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本編
68話 冬の初めの学園祭 その17
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そこへ、
「なんだ、お楽しみだなー」
と見物客の間を縫ってタロウがフラリと顔を出した、
「おう、いたのか」
「おはようございます、タロウさん」
「なんだ、また家畜の世話か?」
三者三様の出迎えに、
「まぁな、お前らが来るとは聞いていたからさ、一応な」
タロウは微笑みつつイージスにおはようと律儀に返す、
「それは結構、殊勝で宜しい」
クロノスはニヤリと口の端を上げた、
「何だよそれ、まぁいいけどさ、で、スイランズ様の隠し芸か?」
タロウが遠くの的を見つめて溜息交じりである、事の成り行きはクロノスが矢を握り込んだあたりから目にしていた、一瞬止めるべきかと悩んだのであるが、まぁ、祭りだし、この後の事もある、少々羽目を外しても構わないだろうと成り行きを見守る事にした、
「あっはっは、隠し芸か確かにな」
「うるせぇな、別に隠してないだろ」
「隠しておけよ、こういうのは遊びでやる事じゃない、いいか、イージス、こいつの真似はするなよ、出来るとも思うな」
「えー、駄目ですかー・・・」
イージスはどうやら真似る気満々であったらしい、残念そうにタロウとクロノスを交互に見上げる、
「駄目というか無理だ、下手な事をすると怪我の元だし、意味が無い、親父さんにどやされるぞ」
「・・・そうなのですか?」
「そうだ、矢はな、弓を使う事を前提に作られている、よく考えてみろ、こいつの真似をするならな、石を投げたほうが安いし楽だ」
「そりゃそうだ」
イフナースがアッハッハと笑い、
「なんだそっちも見せるか?構わんぞ」
クロノスはムッとしつつ手頃な石が無いかと周囲を見渡す、この場を仕切っている生徒が流石にそれはと止めに入ろうとするが、修練場は綺麗に整備された広場となっている、さらに普段であれば生徒達が行軍訓練にも使っている場所であり、見事に踏み均されて投擲に手頃な石など落ちているわけも無い、
「まぁまぁ、ついでだ、あっちもやろうぜ、イージスには無理だろうがあっちこそお前さん向きだろ?」
タロウが親指で背後を差した、見物客が取り巻いているがその向こう側を差しているらしい、クロノスはそちらを一瞥しなるほどとニヤリと微笑むと、
「うむ、では、一つ競うとするか、なんか賭けるか?」
「勝負にならんだろ」
「ん?負けると分っているからか?」
「誰が?」
「お前が」
「誰に?」
「俺に」
「・・・あー・・・安い挑発だな」
「高ければいいのか?」
「どっちでもいいよ、確かにあっちのが実戦向きだろうな、俺もやるぞ」
イフナースが割って入った、ウキウキと肩を回している、
「当然だ、よし、行くか」
「ん、あっ、お前魔法は無しだ」
「あん?俺のは制御が難しいと知っているだろ、その気になってもならなくても勝手に発動してしまう」
「嘘をつけ、その為に鍛えたんだぞこの俺が」
「何だ恩着せがましいな」
「感謝していたくせに何を言う、第一お前の言う事を真に受けたら日常生活もままならん事になるぞ」
「ふふん、わかったわかった、ここはお互い素でいこう、それならイースも参戦できるだろ」
「当然だ、お前らは人外過ぎる」
「イース様もそうなりかけているんですよ」
「それは散々聞いてるよ」
「それと、本気を出すなよ、学園が崩壊する」
「それはお前だ、俺は力加減は器用なんだ」
「なんだ?さっきと言ってる事が違うぞ」
「確かにな」
「うるせぇ、楽しませろ」
「嫌だね、楽しむのは俺だ」
「いや、俺だよ」
