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本編
72話 メダカと学校 その27
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ソフィアがもうと微笑みつつ、改めて予定について大雑把に説明すると、
「嬉しいです、もっとかかるかと思ってました・・・」
エルマは満面の笑みをソフィアに向けた、無論その表情が相手に伝わる事は無いと承知していたが、その明るい声音にソフィアもマルルースもどうやら大丈夫そうだとホッと安堵する、
「まぁ、あくまで予定でしかないですけどね、何らかの結果・・・方針は見えていると思いますこの頃には」
「はい、ありがとうございます」
大きく頷くエルマである、その染髪だとか新しい衣服だとかも気になるがやはりここは自分の問題であった、そして同時に子供というのはそういうものであったと改めて思い知る、マルルース曰くどうやら他の家庭教師にも綽名があったらしく、それはイフナースがそう名付けたのが始まりのようで、あのヤンチャで次男坊らしい次男坊であるイフナースであればさもありなんと前向きに考えてしまった、相手は子供でさらには男子なのである、綽名程度は普通であるし、自分の子供達にも手を焼かされたもので、マルルースがその程度がなんだとまるで気にしていないのにも得心がいく、相手は子供なのである、大人であり教師であった自分が振り回される必要は毛ほども無いのだ、
「良かったわね」
マルルースが優しい笑みを浮かべ、ハイッと嬉しそうにエルマは答えた、
「まぁ、あくまで予定ですから・・・それに上手くいくとは現時点では断言できませんので、その点御容赦下さい」
「はい、勿論です」
大きく頷くエルマであった、郷里を離れこの地に来た目的は爛れた皮膚の治療であるのは当然であったが、その目的意識が初日であるにも関わらず既に希薄になってしまっている、この寮の初めて見る様々な道具と若く情熱的な研究所員、さらにはこの愛らしい子供達に囲まれてしまっては、もう10年の付き合いになる醜い顔の事等置き去りになったとしても不思議は無い、それほどにこの半日はエルマにとって濃厚でかつ良い刺激になっている、子供らしい悪意ある渾名もまたその一因となったであろう、
「しかしまぁ・・・これも仕事と思えば・・・ね、それにそう思えばもっとこう本腰を入れないとってなりますし・・・」
「あら、本腰じゃなかったの?」
「まだですね、午後から本腰が入ります」
悪びれず微笑むソフィアにこれだからとマルルースは苦笑いで目を細める、
「そう・・・あっ、エルマ、こちら、レネイさんで良かったわね?」
とマルルースは思い出したように二人を引き合わせ、レネイは恐縮しつつ腰を上げて一礼し、エルマもいつの間にやら人が増えていたと慌てて対応する、どうやらレネイにも気付いていなかったようで、これはよほどの衝撃だったのだなとマルルースはこちらにも苦笑いを浮かべてしまった、
「すいません、その子達うるさく無かったですか?」
エルマの傍らで実に熱心に書に向かい、時折ギャーギャー騒ぎ出す義妹達へレネイが視線を向ける、うるさい事には変わりないが走り回ってないだけまだましかと詮無い事を思ってしまう、
「うるさいのは仕方ないですよ、子供はそういうもんです」
「確かにそうなのですが、すいません、お手を煩わせて」
「そんな、とても楽しいですよ、そうだ、サスキアちゃん、黒板を見せてあげて」
エルマが振り返ると、サスキアはスッと顔を上げた、そのまま無言で黒板を掴み寝台を下り、ハイッとばかりにレネイに黒板を突き出した、
「どうしたの?」
「・・・上手って・・・ほめられた・・・」
