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本編
77話 路傍の神々 その22
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それから正午を過ぎた頃合い、タロウがノソッと転送陣を潜ると、
「ミナー、それ持ってってー」
「わかったー、レインー、これー」
「これじゃな?」
「たぶん、それー」
「適当じゃのう」
とバタバタと研究所が騒がしい、ん?とタロウが首を傾げつつその部屋から出ると、
「オワッ!!」
と叫んで足を止めた、足元をミナが駆け抜けレインがそれに続く、さらにハナコが楽しそうに駆けていった、
「・・・どした?」
顔だけ廊下に伸ばして誰にともなく問いかけるタロウ、しかし、その問いに答える者は居らず、ハテ?と首を傾げると、
「あら、おかえり」
背中に声を掛けられ、再びオワッと驚くタロウ、すぐさま振り向けばソフィアである、
「ソフィアか、驚かすな・・・」
「何よ、そんなつもりはないけどね、丁度良かったわ、あんたも手伝いなさい」
「手伝う?何を?」
「掃除」
「掃除?」
「うん、ユーリが珍しくね、掃除したいって言い出してね、そりゃ良いってんで掃除してるの」
ありゃまと目を丸くするタロウ、そこへ、ミナとレインが駆け戻り、
「置いて来たー、あー、タローだー」
と満面の笑みである、
「あぁ、戻ったよ」
「ありがと、あとは・・・ユーリの部屋かしら?」
「じゃのう」
とレインも嬉しそうに手伝っているらしい、ハナコもパタパタと尻尾を振ってソフィアを見上げている、
「よしっ、タロウも来たから捗るわね」
「うん、タロー、お手伝いー、お掃除なのー」
ミナがニパーとタロウを見上げる、
「そっか、偉いぞ」
「うん、楽しいよー」
「そっか、尚良しだ」
ニコニコと微笑み合うタロウとミナ、ソフィアとレインはすでにユーリの自室に向かっており、タロウははてそのユーリはどこだと首を伸ばす、すると、
「あー、それ捨てちゃってー」
とユーリの部屋からユーリの声がする、あっ、そりゃそうかと納得するタロウ、そのまま廊下に出ると、
「わっ、タロウ、なんかへーん」
ミナが大きな叫び声を上げる、なんだと足を止めて振り返るソフィアとレイン、
「変とはなんだ?」
「変はへんー、あれー、クロノスみたいー」
「だろう?クロノスのお古ってやつだ」
「オフル?」
「そっ、クロノスから貰った服なんだよ」
へーとタロウを見上げるミナ、
「どしたのそれ?」
「また、厳つい恰好じゃのう・・・」
ソフィアは純粋に、レインは顔を顰めて呟いた、
「あぁ、なんか明日さ、王城の式典に出なきゃいけなくてさ、で、クロノスにこれを着ろって言われてな・・・」
やれやれと微笑むタロウ、へーとソフィアはニヤリと微笑む、レインもそういう事かとすぐに納得できたらしいが、
「えー、変なのー、似合わなーい」
ミナはどうやらお気に召さないらしい、
「なんだよそれ、酷いなー」
「酷くないー、なんか、へんー」
「いいじゃない似合ってるわよ」
ニヤニヤと微笑むソフィア、
「えー、違うー」
「違うって何がさ」
「タローじゃないー」
「なんだそれ?」
「だって、違うー」
「同じことを繰り返すな」
タロウはムッとミナを見下ろすも、ミナもムッとばかりに睨み返す、
「ありゃ・・・そんなに変か?」
「だから、違うー、タローじゃないー」
「そっか・・・やっぱりかー」
タロウは苦笑するしかない、まぁ、ミナの言いたい事は分かる気がする、自分でも着られているなと感じる程に身に付いていない、わざわざ北ヘルデルまで行ってクロノスの見立てで着込んだ王国式の正装なのであるが、これがまたクロノスに会わせて仕立てられた逸品なものだからタロウでも一回り大きいと感じる代物で、アフラが手配したメイド達がそそくさと丈を合わせてくれたもののやはり今一つなフィット感である、無論、ガラス鏡で確認もしたがやはりしっくりこない、自分でもそう思うのだからミナの目にも奇妙に映ったのかもしれない、しかしクロノスはそんなもんだと気にしておらず、アフラやメイド達も十分ですとの事で、そういうものなのかなと納得するしかなかったタロウであった、