タロウを加えた四人はギャーギャー喚きながらその場から離れた、イージスはニコニコと楽しそうに三人を見比べており、タロウとしてはこの口の悪さは教育上宜しくないかな等と思いながらも、冒険者時代に似た雑な会話を楽しんでしまう、当時はこうしてつまらない事で競い合っては馬鹿笑いしていたもので、そのちょっとした遊びを通じて互いの実力を計っていたりする、ハッキリ言えば児戯である、しかしその児戯こそが相互理解に於いては最も重要な交流であったのだ、戦場に立ち互いの背を守るにあたって仲間の程度を知らねば守る事も委ねる事も難しい、その前提となる儀式にも似た交流なのである、
「さて・・・なんだこりゃ?」
「あー、こっちは流石に本物とは言えんな」
「確かにな・・・随分軽い」
四人が向かったのは修練場の中央付近に受付と看板が置かれた槍投げの出し物である、遠方に藁人形の標的が並びどうやら遠投の距離と正確さの二つを競い合わせる趣向らしく、最も遠方に突き刺さった槍には青色の旗が、標的のど真ん中に突き刺さったそれには赤色の旗が目印としてはためいていた、
「これならイージスでもいけるな・・・ほら、やってみるか?」
「はい、やります」
イージスは嬉しそうにイフナースから槍を受け取る、イフナースの言う通り、その槍は軽く、穂先はただ尖らせているだけで刃も付いていない、要するにただの木の棒であった、軍で使用するものには鉄か青銅の穂が付いているもので、それが無いだけで随分貧弱に感じてしまう、さらに投擲用という事で柄も細く短めであった、
「えっと、すいません、これは初めてです、どう構えれば良いですか?」
イージスは槍を手にして素直に三人を見上げた、
「ん、あぁ、まずな」
とイフナースがしゃがみ込み、槍の持ち方、足の開き方、目線、標的との距離感等々と懇切丁寧に教える、クロノスはフンフンとそれを聞きながらイージスの体勢を指導したり、イフナースの説明に付け加えたりと甲斐甲斐しく、タロウは逆にそうだったのかと二人の背後で実際に身体を動かしていた、係員の生徒や見物客達、参加者等はそれを微笑ましく横目に見ている、傍で見る限りは優しい父親とその友人か伯父達に見えるであろう、
「なるほど、わかりました」
イージスはフンスと鼻息を荒くして槍を構えた、英雄と王太子に直接指導を受けたのだだらしない姿は見せられないと気合も入る、
「あー、イージス、ちょっと待て、槍投げはな、手を離す瞬間が大事だ、遅いと最悪足元に刺さって自分に跳ね返ってくる、早過ぎても真上に飛んで自分が串刺しだ、まぁ、珍しいがな」
「そうだな、弓矢と違って重篤な怪我も多い、始めてであれば尚更だ、恥ずかしがることはないからな、失敗して当たり前だ、危ないと思ったら逃げる事を躊躇うな」
「はい、気を付けます」
イージスはキリッと二人を見上げる、うむとクロノスとイフナースは誇らしげに頷き、タロウはなるほどそういうものかと感心していたりする、
「では」
緊張し且つ気合の入った強張った顔でイージスは始点となる荒縄で示された円に立った、そこから狙うらしく、同様の円が五つ程地面に示されていた、五つそれぞれで参加者は歓声を上げたり溜息を吐いたりと楽しそうである、イージスは大きく足を前後に開き、教えられた通りに槍を構えた、王国軍式のそれは左手に巨大な方形盾を構える事を前提としている為左手の甲を前方に向け腕は縦に構える、右腕と全身のバネでもって槍を投げる方式であった、イージスはフッと一息吐いて、
「ヤァッ」
可愛らしい掛け声が響いたと同時に綺麗に放物線を描き槍は宙を飛んだ、
「おおっ、大したもんだ」
「うん、へー・・・すごいね」
「かっこいいな」
矢のような速度は無い為大人三人の褒め言葉を尻目に槍は飛び、しかし、急に失速して標的の手前で地面に突き刺さった、
「うー、届かないー」
イージスは残念そうに悲鳴のような泣き声を上げるが、
「いや、大したもんだ」
「おう、正に教科書通りだな」
「うん、なんだ子供でもあれだな、やろうと思えば出来るんだな」