レネイの若干困惑した顔にサスキアは小さく答える、褒められた?とレネイは黒板を見つめる、そこにはサスキアの名と家門名が綺麗な文字で羅列されており、ん?とレネイは首を傾げ、
「これ・・・エッ、サスキアが書いたの?」
コクリと頷くサスキアである、すぐに、
「そうなのー、サスキアちゃん上手なのー」
「むー、ノーラも上手だよー」
「ノールも上手くなったー」
「ミナもー、ミナも上手ー」
ここぞとばかりに騒ぎ出す三人である、エッとレネイは改めて黒板を確認し、本当かしらとエルマを見つめる、エルマはゆっくりと大きく頷く、
「そっか・・・サスキア凄いのね」
レネイの静かな賞賛に、無言で照れくさそうな笑顔を見せるサスキアである、もうとレネイはその頭を撫でつけ、やっとサスキアはえへへと呟いた、
「そうだ、じゃ、あれね、明日から通いなさい」
ソフィアが席に戻りながら言い放つ、通う?黒板をサスキアに返しながらレネイは首を傾げた、
「あのね、エルマさんに勉強を見てもらおうって思ってね、だから、三人も一緒に見て貰えばいいわ、折角の機会だしね」
ニコニコと席に着くソフィアである、
「エッ・・・でも、その・・・おう・・・貴族様の家庭教師であった方・・・ですよね・・・」
王族と言いかけて必死に貴族様と言い換えたレネイである、マルルースからの紹介で目の前の人物が如何に特別であるかを瞬時に理解し、またその異様な装束もあっさりと受け入れていた、何らかの事情はすぐに察せられ、それを問い質すのは失礼どころの話しでは無いであろう、マルルースは勿論ソフィアもそれを当然としているのだ、回転の早さと順応性は流石遊女であっただけはある、
「そうよー、滅多にない事よー、マルルース様もエルマさんほどの教師は探しても見つからないってくらいの評価だし、それにほら、ミナだけを見てもらうのもね、物足りないかもだし」
ソフィアが意地悪そうにエルマに視線を送る、そんなことはないとエルマは顔を顰めるが、その表情は伝わっていなかった、
「そうね、遠慮する事はないわよ」
マルルースものほほんと微笑み、
「貴方達にも何らかのお返しが必要かなって思ってたし、何かと協力頂いてるみたいだからね、と言っても表立っては難しいからね、影ながら支援するわよ」
と続けた、再びエッと驚くレネイである、すぐに、
「そんな、私達こそ、お返ししなければならない事ばかりです、お世話になっているのはこちらですよ」
ワタワタと慌てるが、
「それはだって、ソフィアさんとかタロウさんとか、エレインさんでしょ、私もね、この人達には大変に世話になっているんだから、そのくせ妙にね、欲が無いというか、適当というか、勝手放題というか・・・」
フスーと鼻息を荒くするマルルースである、あまりの言い草にレネイはそんな事はないですよと言いかけて黙り込んだ、まったくもってその通りだったからである、
「またそんな事言ってー」
ソフィアがアッハッハと笑うもそれにつられる者はいなかった、メイド達は勿論であるし、レネイはマルルースの弁はその通りだと同意し、エルマは似たような事を言われているなと首を傾げている、
「・・・ありゃ・・・」
ソフィアがすぐに笑いを止めてどうしたものかと顔を顰める、
「フフッ、まぁいいわ、そういう事だから、エルマ、先はどうなるか分かりませんけれど、ここはしっかりと家庭教師をやりなさい」
「はいっ、喜んで承ります」
エルマがスッと背筋を伸ばして一礼する、
「ソフィアさん、レネイさんもそういう事だから、宜しくね、ミナちゃん、ノールちゃん達もエルマ先生の言う事をしっかり聞くのよ」
