982 / 1,471
本編
72話 メダカと学校 その23
しおりを挟む
「失礼します」
とエルマとメイド二人が荷解きを終え商会の騒ぎを気にしながらも寮に戻ると、
「はい、どうぞ、型で抜いて下さいねー」
マルルースの楽しそうな声が響き、ハーイと子供達の素直な声が続いた、エッと固まる三人である、見ればマルルースは腕まくりをした上に前掛けを着けて粉まみれになっており、その周りで子供達が椅子に乗り上げてテーブルに向かっている、
「あら、お帰り、どう?落ち着いた?」
ニコリと振り返るマルルースに、奥様そんなとメイド二人は慌て始めてしまい、エルマも、
「はい、お陰様で・・・あの、何をされているのですか」
思わず問い返した、
「何って・・・ね、みんなでドーナッツを作ってるんですよ、ねー」
「ネー」
と微笑み合うマルルースと幼女達であった、エッと再び三人は固まってしまう、そこへソフィアが厨房から入ってきて、
「あら、お帰りなさい」
と当然のように手にしたボウルをテーブルに置くと、
「どんなもんです?」
「フフッ、厳しい監督さんがいますからね、完璧です」
「じゃな、上手いもんじゃぞ」
レインがムフンと胸を張った、どうやらマルルースの言う監督とやらはレインの事であるらしい、
「もう、そこはちゃんと褒めないとでしょ」
「褒めておるではないか」
「ねー、厳しいでしょー」
「なら、その監督さんにお願いしようかしらこっちは」
「構わんが時間がかかるぞ、手が小さいからな」
「なによそれ」
「事実じゃ」
「そうねー、私がやりますから、監督さん、御指導お願いしますね」
とマルルースがボウルに手を伸ばし、仕方ないのうとレインも満更ではなさそうで、その隣では、
「ノール下手ー」
「うー、ノーラの方が簡単だもん」
「うー、真ん中上手くいかないねー」
「でしょー、ノーラのは楽なのー」
「楽じゃないよ、ちゃんと綺麗にやらないとカントクに怒られるのよー」
「見てないでしょー」
「さっき、見てたー」
「あー、サスキア早すぎー」
「・・・」
と子供達が型抜きに懸命である、皆真剣に生地に向かっており、若干歪であるがドーナッツのそれは着実に生産されているようで、
「はいはい、こっちは大丈夫?」
「ダイジョーブー、こんなに出来たー」
「あら、上手いもんね」
「でしょー」
「ホントー」
「これでいいのー?」
「いいわよ、少しくらい穴がズレても、大丈夫だからね」
「良かったー」
「ヨカッタネー」
「ねー」
「はい、じゃ、出来たのは回収しますからね」
ハーイと素直な声が響いた、一体この有様はと固まってしまっていたメイド二人もこれは手伝わなければと、
「マルルース様、代わります」
「そうです、私が」
マルルースに駆け寄るも、
「えー、駄目ですよ、監督がうるさいんだから」
「そんな、叱られてしまいます」
「平気よ、黙っていればいいんだし、ほら、手伝うなら手を洗ってきなさい、ソフィアさん、手が増えたわよ」
「はい、じゃ、どうしようかしら、形が出来たのを厨房にお願いできますか?ドンドン揚げていきますからねー」
綺麗な円形となった生地をトレーに並べながらソフィアは顔を上げた、ハイッとメイド二人は厨房へ走り、エルマは呆然と取り残されてしまう、しかし、すぐにハッと顔を上げてメイドを追うエルマであった。
「ありゃ、甘い匂いねー」
とユーリがフラリと階段から顔を出す、
「あら、ユーリ先生」
マルルースが柔らかく微笑み、アッと叫んでユーリはサッと背を正し、
「御機嫌麗しゅう王妃様」
と一礼した、マルルースは優雅な笑顔を答えとしエルマも顔を上げる、マルルースは一通りの作業を終えてノンビリとエルマと共に水槽を眺めていた所で、厨房からはミナ達の楽しそうな声が響いている、メイド二人もそちらで調理中となり、子供達があっちだこっちだと駆け回るものだからマルルースとエルマの居る場所が無くなって、結局追い出されてしまったのだ、王妃に対してこの扱いはとエルマもメイドも背筋を寒くするがそのマルルースがのほほんと楽しんでいる様子で、何も言えなくなってしまった三人である、
