セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

70話 公爵様を迎えて その47

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「戻ったよー」

とタロウがそっと階段から食堂を覗くと、そこでは研究所組とフィロメナらがテーブルを囲んで打合せ中のようである、ミナとレインの姿は無く、またやんごとなき方々の影も無かった、

「お疲れ様です」

フィロメナがサッと振り返り、レネイとヒセラも笑顔を向けた、

「・・・終わったのかな?」

タロウは少しばかり安堵しゆっくりと食堂に入る、もしいまだ施術中であれば自分は入らない方が良かろうと配慮していた為で、

「終わりました、皆さんは北ヘルデルです」

ゾーイがニコリと微笑む、

「そっか、どうだった」

タロウはやっと笑顔となってそのテーブルに近寄る、手には巨大な木箱を抱え、さらに背中にはこれ見よがしに革袋を背負っていた、

「上手くいったわよ、皆さん満足されたわ」

ユーリがニヤリと微笑んだ、

「それは良かった、まぁ、難しい手技ではないからね、昨日散々やったんだから今日は楽だったろ」

「そうですねー・・・あっ、それでですね」

カトカが黒板の一つを取り出し、さっそくと詳細の確認を始める、タロウはハイハイと荷物を置いて質問に答えた、フンフンと頷く一同に、タロウはなるほどこう考えるのかと感心する、どうやらチャイナドレスと化粧に関してはあっという間に彼女達の知識でもって改良が加えられ始めており、特に化粧に関してはその進化たるやタロウの予想を超える速度であった、

「そうなると・・・あー・・・えっとね、俺の国での一例なんだけど」

タロウは前置きを挟みつつ、

「こうね、顔から首筋、胸元の上?この辺までを真っ白に塗るって事もあるな」

「そこまでですか?」

「うん、芸者さん、こっちで言う何だろ・・・遊女さんと楽師さんを合わせた様な職業があるんだけど、真っ白なおしろい、顔料だね、ニコリーネさんが調色する前のホントに真っ白なやつ、それでね首の裏、うなじだな、その辺まで真っ白に塗って、唇は朱色で、眉も書くのかな?そんな感じの化粧もある」

「ゲイシャさん・・・」

「うん、珍妙に聞こえるだろうけどね、あれはあれでとても美しいんだな、ただ・・・いかにもって感じだし、普通の人はね、そんな化粧はしないんだけど、芸者さんとなるとそれがまぁ、なんていうか、正装なんだろうな、まさに化粧が服装に組み込まれた形だと思うんだけど」

「役者とか遊女の化粧みたいな感じですか?」

「そだね、で、こう煌びやかな着物、これも伝統的な衣装なんだけど、それと日本髪っていう独特の髪の結い方があってね、それでバッチリと決める、一度見たことがあるけど、綺麗だし華やかだし、カッコイイんだよね」

「それ、教えて下さい」

サビナが遠慮なく声を張り上げた、ウンウンと頷きタロウを見上げる女性達である、タロウが綺麗な上に華やかでカッコイイ等と評する程の装束である、余程のものなのであろう、

「・・・あー・・・無理・・・かなー・・・」

タロウは申し訳なさそうに頬をかいた、

「なら、物を持ってきなさい」

ユーリがジロリと睨みつける、

「だからさ・・・だって、お前さんなら知ってるだろ?俺があっちこっち歩き回っているのはさ・・・」

「・・・そっか、そういう事もあったわね」

「そういう事」

タロウは寂しそうに呟いた、

「・・・なんかあるんですか?」

ゾーイが思わずユーリに問う、

「まぁね、色々あるの、大人には」

ユーリが適当に誤魔化した、タロウの放浪癖を時折茶化しているユーリであるが、ユーリもソフィアもクロノスも勿論の事その目的は聞いていた、単純に故郷に帰りたいからである、タロウとミナの故郷となるその国はどうやらかなり遠い土地らしく、タロウの特殊な能力を以てしても容易に戻れる場所ではないらしい、そう聞いた時には一体どんだけ遠いのかとユーリは目を細めたものであるが、今もってタロウがその土地に辿り着いていない所を見るにやはりそれだけ遠く、また困難な場所なのであろう、時折聞く特殊な文物のこともある、ユーリとソフィアは一度は連れて行けと笑ったものであるが、どうやらその願望は叶えられる事は無さそうであった、

