じたはずで、逆にそれを利用しようと近づいた者も多い、あいつはどうやら違うと冒険者仲間ではどうしても一目置かれてしまっていた、しかしこうして自分が構築した技術がまるで異なる用途に用いられる様を見るに、やはりこちらの世界の人間も実に魅力的だと感じてしまう、こちらに来て良かったと思う事は少ないが、こうして心底度肝を抜かれ楽しいと思える事は数多存在した、そしてこの光景は元の世界では絶対に見る事は出来ないものであったとも思う、プロジェクションマッピングやレーザー光線を活用した舞台装置は目にするが、光そのものに形を与え、それ自体をも光らせる事は出来ていなかったと思う、似たような物としては映画やアニメに出てくるビームサーベルが近いのであろう、それを見上げる程に巨大化し兵器では無く祭りの装飾にしてしまっているのだ、これ程愉快な代物は想像すらできなかった、完全にタロウの経験も知識も超えた創造物であったのだ、
「ふふっ・・・楽しいな、やっぱり・・・」
「なによ、今更?」
「今更ってほどでもないけどさ・・・楽しいよ、うん」
優しい笑みを浮かべるタロウをソフィアは斜めに睨みあげ、
「そっ、良かったわね」
「あぁ、その通りだ、ふふっ、さて、ミナは・・・おっ、出て来たな」
「あの子も楽しそうね」
「だな・・・」
ミナは七色の幕から抜け出ると、レアンとマルヘリートと共に何やら叫びつつピョンピョン飛び跳ねている、普段通りと言えばそうなのだが、二人は自然と父親と母親の視線に戻るのであった。
「では、お集まりの皆様、本日はお忙しい中、王国立バーク魔法学園、学園祭に御来場頂いた事、誠に光栄に思います」
学園長が舞台の最下段に立って観衆を見渡し大声で語り掛ける、この学園祭の開会式は催されておらず、どうやらこれがそれの代わりとなるらしい、
「先日、とある実験によって街を騒がせた事も記憶に新しいと思いますが、それは前回の祭りで御容赦頂けたと思います、確か土鍋祭りと、そう呼ばれているとか、大変な名誉であります」
観衆の間から小さな笑い声が起こった、土鍋祭りはあくまで異名である、誰ともなく発した言葉が人口を膾炙しどうやら首謀者にも届いたらしい、それを知って思わず笑ってしまったのであった、
「本日も、やはり当学園と言えばこちらの光柱を外す事は出来ないと考えます、行政、商工ギルドの協力を得まして、学園祭を彩るべく設置したいと考えます」
オォーっと低い歓声が響いた、
「設置期間は明日の夕刻まで、故に本日の夜も、だいぶ寒くはなっておりますが、街中は明るくなるかと思います、どうか、紳士の皆様は上品に遊び、淑女の皆様におかれましてはどうかその怒りを優しさに変えて、学園の祭りを共に楽しんで頂きたいと思います」
ドッと男達の笑い声が響くが、女達の非難の声も混じっている、何とも素直な反応であった、
「それでは、皆様刮目下さい」
学園長は深々と頭を垂れて降壇した、いよいよかと観衆はざわめく、そして、ユーリが用意された杖の一本をレアンに手渡す、レアンは小さく頷いて杖を手にすると舞台の二段目に上がった、ゾーイがそのすぐ後ろに控えている、高い舞台の為何かあったら補佐する為であった、レアンは一度観衆を見渡し笑顔を振り撒く、知っている者が見ればそれが伯爵令嬢であると一目で理解したであろう、しかし、前回の祭りのような華美な衣装では無く、今日は上品ではあるが訪問着であった、しかし、それを口にする者は居らず、皆シンと静まり返ってレアンを見詰めている、そして、レアンは最上段に据えられた巨大な土鍋を確認し、ゆっくりと杖を舞わせる、先端から魔力の輝きが溢れだし光の軌跡となったそれはフワリと舞台に降りかかった、そのまま流れるように杖を、コン、と小さく土鍋にぶつけ杖の先を土鍋に掲げる、すると魔力の光がゆっくりと土鍋に積もっていった、どうやら前回のそれとはまた違った仕組みらしい、レアンはユーリから事前に聞いてはいたがまるで異なる反応にこれで良いのかと不安になるが、一身に受ける視線の手前その表情を変える事は無かった、そして、土鍋から魔力が溢れるかと思った瞬間、パッと強烈な光が周囲を満たし、それはすぐに一本の柱となって天空に吸い込まれた、瞬きをする間もない一瞬の出来事で、レアンはオオッと黄色に輝く光柱を見上げ、観衆もまた言葉も無く一筋の光線を見上げている、しかしゆっくりと低い感嘆の声が漏れだし、やがてそれは大きな渦となり、拍手と歓声の声に取って代わった、
「へー・・・大したもんだ・・・」