「打合せ中だったかしら?ユーリ先生も忙しいのね」
「ありがとうございます、私よりも学園長が忙しくて、今も私に代わってサビナが打合せ中なんです、エルマさんもようこそいらっしゃいました」
ユーリがニコリと微笑みかけ、エルマは小さな会釈で答える、先程三階を通った際にはユーリは学園との事で、カトカと少しばかり数学やらベルメルやらと打合せし、マルルース達が階下に下りたのに気付いてサビナと共にそそくさと後を追っていた、
「そう、学園長は・・・そうね忙しいわね」
「そうなんですよ、あのお歳で衰え知らずなのです、私達も見習わなければなりません」
心にも無い事を言うユーリである、いや、少しばかりはそう思っている、心の片隅の最果ての端っこ程度には、
「そうね、あっ、サビナさんに聞きましたよ、ボタンの件、面白そうね」
「左様でしたか、恐らく今サビナが学園長に説明していると思います、中々に興味深い事象かと考えます」
「あら、先生もそう思う?」
「はい、勿論です、昨晩タロウにも確認したのですが、昔・・・タロウに聞いた事がありまして・・・」
「あら・・・そうなの?」
「はい、その時は何を言っているんだかと・・・私もソフィアも若かったので・・・すっかり聞き流してしまったのですが」
「へー・・・面白い、そうなるとタロウさんはその時から御存知だったのね」
「そのようです」
エルマが何のことやらと振り返る、メダカの柔らかくも機敏な動きに見惚れていて二人の会話の半分も耳には入っていなかった、しかしやっと二人をしてそこまで言わせるほどの大事らしいと感付いたようで、
「フフッ、エルマも興味ある?ボタンの使い方?」
マルルースが自慢げに話し始め、エッと驚くエルマであった、ユーリはソッと二人の側に腰を下ろす、どうやらお茶の時間らしい、まだ肝心の茶は無かったが、食堂内と厨房から漂う甘い匂い、ソフィア達が楽しそうに調理をしているであろう事がすぐに分り、また、聞き慣れない子供の声もある、
「・・・確かに興味深いですね・・・」
エルマはなるほどと頷く、
「ねー・・・何て言うか・・・知らない事って多いのね」
「確かに・・・というか、失礼ですが、この寮は何から何まで・・・」
とエルマが言葉を濁す、あーわかるーとすぐにマルルースが微笑み、そうなんですよねと誤魔化すような笑みを浮かべるユーリである、
「その・・・すいません、お世話になる身でこう言ってはいけないのは重々理解しております、ですが、あまりにもその・・・」
とメダカに視線を移す、このメダカも素晴らしいのであるが、先程厨房に入った折には思わず悲鳴を上げてしまった、手を洗うそれだけでもお湯を出しますとソフィアは微笑み、エッと驚く間もなく、湯気の立つ丁度良い温かさのお湯が流れ出し、さらにはドーナッツという菓子であった、小麦の生地は理解できたがそれを油で揚げるという、メイド達は順応していたがその調理法に初めて触れたエルマは言葉も無かった、油そのものは確かに料理ではよく使う、しかし大量の油に泳がせるなど想像もしておらず、その上で大変に使いやすそうなコンロなる品もある、さらにトイレを借りてみれば、水で流す仕掛けであるとか、用を足す前にレインが懇切丁寧に使い方を教えてくれて、さらには用を足した後で手を洗う台まであり、大変に手触りの良いタオルと呼ばれる布まで完備してある、先日来た時には隠されていた訳ではないが、知り得なかった事ばかりで、正直理解が追い付かない、そして王都でも話題となっている光柱を開発したのがゾーイとカトカ、サビナであると言う、それをメダカを前にしてマルルースから話され、呆然としてしまっていたのだ、
「その寝台も素晴らしいのよ」
マルルースが意地悪そうに微笑む、エッとエルマは振り返った、暖炉の前、何とも邪魔くさい場所にズドンとばかりに置かれたそれが気にならない訳が無く、しかしそういうものなのかなと特に気にしないようにしていたのだった、