「そりゃお前、この槍は軽いからな、本物ではこうはならんだろ」
「そうか?しかし、牽制程度には使えるだろ」
「使えるだろうがさ、戦場にガキを連れていくなんて考えてないだろうな」
「・・・それもそうか・・・」
「だろ、出来ると使えるは違うさ」
「しかし、訓練は可能だろ?どうだイージス?」
「どうと言われましても・・・」
イージスは首を傾げつつイフナースを見上げ、しかしすぐに、
「あっ、あれです、すんごい気持ちいいです、弓よりもこっちがいいです」
満面の笑みとなる、恐らく本心であろう、
「そうかそうか、気持ちいいか」
「こりゃ将来有望だな」
クロノスとイフナースは機嫌良く微笑んだ、
「はい、えっと、戻ったら父上にお願いします、練習します」
「そうだな、イザークは器用だからな、なんでも教えてくれるさ」
「はい、ありがとうございます」
ペコリとイージスは頭を下げた、クロノスとイフナースはは満足そうに微笑み、さてととギラリと瞳に炎を宿す、
「ではどうする、距離か標的か?」
「だな、タロウ、お前さんはどっちだ?」
「何が?」
「どっちで競う?」
「あー・・・そういう事?」
「そうだ、どっちだ?」
「・・・どっちでもいいが、あっ、距離でいいか、我流でしかできないが、そうなると距離の方が俺としては有利かな」
「我流?」
「お前・・・あれか?」
「あれだ」
「ここでか?」
「別に良いだろ」
「まぁいいがさ・・・」
「一応確認するか・・・」
とタロウは係りの生徒の所に戻って何やら話し込む、
「何か違うのか?」
イフナースが槍を弄りながらクロノスに確認する、
「うん、あいつの槍投げは変わっていてな、確かに距離は出るんだが使えないんだよ」
「何だそれ?」
「まぁ見てろ、面白いと言えば面白いからな」
クロノスはニヤリと微笑む、タロウはどうやら生徒の許可を得たらしく、意気揚々と戻って来て、
「参考記録にしかならんと言われてしまった」
アッハッハと笑いだす、
「だろうな、じゃ、お前からだ」
「はいはい、では、やりますか」
タロウは槍を手にしてその感触を確かめると、荒縄の円に立ち、そこからかなりの距離を真っ直ぐに後退した、クロノスはイージスとイフナースに近寄らないように手を広げ、先程の生徒も気を付けるようにと見物客に声をかけている、中々に気の利く生徒のようであった、
「いくぞー」
タロウはこんなもんかと足を止め、大きく身体を伸ばしつつ槍を構える、そして、ゆっくりと助走を始めた、
「なっ・・・走って投げるのか?」
「らしいんだよ、あいつのは」
「それはだってお前・・・」
「まぁ見てろ」
三人の視線に生徒と見物人達の視線も集めタロウは徐々に加速し、そして荒縄の円に足がかかったあたりで全身をバネに変え大きく槍を投擲する、
「ほぉ・・・」
イフナースは思わず感嘆の吐息をついた、ゆっくりとした助走から加速し、投擲に至るまでの身体の動きが流れるようで美しい、そしてその槍もまた飛距離が伸びている、青い旗を遥かに超えて槍は地面に突き刺さり、見物客達も生徒も参加者も皆唖然と振り向いた、
「ふぅ・・・うん、こんなもんだ」
ニヤリと顔を上げたタロウに、
「だろうな、どれ次は俺だ」
クロノスがそれが当然であるかのように応じる、
「待て待て、タロウ、その技術はなんだ、凄まじい飛距離だぞ」
イフナースが慌ててクロノスを止めた、
「そうですね、しかしこれは・・・」
タロウが苦笑いを浮かべ、
「あぁ、使えないんだよ、戦場ではな」
クロノスも口を挟む、どうやら共にその点は認識しているらしい、
「そっ・・・そう言えばそうか・・・」
イフナースもすぐに理解した、先程イージスに教えた軍隊式の槍投げは正に軍で使用する為の技術である、集団で動き密接した状態で、且つ防御体勢を維持しながら投げる形であって、タロウのように助走をつけて投げるとなるととてもではないが軍隊では採用できない、いかに訓練を積んだところで100人単位の軍勢が同時に走り出し止まる事等不可能であろう、つまらない事故と情けない怪我の元である、
