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本編
72話 メダカと学校 その24
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「あー、どっかで見たと思ったのよ」
ユーリがホットミルクを傾けながらなるほどなーと納得したようで、
「確かに、そうですね」
「はい、見かけましたね、学園のお祭りで、そっかー、そういう事だったんですねー」
とゾーイとカトカも振り向いた、その視線の先ではドーナッツとホットミルクを満喫して静かになった幼女4人が寝台にチョコンと座ってメダカを眺めており、木の枝に並んで止まる小鳥みたいで可愛いわねとマルルースは微笑んでいる、
「そういう事、だからまぁ・・・遠慮しなくてもいい?ってのは違うか」
ソフィアがん?と小首を傾げた、
「別に遠慮なんかしてないでしょ、でもそっか・・・フィロメナさんも大変だわね、あっ、いつぞや言ってたわね、連れて来いって」
「そういう事」
「なるほどねー」
ユーリもゆっくりと振り返りすっかり静かになった4人を確認し、すぐに視線を戻した、先程までの嵐のような喧噪はドーナッツを一つ二つと頬張る程に鎮静化し、三つめを頬張る頃にはお腹いっぱいと言い出してやっと満足したらしい、流石のミナでさえ三つめは無理だったらしく、食休みとばかりに4人は暖炉の炎に当たりながらヌクヌクとメダカの鑑賞会であった、
「フィロメナさん?」
「はい、例のドレスの時の・・・」
「あー・・・遊女さん達ね、覚えてます、あのお綺麗な人ね」
「はい、彼女の10何番目かの妹さんなんですよ」
エッとマルルースとエルマが目を丸くし、メイド達も10何番?とソフィアを見つめる、
「あぁ、養女なんだそうです、ほら、遊女さんは何かと不遇な方が多いとか、なので、養父さんが拾ってくるとかなんとかって言ってましたね」
「まぁ・・・」
「それは凄いですね」
「そうですね、なので・・・ほら、折角ね、お知り合いになれたんだしと思って、ミナのお友達も欲しかったので」
「お友達?」
「はい、近い年頃のお友達が少ない・・・というかいないので、どうしてもほら、ここはお姉さんばかりですから」
「それもそうね、わかります」
マルルースが大きく頷き、エルマがそういうものなのかと首を傾げたようである、
「まぁ、そんなこんなですね」
ソフィアが柔らかく微笑み4人の小さく細い背中を見つめる、先程商会にエルマを連れて行き、テラの指示通りマフダに任せようとしたところ、妙に事務所が騒がしく何かと思って覗いてみれば、奥様達の間をノールとノーラが走り回っており、マフダの金切声が響いていた、奥様達は楽しそうであったが、やはりそこは仕事場である為邪魔くさい事に違いは無く、そしてレネイの姿と数人の遊女らしき若い女性の姿があり、どうやらドレスの調整の為に商会を訪れ、ついでにノーラ達を連れて来たらしい、そのレネイと遊女達は子供達をマフダに任せてドレスに夢中のようで、こりゃマフダさんは大変だろうなと、ソフィアは3人まとめてドーナッツを餌にして寮に招いたのであった、マフダは大変に恐縮していたが、ソフィアは丁度良かったと笑顔を見せ、レネイもまたすいませんお願いしますと簡単に預ける始末であった、どうやら最初からそのつもりであったようだ、
「そうだ、フィロメナさんで思い出した」
マルルースがポンと手を叩き、
「ノシでしたか、好評のようですよ」
薄く微笑むと、ミナがピクンと肩を揺らして振り返る、
「そうなんですか、良かったです」
「王都の方のねフィロメナに使ってみてって渡したら、早速孤児院に持って行ったみたいで、みんな夢中で遊んでるって」
ソフィアとユーリは王都の方との表現に思わず微笑んでしまう、
「ノシ?ですか?」
「あぁ、エルマは知らないわね、そういう遊びがあるの」
「遊び?」