「悪くないと思うけどねー」
ソフィアがソソッと戻ってくる、さらに、
「どした?」
とユーリも顔をだし、
「ありゃ、何それ?」
と不思議そうに小首を傾げた、
「だから、正装だよ、明日の式典に俺も呼ばれてたらしくてさ、クロノスがこれを着ろって・・・まぁ、前に着たあれよりはすこしはマシだと思うんだが・・・」
タロウは早口で説明しつつ、改めて自分の姿を見下ろした、それは王国の正装とは言っても騎士団用のもので、軍団長や近衛、上級仕官等は普段から身に着けている厳めしく煌びやかな軍装がそのまま正装となるが、その軍装を持たない事務官向けの正装であるらしい、事務官は普段は事務員らしく従者と変わらない服装であり、しかしそれではやはり式典等の公式行事にはそぐわないとされ、それなりでかつ軍属らしい正装として作られたのがこの服装なのだとか、そんなものはどうでもいいとタロウは聞き流していたがアフラが懇切丁寧に説明してくれて、クロノスもタロウが逃げ出さないようにと監視する始末であった、
「確かにねー、前のあれよりはねー」
ニヤーとソフィアが微笑み、
「そうねー、あれはねー」
とユーリもソソッと近寄った、
「だろ?まだましだ」
「そうねー・・・でもなに?あんたそこまで深入りしてたの?」
ユーリがニヤニヤと微笑む、ソフィアもそうみたいねーと厭らしい笑みを隠さない、
「深入りって・・・コーヒーじゃないんだからさ・・・」
精一杯の冗談であった、しかし、
「なにそれ?」
「コーヒー?」
「・・・忘れろ、気の迷いだ」
「そっ、じゃ、忘れるけどさ・・・へー、で、それをクロノスに着せられたの?」
「そうだよ、アフラさんまで一緒でさ、逃げられんかった・・・」
「そりゃ可哀そうに」
「ねー、でも、クロノスもなに?そんなに気を使えるようになったの?」
「・・・らしいな、もしくはあれだ、陛下に何か言われたのかもしれん」
「あー、じゃ、しょうがないわね」
「陛下もマメねー、あんたの恰好まで気にしてるなんて・・・」
「・・・だなー」
やれやれと肩を落とすタロウ、笑われるであろうなと思いつつ戻って来たのであるが、見事にそうなっている、いや、自分でも似合っていないってのは理解していたし、からかわれるであろう事も想像していた、しかしミナの不評は想定外である、ミナであればなんのかんのと言ってはしゃいでくれるものと思っていたのだ、それがせめてもの拠り所というものであったりする、
「まぁいいわ、さっ、やってしまいましょう」
「そうねー」
ソフィアとユーリはニヤニヤ笑いを消しもしないで踵を返し、
「そだねー」
とミナまでもが素っ気ない、エッと眉を顰めるタロウである、
「あっ、それは分かったら着替えなさい、その恰好で掃除はさせられないかしら」
すぐに振り返るソフィア、そうねーと続くユーリ、
「・・・なんだよ、まぁいいけどさ・・・」
ムッとタロウは二人を睨む、ミナもそそくさと二人の後を追いかけユーリの部屋に入ったようで、レインもすでにその姿は見えない、廊下にポツンと佇むタロウ、しかし、ハナコが一匹ヘッヘッとタロウを見上げて尻尾を振っていた、
「ありゃ・・・そっか、お前・・・だけはいい子だな・・・」
腰を下ろしハナコに手を伸ばすタロウ、ハナコはソッと頭を突き出すも、
「ハナコー、ドコー?」
ミナの叫びが廊下にまで響く、途端、バッと駆け出すハナコである、エッとタロウはその小さく細い身体を見送り、
「・・・いや、いいんだけどね・・・うん」
寂しそうに立ち上がるしかなかった。
それからタロウが着替えを済ませて三階に上がると、四人全員が中央作業室のテーブルを囲んで一休みしている様子で、どうやら掃除は終わったらしい、と察すると同時にタロウは思う、今日はどうやら今一つ噛み合わない日のようだ、いや、北ヘルデル迄はまだ良かった、苦手なパトリシアとも顔を合わさず戻れている、それだけでもタロウとしては僥倖であり、パトリシアにすればまたあの男はと鬱憤を溜め込む事態であろうが、タロウとしてはそれで良いと安堵していたりする、すると、
「疲れたー」