「そうなんだよ、だから、こいつのはあくまで参考記録」
「だな、しかしだ、飛距離を競う為だけなら使えるだろ?」
「だから、そんなものに意味はねぇよ」
「あるだろが、競技を楽しめ」
「実戦で使えない技術に何の意味がある?」
「意味はあるさ、競技としてな」
「だから、使えないだろ」
「競技は競技として楽しむべきだ」
「それが分らんと何度も言っておるだろうが」
「あー、どうしてお前はこれだけはそんなに頭が硬いんだよ」
「役に立たない競技に時間を割く必要は無いし、極める必要も無い、無駄の塊だ」
「しかしだな」
どうやらこの口論は過去にもタロウとクロノスの間で取り沙汰された事があるらしい、イフナースとしてはどっちの主張も理解できるなと思う、クロノスの実戦では使えないとする考え方には頷かざるを得ないし、タロウの言う競技としての楽しみ方もあろうと思えた、
「すまんが、タロウ、詳しく教えてくれ、それと他にも似たような競技はあるのか?」
イフナースは二人の諍いを押し留めて割って入った、
「まぁ、いろいろとありますよ、どれもしっかりやれば楽しいものです」
ニコリと微笑むタロウであった。
「なんだ、お楽しみだなー」
と見物客の間を縫ってタロウがフラリと顔を出した、
「おう、いたのか」
「おはようございます、タロウさん」
「なんだ、また家畜の世話か?」
三者三様の出迎えに、
「まぁな、お前らが来るとは聞いていたからさ、一応な」
タロウは微笑みつつイージスにおはようと律儀に返す、
「それは結構、殊勝で宜しい」
クロノスはニヤリと口の端を上げた、
「何だよそれ、まぁいいけどさ、で、スイランズ様の隠し芸か?」
タロウが遠くの的を見つめて溜息交じりである、事の成り行きはクロノスが矢を握り込んだあたりから目にしていた、一瞬止めるべきかと悩んだのであるが、まぁ、祭りだし、この後の事もある、少々羽目を外しても構わないだろうと成り行きを見守る事にした、
「あっはっは、隠し芸か確かにな」
「うるせぇな、別に隠してないだろ」
「隠しておけよ、こういうのは遊びでやる事じゃない、いいか、イージス、こいつの真似はするなよ、出来るとも思うな」
「えー、駄目ですかー・・・」
イージスはどうやら真似る気満々であったらしい、残念そうにタロウとクロノスを交互に見上げる、
「駄目というか無理だ、下手な事をすると怪我の元だし、意味が無い、親父さんにどやされるぞ」
「・・・そうなのですか?」
「そうだ、矢はな、弓を使う事を前提に作られている、よく考えてみろ、こいつの真似をするならな、石を投げたほうが安いし楽だ」
「そりゃそうだ」
イフナースがアッハッハと笑い、
「なんだそっちも見せるか?構わんぞ」
クロノスはムッとしつつ手頃な石が無いかと周囲を見渡す、この場を仕切っている生徒が流石にそれはと止めに入ろうとするが、修練場は綺麗に整備された広場となっている、さらに普段であれば生徒達が行軍訓練にも使っている場所であり、見事に踏み均されて投擲に手頃な石など落ちているわけも無い、
「まぁまぁ、ついでだ、あっちもやろうぜ、イージスには無理だろうがあっちこそお前さん向きだろ?」
タロウが親指で背後を差した、見物客が取り巻いているがその向こう側を差しているらしい、クロノスはそちらを一瞥しなるほどとニヤリと微笑むと、
「うむ、では、一つ競うとするか、なんか賭けるか?」
「勝負にならんだろ」
「ん?負けると分っているからか?」
「誰が?」
「お前が」
「誰に?」
「俺に」
「・・・あー・・・安い挑発だな」
「高ければいいのか?」
「どっちでもいいよ、確かにあっちのが実戦向きだろうな、俺もやるぞ」