ハーイと素直な返事が食堂に響いた、どこまで本気なんだかとソフィアはミナを伺うも、ミナ達はすぐに書に向かっている、この調子が明日以降も続けばいいんだけどなと現実的な事を考えるソフィアであった、そして、今日は一旦戻って、明日マフダと共に顔を出すとの段取りをした上でレネイと三人娘は事務所に戻った、ミナは名残惜しそうに見送る、三人娘の手にはお土産に持って行きなさいとソフィアから渡された藁箱がしっかりと握られていた、中身はドーナッツである、お姉さん達に自分が作ったと自慢なさいねとソフィアが優しく微笑むと、ノールとノーラはピョンピョン飛び跳ね、サスキアもレネイの脚に縋りついて笑顔を見せた、そして、
「うー・・・静かになったー」
ミナは寂しそうに寝台の上をゴロゴロと転がる、同年代の子供と戯れたのは久しぶりの事で、喪失感が大きいのであろう、
「そうね、ほら、ノシ片付けて、明日また来るんだから、いい、ミナが一番のお姉さんなんだからね、しっかりしないと駄目よ」
ソフィアがニコリと微笑む、ミナはエッと顔だけを上げ、
「・・・ミナがおねーさんなの?」
「そうよー、サスキアちゃんが一番小さいのかしらね、ノールちゃんもノーラちゃんもミナより小さいでしょ」
「・・・そうなんだ・・・ミナがおねーさん?」
信じられないのかエルマに再確認するミナである、
「そうよ、ミナちゃんが一番大きいわね、ソフィアさんの言う通りしっかりしないとね」
「わかったー」
ミナがピョコンと半身を上げ、
「しっかりするー、えっとえっと・・・どうやるの?」
不思議そうに首を傾げるミナにもうこれだからと大人達は微笑んでしまった、
「そうね、まずはお片付け、あと・・・どうしようかお手伝いする?」
「する、えっと、えっと、お片付けー」
ワタワタとノシを片付け始めるミナである、
「フフッ、この年頃の子は可愛いわよね」
マルルースがのんびりと微笑んだ、
「まったくです、素直で元気で・・・もう少し大きくなるとね、なんて言うか・・・男の子だと手がつけられなくなって、女の子は妙に大人ぶり始めて・・・それはそれで可愛いんですけど・・・小生意気になっちゃいますからね・・・」
エルマも静かに微笑む、
「ですねー、あっ、どうしましょう、明日からの勉強の道具は取り合えずここにあるものを使って貰って」
「あっ、そうですね、先程の教科書もいいですが・・・あっ、カトカさんからベルメルでしたか、あれをお借りしたいですね、それと・・・黒板もあるし・・・教科書もある・・・他に・・・」
エルマがキョロキョロと食堂内を見渡す、足りない物があれば今の内であればマルルースに頼めば手配してくれるであろう、そういった点でマルルースは大変に気前の良い人物である、逆に遠慮すると叱られる程であった、
「お絵描きじゃな」
レインが唐突に口を挟む、エッと大人達が振り向いた、
「お絵描きですか?」
エルマがゆっくりと首を傾けた、
「うむ、ミナはな、良い絵を描くのじゃ、ほれ、その絵もミナが描いたのだぞ」
レインがマントルピースの上に飾られた二枚の額装された絵画を示す、
「それもそうね、ミナちゃんは絵も上手なのよ」
マルルースも思い出したのかポンと手を叩く、
「そうなのじゃ、それにな、どうせ書に向かっているだけでは飽きるからな、絵を描かせるのも息抜きになってよい」
フンと鼻を鳴らすレインである、
「なるほど・・・流石レインちゃんね、ミナちゃんの先生なだけはありますね」
エルマは目から鱗と感心してしまう、
「だけはあるかな、しかし、そうなるとあれじゃな、ニコリーネに頼んでも良いかものう、どうかな?」
レインはフムとソフィアを見上げる、
「そこまで本格的にやるの?」
しかし微妙に顔を顰めるソフィアであった、
「・・・それも面白いかもね」
マルルースがニヤリと微笑み、ニコリーネ?とエルマは首を傾げた、どうやらまだ会ってない人物がいるらしい、
「まぁな、あれはあれで曲者じゃがな」
「あんたに言われたくはないでしょうよ」
「ソフィアに言われたくはないぞ」
ナヌ?と睨み合うソフィアとレインである、この二人はもうとマルルースらは微笑み、