「そうなの、それもね、タロウさんが作ったんだけど、エレインさんが複製してくれてね、幾つかを分けて貰ってね」
「ノシやる!!」
いつの間にやら音も無く近寄ったミナがテーブルに顔を乗せた、オッと驚く大人達である、
「もう、ビックリさせないの、駄目って言ってもやるでしょあなたは」
「うん、やる、いい?」
「いいわよ、喧嘩しないのよ」
「わかったー」
満面の笑顔で壁際のテーブルに走るミナである、ノシとは?とエルマはその背を見つめてしまう、聞き慣れない奇妙な名称であった、
「そうだ、エルマもやってみなさい、大人でも楽しいわよ、ね?」
とマルルースがメイド二人に微笑みかけ、メイド達は恥ずかしそうに頷いた、どうやら王城内でも遊ばれているらしい、
「大人でもですか?」
「そうよ、ちょっとあれね、子供っぽい事もしなきゃいけないけど、そこがまたね、楽しいのよ、姉様の猫の真似なんて始めて見たわ」
姉様とはエフェリーンの事であろうなとエルマはすぐに感付き、エフェリーンの猫の真似?と想像しようとして困惑してしまう、とてもではないがその様が脳裏には浮かばない、
「そうですね、大人用のも作ろうと思えば作れるぞってタロウは言ってましたけど・・・」
「あら、そうなの?」
「はい、難しくする事は簡単なんだとか」
「へー、それも気になるわね」
マルルースが感心していると、寝台の上には初代のノシが広げられており、幼女3人がそれを囲んで何だこれーとキャーキャー騒ぎ出す、
「エルマもやろー」
とミナが戻って来た、
「あら、私は駄目?」
マルルースが意地悪そうに微笑むと、
「王妃様もー、エルマもー、ソフィアもー、みんなでやろー」
ピョンピョン飛び跳ねるミナである、
「なんだー、誘ってくれないのー」
ユーリがニヤリと微笑むと、
「ユーリもいいよー、特別に許すー、カトカもゾーイもやろー」
さらにピョンピョン飛び跳ねた、このガキはーとソフィアが睨むもミナはまるで意に介していない、
「あー・・・エルマさん相手して頂けるかしら?」
ソフィアがニコリと微笑む、
「わっ、私ですか?」
「えぇ、レイン、一緒にお願いね」
「しょうがないのう」
やれやれとレインが腰を上げて寝台に上がり、エルマがどうしたものかとマルルースを伺うと、
「そうね、面白いからやってみなさい、ほら、遠慮しないで」
優しく微笑むマルルースである、エルマはそういう事ならとユルユルと腰を上げる、
「あっ、王妃様は、あれ、ニャンコ探しノシをやるのー、新しいやつー、ミナとレインとタロウが作ったの、難しいけど面白いのー」
再び壁際のテーブルに駆け出すミナである、
「新しいの?もう?」
「はい、面白いですよ、ちょっとだけ頭を使います、それと勝負事が増えました」
「まぁ・・・それは興味深い・・・」
「ふふっ、じゃ、そっちにはユーリが入って、4人で出来るでしょ」
「わかったわ、じゃ、もう一遊びしますか」
ユーリがミナから道具一式を受け取ると、マルルースとメイドの前に紙を並べ、
「では、ここからはそうですね、遠慮無しで宜しいですか?」
ニヤリと微笑む、
「そうね、あなた達も遠慮も手加減も無しですよ」
マルルースもニヤリとメイド達に微笑みかけ、そういうことならとムフンと気合を入れるメイドである、そうしてソフィアとカトカとゾーイが空いた皿を片付けている間にも2つの輪から楽し気な嬌声が響き始めた、
「えっとえっと、これ読むの?」
「読むのー、自分で読まなきゃダメなのよー」
「えー・・・えっとえっと・・・」
ノールは木簡を食い入るように見つめ、ノーラとサスキアもその隣から覗き込む、ミナはソワソワと落ち着きを無くし、
「ミナが読んであげるー」
と先程の自分の発言を見事にひっくり返して手を伸ばすが、
「駄目です、自分で読まなきゃでしょ」
エルマがやんわりとその手を遮った、
「えー、でもー」
「大丈夫です、ねっ、ゆっくりでいいから、分からない文字ある?」
