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「……信じられませんわ。隣国の王妃様方からの注文書が、秒単位で積み上がっています。この『クリスタル・ベリー』による経済波及効果は、当初の予測を三十パーセントも上回っていますわ!」
ノアール公爵邸の執務室。
イザベルは、羽根ペンを計算機(そろばんを魔導改良したもの)のように操りながら、歓喜の声を上げていた。
彼女の眼鏡は、積み上がった金貨の輝きを反射して怪しく光っている。
「イザベル。……仕事もいいが、少しは外の空気を感じないか? 今日は百年に一度と言われる『流星群』が見える夜だ。……君と、静かに語り合いたい」
アリストテレスが、背後からそっと彼女の肩に手を置いた。
彼の声は、いつも以上に低く、甘い響きを帯びている。
しかし、イザベルは振り返りもせず、空いた方の手で新たな発注書を掴み取った。
「流星群……? ああ、天体ショーですね。お言葉ですが公爵様、流星が光っている間に願い事をするなどという非科学的な行為に時間を割くのは、リソースの無駄遣いですわ。……それよりも、このベリーの配送ルートの最適化について――」
「……イザベル。今夜だけは、数字の話を忘れてくれ」
アリストテレスは強引に彼女のペンを奪い取ると、その椅子を自分の方へ向けさせた。
至近距離で見つめ合う二人。
公爵の氷のような瞳が、今は情熱的な炎で揺らめいている。
「君という有能なパートナーを得て、我が領は救われた。だが、私はもう、君をただの『有能な部下』や『戦略的婚約者』として見ることができないんだ。……私の心拍数が、君の姿を見るだけで通常の十五パーセント増しになる理由を、君なら理解できるだろう?」
イザベルは一瞬、統計学的なデータを検索するように目を泳がせた。
「……不整脈、あるいは高血圧の初期症状ではありませんか? 早急に精密検査(チェックアップ)を――」
「違う! これは、愛だ!!」
アリストテレスの叫びが執務室に響いた。
彼は、イザベルの両手をしっかりと握りしめ、跪いた。
「イザベル。私は君を、一人の女性として、生涯愛し抜きたい。……帳簿の数字ではなく、私の隣に座る君の体温を、永遠に独占させてほしいんだ。……契約でも、利害一致でもない。ただ、君が欲しい。……私と、本当の家族になってくれないか」
静寂が部屋を支配した。
イザベルの脳内では、現在「愛」という変数を加味した、人生の長期シミュレーションが超高速で実行されていた。
「……公爵様。その提案、非常に……非合理的ですわ」
「……やはり、そう来るか」
アリストテレスが苦笑いした、その時。
イザベルの頬が、これまでに見たことがないほど真っ赤に染まった。
「……非合理的ですが、私の脳内の計算機が……『これを逃せば、一生の後悔(機会損失)になる』と、エラーを吐き出しています。……つまり、私も……貴方のことが、計算不能(プライスレス)なほどに、好きだということですわ」
イザベルは視線を逸らしながら、蚊の鳴くような声で付け加えた。
「……ですから、その……『生涯独占契約』。……喜んで、承認いたしますわ」
「イザベル……!」
アリストテレスが彼女を抱きしめようとした、その瞬間。
窓の外から「ぎゃあああ!」という非効率な悲鳴が聞こえてきた。
「助けてー! ベリーの収穫ノルマが終わらないよぉ! 愛の言葉をかけすぎて、喉が枯れちゃったよぉ!」
泥だらけで庭を這い回るアリスと、その横で「私は……私は、ただの荷車(ワゴン)になりたい……」と呟きながら倒れているウィルフレッド王子の姿があった。
イザベルは、パッと我に返ると、窓をガラリと開けて叫んだ。
「不良資産A、B! 休憩時間はあと五分です! 流星群が来る前に全ての収穫を終えなさい! ……公爵様、プロポーズの余韻に浸る時間は、収穫完了の報告を受けてからにしましょう。……さあ、現場監督(デート)に参りますわよ!」
「……やれやれ。私の婚約者は、やはり世界一の仕事人間だな」
アリストテレスは苦笑しつつも、幸せそうに彼女の手を引いた。
愛と効率。
相反するはずの二つの要素が、この公爵領では完璧なマリアージュを見せ始めていた。
「イザベル。……君との人生なら、どんな非効率なトラブルも、最高のスパイスになりそうだ」
「……お言葉ですが公爵様。トラブルは未然に防ぐのが基本ですわよ?」