「でしょー、結構苦労したのよー」
「そうなのか?」
「そりゃもう・・・色々とね・・・」
「それはお疲れ様」
タロウとソフィアも光柱を感慨深く見上げており、
「これは素晴らしい・・・なるほど、カラミッドが興奮する訳だな・・・」
「はい、こちらは現状この街でしか見れないものになっておりますので、先代様にお見せできた事嬉しく思います」
レイナウトの呟きにライニールが静かに頷く、
「そうだな、先日の壺のあれも素晴らしかったが、これはまた・・・度肝を抜かれるとはこの事だ・・・これはあれか、ユーリさんが開発したのか?」
「はい、そのように聞いております、何でも実験中にたまたま出来たとか、しかし、一度目は暴走したとも聞いております、実際に三日三晩街を照らしておりました、これよりもより大規模で刺々しいものであったと思います」
「ほう・・・その報告は耳にしているが・・・三日三晩か・・・それは凄いな・・・いや、魔法というやつはまったく、どこまで何が出来るやら・・・見当もつかん」
「まったくです」
二人もまた光柱を見上げたままに感心するしかなかった、するとレアンがゾーイの手を借りて舞台から下り、次にマルヘリートが舞台に上がったようで、しかし、マルヘリートは初めて目にする光柱を前にしてその足は重かった、それも当然であろう、レアンは何度か目にしている為に恐怖心は薄らいでいるが、初見であればまず感じるのが恐怖である、先程まで何も無かった場所にいきなり巨大な柱が屹立し、それが光り輝いて周囲を照らしているのだ、離れていれば単純に綺麗だなとも思えるであろうが、その根本に立つと、美しさよりも根源的な恐怖が湧き上がってくるもので、しかし、マルヘリートも気丈である、公爵令嬢としての矜持もあればレアンに対する意地もある、年長者としてだらしない姿は見せられない、マルヘリートはグッと唇をかみ締めると、二段目に置かれた三つの土鍋を睨みつけた、ユーリの説明によるとその土鍋には予めそれぞれ別の魔法が仕込まれているらしい、ついては杖の先の魔力を出来るだけ均等に注ぐようにと指示を受けている、ユーリは若干面倒な作業である為マルヘリートを抜擢したのであった、恐らくミナでは難しく、レアンはその立場上最も目立つ作業を頼みたかった、そして、マルヘリートは観衆を見渡す事無く作業を始める、コンコンコンと杖の先を土鍋に触れさせ、その先から溢れだす可視化された魔力を丁寧に注いでいく、土鍋に降り積もったそれは軽く揺らめくとその色を変えた、赤、青、緑である、これはどういう仕掛けなのかとマルヘリートは手を止めそうになるが、ここは作業が先と湧き上がる疑問を抑えて魔力を振り分ける、すると、こちらも土鍋から魔力が溢れだしそうになった瞬間、三つの光柱がスッと立ち上がった、先程のそれとは違い、こちらは何ともゆったりとした動きである、これには観衆も驚きの声を上げた、先日から見て来た光柱はいずれもあっという間に生成されており、緩やかに立ち上る光柱は初めて目にするものであったのだ、そしてその三本の光柱はゆっくりと吸い込まれるように天に上るが、やがて中央の光柱に触れたと思うとその黄色の光に絡み付いて行く、まるで蛇のような蔦のようなとても魔法とは思えない、生物を感じさせる動きであった、
「おおっ、これは凄いな、いや、美しい」
レイナウトが目を丸くして快哉の声を上げた、
「ですねー、いや、これは見ものですよ」
「うん、でもなんか・・・」
「目が回りそう・・・」
「確かに」
タロウとソフィアも思わずその口元を緩めている、ウネウネとのたうつ三本の光柱はやがてその動きを定めたのかそれぞれ別の方向へ鎌首をもたげてピタリと止まった、マルヘリートはそれを見上げ、これでいいのかなと不安そうにユーリを伺う、ユーリはニコリと笑顔で答えた、マルヘリートはホッと安堵しゆっくりと舞台を下りる、そしていよいよミナの番であった、ミナはポケーっと光柱を見上げていたが、ユーリにそっと肩を叩かれ杖を手渡されると、大きく頷いて意気揚々と舞台に向かう、ゾーイに迎えられ最下段の中央部、一際大きな土鍋の前に陣取った、
「いいの?いいの?」
