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本編
76話 王家と公爵家 その56
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同時刻二階でも、
「そういう事か・・・」
「フフッ、思った通りよな」
「・・・めんどくさい事を・・・」
カラミッドが鼻息を荒くし、レイナウトが不愉快そうに微笑む、クンラートも呆れたように呟いた、三人が腰を下ろして一息ついていたその応接室に無遠慮に入って来た者がいた、何事かと近衛達が緊張し、リシャルトもサッと貴人達との間に割って入る、しかし、その男はニヤリと微笑み、室内の面々を見渡した、そしてその正体に気付く一同、紫色のローブを纏ったその姿は誰でもない国王であるボニファースで、リシャルトもまたこうなるかと口元を歪ませた、
「なんだ・・・来客であったのか?」
しかしボニファースはとぼけた顔で振り返る、その背後にはこの屋敷の当主であるイェフが付き従っており、
「そう申し上げましたと思います」
と眉を顰めて苦笑する、
「そうか・・・いや、近衛まで連れているとはどこぞの公爵様かな?」
ゆっくりと視線を戻すボニファース、グッとボニファースを睨みつける貴人達とジリジリと突然の客と主人の間に立ちふさがる近衛達、しかし腰の剣に手を伸ばしていないあたり、多少は弁えている様子であった、ボニファースはフンッと楽しそうに鼻で笑う、
「イフナース、クロノス、そういう事らしいがどうする」
一同の緊張の中ボニファースはどこまでもすっとぼけるつもりらしい、再び振り返ると、その名を呼ばれた二人がヒョイとイェフの頭上から顔を覗かせ、
「なんだ、クンラートではないか」
「あぁ、よく見る顔だ」
と同時に微笑む、そうなのかと微笑むボニファース、クンラートらもさてどうしたものかと取り合えず腰を上げる事とし、
「よい、お前らは控えていろ」
クンラートが近衛達に指示を出したようで、しかし、近衛達もその職務に忠実であった、警戒感を宿した視線をボニファースに叩き付けたまま動かない、
「よいと言ったぞ」
クンラートの叱責に従者と近衛は漸くトロトロと足を動かし壁際に控えた、
「フッ、どうりで見たことがない顔だと思ったのだ、話しでは聞いておるぞ、クンラート、すると、そこの二人がレイナウトとカラミッドだな」
ボニファースがズカズカと室内に踏み入る、グッとボニファースを睨みつけるクンラートとレイナウト、カラミッドもまたここが正念場かと背筋を正した、昨晩のタロウの誘い、それ自体は大変に友好的なもので、また、魅惑的なものであった、タロウ曰く、折角の公爵家の新しい門出となりましょうし、ここは一つ遠方に視察に向かいませんかとの誘いで、その遠方の地とは王国でも最南端となり、雪が降ることは稀な、この季節でも春のように温かい土地だという、急になんでそんな事を言い出すとカラミッドもレイナウトも唖然としてしまったが、タロウの郷里では家族や夫婦の再出発を記念して旅行をする習慣があるのだとか、今日のこのちょっとした騒動をまとめる為にも、明日ゆっくりと楽しむ事を思えばより真剣になるでしょうと、何ともよくわからない理屈を口にしている、無論、タロウの郷里にそんな習慣は無い、完全に口からでまかせの言い訳も良い所で、タロウとしても思い付きの提案であったりした、そしてその根回しにあっちこっちと駆け回り、まぁ、なんとかなりそうかとホッと安堵して寮に戻っている、なによりこれで二組目の依頼を果たしたことになる、一組目の依頼がクンラートら三人からのものとすれば、二組目のそれは王妃二人とボニファースからのもので、なんのことはない、公爵家との会合の場を設定しろというそれだけの事であったりする、
「なんだ、臣下の礼も知らんのか?」