「終わったー、次は次は?」
片付けを終えたミナがソフィアに駆け寄り、ピョンピョン飛び跳ねるのであった。
「嬉しいです、もっとかかるかと思ってました・・・」
エルマは満面の笑みをソフィアに向けた、無論その表情が相手に伝わる事は無いと承知していたが、その明るい声音にソフィアもマルルースもどうやら大丈夫そうだとホッと安堵する、
「まぁ、あくまで予定でしかないですけどね、何らかの結果・・・方針は見えていると思いますこの頃には」
「はい、ありがとうございます」
大きく頷くエルマである、その染髪だとか新しい衣服だとかも気になるがやはりここは自分の問題であった、そして同時に子供というのはそういうものであったと改めて思い知る、マルルース曰くどうやら他の家庭教師にも綽名があったらしく、それはイフナースがそう名付けたのが始まりのようで、あのヤンチャで次男坊らしい次男坊であるイフナースであればさもありなんと前向きに考えてしまった、相手は子供でさらには男子なのである、綽名程度は普通であるし、自分の子供達にも手を焼かされたもので、マルルースがその程度がなんだとまるで気にしていないのにも得心がいく、相手は子供なのである、大人であり教師であった自分が振り回される必要は毛ほども無いのだ、
「良かったわね」
マルルースが優しい笑みを浮かべ、ハイッと嬉しそうにエルマは答えた、
「まぁ、あくまで予定ですから・・・それに上手くいくとは現時点では断言できませんので、その点御容赦下さい」
「はい、勿論です」
大きく頷くエルマであった、郷里を離れこの地に来た目的は爛れた皮膚の治療であるのは当然であったが、その目的意識が初日であるにも関わらず既に希薄になってしまっている、この寮の初めて見る様々な道具と若く情熱的な研究所員、さらにはこの愛らしい子供達に囲まれてしまっては、もう10年の付き合いになる醜い顔の事等置き去りになったとしても不思議は無い、それほどにこの半日はエルマにとって濃厚でかつ良い刺激になっている、子供らしい悪意ある渾名もまたその一因となったであろう、
「しかしまぁ・・・これも仕事と思えば・・・ね、それにそう思えばもっとこう本腰を入れないとってなりますし・・・」
「あら、本腰じゃなかったの?」
「まだですね、午後から本腰が入ります」
悪びれず微笑むソフィアにこれだからとマルルースは苦笑いで目を細める、
「そう・・・あっ、エルマ、こちら、レネイさんで良かったわね?」
とマルルースは思い出したように二人を引き合わせ、レネイは恐縮しつつ腰を上げて一礼し、エルマもいつの間にやら人が増えていたと慌てて対応する、どうやらレネイにも気付いていなかったようで、これはよほどの衝撃だったのだなとマルルースはこちらにも苦笑いを浮かべてしまった、
「すいません、その子達うるさく無かったですか?」
エルマの傍らで実に熱心に書に向かい、時折ギャーギャー騒ぎ出す義妹達へレネイが視線を向ける、うるさい事には変わりないが走り回ってないだけまだましかと詮無い事を思ってしまう、
「うるさいのは仕方ないですよ、子供はそういうもんです」
「確かにそうなのですが、すいません、お手を煩わせて」
「そんな、とても楽しいですよ、そうだ、サスキアちゃん、黒板を見せてあげて」
エルマが振り返ると、サスキアはスッと顔を上げた、そのまま無言で黒板を掴み寝台を下り、ハイッとばかりにレネイに黒板を突き出した、
「どうしたの?」
「・・・上手って・・・ほめられた・・・」
レネイの若干困惑した顔にサスキアは小さく答える、褒められた?とレネイは黒板を見つめる、そこにはサスキアの名と家門名が綺麗な文字で羅列されており、ん?とレネイは首を傾げ、
「これ・・・エッ、サスキアが書いたの?」
コクリと頷くサスキアである、すぐに、
「そうなのー、サスキアちゃん上手なのー」