「そうですね、ミナとレインがいないうちに試してみて下さい、気持ち良いですよ」
ユーリもニコリと微笑む、エルマは二人を見比べつつ、そういう事ならと腰を上げ、寝台に腰掛ける、
「あらっ・・・エッ」
と二度三度と尻を弾ませ、思わずその頬が綻んだ、絶妙な反発力と心地よい柔らかさが尻を押し返し、ウフフと笑みが零れてしまう、
「そうだ、これの生産はどうなっているのかしら?陛下も気にしてましたわね」
「あら・・・すいません、これもタロウですね、職人達が動いているとは思いますが、詳細は聞いてないですね、確認致しましょうか」
「そうね、ほら、ウルジュラも欲しーって騒ぐもんだから、陛下もね・・・まずは見せろとなって・・・まぁ、忙しいわよね職人さん達も」
「分かります、私もすぐにでも欲しいです」
「そうよねー」
マルルースとユーリが困ったもんだと苦笑いを浮かべている内にエルマはゆっくりとその身を横たえ、これは凄いと驚きつつもその柔らかくも固く絶妙な感触に身を委ねる、これは確かに心地良い、そのまま眠ってしまいそうになり、ハッと目を見開いて半身を持ち上げた、そこへ、
「出来たー」
ミナが厨房から飛び出して、
「デキター」
「デキター」
ノールとノーラも駆けて来る、
「オワッ、増えてるな」
「ユーリだー」
「誰ー」
「だれー」
新しい顔にノールとノーラが足を止め、不思議そうにユーリを見上げる、
「ユーリだよー」
「ユーリ?」
「ユーリなの?」
「ユーリなのー」
何を言っているのやらとユーリは顔を歪め、クスクスと笑ってしまうマルルースとエルマであった、
「ほら、ちゃんと挨拶しなきゃでしょ」
エルマが優しく諭すと、
「えっと、ノーラだよー」
「えー違うでしょー、私がノーラ」
「そうだっけ、じゃ、ノールだよー」
「ノーラなのー」
ピョンピョン飛び跳ねる二人である、ユーリはキョトンと二人を見比べた、どうやら双子であるらしい、同じ顔同じ髪色同じ背丈、髪型が異なっている事と服装も若干変えているらしい、それ以外はまるで一緒の二人である、
「待て、どっちがどっち?」
「だからー、ノーラー」
「違うー、ノール、私がノーラー」
「ノーラは私ー」
「だめー、ノールでしょー」
「ノーラー」
おいおいとユーリは顔を顰めるしかなく、ノールとノーラはここぞとばかりにはしゃいでいる、ミナも一緒になってどっちがどっちーと囃し立てる有様で、
「こら、大人をからかっては駄目ですよ」
エルマがもうと窘めた、
「駄目ー?」
「駄目です、髪を二つに別けてるのがノールよね?」
「うん、今日は二つなのノールなの」
「一つの方が?」
「ノーラだよ、えっとねー、明日は髪を二つにするの、でもノーラなのー、一つにするのがノールなんだよー」
エッとユーリは首を傾げる、どうやら二人はそうやって遊んでいるらしい、器用なもんだと感心しつつも家族は大変だろうなとも思う、何せこの寮ではミナ一人で手一杯なのである、ミナと同じような無駄に元気なのが二人もいたら、うるさくて仕方ないであろう、
「はい、それでいいわよ」
黒いベールで顔を隠していてもその優しい声音は子供達に安心感を与えるようで、エルマの言う事をやっと素直に聞いたノールとノーラであった、すかさず、
「ミナー、私はミナー」
とミナが飛び跳ね、またーと微笑むマルルースとエルマ、ハイハイとユーリは鼻で笑う、そこへ、
「あら丁度良かった」
ソフィアがヒョイと顔を出す、
「カトカさん達も呼んできなさいよ、お茶にしましょ」
「そのようね」
ユーリが腰を上げると、ソフィアの脚に隠れている少女が目に入る、ジッとユーリを見つめており、ん?とユーリは首を傾け、
「その子は?」
「サスキアー」
ノールとノーラが同時に叫ぶ、サッと隠れるサスキアであった、
「あら・・・静かな子もいるのねー、嬉しいわー」
心底嬉しそうにユーリが微笑むと、
「サスキアー、ユーリだよー」
「ユーリなのー」
ノールとノーラが遠慮無く喚き、結局うるさくなるのかと顔を顰めるユーリであった。