ミナがトテトテとタロウに近寄りその足に縋りつく、
「そうねー、しっかりお手伝い出来たわねー」
「でしょー」
嬉しそうに振り返るミナ、
「そっかー、偉いぞー」
タロウがニコリと微笑むも、
「どっかの誰かさんはまるで役に立たなかったけどー」
ユーリがニヤリと付け足した、
「なんだよそれ、聞いてたら手伝ったぞ、俺だって」
ブーとタロウが口を尖らせるも、どうだかねーと冷ややかな視線をタロウにぶつけるユーリ、
「あのなー、いいか、俺の故郷じゃな、年末と言えば大掃除なんだ、一年分の汚れを落とす大事な仕事で年中行事ってやつなんだ」
「なにそれ?」
「聞いた事無いわねー」
「そりゃお前・・・まぁ、確かに好き好んでやる作業じゃないけどさ・・・」
「でしょうねー」
「・・・でも、それって・・・あれ?もしかして年に一度しか掃除しないの?」
「そういう意味じゃないよ、普段掃除をしていない箇所を徹底的に掃除するんだ」
「あら・・・それいいわね」
ソフィアがスッと背筋を伸ばす、
「だろ?で、気持ち良く新年を迎える、うん、大事な仕事であって大事な行事だな、うん、恒例行事というか季節の風物詩というか、そんな感じだ、うん」
踏ん反り返ってウンウンと大きく頷くタロウ、
「でも、好き好んではやらない?」
「まぁ・・・そりゃだってさ・・・」
と口籠るタロウ、正直タロウはそれほど掃除好きではない、いや、掃除は好きな部類で、週に一度はしっかりと掃除機をかけ、埃を払ったものであるが、年末だからと大掃除に取り組むのは少し違うと考えていた、汚れが目立つ箇所は汚れているなと気付いた時に適当に掃除するのが良いと考えており、実際にそうしていた、しかしこちらに来てからはすっかりその習慣も無くなってしまっている、何のことは無い、一か所に留まる事が無く、腰を落ち着けたとしてもそれは冬の間の短い期間だけで、それもソフィアの実家に戻った時だけであった、つい昨年の事である、それまでは放浪生活と宿暮らし、さらには天幕での寝泊りと掃除をする必要が無かった、そう言えばちゃんとした掃除なぞ暫くしてないなと考え込んでしまうタロウであった、
「まぁいいけど・・・さて、あっ、あんたいいの?そろそろ支度しないと間に合わないんじゃない?」
ユーリが腰を上げてソフィアを見つめる、
「今日はねー、少し楽できるのよー」
ニコリと微笑むソフィア、
「そなの?」
「うん、テラさんがね、ちゃんとほら、ソウザイ?を食べてないなって言い出してね、今日は噂のソウザイを持ち込んでもらう予定なの」
「あら・・・それはいいわね」
「でしょー、ほら、明日から休みらしいからね、あっちの店も、だから在庫処分とか何とか言ってたけど、まぁ、あれね、そういうのもいいもんだわね」
「そうねー、じゃ、あんたも少しはゆっくりなさい、私もそうするから」
グーッと大きく伸びをするユーリ、そうねーと微笑むソフィア、その隣りでレインがムッとソフィアを見上げ、ミナはよくわかっていないのか単に疲れたのか不思議そうに首を傾げる、
「へー・・・じゃ、あれ?暇?」
タロウが実も蓋も無い事を言い出す、
「なによその言い方」
ムッとタロウを睨むソフィア、
「いやいや、だったらさ・・・うん、厨房使っていいか?」
「いいけど、なに?なんか作るの?」
「まぁ・・・ほら、折角の新年だしね、明日食べる甘いものでもどうかな?俺の故郷の料理だ」
エッと四人の視線がタロウに向かう、
「甘いもの?」
ミナがタロウを見上げて呟いた、
「そっ、甘いもの、で、美味しいやつ」
「食べるー、何それー、甘いの?美味しいの?」
「おう、甘くて、美味しいぞ」
「どんなのー?」
「フフッ、それは秘密だ」
「ブー、教えろー」
「どうしようかなー、手伝ってくれたら、味見をしてもいいかもなー」
「ムー、手伝うー、やるー」
ミナがピョンピョン飛び跳ね、
「まぁ・・・いいけど・・・じゃ、何をどうしたいの?パスタは茹でるつもりだったけど、それ以外ならいいわよ」
ソフィアがさてと腰を上げる、
「ん、大丈夫、邪魔はしないから、じゃ、やるか」
「やるー」
再びタロウの足に抱き着くミナ、ニヤリと微笑むタロウであった。
「ミナー、それ持ってってー」
