セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

72話 メダカと学校 その23

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「失礼します」

とエルマとメイド二人が荷解きを終え商会の騒ぎを気にしながらも寮に戻ると、

「はい、どうぞ、型で抜いて下さいねー」

マルルースの楽しそうな声が響き、ハーイと子供達の素直な声が続いた、エッと固まる三人である、見ればマルルースは腕まくりをした上に前掛けを着けて粉まみれになっており、その周りで子供達が椅子に乗り上げてテーブルに向かっている、

「あら、お帰り、どう?落ち着いた?」

ニコリと振り返るマルルースに、奥様そんなとメイド二人は慌て始めてしまい、エルマも、

「はい、お陰様で・・・あの、何をされているのですか」

思わず問い返した、

「何って・・・ね、みんなでドーナッツを作ってるんですよ、ねー」

「ネー」

と微笑み合うマルルースと幼女達であった、エッと再び三人は固まってしまう、そこへソフィアが厨房から入ってきて、

「あら、お帰りなさい」

と当然のように手にしたボウルをテーブルに置くと、

「どんなもんです?」

「フフッ、厳しい監督さんがいますからね、完璧です」

「じゃな、上手いもんじゃぞ」

レインがムフンと胸を張った、どうやらマルルースの言う監督とやらはレインの事であるらしい、

「もう、そこはちゃんと褒めないとでしょ」

「褒めておるではないか」

「ねー、厳しいでしょー」

「なら、その監督さんにお願いしようかしらこっちは」

「構わんが時間がかかるぞ、手が小さいからな」

「なによそれ」

「事実じゃ」

「そうねー、私がやりますから、監督さん、御指導お願いしますね」

とマルルースがボウルに手を伸ばし、仕方ないのうとレインも満更ではなさそうで、その隣では、

「ノール下手ー」

「うー、ノーラの方が簡単だもん」

「うー、真ん中上手くいかないねー」

「でしょー、ノーラのは楽なのー」

「楽じゃないよ、ちゃんと綺麗にやらないとカントクに怒られるのよー」

「見てないでしょー」

「さっき、見てたー」

「あー、サスキア早すぎー」

「・・・」

と子供達が型抜きに懸命である、皆真剣に生地に向かっており、若干歪であるがドーナッツのそれは着実に生産されているようで、

「はいはい、こっちは大丈夫?」

「ダイジョーブー、こんなに出来たー」

「あら、上手いもんね」

「でしょー」

「ホントー」

「これでいいのー?」

「いいわよ、少しくらい穴がズレても、大丈夫だからね」

「良かったー」

「ヨカッタネー」

「ねー」

「はい、じゃ、出来たのは回収しますからね」

ハーイと素直な声が響いた、一体この有様はと固まってしまっていたメイド二人もこれは手伝わなければと、

「マルルース様、代わります」

「そうです、私が」

マルルースに駆け寄るも、

「えー、駄目ですよ、監督がうるさいんだから」

「そんな、叱られてしまいます」

「平気よ、黙っていればいいんだし、ほら、手伝うなら手を洗ってきなさい、ソフィアさん、手が増えたわよ」

「はい、じゃ、どうしようかしら、形が出来たのを厨房にお願いできますか?ドンドン揚げていきますからねー」

綺麗な円形となった生地をトレーに並べながらソフィアは顔を上げた、ハイッとメイド二人は厨房へ走り、エルマは呆然と取り残されてしまう、しかし、すぐにハッと顔を上げてメイドを追うエルマであった。




「ありゃ、甘い匂いねー」

とユーリがフラリと階段から顔を出す、

「あら、ユーリ先生」

マルルースが柔らかく微笑み、アッと叫んでユーリはサッと背を正し、

「御機嫌麗しゅう王妃様」

と一礼した、マルルースは優雅な笑顔を答えとしエルマも顔を上げる、マルルースは一通りの作業を終えてノンビリとエルマと共に水槽を眺めていた所で、厨房からはミナ達の楽しそうな声が響いている、メイド二人もそちらで調理中となり、子供達があっちだこっちだと駆け回るものだからマルルースとエルマの居る場所が無くなって、結局追い出されてしまったのだ、王妃に対してこの扱いはとエルマもメイドも背筋を寒くするがそのマルルースがのほほんと楽しんでいる様子で、何も言えなくなってしまった三人である、