「・・・大丈夫・・・えっと、猫の真似・・・をして・・・似てたら・・・3進む、下手だったら3戻る!!」
「良く出来ました」
エルマが優しく褒めると、満面の笑みを浮かべるノールである、
「良かったー」
ミナは座ったままでピョンと飛び跳ね、ノーラもサスキアも嬉しそうに微笑んだ、
「じゃ、はい、ニャンコの真似ー、似てなかったら戻るんだよー」
「えー、えっと、えっと、ニャオーン」
「うーん、ちょっと似てるー」
「えー、すんごい似てたー」
「今一つじゃのう」
「レインちゃん厳しいわね」
「無論じゃ、勝負じゃからのう」
「あら、それもそうかしら」
「似てたー、似てたでしょー」
寝台から響くのは幼子の歓声と落ち着いたエルマの楽しそうな声で、
「フフッ、はい、二匹めー」
「奥方様、強いです」
「そう?遠慮は無しって言ったでしょ」
「してないですよー」
「あんたが弱いのよ、あっ、席代わります?このままでは独走を許しちゃいます」
「あらっ、そういうのもあるの?」
「いいですよ、もしくはあれですね、対戦相手はこちらが選ぶようにしますか」
「あら・・・それも面白いわね」
「じゃ、そうしましょう」
とテーブル側は静かにそして上品に楽しんでいる様子である、取り合えずと片付けを切り上げたソフィアらが戻ると、
「あっ、じゃ今の内にどうしましょう、治療の打合せを出来ればと思うのですが」
ソフィアとカトカが腰を下ろし、ゾーイもその隣りの席に着いた、
「・・・それも・・・そうね、材料は揃ったから・・・でも、あれね、タロウさんが居た方が安心かしら」
ソフィアも一転静かな口調となる、カトカとゾーイもエルマの治療に関しては感心があった、ユーリからその治療の根幹に関わる事を聞いており、それほどに便利な魔法があったのかと素直に驚いている、しかしそのユーリでもレッドスライムを使用した治療となると全くの未知であった、故にここはしっかりと学ぶべきであろうとユーリも二人も何気に鼻息を荒くしていたりする、
「そうですね、それとケイスさんも」
「そうね、だから・・・治療に関してはじっくりといきたいと思っていたから・・・うん、今日は、ケイスさんが戻ってからその仕組みを解説する事にして、エルマさんにも改めて理解してもらわないとだし・・・タロウもね同席させた方が良いと思うのよ」
「分かりました、そうなると午後からですね」
「そうね、特に・・・そっか、タロウさんがねマスイってやつが必要かもって言ってたかしら?」
「マスイ?」
「何それ?」
とユーリが振り返る、どうやら真面目な話しになっているとマルルースも三人へ視線を向け、エルマも子供達と戯れながらもしっかりと聞き耳を立てていた、
「えっとね、痛みを感じさせなくする技術?」
エッと言葉を無くす大人達である、レインもん?と顔を上げた、
「私もね、一度やってみたけど難しくてね、魔法としては簡単なんだけどその塩梅ってのが・・・ちょっとね、だからやっぱりタロウさんがいた方がいいかしらって、昨日少し話したのよ」
「どういう仕組みなんですか?」
ゾーイがグワッと身を乗り出す、
「そうね・・・ほら・・・ユーリなら知ってるでしょ、相手を眠らせる魔法」
とソフィアがユーリを伺うと、
「・・・あれ使うの?」
ユーリが嫌そうに目を細める、
「あれの改良・・・うん、改良で良いと思うんだけど、そんな感じのやつ・・・」
「へー・・・なに、いつの間にそんなの作ってたのよ」
「ちょっとあってね、試しみたら上手くいった事があって、タロウさんが使えるかもなって、それでちょっと弄ってって感じ?」
また難しい事を簡単に言うもんだとカトカとゾーイがソフィアを睨む、
「そっ、それは興味深いわね・・・でも、あれってだって眠らせるだけでしょ、痛みで目を覚まさない?」
「だから、その辺を改良してあるの、詳しくは午後からでいいでしょ、結構複雑なのよね」
「・・・まぁ、それなら、待ちますか・・・」