「わかったー、レインー、これー」
「これじゃな?」
「たぶん、それー」
「適当じゃのう」
とバタバタと研究所が騒がしい、ん?とタロウが首を傾げつつその部屋から出ると、
「オワッ!!」
と叫んで足を止めた、足元をミナが駆け抜けレインがそれに続く、さらにハナコが楽しそうに駆けていった、
「・・・どした?」
顔だけ廊下に伸ばして誰にともなく問いかけるタロウ、しかし、その問いに答える者は居らず、ハテ?と首を傾げると、
「あら、おかえり」
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「ソフィアか、驚かすな・・・」
「何よ、そんなつもりはないけどね、丁度良かったわ、あんたも手伝いなさい」
「手伝う?何を?」
「掃除」
「掃除?」
「うん、ユーリが珍しくね、掃除したいって言い出してね、そりゃ良いってんで掃除してるの」
ありゃまと目を丸くするタロウ、そこへ、ミナとレインが駆け戻り、
「置いて来たー、あー、タローだー」
と満面の笑みである、
「あぁ、戻ったよ」
「ありがと、あとは・・・ユーリの部屋かしら?」
「じゃのう」
とレインも嬉しそうに手伝っているらしい、ハナコもパタパタと尻尾を振ってソフィアを見上げている、
「よしっ、タロウも来たから捗るわね」
「うん、タロー、お手伝いー、お掃除なのー」
ミナがニパーとタロウを見上げる、
「そっか、偉いぞ」
「うん、楽しいよー」
「そっか、尚良しだ」
ニコニコと微笑み合うタロウとミナ、ソフィアとレインはすでにユーリの自室に向かっており、タロウははてそのユーリはどこだと首を伸ばす、すると、
「あー、それ捨てちゃってー」
とユーリの部屋からユーリの声がする、あっ、そりゃそうかと納得するタロウ、そのまま廊下に出ると、
「わっ、タロウ、なんかへーん」
ミナが大きな叫び声を上げる、なんだと足を止めて振り返るソフィアとレイン、
「変とはなんだ?」
「変はへんー、あれー、クロノスみたいー」
「だろう?クロノスのお古ってやつだ」
「オフル?」
「そっ、クロノスから貰った服なんだよ」
へーとタロウを見上げるミナ、
「どしたのそれ?」
「また、厳つい恰好じゃのう・・・」
ソフィアは純粋に、レインは顔を顰めて呟いた、
「あぁ、なんか明日さ、王城の式典に出なきゃいけなくてさ、で、クロノスにこれを着ろって言われてな・・・」
やれやれと微笑むタロウ、へーとソフィアはニヤリと微笑む、レインもそういう事かとすぐに納得できたらしいが、
「えー、変なのー、似合わなーい」
ミナはどうやらお気に召さないらしい、
「なんだよそれ、酷いなー」
「酷くないー、なんか、へんー」
「いいじゃない似合ってるわよ」
ニヤニヤと微笑むソフィア、
「えー、違うー」
「違うって何がさ」
「タローじゃないー」
「なんだそれ?」
「だって、違うー」
「同じことを繰り返すな」
タロウはムッとミナを見下ろすも、ミナもムッとばかりに睨み返す、
「ありゃ・・・そんなに変か?」
「だから、違うー、タローじゃないー」
「そっか・・・やっぱりかー」
タロウは苦笑するしかない、まぁ、ミナの言いたい事は分かる気がする、自分でも着られているなと感じる程に身に付いていない、わざわざ北ヘルデルまで行ってクロノスの見立てで着込んだ王国式の正装なのであるが、これがまたクロノスに会わせて仕立てられた逸品なものだからタロウでも一回り大きいと感じる代物で、アフラが手配したメイド達がそそくさと丈を合わせてくれたもののやはり今一つなフィット感である、無論、ガラス鏡で確認もしたがやはりしっくりこない、自分でもそう思うのだからミナの目にも奇妙に映ったのかもしれない、しかしクロノスはそんなもんだと気にしておらず、アフラやメイド達も十分ですとの事で、そういうものなのかなと納得するしかなかったタロウであった、
「悪くないと思うけどねー」
ソフィアがソソッと戻ってくる、さらに、
「どした?」
とユーリも顔をだし、
「ありゃ、何それ?」
と不思議そうに小首を傾げた、
「だから、正装だよ、明日の式典に俺も呼ばれてたらしくてさ、クロノスがこれを着ろって・・・まぁ、前に着たあれよりはすこしはマシだと思うんだが・・・」