「打合せ中だったかしら?ユーリ先生も忙しいのね」

「ありがとうございます、私よりも学園長が忙しくて、今も私に代わってサビナが打合せ中なんです、エルマさんもようこそいらっしゃいました」

ユーリがニコリと微笑みかけ、エルマは小さな会釈で答える、先程三階を通った際にはユーリは学園との事で、カトカと少しばかり数学やらベルメルやらと打合せし、マルルース達が階下に下りたのに気付いてサビナと共にそそくさと後を追っていた、

「そう、学園長は・・・そうね忙しいわね」

「そうなんですよ、あのお歳で衰え知らずなのです、私達も見習わなければなりません」

心にも無い事を言うユーリである、いや、少しばかりはそう思っている、心の片隅の最果ての端っこ程度には、

「そうね、あっ、サビナさんに聞きましたよ、ボタンの件、面白そうね」

「左様でしたか、恐らく今サビナが学園長に説明していると思います、中々に興味深い事象かと考えます」

「あら、先生もそう思う?」

「はい、勿論です、昨晩タロウにも確認したのですが、昔・・・タロウに聞いた事がありまして・・・」

「あら・・・そうなの?」

「はい、その時は何を言っているんだかと・・・私もソフィアも若かったので・・・すっかり聞き流してしまったのですが」

「へー・・・面白い、そうなるとタロウさんはその時から御存知だったのね」

「そのようです」

エルマが何のことやらと振り返る、メダカの柔らかくも機敏な動きに見惚れていて二人の会話の半分も耳には入っていなかった、しかしやっと二人をしてそこまで言わせるほどの大事らしいと感付いたようで、

「フフッ、エルマも興味ある?ボタンの使い方?」

マルルースが自慢げに話し始め、エッと驚くエルマであった、ユーリはソッと二人の側に腰を下ろす、どうやらお茶の時間らしい、まだ肝心の茶は無かったが、食堂内と厨房から漂う甘い匂い、ソフィア達が楽しそうに調理をしているであろう事がすぐに分り、また、聞き慣れない子供の声もある、

「・・・確かに興味深いですね・・・」

エルマはなるほどと頷く、

「ねー・・・何て言うか・・・知らない事って多いのね」

「確かに・・・というか、失礼ですが、この寮は何から何まで・・・」

とエルマが言葉を濁す、あーわかるーとすぐにマルルースが微笑み、そうなんですよねと誤魔化すような笑みを浮かべるユーリである、

「その・・・すいません、お世話になる身でこう言ってはいけないのは重々理解しております、ですが、あまりにもその・・・」

とメダカに視線を移す、このメダカも素晴らしいのであるが、先程厨房に入った折には思わず悲鳴を上げてしまった、手を洗うそれだけでもお湯を出しますとソフィアは微笑み、エッと驚く間もなく、湯気の立つ丁度良い温かさのお湯が流れ出し、さらにはドーナッツという菓子であった、小麦の生地は理解できたがそれを油で揚げるという、メイド達は順応していたがその調理法に初めて触れたエルマは言葉も無かった、油そのものは確かに料理ではよく使う、しかし大量の油に泳がせるなど想像もしておらず、その上で大変に使いやすそうなコンロなる品もある、さらにトイレを借りてみれば、水で流す仕掛けであるとか、用を足す前にレインが懇切丁寧に使い方を教えてくれて、さらには用を足した後で手を洗う台まであり、大変に手触りの良いタオルと呼ばれる布まで完備してある、先日来た時には隠されていた訳ではないが、知り得なかった事ばかりで、正直理解が追い付かない、そして王都でも話題となっている光柱を開発したのがゾーイとカトカ、サビナであると言う、それをメダカを前にしてマルルースから話され、呆然としてしまっていたのだ、

「その寝台も素晴らしいのよ」

マルルースが意地悪そうに微笑む、エッとエルマは振り返った、暖炉の前、何とも邪魔くさい場所にズドンとばかりに置かれたそれが気にならない訳が無く、しかしそういうものなのかなと特に気にしないようにしていたのだった、