ニヤリと微笑みジロリと三人を睨みつけるボニファース、イェフとイフナース、クロノスも室内に入り、その背後にはイザークの姿もある、クンラートはどうやらレイナウトの予想通りであったと微笑んでしまった、昨晩、タロウの勧める家族会議とやらの後、クンラートとレイナウトは改めて今後について協議している、主に公爵家の内情についての事で、また、タロウの誘いについてもどうするべきが正しいのかと話し合った、帝国関連の問題はここ数日すっかり落ち着いている、やはり帝国と言えど天候に抗する術は無いらしく、またこちらはこちらで寒さと雪には慣れているが、慣れているだけであり、この状況で戦闘となると正直遠慮したかった、まだ直接の戦闘の前でもあり、ヘルデルよりは格段に雪も少なく、兵の士気も高い、特に明後日には軍を歓迎する名目の祭りも開かれる、そのような催事もまた珍しく、兵士達も何気に楽しみにしているらしい、そしてレイナウトが恐らくと口にしたのが、今日この場に他の誰かが顔を出すのではないかという懸念であった、クンラートもそれを画策するのは他にありえないとボニファースの名を上げ、その通りとレイナウトもその見解を認める、而して、その予想は大当たりであった、今まさにクンラートの前には一族の仇敵とするべきボニファースその人が立ち、その隣りをその息子と婿養子が固めている、
「臣下だと・・・」
「おう、違うのか、それともあれか、これはこれは公爵閣下、お初にお目にかかる、これほどの光栄がこの世にありましょうか・・・とでも言ってへりくだって欲しいのか」
ニヤニヤと続けるボニファース、グッと睨み返すクンラート、
「・・・確かに、我々は臣下に過ぎぬが、いや、老いたなボニファース」
レイナウトがニヤリと微笑む、レイナウトがボニファースに会うのはこれで二度目であった、一度目はまだ二人供その地位では無い、二十歳前後の若造であった頃となる、
「お互い様じゃ」
ボニファースがホッホッホと余裕の笑みを浮かべ、そうなのかとクンラートが確認する、
「まぁな、しかし、魔族大戦の折には顔も出さなかった男が今更何だという、貴様の名はアイセル領内では地に落ちているぞ」
「そうであったのか?しかしその分イフナースとクロノスの名は轟いていると思うがな」
「・・・何を言い出す、貴様が王であろう、なんだ、腰が引けたのか、やはり耄碌したか」
「お互い様だろうがレイナウト、息子に公爵位を譲っておいて言う事か」
「適材というものがある、クンラートは儂以上の戦上手、任せて何が悪いか」
「ハッ、戦上手が聞いて呆れる、王国軍の介入なくば今頃お前らは魔族の糞であったろうが」
「何を言うか、我がヘルデルの精強な軍であればすぐにでも追い返したわ」
「それが出来なかったのであろう、そうイキルな公爵、気合だけでは敵わぬ事があるという事、その程度の道理、貴様もよく理解していよう」
ボニファースは目を細め、グヌヌと押し黙るクンラート、まぁこうなるだろうなとイフナースとクロノスはどうしたもんだかと呆れ顔である、見ればクンラートの近衛も従者達も警戒態勢を維持したままで、クンラートら三人もまた見事な臨戦態勢であった、別にボニファースもイフナースもクロノスも喧嘩をしに来た訳でも無ければここで決着を付けるつもりも無かったりする、故に王族側は近衛も連れていない、まぁそれ以上に心強い護衛となるクロノスとイフナースを伴っているのであるからある意味で過剰とも言える護衛体制ではあった、そこへ、
「失礼します」
とタロウが顔を出す、イザークがタロウを止めようと振り返るも、タロウはまるで無視して室内に分け入ると、
「どうしたんです?」
と見事にすっとぼけた、こいつはと睨みつけるクンラートにレイナウト、カラミッドもやはりタロウはあちら側であったと顔を顰める、
「・・・何だそれは?」
クンラートが忌々し気に問い返す、
「なんだって・・・バナナとトマトですよ、あっ、トマトはこれ塩漬けのトマトになります、新鮮なやつは数が限られましてね、これはこれで旨いのでお茶請けに宜しいかと思いますよ」
タロウはスタスタとテーブルに近寄り手にした盆から皿を並べだした、クンラートはそのような事を聞いたのではないと口元を歪める、
「あっ、お茶もいいですよね、お願いします」
とタロウが振り返れば廊下にはメイドが二人、茶道具を持ってどうしたものかと控えており、イザークがあぁと小さく呟いて二人に指示を出した、音も無く踏み入る二人をポカンと見つめてしまうクンラートとレイナウト、近衛達もすっかり毒気を抜かれてしまった様子である、