「なんですそれ?」

カトカもユーリを睨んでしまう、

「いいの、で、だったらさ、その衣装だけでも作れない?前みたいに型は作れるでしょ、化粧も髪型も真似すれば出来るんだし」

「そうだが・・・あー・・・どうだろうな・・・えっとな、その服・・・っていうか・・・」

タロウはウーンと右目を閉じて悩みだす、和服もしくは呉服の型紙の提供は可能そうであるが、チャイナドレスのそれと比べて若干複雑である、もしこれを提供するとなると、タロウが次にやってもらいたかった事が先延ばしになる可能性があった、故に、

「その前にさ、もう少し面白いのもあるんだよ」

「なにさ?」

「そっちの方が画期的だと思うよ、君らには」

「だから、なにさ?」

「もう少し落ち着いたらかなーって思ってる」

「だから、なんなのさ?」

「だから・・・」

「今、言いなさい、ハッキリと、めんどくさいわね、出し惜しみするんじゃないわよ!!」

ユーリが怒声を張り上げ、まったくだと女性達はタロウを睨み上げる、

「怒鳴るなよ・・・」

タロウが怯んで弱気に呟いた、

「怒鳴るわよ、だからだとか、その前にとか、めんどくさいのよ、気を持たせるんじゃないわよ、男でしょ、ハッキリなさい」

さらにユーリが怒鳴り上げ、女性達はその剣幕に怖がるどころか同調して微笑む有様で、

「だけどさ・・・」

「だから、言ってるでしょ!!」

さらに怯むタロウにさらに激高するユーリである、サビナとカトカはもっと言えと楽しそうで、フィロメナ達は流石にこれ以上はと苦笑いに変わった、そこへ、

「なに騒いでるの?」

ソフィアが厨房から顔を出した、

「ソフィア、あなたも言ってやりなさい、このぼんくらがのらりくらりとめんどくさいのよ」

「いや、だからね・・・」

「あら、戻ったの?」

ソフィアはそういう事かとこちらも薄く微笑む、そのまま厨房に一声かけて前掛けで手を拭いつつ食堂に入ってきた、どうやら厨房ではティルとミーンが作業中らしい、

「おう、戻ってた」

タロウが困った顔をソフィアに向けるが、

「そっ、じゃ、どうしようかしら、ゾーイさん、向こう確認してくれる?」

ソフィアは薄気味悪い笑みを浮かべて指示を飛ばし、

「あっ、そうですね、はい、行ってきます」

ゾーイがサッと腰を上げた、

「ん、で、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも無いのよ、もう」

ユーリがフンスと鼻息を荒くする、

「そっ、あっ、何を買って来たの?」

ソフィアはいつもの事と余裕綽々であった、フィロメナはやっぱりソフィアさんは一味違うなー等と感心してしまう、

「あっ、あぁ、まぁ、色々と?明日使う物ばかりだけどさ」

「そっ、じゃ、そのままの方が良さそうね」

とテーブルに置かれた木箱と革袋に手を置いた、

「そだね」

どうやら風向きが変わったとタロウは安堵しつつ女性達のテーブルから離れる、

「ちょっとー」

ユーリがその背に非難の視線をぶつけるが、

「まぁまぁ、で、こっちで使うものは?」

「それは別、だから、これはどうしようかな、取り合えず置いておいて」

「はいはい、あっ、事務所にブラスさんが来てるみたいだけど」

「そなの?」

「そうよ、昨日の木工細工の改良品?持って来たらしくてね、エレインさんが打合せしてると思うわよ」

「そっか、それはそれで任せていいだろ」

「そうねー」

そこへゾーイがあっという間に戻って来ると、

「向こうは大丈夫だそうです」

とソフィアに叫んだ、

「そっか、じゃ、ゾーイさん、そっち確保」

「はい」

確保?とタロウが何のことやらと問い質す間も無く、むんずとゾーイはタロウの腕を掴み、ソフィアは空いた方の腕を掴む、エッとタロウは二人を交互に見下ろした、ゾーイにもだいぶ慣れた為に申し訳なさは感じなくなっているが、それでも若干背筋が寒くなる、