「むー、ノーラも上手だよー」
「ノールも上手くなったー」
「ミナもー、ミナも上手ー」
ここぞとばかりに騒ぎ出す三人である、エッとレネイは改めて黒板を確認し、本当かしらとエルマを見つめる、エルマはゆっくりと大きく頷く、
「そっか・・・サスキア凄いのね」
レネイの静かな賞賛に、無言で照れくさそうな笑顔を見せるサスキアである、もうとレネイはその頭を撫でつけ、やっとサスキアはえへへと呟いた、
「そうだ、じゃ、あれね、明日から通いなさい」
ソフィアが席に戻りながら言い放つ、通う?黒板をサスキアに返しながらレネイは首を傾げた、
「あのね、エルマさんに勉強を見てもらおうって思ってね、だから、三人も一緒に見て貰えばいいわ、折角の機会だしね」
ニコニコと席に着くソフィアである、
「エッ・・・でも、その・・・おう・・・貴族様の家庭教師であった方・・・ですよね・・・」
王族と言いかけて必死に貴族様と言い換えたレネイである、マルルースからの紹介で目の前の人物が如何に特別であるかを瞬時に理解し、またその異様な装束もあっさりと受け入れていた、何らかの事情はすぐに察せられ、それを問い質すのは失礼どころの話しでは無いであろう、マルルースは勿論ソフィアもそれを当然としているのだ、回転の早さと順応性は流石遊女であっただけはある、
「そうよー、滅多にない事よー、マルルース様もエルマさんほどの教師は探しても見つからないってくらいの評価だし、それにほら、ミナだけを見てもらうのもね、物足りないかもだし」
ソフィアが意地悪そうにエルマに視線を送る、そんなことはないとエルマは顔を顰めるが、その表情は伝わっていなかった、
「そうね、遠慮する事はないわよ」
マルルースものほほんと微笑み、
「貴方達にも何らかのお返しが必要かなって思ってたし、何かと協力頂いてるみたいだからね、と言っても表立っては難しいからね、影ながら支援するわよ」
と続けた、再びエッと驚くレネイである、すぐに、
「そんな、私達こそ、お返ししなければならない事ばかりです、お世話になっているのはこちらですよ」
ワタワタと慌てるが、
「それはだって、ソフィアさんとかタロウさんとか、エレインさんでしょ、私もね、この人達には大変に世話になっているんだから、そのくせ妙にね、欲が無いというか、適当というか、勝手放題というか・・・」
フスーと鼻息を荒くするマルルースである、あまりの言い草にレネイはそんな事はないですよと言いかけて黙り込んだ、まったくもってその通りだったからである、
「またそんな事言ってー」
ソフィアがアッハッハと笑うもそれにつられる者はいなかった、メイド達は勿論であるし、レネイはマルルースの弁はその通りだと同意し、エルマは似たような事を言われているなと首を傾げている、
「・・・ありゃ・・・」
ソフィアがすぐに笑いを止めてどうしたものかと顔を顰める、
「フフッ、まぁいいわ、そういう事だから、エルマ、先はどうなるか分かりませんけれど、ここはしっかりと家庭教師をやりなさい」
「はいっ、喜んで承ります」
エルマがスッと背筋を伸ばして一礼する、
「ソフィアさん、レネイさんもそういう事だから、宜しくね、ミナちゃん、ノールちゃん達もエルマ先生の言う事をしっかり聞くのよ」
ハーイと素直な返事が食堂に響いた、どこまで本気なんだかとソフィアはミナを伺うも、ミナ達はすぐに書に向かっている、この調子が明日以降も続けばいいんだけどなと現実的な事を考えるソフィアであった、そして、今日は一旦戻って、明日マフダと共に顔を出すとの段取りをした上でレネイと三人娘は事務所に戻った、ミナは名残惜しそうに見送る、三人娘の手にはお土産に持って行きなさいとソフィアから渡された藁箱がしっかりと握られていた、中身はドーナッツである、お姉さん達に自分が作ったと自慢なさいねとソフィアが優しく微笑むと、ノールとノーラはピョンピョン飛び跳ね、サスキアもレネイの脚に縋りついて笑顔を見せた、そして、