タロウは早口で説明しつつ、改めて自分の姿を見下ろした、それは王国の正装とは言っても騎士団用のもので、軍団長や近衛、上級仕官等は普段から身に着けている厳めしく煌びやかな軍装がそのまま正装となるが、その軍装を持たない事務官向けの正装であるらしい、事務官は普段は事務員らしく従者と変わらない服装であり、しかしそれではやはり式典等の公式行事にはそぐわないとされ、それなりでかつ軍属らしい正装として作られたのがこの服装なのだとか、そんなものはどうでもいいとタロウは聞き流していたがアフラが懇切丁寧に説明してくれて、クロノスもタロウが逃げ出さないようにと監視する始末であった、
「確かにねー、前のあれよりはねー」
ニヤーとソフィアが微笑み、
「そうねー、あれはねー」
とユーリもソソッと近寄った、
「だろ?まだましだ」
「そうねー・・・でもなに?あんたそこまで深入りしてたの?」
ユーリがニヤニヤと微笑む、ソフィアもそうみたいねーと厭らしい笑みを隠さない、
「深入りって・・・コーヒーじゃないんだからさ・・・」
精一杯の冗談であった、しかし、
「なにそれ?」
「コーヒー?」
「・・・忘れろ、気の迷いだ」
「そっ、じゃ、忘れるけどさ・・・へー、で、それをクロノスに着せられたの?」
「そうだよ、アフラさんまで一緒でさ、逃げられんかった・・・」
「そりゃ可哀そうに」
「ねー、でも、クロノスもなに?そんなに気を使えるようになったの?」
「・・・らしいな、もしくはあれだ、陛下に何か言われたのかもしれん」
「あー、じゃ、しょうがないわね」
「陛下もマメねー、あんたの恰好まで気にしてるなんて・・・」
「・・・だなー」
やれやれと肩を落とすタロウ、笑われるであろうなと思いつつ戻って来たのであるが、見事にそうなっている、いや、自分でも似合っていないってのは理解していたし、からかわれるであろう事も想像していた、しかしミナの不評は想定外である、ミナであればなんのかんのと言ってはしゃいでくれるものと思っていたのだ、それがせめてもの拠り所というものであったりする、
「まぁいいわ、さっ、やってしまいましょう」
「そうねー」
ソフィアとユーリはニヤニヤ笑いを消しもしないで踵を返し、
「そだねー」
とミナまでもが素っ気ない、エッと眉を顰めるタロウである、
「あっ、それは分かったら着替えなさい、その恰好で掃除はさせられないかしら」
すぐに振り返るソフィア、そうねーと続くユーリ、
「・・・なんだよ、まぁいいけどさ・・・」
ムッとタロウは二人を睨む、ミナもそそくさと二人の後を追いかけユーリの部屋に入ったようで、レインもすでにその姿は見えない、廊下にポツンと佇むタロウ、しかし、ハナコが一匹ヘッヘッとタロウを見上げて尻尾を振っていた、
「ありゃ・・・そっか、お前・・・だけはいい子だな・・・」
腰を下ろしハナコに手を伸ばすタロウ、ハナコはソッと頭を突き出すも、
「ハナコー、ドコー?」
ミナの叫びが廊下にまで響く、途端、バッと駆け出すハナコである、エッとタロウはその小さく細い身体を見送り、
「・・・いや、いいんだけどね・・・うん」
寂しそうに立ち上がるしかなかった。
それからタロウが着替えを済ませて三階に上がると、四人全員が中央作業室のテーブルを囲んで一休みしている様子で、どうやら掃除は終わったらしい、と察すると同時にタロウは思う、今日はどうやら今一つ噛み合わない日のようだ、いや、北ヘルデル迄はまだ良かった、苦手なパトリシアとも顔を合わさず戻れている、それだけでもタロウとしては僥倖であり、パトリシアにすればまたあの男はと鬱憤を溜め込む事態であろうが、タロウとしてはそれで良いと安堵していたりする、すると、
「疲れたー」
ミナがトテトテとタロウに近寄りその足に縋りつく、
「そうねー、しっかりお手伝い出来たわねー」
「でしょー」
嬉しそうに振り返るミナ、
「そっかー、偉いぞー」
タロウがニコリと微笑むも、
「どっかの誰かさんはまるで役に立たなかったけどー」
ユーリがニヤリと付け足した、
「なんだよそれ、聞いてたら手伝ったぞ、俺だって」