「じゃ、そういう事で、向こう行ってくるわ、騒がせたわね」

「もう・・・まぁ、いいわ、こっちは戻ってからで」

ユーリがフンと鼻で答える、

「じゃ、行きますか」

「ハイ」

ゾーイの楽し気な返事が響き、二人はタロウを引きづるように階段に向かった、

「エッ、あの、なに?」

タロウは下手に抵抗するような雰囲気ではないなと察して若干ふざけたような悲鳴を上げるが、

「大丈夫よー、命の危険は無いと思うからー」

「ですねー」

楽しそうなソフィアとゾーイである、そのまま三人は階段に消えた、

「・・・まったく・・・」

ユーリは鼻息を荒く吐き出すと、

「まぁまぁ、でも、その画期的な何かって気になりますね」

サビナがやんわりと宥めにかかった、

「そうだけどさ、まったく、こっちは真剣にやってるっていうのに・・・」

「ですねー、でも、そっか、顔だけじゃないかもしれないですね、化粧って」

カトカが手元の黒板を確認する、タロウの言う首筋からうなじ、胸元にかけての化粧なるものが大変に興味深いと感じる、

「あっ、それなんですけど、あれですね、昨日気付いた事があって、ニコリーネ先生の調色だとちょっとあれですね、色が薄いのかなって感じる事があって」

レネイが思い出したように口を挟んだ、

「そう?」

「はい、薄いというか明るいというか・・・戻って・・・ほら、蝋燭の灯りの下とかだとあれなんですよ、首筋との色の違いが顕著になっちゃって、なんか顔がこう、白く浮いた感じ?顎の下の影も濃いからそう見えるのかもなんですが」

「あっ、そうだったわね、それは感じた」

「うん、私も」

フィロメナとヒセラも同じように感じていたらしい、

「へー・・・こっちだとどうだろう、あっ、光柱の灯りだとそんなでもないような・・・あれか明るさが違うからか」

「それはあるでしょうね」

「そうなんですよ、だから、お店でこの化粧をするとしたら、逆にいいのかなって親父とも話してました、でも、そっか、首筋から胸元の化粧か・・・それもいいかもですね、こう・・・顔から繋がって見える肌を強調する感じで・・・悪く無いのかな?」

「そうね、そのうなじはどうかしらね・・・なんで、うなじまで?」

「うなじってここでしょ?」

「そこ、首の後ろ?」

「確かに、ここはだって髪で隠れるし、あっ、まとめて上に上げるから?」

「そっか、私達は垂らしてるけどね・・・でも、どんなかしら?」

「・・・やってみる?」

「そうだね、試しましょう」

レネイがサッと腰を上げ、ヒセラも席を立つ、

「あっ、そうだ、その親父さんの方ってどんな感じだったの?」

ユーリがフィロメナに問いかけた、昨日も何気に遊女達を気にしていたのである、高価な顔料を使わない事から始まり、それまでとは違う薄い化粧をするとなれば遊女屋の経営者として思う事もあるであろうと、

「何とかなりました」

フィロメナがニコリと微笑む、

「ならいいけど」

「はい、ほら、蝋燭の下でも綺麗なままだったので、逆にこっちの方がいいかもなって、最終的には・・・」

フィロメナは若干喧嘩腰で話し合ったことは口にしなかった、やはりリズモンドも古い人間である、さらにこの街の遊女文化を作り上げたとの自負もあり、今までのやり方を覆すのを良しとはしなかった、人とは基本的に保守的な性格を持つ、現状のままで不都合が無ければ変革する必要を感じないもので、リズモンドは今まで通りの化粧で構わないと憤慨してしまったのだ、それを姉妹達は何とか説き伏せている、特に顔料に含まれる毒素については熱心に説明し、何とかかんとか理解を得られたのであった、タロウが懸念した通りであったりする、

「そっか、じゃ、そっちはいいとして・・・こうなるとあれね、調色した顔料の販売か・・・」

「そうなんですよ、それが欲しいんです」

「エレインさんが戻ってからかな・・・ニコリーネさんにも協力してもらって・・・」

「ですね」

食堂はタロウが来るまでの雰囲気に戻ったようで真剣な打合せが再開されたのであった。
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