「うー・・・静かになったー」
ミナは寂しそうに寝台の上をゴロゴロと転がる、同年代の子供と戯れたのは久しぶりの事で、喪失感が大きいのであろう、
「そうね、ほら、ノシ片付けて、明日また来るんだから、いい、ミナが一番のお姉さんなんだからね、しっかりしないと駄目よ」
ソフィアがニコリと微笑む、ミナはエッと顔だけを上げ、
「・・・ミナがおねーさんなの?」
「そうよー、サスキアちゃんが一番小さいのかしらね、ノールちゃんもノーラちゃんもミナより小さいでしょ」
「・・・そうなんだ・・・ミナがおねーさん?」
信じられないのかエルマに再確認するミナである、
「そうよ、ミナちゃんが一番大きいわね、ソフィアさんの言う通りしっかりしないとね」
「わかったー」
ミナがピョコンと半身を上げ、
「しっかりするー、えっとえっと・・・どうやるの?」
不思議そうに首を傾げるミナにもうこれだからと大人達は微笑んでしまった、
「そうね、まずはお片付け、あと・・・どうしようかお手伝いする?」
「する、えっと、えっと、お片付けー」
ワタワタとノシを片付け始めるミナである、
「フフッ、この年頃の子は可愛いわよね」
マルルースがのんびりと微笑んだ、
「まったくです、素直で元気で・・・もう少し大きくなるとね、なんて言うか・・・男の子だと手がつけられなくなって、女の子は妙に大人ぶり始めて・・・それはそれで可愛いんですけど・・・小生意気になっちゃいますからね・・・」
エルマも静かに微笑む、
「ですねー、あっ、どうしましょう、明日からの勉強の道具は取り合えずここにあるものを使って貰って」
「あっ、そうですね、先程の教科書もいいですが・・・あっ、カトカさんからベルメルでしたか、あれをお借りしたいですね、それと・・・黒板もあるし・・・教科書もある・・・他に・・・」
エルマがキョロキョロと食堂内を見渡す、足りない物があれば今の内であればマルルースに頼めば手配してくれるであろう、そういった点でマルルースは大変に気前の良い人物である、逆に遠慮すると叱られる程であった、
「お絵描きじゃな」
レインが唐突に口を挟む、エッと大人達が振り向いた、
「お絵描きですか?」
エルマがゆっくりと首を傾けた、
「うむ、ミナはな、良い絵を描くのじゃ、ほれ、その絵もミナが描いたのだぞ」
レインがマントルピースの上に飾られた二枚の額装された絵画を示す、
「それもそうね、ミナちゃんは絵も上手なのよ」
マルルースも思い出したのかポンと手を叩く、
「そうなのじゃ、それにな、どうせ書に向かっているだけでは飽きるからな、絵を描かせるのも息抜きになってよい」
フンと鼻を鳴らすレインである、
「なるほど・・・流石レインちゃんね、ミナちゃんの先生なだけはありますね」
エルマは目から鱗と感心してしまう、
「だけはあるかな、しかし、そうなるとあれじゃな、ニコリーネに頼んでも良いかものう、どうかな?」
レインはフムとソフィアを見上げる、
「そこまで本格的にやるの?」
しかし微妙に顔を顰めるソフィアであった、
「・・・それも面白いかもね」
マルルースがニヤリと微笑み、ニコリーネ?とエルマは首を傾げた、どうやらまだ会ってない人物がいるらしい、
「まぁな、あれはあれで曲者じゃがな」
「あんたに言われたくはないでしょうよ」
「ソフィアに言われたくはないぞ」
ナヌ?と睨み合うソフィアとレインである、この二人はもうとマルルースらは微笑み、
「終わったー、次は次は?」
片付けを終えたミナがソフィアに駆け寄り、ピョンピョン飛び跳ねるのであった。
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