「じゃ、こんなもんで、ほら、折角円卓を用意したのです、今日は上下は無しで話すのでしょう?」
タロウは皿を並べながら振り返る、その先のボニファースも苦笑するしかないらしく、
「貴様・・・まったく、そうは言ったがな」
「言ったのであればそうしましょう、なに、切った張ったはいつでも出来ますから、私がどんだけ苦労したと思っているんですか、昨日からまぁ・・・めんどくさい事ばかり・・・困ったものですよ、ほれ、喧嘩腰でできる話しは限られましょう、先代様も公爵様もそういきり立たないで、カラミッド様もらしくないですよ」
まったくもうと男達を無遠慮に眺め回すタロウ、何を言うのかと男達の強い視線がタロウに突き刺さる、
「あー・・・ですから・・・まぁ、いいですけど、あっ、先に言っておきますね、お互いの安全の為に・・・取り合えずなんですが、クロノスがその気になったらこの部屋は血みどろになってしまいます、近衛の皆さんもそれを弁えて、あなた方で押さえられる程やわでは無いですよこの男は」
「なっ・・・どういう意味だ」
ギンとタロウを睨むクンラート、
「そのまんまです、クロノスが魔王を倒したのはそれだけの実力があったからです、公爵様は知らないかもですけど、私はね、その場にいたので知ってますが、こいつは魔王と切り結べた唯一の男です、演劇のあれは実は嘘ではないんです、だからね、こいつがその気になったら敵う相手を俺は知りえないですよ、少なくともこの場には居ません、他の国を探してもまぁいないですよ」
何を言い出すのやらと目を細めるクロノス、クンラートはグッと言葉を飲み込み、レイナウトとカラミッドはそうなのかとクロノスを見つめてしまう、
「それにね、まぁ、ここで言ってしまうのもなんですが、イフナース殿下も皆さんが思っている以上の怪物です」
「・・・怪物だと・・・」
「えぇ、だって、ほら、荒野の焼け跡、あそこをあんなにしたのはこの人なんですから」
エッとイフナースを見つめるクンラート、近衛もリシャルトも目を見開いてイフナースを見つめてしまう、
「・・・そう・・・なのか?」
「・・・まぁな、そうらしい、あっ、決してあれだぞ、やりたくてやったわけではない、こいつにやってみろと言われてやったのだ、まさかあぁなるとは思ってもみなかった、俺は悪くない」
フンとそっぽを向くイフナース、
「まぁ、そうですけどねー、俺は悪くないなんて、いい歳して言う事じゃないなー」
どこまでもふざけた口調のタロウである、
「いい歳とはなんだ」
「いい歳でしょうに、はい、ほら、皆さん突っ立ってないでお茶も入りましたし、ゆっくり御歓談下さい、あっ、近衛の皆さんもリシャルトさんも落ち着いて、あなた方ではどうあがいてもクロノスどころか殿下にも勝てないですから、刺し違えてもなどと考えない事です、皆さんが考えるべきは公爵様と伯爵様の安全、そうでしょう?ですが、その点は俺が保証しますよ、大丈夫、陛下もね、喧嘩をしに来たわけではないですから、だからここはね、静かに見守りましょう、じゃ・・・俺はそういう事で、イザークさん、イェフさん、後は宜しく」
盆を脇に抱えてスタスタと退室するタロウ、メイド達もここは一度下がるかと一礼してそれに続いたようで、
「まったく・・・そういう事だ、ほれ、座れ、このバナナとやらは絶品だぞ」
ボニファースがやれやれと苦笑いでテーブルに歩み寄り、近場の椅子にドカリと腰を下ろす、その円卓はタロウがその方が良いであろうとわざわざ用意したものである、ボニファースは円卓が好きな男だなと笑ってしまい、タロウはタロウで席次を気にする貴族様がメンドイのですよと反論していたりする、
「バナナ?」
「あー・・・なんか前に言ってたな」
「うん、これがそうなのか?」
「なんだ貴様らは知らんのか?」
「初めて見るな」
「美味いのか?」
「おう、美味いぞ、ほれ、クンラート、レイナウトも座れ、なんだ遠慮してるのか?随分しおらしいじゃないか、ん?臣下の心構えが出来たのか?」