二人の笑い声が、収穫期の甘いベリーの香りに包まれて、月夜に溶けていった。
ノアール公爵邸の執務室。
イザベルは、羽根ペンを計算機(そろばんを魔導改良したもの)のように操りながら、歓喜の声を上げていた。
彼女の眼鏡は、積み上がった金貨の輝きを反射して怪しく光っている。
「イザベル。……仕事もいいが、少しは外の空気を感じないか? 今日は百年に一度と言われる『流星群』が見える夜だ。……君と、静かに語り合いたい」
アリストテレスが、背後からそっと彼女の肩に手を置いた。
彼の声は、いつも以上に低く、甘い響きを帯びている。
しかし、イザベルは振り返りもせず、空いた方の手で新たな発注書を掴み取った。
「流星群……? ああ、天体ショーですね。お言葉ですが公爵様、流星が光っている間に願い事をするなどという非科学的な行為に時間を割くのは、リソースの無駄遣いですわ。……それよりも、このベリーの配送ルートの最適化について――」
「……イザベル。今夜だけは、数字の話を忘れてくれ」
アリストテレスは強引に彼女のペンを奪い取ると、その椅子を自分の方へ向けさせた。
至近距離で見つめ合う二人。
公爵の氷のような瞳が、今は情熱的な炎で揺らめいている。
「君という有能なパートナーを得て、我が領は救われた。だが、私はもう、君をただの『有能な部下』や『戦略的婚約者』として見ることができないんだ。……私の心拍数が、君の姿を見るだけで通常の十五パーセント増しになる理由を、君なら理解できるだろう?」
イザベルは一瞬、統計学的なデータを検索するように目を泳がせた。
「……不整脈、あるいは高血圧の初期症状ではありませんか? 早急に精密検査(チェックアップ)を――」
「違う! これは、愛だ!!」
アリストテレスの叫びが執務室に響いた。
彼は、イザベルの両手をしっかりと握りしめ、跪いた。
「イザベル。私は君を、一人の女性として、生涯愛し抜きたい。……帳簿の数字ではなく、私の隣に座る君の体温を、永遠に独占させてほしいんだ。……契約でも、利害一致でもない。ただ、君が欲しい。……私と、本当の家族になってくれないか」
静寂が部屋を支配した。
イザベルの脳内では、現在「愛」という変数を加味した、人生の長期シミュレーションが超高速で実行されていた。
「……公爵様。その提案、非常に……非合理的ですわ」
「……やはり、そう来るか」
アリストテレスが苦笑いした、その時。
イザベルの頬が、これまでに見たことがないほど真っ赤に染まった。
「……非合理的ですが、私の脳内の計算機が……『これを逃せば、一生の後悔(機会損失)になる』と、エラーを吐き出しています。……つまり、私も……貴方のことが、計算不能(プライスレス)なほどに、好きだということですわ」
イザベルは視線を逸らしながら、蚊の鳴くような声で付け加えた。
「……ですから、その……『生涯独占契約』。……喜んで、承認いたしますわ」
「イザベル……!」
アリストテレスが彼女を抱きしめようとした、その瞬間。
窓の外から「ぎゃあああ!」という非効率な悲鳴が聞こえてきた。
「助けてー! ベリーの収穫ノルマが終わらないよぉ! 愛の言葉をかけすぎて、喉が枯れちゃったよぉ!」
泥だらけで庭を這い回るアリスと、その横で「私は……私は、ただの荷車(ワゴン)になりたい……」と呟きながら倒れているウィルフレッド王子の姿があった。
イザベルは、パッと我に返ると、窓をガラリと開けて叫んだ。
「不良資産A、B! 休憩時間はあと五分です! 流星群が来る前に全ての収穫を終えなさい! ……公爵様、プロポーズの余韻に浸る時間は、収穫完了の報告を受けてからにしましょう。……さあ、現場監督(デート)に参りますわよ!」
「……やれやれ。私の婚約者は、やはり世界一の仕事人間だな」
アリストテレスは苦笑しつつも、幸せそうに彼女の手を引いた。
愛と効率。
相反するはずの二つの要素が、この公爵領では完璧なマリアージュを見せ始めていた。
「イザベル。……君との人生なら、どんな非効率なトラブルも、最高のスパイスになりそうだ」
「……お言葉ですが公爵様。トラブルは未然に防ぐのが基本ですわよ?」
二人の笑い声が、収穫期の甘いベリーの香りに包まれて、月夜に溶けていった。
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