「先にちょっとだけでも駄目ですか?」
カトカが上目遣いでソフィアを見つめる、
「あら、可愛い顔しても駄目よ」
「そう言わないで下さいよー」
ゾーイも身を引いてカトカの真似をするも、
「二人がかりでもどうかしらねー、そういうのは良い男にやりなさい、流石に慣れたわよ、私は」
ニヤーと微笑むソフィアに、ムッとカトカは頬を膨らませ、
「またそんなつれない事言ってー」
「そうですよー、折角なんですからー」
「ダメー、っていうかめんどいのよ、二度も三度も同じこと話す事になるし」
「結局これだもんなー」
カトカはさらにブーブーと非難するが、ソフィアはムフフと余裕の笑みを浮かべるばかりである、
「でも、眠りの魔法よね・・・そんな簡単だった?結構・・・難しかったと思うけど・・・」
ユーリが賽を転がしながら問いかける、マルルースがユーリでも難しい事があるのかしらと怪訝そうな顔となった、
「簡単は簡単でしょ、相性と、ほら、相手の受け止め方次第でまるで効果が無いってだけで・・・あっ、そこも少し改良したのよ、便利になったわよ」
「やっぱり・・・今話しなさい、気になるわ」
キッとソフィアを睨むユーリである、マルルースも興味津々と瞳を輝かせており、メイド二人も不思議そうにソフィアを見つめている、
「そう?じゃ、気にしてなさい」
どこまでも素っ気ないソフィアに、こいつはーとユーリは頬を引きつらせ、またこれだとカトカとゾーイは口を尖らせる、こういうところがボニファースの言う扱いづらい所なのかしらと苦笑いを浮かべるマルルースであった。
ユーリがホットミルクを傾けながらなるほどなーと納得したようで、
「確かに、そうですね」
「はい、見かけましたね、学園のお祭りで、そっかー、そういう事だったんですねー」
とゾーイとカトカも振り向いた、その視線の先ではドーナッツとホットミルクを満喫して静かになった幼女4人が寝台にチョコンと座ってメダカを眺めており、木の枝に並んで止まる小鳥みたいで可愛いわねとマルルースは微笑んでいる、
「そういう事、だからまぁ・・・遠慮しなくてもいい?ってのは違うか」
ソフィアがん?と小首を傾げた、
「別に遠慮なんかしてないでしょ、でもそっか・・・フィロメナさんも大変だわね、あっ、いつぞや言ってたわね、連れて来いって」
「そういう事」
「なるほどねー」
ユーリもゆっくりと振り返りすっかり静かになった4人を確認し、すぐに視線を戻した、先程までの嵐のような喧噪はドーナッツを一つ二つと頬張る程に鎮静化し、三つめを頬張る頃にはお腹いっぱいと言い出してやっと満足したらしい、流石のミナでさえ三つめは無理だったらしく、食休みとばかりに4人は暖炉の炎に当たりながらヌクヌクとメダカの鑑賞会であった、
「フィロメナさん?」
「はい、例のドレスの時の・・・」
「あー・・・遊女さん達ね、覚えてます、あのお綺麗な人ね」
「はい、彼女の10何番目かの妹さんなんですよ」
エッとマルルースとエルマが目を丸くし、メイド達も10何番?とソフィアを見つめる、
「あぁ、養女なんだそうです、ほら、遊女さんは何かと不遇な方が多いとか、なので、養父さんが拾ってくるとかなんとかって言ってましたね」
「まぁ・・・」
「それは凄いですね」
「そうですね、なので・・・ほら、折角ね、お知り合いになれたんだしと思って、ミナのお友達も欲しかったので」
「お友達?」
「はい、近い年頃のお友達が少ない・・・というかいないので、どうしてもほら、ここはお姉さんばかりですから」
「それもそうね、わかります」
マルルースが大きく頷き、エルマがそういうものなのかと首を傾げたようである、
「まぁ、そんなこんなですね」