しかしそこはいかにミナであっても不安になるのかゾーイを見上げて手が止まる、ゾーイはそりゃそうだよなと微笑みつつ、そっとミナの手にした杖に手を添えた、ミナはそれで安心したのか真剣な瞳で土鍋を見つめ、杖の先を土鍋にかざした、ゆっくりと魔力が零れ落ち、ゾーイは優しく傾きを調整する、そして、土鍋から魔力が溢れだす瞬間、パッと魔力が七色に変色し、音も無く立ち上がった、ワッとミナは驚いて杖を抱き寄せ、杖はゾーイにぶつかりそうになるがゾーイはサッと身を躱す、そして土鍋から立ち上がったそれはゆっくりとミナとゾーイを巻き込み舞台を覆い尽くすと七色の光を保ったままフワリと羽のように花弁のように広がった、それは先日の祭りの時にも見られた光の幕である、その幕の下でミナは言葉も無く立ち尽くし、ゾーイはどうやらこれも計算通りに上手くいったようだとホッと一息吐いた、
「これはまた・・・」
「美しいな、凄いな、あれがこうなるのか・・・」
「なに、あんたでも分らなかった?」
「そりゃお前、うん、分らんよ、まさか・・・いや、これはやりすぎだろ」
「そうかしら?いいんじゃないのお祭りだし」
「そうだけどさ、本来あれはだって・・・まぁいいか・・・」
「そういう事よ、いいの、いいの」
「だな、良い事にしようか」
レイナウトはただ黙って完成した光柱の芸術を見つめており、タロウは呆れるがソフィアの寛容さに仕方が無いと理解を示すしかなった、結界魔法そのものはタロウが開発したものである、魔族の魔法攻撃に対する防御として何とかかんとか編み出したものであったが、確かにその活用を真逆にすればこの程度の芸当は難しく無かった、さらに言えば不可視化こそが結界魔法の重要な要素であり、見えなくする事にこそタロウは頭を悩ませたのである、しかし眼前にあるこれはその努力を根底から覆し、さらに結界そのものの存在理由と活用法を大きく変えた代物であった、
「・・・そうか、これがあれかな・・・戦場の技術が民間に下りた結果・・・確かに悪くは無いのだろうな・・・」
タロウはしみじみと呟く、本来であれば血生臭い場所でしか結界魔法のようなものは活用されないであろう、それがこうして娯楽として形を変えて目の前にあるのだ、それもこの世の物とは思えないほどに美しくまた利便性も高い、やはり話しで聞くだけでは実感が伴わないもので、目にする事が何よりも大事だなと再認識し、さらにこの技術が元になって壺やら皿やらが照明器具として活用され始めている、自身も加担してはいるがその原型はゾーイが作った物で、さらにその原型はソフィアとユーリが作ったこれである、恐らくその照明器具はこれからより広まっていく事は誰も疑問に思わないほどに確実なことで、そしてタロウは考える、こちらに来てからどうしても技術にしろ知識にしろ常に周りの者達を下に見て来た、態度に出す事は出来るだけ抑えて来たが滲み出るそれは勘の良い者ならすぐに気付いたであろうし、不愉快にも感じたはずで、逆にそれを利用しようと近づいた者も多い、あいつはどうやら違うと冒険者仲間ではどうしても一目置かれてしまっていた、しかしこうして自分が構築した技術がまるで異なる用途に用いられる様を見るに、やはりこちらの世界の人間も実に魅力的だと感じてしまう、こちらに来て良かったと思う事は少ないが、こうして心底度肝を抜かれ楽しいと思える事は数多存在した、そしてこの光景は元の世界では絶対に見る事は出来ないものであったとも思う、プロジェクションマッピングやレーザー光線を活用した舞台装置は目にするが、光そのものに形を与え、それ自体をも光らせる事は出来ていなかったと思う、似たような物としては映画やアニメに出てくるビームサーベルが近いのであろう、それを見上げる程に巨大化し兵器では無く祭りの装飾にしてしまっているのだ、これ程愉快な代物は想像すらできなかった、完全にタロウの経験も知識も超えた創造物であったのだ、
「ふふっ・・・楽しいな、やっぱり・・・」
「なによ、今更?」
「今更ってほどでもないけどさ・・・楽しいよ、うん」
優しい笑みを浮かべるタロウをソフィアは斜めに睨みあげ、
「そっ、良かったわね」
「あぁ、その通りだ、ふふっ、さて、ミナは・・・おっ、出て来たな」
「あの子も楽しそうね」
「だな・・・」
ミナは七色の幕から抜け出ると、レアンとマルヘリートと共に何やら叫びつつピョンピョン飛び跳ねている、普段通りと言えばそうなのだが、二人は自然と父親と母親の視線に戻るのであった。
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「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
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