イフナースが割って入った、ウキウキと肩を回している、
「当然だ、よし、行くか」
「ん、あっ、お前魔法は無しだ」
「あん?俺のは制御が難しいと知っているだろ、その気になってもならなくても勝手に発動してしまう」
「嘘をつけ、その為に鍛えたんだぞこの俺が」
「何だ恩着せがましいな」
「感謝していたくせに何を言う、第一お前の言う事を真に受けたら日常生活もままならん事になるぞ」
「ふふん、わかったわかった、ここはお互い素でいこう、それならイースも参戦できるだろ」
「当然だ、お前らは人外過ぎる」
「イース様もそうなりかけているんですよ」
「それは散々聞いてるよ」
「それと、本気を出すなよ、学園が崩壊する」
「それはお前だ、俺は力加減は器用なんだ」
「なんだ?さっきと言ってる事が違うぞ」
「確かにな」
「うるせぇ、楽しませろ」
「嫌だね、楽しむのは俺だ」
「いや、俺だよ」
タロウを加えた四人はギャーギャー喚きながらその場から離れた、イージスはニコニコと楽しそうに三人を見比べており、タロウとしてはこの口の悪さは教育上宜しくないかな等と思いながらも、冒険者時代に似た雑な会話を楽しんでしまう、当時はこうしてつまらない事で競い合っては馬鹿笑いしていたもので、そのちょっとした遊びを通じて互いの実力を計っていたりする、ハッキリ言えば児戯である、しかしその児戯こそが相互理解に於いては最も重要な交流であったのだ、戦場に立ち互いの背を守るにあたって仲間の程度を知らねば守る事も委ねる事も難しい、その前提となる儀式にも似た交流なのである、
「さて・・・なんだこりゃ?」
「あー、こっちは流石に本物とは言えんな」
「確かにな・・・随分軽い」
四人が向かったのは修練場の中央付近に受付と看板が置かれた槍投げの出し物である、遠方に藁人形の標的が並びどうやら遠投の距離と正確さの二つを競い合わせる趣向らしく、最も遠方に突き刺さった槍には青色の旗が、標的のど真ん中に突き刺さったそれには赤色の旗が目印としてはためいていた、
「これならイージスでもいけるな・・・ほら、やってみるか?」
「はい、やります」
イージスは嬉しそうにイフナースから槍を受け取る、イフナースの言う通り、その槍は軽く、穂先はただ尖らせているだけで刃も付いていない、要するにただの木の棒であった、軍で使用するものには鉄か青銅の穂が付いているもので、それが無いだけで随分貧弱に感じてしまう、さらに投擲用という事で柄も細く短めであった、
「えっと、すいません、これは初めてです、どう構えれば良いですか?」
イージスは槍を手にして素直に三人を見上げた、
「ん、あぁ、まずな」
とイフナースがしゃがみ込み、槍の持ち方、足の開き方、目線、標的との距離感等々と懇切丁寧に教える、クロノスはフンフンとそれを聞きながらイージスの体勢を指導したり、イフナースの説明に付け加えたりと甲斐甲斐しく、タロウは逆にそうだったのかと二人の背後で実際に身体を動かしていた、係員の生徒や見物客達、参加者等はそれを微笑ましく横目に見ている、傍で見る限りは優しい父親とその友人か伯父達に見えるであろう、
「なるほど、わかりました」
イージスはフンスと鼻息を荒くして槍を構えた、英雄と王太子に直接指導を受けたのだだらしない姿は見せられないと気合も入る、
「あー、イージス、ちょっと待て、槍投げはな、手を離す瞬間が大事だ、遅いと最悪足元に刺さって自分に跳ね返ってくる、早過ぎても真上に飛んで自分が串刺しだ、まぁ、珍しいがな」
「そうだな、弓矢と違って重篤な怪我も多い、始めてであれば尚更だ、恥ずかしがることはないからな、失敗して当たり前だ、危ないと思ったら逃げる事を躊躇うな」
「はい、気を付けます」
イージスはキリッと二人を見上げる、うむとクロノスとイフナースは誇らしげに頷き、タロウはなるほどそういうものかと感心していたりする、
「では」