ソフィアが柔らかく微笑み4人の小さく細い背中を見つめる、先程商会にエルマを連れて行き、テラの指示通りマフダに任せようとしたところ、妙に事務所が騒がしく何かと思って覗いてみれば、奥様達の間をノールとノーラが走り回っており、マフダの金切声が響いていた、奥様達は楽しそうであったが、やはりそこは仕事場である為邪魔くさい事に違いは無く、そしてレネイの姿と数人の遊女らしき若い女性の姿があり、どうやらドレスの調整の為に商会を訪れ、ついでにノーラ達を連れて来たらしい、そのレネイと遊女達は子供達をマフダに任せてドレスに夢中のようで、こりゃマフダさんは大変だろうなと、ソフィアは3人まとめてドーナッツを餌にして寮に招いたのであった、マフダは大変に恐縮していたが、ソフィアは丁度良かったと笑顔を見せ、レネイもまたすいませんお願いしますと簡単に預ける始末であった、どうやら最初からそのつもりであったようだ、
「そうだ、フィロメナさんで思い出した」
マルルースがポンと手を叩き、
「ノシでしたか、好評のようですよ」
薄く微笑むと、ミナがピクンと肩を揺らして振り返る、
「そうなんですか、良かったです」
「王都の方のねフィロメナに使ってみてって渡したら、早速孤児院に持って行ったみたいで、みんな夢中で遊んでるって」
ソフィアとユーリは王都の方との表現に思わず微笑んでしまう、
「ノシ?ですか?」
「あぁ、エルマは知らないわね、そういう遊びがあるの」
「遊び?」
「そうなの、それもね、タロウさんが作ったんだけど、エレインさんが複製してくれてね、幾つかを分けて貰ってね」
「ノシやる!!」
いつの間にやら音も無く近寄ったミナがテーブルに顔を乗せた、オッと驚く大人達である、
「もう、ビックリさせないの、駄目って言ってもやるでしょあなたは」
「うん、やる、いい?」
「いいわよ、喧嘩しないのよ」
「わかったー」
満面の笑顔で壁際のテーブルに走るミナである、ノシとは?とエルマはその背を見つめてしまう、聞き慣れない奇妙な名称であった、
「そうだ、エルマもやってみなさい、大人でも楽しいわよ、ね?」
とマルルースがメイド二人に微笑みかけ、メイド達は恥ずかしそうに頷いた、どうやら王城内でも遊ばれているらしい、
「大人でもですか?」
「そうよ、ちょっとあれね、子供っぽい事もしなきゃいけないけど、そこがまたね、楽しいのよ、姉様の猫の真似なんて始めて見たわ」
姉様とはエフェリーンの事であろうなとエルマはすぐに感付き、エフェリーンの猫の真似?と想像しようとして困惑してしまう、とてもではないがその様が脳裏には浮かばない、
「そうですね、大人用のも作ろうと思えば作れるぞってタロウは言ってましたけど・・・」
「あら、そうなの?」
「はい、難しくする事は簡単なんだとか」
「へー、それも気になるわね」
マルルースが感心していると、寝台の上には初代のノシが広げられており、幼女3人がそれを囲んで何だこれーとキャーキャー騒ぎ出す、
「エルマもやろー」
とミナが戻って来た、
「あら、私は駄目?」
マルルースが意地悪そうに微笑むと、
「王妃様もー、エルマもー、ソフィアもー、みんなでやろー」
ピョンピョン飛び跳ねるミナである、
「なんだー、誘ってくれないのー」
ユーリがニヤリと微笑むと、
「ユーリもいいよー、特別に許すー、カトカもゾーイもやろー」
さらにピョンピョン飛び跳ねた、このガキはーとソフィアが睨むもミナはまるで意に介していない、
「あー・・・エルマさん相手して頂けるかしら?」
ソフィアがニコリと微笑む、
「わっ、私ですか?」
「えぇ、レイン、一緒にお願いね」
「しょうがないのう」
やれやれとレインが腰を上げて寝台に上がり、エルマがどうしたものかとマルルースを伺うと、
「そうね、面白いからやってみなさい、ほら、遠慮しないで」
優しく微笑むマルルースである、エルマはそういう事ならとユルユルと腰を上げる、
「あっ、王妃様は、あれ、ニャンコ探しノシをやるのー、新しいやつー、ミナとレインとタロウが作ったの、難しいけど面白いのー」
再び壁際のテーブルに駆け出すミナである、
「新しいの?もう?」
「はい、面白いですよ、ちょっとだけ頭を使います、それと勝負事が増えました」