ボニファースがニヤーと挑戦的に微笑むと、何を言うかと腰を下ろすクンラート、レイナウトとカラミッドもクンラートに続くしかない状況となってしまった。
「そういう事か・・・」
「フフッ、思った通りよな」
「・・・めんどくさい事を・・・」
カラミッドが鼻息を荒くし、レイナウトが不愉快そうに微笑む、クンラートも呆れたように呟いた、三人が腰を下ろして一息ついていたその応接室に無遠慮に入って来た者がいた、何事かと近衛達が緊張し、リシャルトもサッと貴人達との間に割って入る、しかし、その男はニヤリと微笑み、室内の面々を見渡した、そしてその正体に気付く一同、紫色のローブを纏ったその姿は誰でもない国王であるボニファースで、リシャルトもまたこうなるかと口元を歪ませた、
「なんだ・・・来客であったのか?」
しかしボニファースはとぼけた顔で振り返る、その背後にはこの屋敷の当主であるイェフが付き従っており、
「そう申し上げましたと思います」
と眉を顰めて苦笑する、
「そうか・・・いや、近衛まで連れているとはどこぞの公爵様かな?」
ゆっくりと視線を戻すボニファース、グッとボニファースを睨みつける貴人達とジリジリと突然の客と主人の間に立ちふさがる近衛達、しかし腰の剣に手を伸ばしていないあたり、多少は弁えている様子であった、ボニファースはフンッと楽しそうに鼻で笑う、
「イフナース、クロノス、そういう事らしいがどうする」
一同の緊張の中ボニファースはどこまでもすっとぼけるつもりらしい、再び振り返ると、その名を呼ばれた二人がヒョイとイェフの頭上から顔を覗かせ、
「なんだ、クンラートではないか」
「あぁ、よく見る顔だ」
と同時に微笑む、そうなのかと微笑むボニファース、クンラートらもさてどうしたものかと取り合えず腰を上げる事とし、
「よい、お前らは控えていろ」
クンラートが近衛達に指示を出したようで、しかし、近衛達もその職務に忠実であった、警戒感を宿した視線をボニファースに叩き付けたまま動かない、
「よいと言ったぞ」
クンラートの叱責に従者と近衛は漸くトロトロと足を動かし壁際に控えた、
「フッ、どうりで見たことがない顔だと思ったのだ、話しでは聞いておるぞ、クンラート、すると、そこの二人がレイナウトとカラミッドだな」
ボニファースがズカズカと室内に踏み入る、グッとボニファースを睨みつけるクンラートとレイナウト、カラミッドもまたここが正念場かと背筋を正した、昨晩のタロウの誘い、それ自体は大変に友好的なもので、また、魅惑的なものであった、タロウ曰く、折角の公爵家の新しい門出となりましょうし、ここは一つ遠方に視察に向かいませんかとの誘いで、その遠方の地とは王国でも最南端となり、雪が降ることは稀な、この季節でも春のように温かい土地だという、急になんでそんな事を言い出すとカラミッドもレイナウトも唖然としてしまったが、タロウの郷里では家族や夫婦の再出発を記念して旅行をする習慣があるのだとか、今日のこのちょっとした騒動をまとめる為にも、明日ゆっくりと楽しむ事を思えばより真剣になるでしょうと、何ともよくわからない理屈を口にしている、無論、タロウの郷里にそんな習慣は無い、完全に口からでまかせの言い訳も良い所で、タロウとしても思い付きの提案であったりした、そしてその根回しにあっちこっちと駆け回り、まぁ、なんとかなりそうかとホッと安堵して寮に戻っている、なによりこれで二組目の依頼を果たしたことになる、一組目の依頼がクンラートら三人からのものとすれば、二組目のそれは王妃二人とボニファースからのもので、なんのことはない、公爵家との会合の場を設定しろというそれだけの事であったりする、
「なんだ、臣下の礼も知らんのか?」