とエルマとメイド二人が荷解きを終え商会の騒ぎを気にしながらも寮に戻ると、
「はい、どうぞ、型で抜いて下さいねー」
マルルースの楽しそうな声が響き、ハーイと子供達の素直な声が続いた、エッと固まる三人である、見ればマルルースは腕まくりをした上に前掛けを着けて粉まみれになっており、その周りで子供達が椅子に乗り上げてテーブルに向かっている、
「あら、お帰り、どう?落ち着いた?」
ニコリと振り返るマルルースに、奥様そんなとメイド二人は慌て始めてしまい、エルマも、
「はい、お陰様で・・・あの、何をされているのですか」
思わず問い返した、
「何って・・・ね、みんなでドーナッツを作ってるんですよ、ねー」
「ネー」
と微笑み合うマルルースと幼女達であった、エッと再び三人は固まってしまう、そこへソフィアが厨房から入ってきて、
「あら、お帰りなさい」
と当然のように手にしたボウルをテーブルに置くと、
「どんなもんです?」
「フフッ、厳しい監督さんがいますからね、完璧です」
「じゃな、上手いもんじゃぞ」
レインがムフンと胸を張った、どうやらマルルースの言う監督とやらはレインの事であるらしい、
「もう、そこはちゃんと褒めないとでしょ」
「褒めておるではないか」
「ねー、厳しいでしょー」
「なら、その監督さんにお願いしようかしらこっちは」
「構わんが時間がかかるぞ、手が小さいからな」
「なによそれ」
「事実じゃ」
「そうねー、私がやりますから、監督さん、御指導お願いしますね」
とマルルースがボウルに手を伸ばし、仕方ないのうとレインも満更ではなさそうで、その隣では、
「ノール下手ー」
「うー、ノーラの方が簡単だもん」
「うー、真ん中上手くいかないねー」
「でしょー、ノーラのは楽なのー」
「楽じゃないよ、ちゃんと綺麗にやらないとカントクに怒られるのよー」
「見てないでしょー」
「さっき、見てたー」
「あー、サスキア早すぎー」
「・・・」
と子供達が型抜きに懸命である、皆真剣に生地に向かっており、若干歪であるがドーナッツのそれは着実に生産されているようで、
「はいはい、こっちは大丈夫?」
「ダイジョーブー、こんなに出来たー」
「あら、上手いもんね」
「でしょー」
「ホントー」
「これでいいのー?」
「いいわよ、少しくらい穴がズレても、大丈夫だからね」
「良かったー」
「ヨカッタネー」
「ねー」
「はい、じゃ、出来たのは回収しますからね」
ハーイと素直な声が響いた、一体この有様はと固まってしまっていたメイド二人もこれは手伝わなければと、
「マルルース様、代わります」
「そうです、私が」
マルルースに駆け寄るも、
「えー、駄目ですよ、監督がうるさいんだから」
「そんな、叱られてしまいます」
「平気よ、黙っていればいいんだし、ほら、手伝うなら手を洗ってきなさい、ソフィアさん、手が増えたわよ」
「はい、じゃ、どうしようかしら、形が出来たのを厨房にお願いできますか?ドンドン揚げていきますからねー」
綺麗な円形となった生地をトレーに並べながらソフィアは顔を上げた、ハイッとメイド二人は厨房へ走り、エルマは呆然と取り残されてしまう、しかし、すぐにハッと顔を上げてメイドを追うエルマであった。
「ありゃ、甘い匂いねー」
とユーリがフラリと階段から顔を出す、
「あら、ユーリ先生」
マルルースが柔らかく微笑み、アッと叫んでユーリはサッと背を正し、
「御機嫌麗しゅう王妃様」
と一礼した、マルルースは優雅な笑顔を答えとしエルマも顔を上げる、マルルースは一通りの作業を終えてノンビリとエルマと共に水槽を眺めていた所で、厨房からはミナ達の楽しそうな声が響いている、メイド二人もそちらで調理中となり、子供達があっちだこっちだと駆け回るものだからマルルースとエルマの居る場所が無くなって、結局追い出されてしまったのだ、王妃に対してこの扱いはとエルマもメイドも背筋を寒くするがそのマルルースがのほほんと楽しんでいる様子で、何も言えなくなってしまった三人である、
「打合せ中だったかしら?ユーリ先生も忙しいのね」