緊張し且つ気合の入った強張った顔でイージスは始点となる荒縄で示された円に立った、そこから狙うらしく、同様の円が五つ程地面に示されていた、五つそれぞれで参加者は歓声を上げたり溜息を吐いたりと楽しそうである、イージスは大きく足を前後に開き、教えられた通りに槍を構えた、王国軍式のそれは左手に巨大な方形盾を構える事を前提としている為左手の甲を前方に向け腕は縦に構える、右腕と全身のバネでもって槍を投げる方式であった、イージスはフッと一息吐いて、
「ヤァッ」
可愛らしい掛け声が響いたと同時に綺麗に放物線を描き槍は宙を飛んだ、
「おおっ、大したもんだ」
「うん、へー・・・すごいね」
「かっこいいな」
矢のような速度は無い為大人三人の褒め言葉を尻目に槍は飛び、しかし、急に失速して標的の手前で地面に突き刺さった、
「うー、届かないー」
イージスは残念そうに悲鳴のような泣き声を上げるが、
「いや、大したもんだ」
「おう、正に教科書通りだな」
「うん、なんだ子供でもあれだな、やろうと思えば出来るんだな」
「そりゃお前、この槍は軽いからな、本物ではこうはならんだろ」
「そうか?しかし、牽制程度には使えるだろ」
「使えるだろうがさ、戦場にガキを連れていくなんて考えてないだろうな」
「・・・それもそうか・・・」
「だろ、出来ると使えるは違うさ」
「しかし、訓練は可能だろ?どうだイージス?」
「どうと言われましても・・・」
イージスは首を傾げつつイフナースを見上げ、しかしすぐに、
「あっ、あれです、すんごい気持ちいいです、弓よりもこっちがいいです」
満面の笑みとなる、恐らく本心であろう、
「そうかそうか、気持ちいいか」
「こりゃ将来有望だな」
クロノスとイフナースは機嫌良く微笑んだ、
「はい、えっと、戻ったら父上にお願いします、練習します」
「そうだな、イザークは器用だからな、なんでも教えてくれるさ」
「はい、ありがとうございます」
ペコリとイージスは頭を下げた、クロノスとイフナースはは満足そうに微笑み、さてととギラリと瞳に炎を宿す、
「ではどうする、距離か標的か?」
「だな、タロウ、お前さんはどっちだ?」
「何が?」
「どっちで競う?」
「あー・・・そういう事?」
「そうだ、どっちだ?」
「・・・どっちでもいいが、あっ、距離でいいか、我流でしかできないが、そうなると距離の方が俺としては有利かな」
「我流?」
「お前・・・あれか?」
「あれだ」
「ここでか?」
「別に良いだろ」
「まぁいいがさ・・・」
「一応確認するか・・・」
とタロウは係りの生徒の所に戻って何やら話し込む、
「何か違うのか?」
イフナースが槍を弄りながらクロノスに確認する、
「うん、あいつの槍投げは変わっていてな、確かに距離は出るんだが使えないんだよ」
「何だそれ?」
「まぁ見てろ、面白いと言えば面白いからな」
クロノスはニヤリと微笑む、タロウはどうやら生徒の許可を得たらしく、意気揚々と戻って来て、
「参考記録にしかならんと言われてしまった」
アッハッハと笑いだす、
「だろうな、じゃ、お前からだ」
「はいはい、では、やりますか」
タロウは槍を手にしてその感触を確かめると、荒縄の円に立ち、そこからかなりの距離を真っ直ぐに後退した、クロノスはイージスとイフナースに近寄らないように手を広げ、先程の生徒も気を付けるようにと見物客に声をかけている、中々に気の利く生徒のようであった、
「いくぞー」
タロウはこんなもんかと足を止め、大きく身体を伸ばしつつ槍を構える、そして、ゆっくりと助走を始めた、
「なっ・・・走って投げるのか?」
「らしいんだよ、あいつのは」
「それはだってお前・・・」
「まぁ見てろ」
三人の視線に生徒と見物人達の視線も集めタロウは徐々に加速し、そして荒縄の円に足がかかったあたりで全身をバネに変え大きく槍を投擲する、
「ほぉ・・・」