「まぁ・・・それは興味深い・・・」
「ふふっ、じゃ、そっちにはユーリが入って、4人で出来るでしょ」
「わかったわ、じゃ、もう一遊びしますか」
ユーリがミナから道具一式を受け取ると、マルルースとメイドの前に紙を並べ、
「では、ここからはそうですね、遠慮無しで宜しいですか?」
ニヤリと微笑む、
「そうね、あなた達も遠慮も手加減も無しですよ」
マルルースもニヤリとメイド達に微笑みかけ、そういうことならとムフンと気合を入れるメイドである、そうしてソフィアとカトカとゾーイが空いた皿を片付けている間にも2つの輪から楽し気な嬌声が響き始めた、
「えっとえっと、これ読むの?」
「読むのー、自分で読まなきゃダメなのよー」
「えー・・・えっとえっと・・・」
ノールは木簡を食い入るように見つめ、ノーラとサスキアもその隣から覗き込む、ミナはソワソワと落ち着きを無くし、
「ミナが読んであげるー」
と先程の自分の発言を見事にひっくり返して手を伸ばすが、
「駄目です、自分で読まなきゃでしょ」
エルマがやんわりとその手を遮った、
「えー、でもー」
「大丈夫です、ねっ、ゆっくりでいいから、分からない文字ある?」
「・・・大丈夫・・・えっと、猫の真似・・・をして・・・似てたら・・・3進む、下手だったら3戻る!!」
「良く出来ました」
エルマが優しく褒めると、満面の笑みを浮かべるノールである、
「良かったー」
ミナは座ったままでピョンと飛び跳ね、ノーラもサスキアも嬉しそうに微笑んだ、
「じゃ、はい、ニャンコの真似ー、似てなかったら戻るんだよー」
「えー、えっと、えっと、ニャオーン」
「うーん、ちょっと似てるー」
「えー、すんごい似てたー」
「今一つじゃのう」
「レインちゃん厳しいわね」
「無論じゃ、勝負じゃからのう」
「あら、それもそうかしら」
「似てたー、似てたでしょー」
寝台から響くのは幼子の歓声と落ち着いたエルマの楽しそうな声で、
「フフッ、はい、二匹めー」
「奥方様、強いです」
「そう?遠慮は無しって言ったでしょ」
「してないですよー」
「あんたが弱いのよ、あっ、席代わります?このままでは独走を許しちゃいます」
「あらっ、そういうのもあるの?」
「いいですよ、もしくはあれですね、対戦相手はこちらが選ぶようにしますか」
「あら・・・それも面白いわね」
「じゃ、そうしましょう」
とテーブル側は静かにそして上品に楽しんでいる様子である、取り合えずと片付けを切り上げたソフィアらが戻ると、
「あっ、じゃ今の内にどうしましょう、治療の打合せを出来ればと思うのですが」
ソフィアとカトカが腰を下ろし、ゾーイもその隣りの席に着いた、
「・・・それも・・・そうね、材料は揃ったから・・・でも、あれね、タロウさんが居た方が安心かしら」
ソフィアも一転静かな口調となる、カトカとゾーイもエルマの治療に関しては感心があった、ユーリからその治療の根幹に関わる事を聞いており、それほどに便利な魔法があったのかと素直に驚いている、しかしそのユーリでもレッドスライムを使用した治療となると全くの未知であった、故にここはしっかりと学ぶべきであろうとユーリも二人も何気に鼻息を荒くしていたりする、
「そうですね、それとケイスさんも」
「そうね、だから・・・治療に関してはじっくりといきたいと思っていたから・・・うん、今日は、ケイスさんが戻ってからその仕組みを解説する事にして、エルマさんにも改めて理解してもらわないとだし・・・タロウもね同席させた方が良いと思うのよ」
「分かりました、そうなると午後からですね」
「そうね、特に・・・そっか、タロウさんがねマスイってやつが必要かもって言ってたかしら?」
「マスイ?」
「何それ?」
とユーリが振り返る、どうやら真面目な話しになっているとマルルースも三人へ視線を向け、エルマも子供達と戯れながらもしっかりと聞き耳を立てていた、
「えっとね、痛みを感じさせなくする技術?」