「そうですね、ミナとレインがいないうちに試してみて下さい、気持ち良いですよ」

ユーリもニコリと微笑む、エルマは二人を見比べつつ、そういう事ならと腰を上げ、寝台に腰掛ける、

「あらっ・・・エッ」

と二度三度と尻を弾ませ、思わずその頬が綻んだ、絶妙な反発力と心地よい柔らかさが尻を押し返し、ウフフと笑みが零れてしまう、

「そうだ、これの生産はどうなっているのかしら?陛下も気にしてましたわね」

「あら・・・すいません、これもタロウですね、職人達が動いているとは思いますが、詳細は聞いてないですね、確認致しましょうか」

「そうね、ほら、ウルジュラも欲しーって騒ぐもんだから、陛下もね・・・まずは見せろとなって・・・まぁ、忙しいわよね職人さん達も」

「分かります、私もすぐにでも欲しいです」

「そうよねー」

マルルースとユーリが困ったもんだと苦笑いを浮かべている内にエルマはゆっくりとその身を横たえ、これは凄いと驚きつつもその柔らかくも固く絶妙な感触に身を委ねる、これは確かに心地良い、そのまま眠ってしまいそうになり、ハッと目を見開いて半身を持ち上げた、そこへ、

「出来たー」

ミナが厨房から飛び出して、

「デキター」

「デキター」

ノールとノーラも駆けて来る、

「オワッ、増えてるな」

「ユーリだー」

「誰ー」

「だれー」

新しい顔にノールとノーラが足を止め、不思議そうにユーリを見上げる、

「ユーリだよー」

「ユーリ?」

「ユーリなの?」

「ユーリなのー」

何を言っているのやらとユーリは顔を歪め、クスクスと笑ってしまうマルルースとエルマであった、

「ほら、ちゃんと挨拶しなきゃでしょ」

エルマが優しく諭すと、

「えっと、ノーラだよー」

「えー違うでしょー、私がノーラ」

「そうだっけ、じゃ、ノールだよー」

「ノーラなのー」

ピョンピョン飛び跳ねる二人である、ユーリはキョトンと二人を見比べた、どうやら双子であるらしい、同じ顔同じ髪色同じ背丈、髪型が異なっている事と服装も若干変えているらしい、それ以外はまるで一緒の二人である、

「待て、どっちがどっち?」

「だからー、ノーラー」

「違うー、ノール、私がノーラー」

「ノーラは私ー」

「だめー、ノールでしょー」

「ノーラー」

おいおいとユーリは顔を顰めるしかなく、ノールとノーラはここぞとばかりにはしゃいでいる、ミナも一緒になってどっちがどっちーと囃し立てる有様で、

「こら、大人をからかっては駄目ですよ」

エルマがもうと窘めた、

「駄目ー?」

「駄目です、髪を二つに別けてるのがノールよね?」

「うん、今日は二つなのノールなの」

「一つの方が?」

「ノーラだよ、えっとねー、明日は髪を二つにするの、でもノーラなのー、一つにするのがノールなんだよー」

エッとユーリは首を傾げる、どうやら二人はそうやって遊んでいるらしい、器用なもんだと感心しつつも家族は大変だろうなとも思う、何せこの寮ではミナ一人で手一杯なのである、ミナと同じような無駄に元気なのが二人もいたら、うるさくて仕方ないであろう、

「はい、それでいいわよ」

黒いベールで顔を隠していてもその優しい声音は子供達に安心感を与えるようで、エルマの言う事をやっと素直に聞いたノールとノーラであった、すかさず、

「ミナー、私はミナー」

とミナが飛び跳ね、またーと微笑むマルルースとエルマ、ハイハイとユーリは鼻で笑う、そこへ、

「あら丁度良かった」

ソフィアがヒョイと顔を出す、

「カトカさん達も呼んできなさいよ、お茶にしましょ」

「そのようね」

ユーリが腰を上げると、ソフィアの脚に隠れている少女が目に入る、ジッとユーリを見つめており、ん?とユーリは首を傾け、

「その子は?」

「サスキアー」

ノールとノーラが同時に叫ぶ、サッと隠れるサスキアであった、

「あら・・・静かな子もいるのねー、嬉しいわー」

心底嬉しそうにユーリが微笑むと、

「サスキアー、ユーリだよー」

「ユーリなのー」

ノールとノーラが遠慮無く喚き、結局うるさくなるのかと顔を顰めるユーリであった。
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