イフナースは思わず感嘆の吐息をついた、ゆっくりとした助走から加速し、投擲に至るまでの身体の動きが流れるようで美しい、そしてその槍もまた飛距離が伸びている、青い旗を遥かに超えて槍は地面に突き刺さり、見物客達も生徒も参加者も皆唖然と振り向いた、
「ふぅ・・・うん、こんなもんだ」
ニヤリと顔を上げたタロウに、
「だろうな、どれ次は俺だ」
クロノスがそれが当然であるかのように応じる、
「待て待て、タロウ、その技術はなんだ、凄まじい飛距離だぞ」
イフナースが慌ててクロノスを止めた、
「そうですね、しかしこれは・・・」
タロウが苦笑いを浮かべ、
「あぁ、使えないんだよ、戦場ではな」
クロノスも口を挟む、どうやら共にその点は認識しているらしい、
「そっ・・・そう言えばそうか・・・」
イフナースもすぐに理解した、先程イージスに教えた軍隊式の槍投げは正に軍で使用する為の技術である、集団で動き密接した状態で、且つ防御体勢を維持しながら投げる形であって、タロウのように助走をつけて投げるとなるととてもではないが軍隊では採用できない、いかに訓練を積んだところで100人単位の軍勢が同時に走り出し止まる事等不可能であろう、つまらない事故と情けない怪我の元である、
「そうなんだよ、だから、こいつのはあくまで参考記録」
「だな、しかしだ、飛距離を競う為だけなら使えるだろ?」
「だから、そんなものに意味はねぇよ」
「あるだろが、競技を楽しめ」
「実戦で使えない技術に何の意味がある?」
「意味はあるさ、競技としてな」
「だから、使えないだろ」
「競技は競技として楽しむべきだ」
「それが分らんと何度も言っておるだろうが」
「あー、どうしてお前はこれだけはそんなに頭が硬いんだよ」
「役に立たない競技に時間を割く必要は無いし、極める必要も無い、無駄の塊だ」
「しかしだな」
どうやらこの口論は過去にもタロウとクロノスの間で取り沙汰された事があるらしい、イフナースとしてはどっちの主張も理解できるなと思う、クロノスの実戦では使えないとする考え方には頷かざるを得ないし、タロウの言う競技としての楽しみ方もあろうと思えた、
「すまんが、タロウ、詳しく教えてくれ、それと他にも似たような競技はあるのか?」
イフナースは二人の諍いを押し留めて割って入った、
「まぁ、いろいろとありますよ、どれもしっかりやれば楽しいものです」
ニコリと微笑むタロウであった。
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行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
神に同情された転生者物語
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ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
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元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
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魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
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目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
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