ニヤリと微笑みジロリと三人を睨みつけるボニファース、イェフとイフナース、クロノスも室内に入り、その背後にはイザークの姿もある、クンラートはどうやらレイナウトの予想通りであったと微笑んでしまった、昨晩、タロウの勧める家族会議とやらの後、クンラートとレイナウトは改めて今後について協議している、主に公爵家の内情についての事で、また、タロウの誘いについてもどうするべきが正しいのかと話し合った、帝国関連の問題はここ数日すっかり落ち着いている、やはり帝国と言えど天候に抗する術は無いらしく、またこちらはこちらで寒さと雪には慣れているが、慣れているだけであり、この状況で戦闘となると正直遠慮したかった、まだ直接の戦闘の前でもあり、ヘルデルよりは格段に雪も少なく、兵の士気も高い、特に明後日には軍を歓迎する名目の祭りも開かれる、そのような催事もまた珍しく、兵士達も何気に楽しみにしているらしい、そしてレイナウトが恐らくと口にしたのが、今日この場に他の誰かが顔を出すのではないかという懸念であった、クンラートもそれを画策するのは他にありえないとボニファースの名を上げ、その通りとレイナウトもその見解を認める、而して、その予想は大当たりであった、今まさにクンラートの前には一族の仇敵とするべきボニファースその人が立ち、その隣りをその息子と婿養子が固めている、
「臣下だと・・・」
「おう、違うのか、それともあれか、これはこれは公爵閣下、お初にお目にかかる、これほどの光栄がこの世にありましょうか・・・とでも言ってへりくだって欲しいのか」
ニヤニヤと続けるボニファース、グッと睨み返すクンラート、
「・・・確かに、我々は臣下に過ぎぬが、いや、老いたなボニファース」
レイナウトがニヤリと微笑む、レイナウトがボニファースに会うのはこれで二度目であった、一度目はまだ二人供その地位では無い、二十歳前後の若造であった頃となる、
「お互い様じゃ」
ボニファースがホッホッホと余裕の笑みを浮かべ、そうなのかとクンラートが確認する、
「まぁな、しかし、魔族大戦の折には顔も出さなかった男が今更何だという、貴様の名はアイセル領内では地に落ちているぞ」
「そうであったのか?しかしその分イフナースとクロノスの名は轟いていると思うがな」
「・・・何を言い出す、貴様が王であろう、なんだ、腰が引けたのか、やはり耄碌したか」
「お互い様だろうがレイナウト、息子に公爵位を譲っておいて言う事か」
「適材というものがある、クンラートは儂以上の戦上手、任せて何が悪いか」
「ハッ、戦上手が聞いて呆れる、王国軍の介入なくば今頃お前らは魔族の糞であったろうが」
「何を言うか、我がヘルデルの精強な軍であればすぐにでも追い返したわ」
「それが出来なかったのであろう、そうイキルな公爵、気合だけでは敵わぬ事があるという事、その程度の道理、貴様もよく理解していよう」
ボニファースは目を細め、グヌヌと押し黙るクンラート、まぁこうなるだろうなとイフナースとクロノスはどうしたもんだかと呆れ顔である、見ればクンラートの近衛も従者達も警戒態勢を維持したままで、クンラートら三人もまた見事な臨戦態勢であった、別にボニファースもイフナースもクロノスも喧嘩をしに来た訳でも無ければここで決着を付けるつもりも無かったりする、故に王族側は近衛も連れていない、まぁそれ以上に心強い護衛となるクロノスとイフナースを伴っているのであるからある意味で過剰とも言える護衛体制ではあった、そこへ、
「失礼します」
とタロウが顔を出す、イザークがタロウを止めようと振り返るも、タロウはまるで無視して室内に分け入ると、
「どうしたんです?」
と見事にすっとぼけた、こいつはと睨みつけるクンラートにレイナウト、カラミッドもやはりタロウはあちら側であったと顔を顰める、
「・・・何だそれは?」
クンラートが忌々し気に問い返す、
「なんだって・・・バナナとトマトですよ、あっ、トマトはこれ塩漬けのトマトになります、新鮮なやつは数が限られましてね、これはこれで旨いのでお茶請けに宜しいかと思いますよ」
タロウはスタスタとテーブルに近寄り手にした盆から皿を並べだした、クンラートはそのような事を聞いたのではないと口元を歪める、
「あっ、お茶もいいですよね、お願いします」
とタロウが振り返れば廊下にはメイドが二人、茶道具を持ってどうしたものかと控えており、イザークがあぁと小さく呟いて二人に指示を出した、音も無く踏み入る二人をポカンと見つめてしまうクンラートとレイナウト、近衛達もすっかり毒気を抜かれてしまった様子である、
「じゃ、こんなもんで、ほら、折角円卓を用意したのです、今日は上下は無しで話すのでしょう?」