ブーとタロウが口を尖らせるも、どうだかねーと冷ややかな視線をタロウにぶつけるユーリ、
「あのなー、いいか、俺の故郷じゃな、年末と言えば大掃除なんだ、一年分の汚れを落とす大事な仕事で年中行事ってやつなんだ」
「なにそれ?」
「聞いた事無いわねー」
「そりゃお前・・・まぁ、確かに好き好んでやる作業じゃないけどさ・・・」
「でしょうねー」
「・・・でも、それって・・・あれ?もしかして年に一度しか掃除しないの?」
「そういう意味じゃないよ、普段掃除をしていない箇所を徹底的に掃除するんだ」
「あら・・・それいいわね」
ソフィアがスッと背筋を伸ばす、
「だろ?で、気持ち良く新年を迎える、うん、大事な仕事であって大事な行事だな、うん、恒例行事というか季節の風物詩というか、そんな感じだ、うん」
踏ん反り返ってウンウンと大きく頷くタロウ、
「でも、好き好んではやらない?」
「まぁ・・・そりゃだってさ・・・」
と口籠るタロウ、正直タロウはそれほど掃除好きではない、いや、掃除は好きな部類で、週に一度はしっかりと掃除機をかけ、埃を払ったものであるが、年末だからと大掃除に取り組むのは少し違うと考えていた、汚れが目立つ箇所は汚れているなと気付いた時に適当に掃除するのが良いと考えており、実際にそうしていた、しかしこちらに来てからはすっかりその習慣も無くなってしまっている、何のことは無い、一か所に留まる事が無く、腰を落ち着けたとしてもそれは冬の間の短い期間だけで、それもソフィアの実家に戻った時だけであった、つい昨年の事である、それまでは放浪生活と宿暮らし、さらには天幕での寝泊りと掃除をする必要が無かった、そう言えばちゃんとした掃除なぞ暫くしてないなと考え込んでしまうタロウであった、
「まぁいいけど・・・さて、あっ、あんたいいの?そろそろ支度しないと間に合わないんじゃない?」
ユーリが腰を上げてソフィアを見つめる、
「今日はねー、少し楽できるのよー」
ニコリと微笑むソフィア、
「そなの?」
「うん、テラさんがね、ちゃんとほら、ソウザイ?を食べてないなって言い出してね、今日は噂のソウザイを持ち込んでもらう予定なの」
「あら・・・それはいいわね」
「でしょー、ほら、明日から休みらしいからね、あっちの店も、だから在庫処分とか何とか言ってたけど、まぁ、あれね、そういうのもいいもんだわね」
「そうねー、じゃ、あんたも少しはゆっくりなさい、私もそうするから」
グーッと大きく伸びをするユーリ、そうねーと微笑むソフィア、その隣りでレインがムッとソフィアを見上げ、ミナはよくわかっていないのか単に疲れたのか不思議そうに首を傾げる、
「へー・・・じゃ、あれ?暇?」
タロウが実も蓋も無い事を言い出す、
「なによその言い方」
ムッとタロウを睨むソフィア、
「いやいや、だったらさ・・・うん、厨房使っていいか?」
「いいけど、なに?なんか作るの?」
「まぁ・・・ほら、折角の新年だしね、明日食べる甘いものでもどうかな?俺の故郷の料理だ」
エッと四人の視線がタロウに向かう、
「甘いもの?」
ミナがタロウを見上げて呟いた、
「そっ、甘いもの、で、美味しいやつ」
「食べるー、何それー、甘いの?美味しいの?」
「おう、甘くて、美味しいぞ」
「どんなのー?」
「フフッ、それは秘密だ」
「ブー、教えろー」
「どうしようかなー、手伝ってくれたら、味見をしてもいいかもなー」
「ムー、手伝うー、やるー」
ミナがピョンピョン飛び跳ね、
「まぁ・・・いいけど・・・じゃ、何をどうしたいの?パスタは茹でるつもりだったけど、それ以外ならいいわよ」
ソフィアがさてと腰を上げる、
「ん、大丈夫、邪魔はしないから、じゃ、やるか」
「やるー」
再びタロウの足に抱き着くミナ、ニヤリと微笑むタロウであった。
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ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
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