「ありがとうございます、私よりも学園長が忙しくて、今も私に代わってサビナが打合せ中なんです、エルマさんもようこそいらっしゃいました」
ユーリがニコリと微笑みかけ、エルマは小さな会釈で答える、先程三階を通った際にはユーリは学園との事で、カトカと少しばかり数学やらベルメルやらと打合せし、マルルース達が階下に下りたのに気付いてサビナと共にそそくさと後を追っていた、
「そう、学園長は・・・そうね忙しいわね」
「そうなんですよ、あのお歳で衰え知らずなのです、私達も見習わなければなりません」
心にも無い事を言うユーリである、いや、少しばかりはそう思っている、心の片隅の最果ての端っこ程度には、
「そうね、あっ、サビナさんに聞きましたよ、ボタンの件、面白そうね」
「左様でしたか、恐らく今サビナが学園長に説明していると思います、中々に興味深い事象かと考えます」
「あら、先生もそう思う?」
「はい、勿論です、昨晩タロウにも確認したのですが、昔・・・タロウに聞いた事がありまして・・・」
「あら・・・そうなの?」
「はい、その時は何を言っているんだかと・・・私もソフィアも若かったので・・・すっかり聞き流してしまったのですが」
「へー・・・面白い、そうなるとタロウさんはその時から御存知だったのね」
「そのようです」
エルマが何のことやらと振り返る、メダカの柔らかくも機敏な動きに見惚れていて二人の会話の半分も耳には入っていなかった、しかしやっと二人をしてそこまで言わせるほどの大事らしいと感付いたようで、
「フフッ、エルマも興味ある?ボタンの使い方?」
マルルースが自慢げに話し始め、エッと驚くエルマであった、ユーリはソッと二人の側に腰を下ろす、どうやらお茶の時間らしい、まだ肝心の茶は無かったが、食堂内と厨房から漂う甘い匂い、ソフィア達が楽しそうに調理をしているであろう事がすぐに分り、また、聞き慣れない子供の声もある、
「・・・確かに興味深いですね・・・」
エルマはなるほどと頷く、
「ねー・・・何て言うか・・・知らない事って多いのね」
「確かに・・・というか、失礼ですが、この寮は何から何まで・・・」
とエルマが言葉を濁す、あーわかるーとすぐにマルルースが微笑み、そうなんですよねと誤魔化すような笑みを浮かべるユーリである、
「その・・・すいません、お世話になる身でこう言ってはいけないのは重々理解しております、ですが、あまりにもその・・・」
とメダカに視線を移す、このメダカも素晴らしいのであるが、先程厨房に入った折には思わず悲鳴を上げてしまった、手を洗うそれだけでもお湯を出しますとソフィアは微笑み、エッと驚く間もなく、湯気の立つ丁度良い温かさのお湯が流れ出し、さらにはドーナッツという菓子であった、小麦の生地は理解できたがそれを油で揚げるという、メイド達は順応していたがその調理法に初めて触れたエルマは言葉も無かった、油そのものは確かに料理ではよく使う、しかし大量の油に泳がせるなど想像もしておらず、その上で大変に使いやすそうなコンロなる品もある、さらにトイレを借りてみれば、水で流す仕掛けであるとか、用を足す前にレインが懇切丁寧に使い方を教えてくれて、さらには用を足した後で手を洗う台まであり、大変に手触りの良いタオルと呼ばれる布まで完備してある、先日来た時には隠されていた訳ではないが、知り得なかった事ばかりで、正直理解が追い付かない、そして王都でも話題となっている光柱を開発したのがゾーイとカトカ、サビナであると言う、それをメダカを前にしてマルルースから話され、呆然としてしまっていたのだ、
「その寝台も素晴らしいのよ」
マルルースが意地悪そうに微笑む、エッとエルマは振り返った、暖炉の前、何とも邪魔くさい場所にズドンとばかりに置かれたそれが気にならない訳が無く、しかしそういうものなのかなと特に気にしないようにしていたのだった、
「そうですね、ミナとレインがいないうちに試してみて下さい、気持ち良いですよ」