タロウは皿を並べながら振り返る、その先のボニファースも苦笑するしかないらしく、
「貴様・・・まったく、そうは言ったがな」
「言ったのであればそうしましょう、なに、切った張ったはいつでも出来ますから、私がどんだけ苦労したと思っているんですか、昨日からまぁ・・・めんどくさい事ばかり・・・困ったものですよ、ほれ、喧嘩腰でできる話しは限られましょう、先代様も公爵様もそういきり立たないで、カラミッド様もらしくないですよ」
まったくもうと男達を無遠慮に眺め回すタロウ、何を言うのかと男達の強い視線がタロウに突き刺さる、
「あー・・・ですから・・・まぁ、いいですけど、あっ、先に言っておきますね、お互いの安全の為に・・・取り合えずなんですが、クロノスがその気になったらこの部屋は血みどろになってしまいます、近衛の皆さんもそれを弁えて、あなた方で押さえられる程やわでは無いですよこの男は」
「なっ・・・どういう意味だ」
ギンとタロウを睨むクンラート、
「そのまんまです、クロノスが魔王を倒したのはそれだけの実力があったからです、公爵様は知らないかもですけど、私はね、その場にいたので知ってますが、こいつは魔王と切り結べた唯一の男です、演劇のあれは実は嘘ではないんです、だからね、こいつがその気になったら敵う相手を俺は知りえないですよ、少なくともこの場には居ません、他の国を探してもまぁいないですよ」
何を言い出すのやらと目を細めるクロノス、クンラートはグッと言葉を飲み込み、レイナウトとカラミッドはそうなのかとクロノスを見つめてしまう、
「それにね、まぁ、ここで言ってしまうのもなんですが、イフナース殿下も皆さんが思っている以上の怪物です」
「・・・怪物だと・・・」
「えぇ、だって、ほら、荒野の焼け跡、あそこをあんなにしたのはこの人なんですから」
エッとイフナースを見つめるクンラート、近衛もリシャルトも目を見開いてイフナースを見つめてしまう、
「・・・そう・・・なのか?」
「・・・まぁな、そうらしい、あっ、決してあれだぞ、やりたくてやったわけではない、こいつにやってみろと言われてやったのだ、まさかあぁなるとは思ってもみなかった、俺は悪くない」
フンとそっぽを向くイフナース、
「まぁ、そうですけどねー、俺は悪くないなんて、いい歳して言う事じゃないなー」
どこまでもふざけた口調のタロウである、
「いい歳とはなんだ」
「いい歳でしょうに、はい、ほら、皆さん突っ立ってないでお茶も入りましたし、ゆっくり御歓談下さい、あっ、近衛の皆さんもリシャルトさんも落ち着いて、あなた方ではどうあがいてもクロノスどころか殿下にも勝てないですから、刺し違えてもなどと考えない事です、皆さんが考えるべきは公爵様と伯爵様の安全、そうでしょう?ですが、その点は俺が保証しますよ、大丈夫、陛下もね、喧嘩をしに来たわけではないですから、だからここはね、静かに見守りましょう、じゃ・・・俺はそういう事で、イザークさん、イェフさん、後は宜しく」
盆を脇に抱えてスタスタと退室するタロウ、メイド達もここは一度下がるかと一礼してそれに続いたようで、
「まったく・・・そういう事だ、ほれ、座れ、このバナナとやらは絶品だぞ」
ボニファースがやれやれと苦笑いでテーブルに歩み寄り、近場の椅子にドカリと腰を下ろす、その円卓はタロウがその方が良いであろうとわざわざ用意したものである、ボニファースは円卓が好きな男だなと笑ってしまい、タロウはタロウで席次を気にする貴族様がメンドイのですよと反論していたりする、
「バナナ?」
「あー・・・なんか前に言ってたな」
「うん、これがそうなのか?」
「なんだ貴様らは知らんのか?」
「初めて見るな」
「美味いのか?」
「おう、美味いぞ、ほれ、クンラート、レイナウトも座れ、なんだ遠慮してるのか?随分しおらしいじゃないか、ん?臣下の心構えが出来たのか?」
ボニファースがニヤーと挑戦的に微笑むと、何を言うかと腰を下ろすクンラート、レイナウトとカラミッドもクンラートに続くしかない状況となってしまった。
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