エッと言葉を無くす大人達である、レインもん?と顔を上げた、
「私もね、一度やってみたけど難しくてね、魔法としては簡単なんだけどその塩梅ってのが・・・ちょっとね、だからやっぱりタロウさんがいた方がいいかしらって、昨日少し話したのよ」
「どういう仕組みなんですか?」
ゾーイがグワッと身を乗り出す、
「そうね・・・ほら・・・ユーリなら知ってるでしょ、相手を眠らせる魔法」
とソフィアがユーリを伺うと、
「・・・あれ使うの?」
ユーリが嫌そうに目を細める、
「あれの改良・・・うん、改良で良いと思うんだけど、そんな感じのやつ・・・」
「へー・・・なに、いつの間にそんなの作ってたのよ」
「ちょっとあってね、試しみたら上手くいった事があって、タロウさんが使えるかもなって、それでちょっと弄ってって感じ?」
また難しい事を簡単に言うもんだとカトカとゾーイがソフィアを睨む、
「そっ、それは興味深いわね・・・でも、あれってだって眠らせるだけでしょ、痛みで目を覚まさない?」
「だから、その辺を改良してあるの、詳しくは午後からでいいでしょ、結構複雑なのよね」
「・・・まぁ、それなら、待ちますか・・・」
「先にちょっとだけでも駄目ですか?」
カトカが上目遣いでソフィアを見つめる、
「あら、可愛い顔しても駄目よ」
「そう言わないで下さいよー」
ゾーイも身を引いてカトカの真似をするも、
「二人がかりでもどうかしらねー、そういうのは良い男にやりなさい、流石に慣れたわよ、私は」
ニヤーと微笑むソフィアに、ムッとカトカは頬を膨らませ、
「またそんなつれない事言ってー」
「そうですよー、折角なんですからー」
「ダメー、っていうかめんどいのよ、二度も三度も同じこと話す事になるし」
「結局これだもんなー」
カトカはさらにブーブーと非難するが、ソフィアはムフフと余裕の笑みを浮かべるばかりである、
「でも、眠りの魔法よね・・・そんな簡単だった?結構・・・難しかったと思うけど・・・」
ユーリが賽を転がしながら問いかける、マルルースがユーリでも難しい事があるのかしらと怪訝そうな顔となった、
「簡単は簡単でしょ、相性と、ほら、相手の受け止め方次第でまるで効果が無いってだけで・・・あっ、そこも少し改良したのよ、便利になったわよ」
「やっぱり・・・今話しなさい、気になるわ」
キッとソフィアを睨むユーリである、マルルースも興味津々と瞳を輝かせており、メイド二人も不思議そうにソフィアを見つめている、
「そう?じゃ、気にしてなさい」
どこまでも素っ気ないソフィアに、こいつはーとユーリは頬を引きつらせ、またこれだとカトカとゾーイは口を尖らせる、こういうところがボニファースの言う扱いづらい所なのかしらと苦笑いを浮かべるマルルースであった。
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アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
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アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
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⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
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追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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