ユーリもニコリと微笑む、エルマは二人を見比べつつ、そういう事ならと腰を上げ、寝台に腰掛ける、
「あらっ・・・エッ」
と二度三度と尻を弾ませ、思わずその頬が綻んだ、絶妙な反発力と心地よい柔らかさが尻を押し返し、ウフフと笑みが零れてしまう、
「そうだ、これの生産はどうなっているのかしら?陛下も気にしてましたわね」
「あら・・・すいません、これもタロウですね、職人達が動いているとは思いますが、詳細は聞いてないですね、確認致しましょうか」
「そうね、ほら、ウルジュラも欲しーって騒ぐもんだから、陛下もね・・・まずは見せろとなって・・・まぁ、忙しいわよね職人さん達も」
「分かります、私もすぐにでも欲しいです」
「そうよねー」
マルルースとユーリが困ったもんだと苦笑いを浮かべている内にエルマはゆっくりとその身を横たえ、これは凄いと驚きつつもその柔らかくも固く絶妙な感触に身を委ねる、これは確かに心地良い、そのまま眠ってしまいそうになり、ハッと目を見開いて半身を持ち上げた、そこへ、
「出来たー」
ミナが厨房から飛び出して、
「デキター」
「デキター」
ノールとノーラも駆けて来る、
「オワッ、増えてるな」
「ユーリだー」
「誰ー」
「だれー」
新しい顔にノールとノーラが足を止め、不思議そうにユーリを見上げる、
「ユーリだよー」
「ユーリ?」
「ユーリなの?」
「ユーリなのー」
何を言っているのやらとユーリは顔を歪め、クスクスと笑ってしまうマルルースとエルマであった、
「ほら、ちゃんと挨拶しなきゃでしょ」
エルマが優しく諭すと、
「えっと、ノーラだよー」
「えー違うでしょー、私がノーラ」
「そうだっけ、じゃ、ノールだよー」
「ノーラなのー」
ピョンピョン飛び跳ねる二人である、ユーリはキョトンと二人を見比べた、どうやら双子であるらしい、同じ顔同じ髪色同じ背丈、髪型が異なっている事と服装も若干変えているらしい、それ以外はまるで一緒の二人である、
「待て、どっちがどっち?」
「だからー、ノーラー」
「違うー、ノール、私がノーラー」
「ノーラは私ー」
「だめー、ノールでしょー」
「ノーラー」
おいおいとユーリは顔を顰めるしかなく、ノールとノーラはここぞとばかりにはしゃいでいる、ミナも一緒になってどっちがどっちーと囃し立てる有様で、
「こら、大人をからかっては駄目ですよ」
エルマがもうと窘めた、
「駄目ー?」
「駄目です、髪を二つに別けてるのがノールよね?」
「うん、今日は二つなのノールなの」
「一つの方が?」
「ノーラだよ、えっとねー、明日は髪を二つにするの、でもノーラなのー、一つにするのがノールなんだよー」
エッとユーリは首を傾げる、どうやら二人はそうやって遊んでいるらしい、器用なもんだと感心しつつも家族は大変だろうなとも思う、何せこの寮ではミナ一人で手一杯なのである、ミナと同じような無駄に元気なのが二人もいたら、うるさくて仕方ないであろう、
「はい、それでいいわよ」
黒いベールで顔を隠していてもその優しい声音は子供達に安心感を与えるようで、エルマの言う事をやっと素直に聞いたノールとノーラであった、すかさず、
「ミナー、私はミナー」
とミナが飛び跳ね、またーと微笑むマルルースとエルマ、ハイハイとユーリは鼻で笑う、そこへ、
「あら丁度良かった」
ソフィアがヒョイと顔を出す、
「カトカさん達も呼んできなさいよ、お茶にしましょ」
「そのようね」
ユーリが腰を上げると、ソフィアの脚に隠れている少女が目に入る、ジッとユーリを見つめており、ん?とユーリは首を傾け、
「その子は?」
「サスキアー」
ノールとノーラが同時に叫ぶ、サッと隠れるサスキアであった、
「あら・・・静かな子もいるのねー、嬉しいわー」
心底嬉しそうにユーリが微笑むと、
「サスキアー、ユーリだよー」
「ユーリなのー」
ノールとノーラが遠慮無く喚き、結局うるさくなるのかと顔を顰めるユーリであった。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる