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「……公爵様、ご覧なさい。この広大な荒れ地を。ここはかつて、塩害と放置によって見捨てられた『不採算不動産』の代表格でした」
旧王国の最北端、白茶けた大地が広がる海岸線。
イザベルは、強い海風にドレスをたなびかせながら、手にした望遠鏡を勢いよく閉じた。
傍らには、彼女の安全を確保しつつ、その「破壊的な創造力」を楽しみにしているアリストテレス公爵が立っている。
「確かに、ここは歴代の王たちが『呪われた土地』として、数百年もの間、予算を削り続けてきた場所だな。イザベル、まさかここを耕そうというのか?」
「耕す? いえ、そんな非効率なことはいたしません。私はここを、我が公国が市場を独占するための『高級美容素材・生産プラント』へとコンバージョン(転換)いたします」
イザベルはバインダーから、一枚の緻密な設計図を取り出した。
そこには、太陽光を効率的に集約する魔導ガラスの温室群と、複雑に絡み合うパイプラインが描かれている。
「この土地の塩分濃度と、独特の魔力を含んだ潮風……。これこそが、幻の果実『クリスタル・ベリー』の栽培に最適な環境なのです。この果実は、たった一粒で高級クリーム三瓶分の美白効果(リターン)を生み出しますわ」
「クリスタル・ベリーだと? あれは栽培が不可能と言われ、一粒で金貨一枚は下らない伝説の果実ではないか」
「『不可能』という言葉は、データ不足な人間が使う言い訳に過ぎません。……セバス! 例の魔導式・自動灌漑システムの進捗は?」
「はっ! イザベル様の計算通り、地下水から塩分を分離し、魔力だけを抽出するフィルターの設置、完了いたしました! ……驚くべきことに、設置時間は予定より三分も早まりましたぞ!」
老司書セバスも、今やイザベルの効率主義に完全に染まり、ストップウォッチを片手に現場を駆け回っていた。
「素晴らしいわ。……さて、このプラントの『動力源(労働力)』ですが……。公爵様、例の不良資産をこちらへ」
イザベルの視線の先には、ボロボロの作業着を着せられ、手押し車を引いたウィルフレッド王子と、泥だらけの顔で泣きべそをかいているアリスの姿があった。
「イ、イザベル……! こんな最果ての地にまで連れてきて、私に何をさせるつもりだ! 私は……私は王太子だったんだぞ!」
「『だった』という過去形を強調していただき、ありがとうございます。現状把握ができていて助かりますわ。……殿下、貴方の仕事は、この魔導フィルターに溜まった不純物をひたすらバケツで運ぶことです。単純作業こそ、今の貴方のスペックに最適化された業務ですわ」
「そんな……! これじゃただの雑用係じゃないか!」
「お言葉ですが殿下。草むしりよりは時給を銅貨一分、上乗せしておきました。……それからアリス様。貴方には、このベリーに『愛の言葉』をかけるという重要任務(?)を与えます」
アリスは一瞬、目を輝かせた。
「えっ!? 愛の言葉!? アリス、それなら得意です! やっぱり、最後は愛が必要なんですね!」
「ええ、そうですわね。……厳密に言えば、人間の声による特定の周波数が、ベリーの成長ホルモンに好影響を与えるというデータがあります。……ただし、一秒でもサボれば、即座に『愛(給料)』をカットいたしますわよ」
「……結局、数字じゃないですかぁ!!」
アリスの悲鳴をBGMに、イザベルはアリストテレスに向き直った。
「公爵様。三ヶ月後、このプラントから生産される『クリスタル・ベリー』は、周辺諸国の社交界を席巻します。……その時、我が公国の国庫は、現在の三倍に膨れ上がっているでしょう」
「……恐ろしい女性(ひと)だ。君は、王国の負の遺産を、そのまま公国の黄金に変えてしまった」
アリストテレスは感嘆し、イザベルの腰を抱き寄せて、その耳元で囁いた。
「君のその、徹底した合理主義に、私は何度でも惚れ直す。……イザベル。……このプロジェクトが成功したら、君にはさらなる『報酬』が必要だな」
「報酬、ですか。……現在の私の資産価値からすれば、領地一つ分くらいのリターンが妥当かと存じますが……」
「いや、もっと永続的で、独占的なものだ。……例えば、私の『自由時間』を全て君に譲渡する、というのはどうだ?」
イザベルは一瞬、言葉を失った。
彼女の脳内計算機が、「アリストテレスの自由時間の市場価値」を算出しようとして、エラーを吐き出した。
「……公爵様の、自由時間……。それは、計り知れないコスト……いえ、プライスレスな価値がありますわね。……ふふ、その提案、前向きに検討させていただきますわ」
イザベルは少しだけ顔を赤らめ、彼の胸に顔を埋めた。
潮風に混じる、ほんのり甘いベリーの予感。
それは、非効率な「愛」ではなく、完璧な「信頼」と「実利」に裏打ちされた、最高のロマンスだった。
一方、その頃。
ウィルフレッド王子は、バケツ一杯の泥を運びながら、「愛なんていらない……。今は、腰に貼る湿布(サロンパス)が欲しい……!」と、人生で初めて「健康管理の大切さ」を痛感していた。
旧王国の最北端、白茶けた大地が広がる海岸線。
イザベルは、強い海風にドレスをたなびかせながら、手にした望遠鏡を勢いよく閉じた。
傍らには、彼女の安全を確保しつつ、その「破壊的な創造力」を楽しみにしているアリストテレス公爵が立っている。
「確かに、ここは歴代の王たちが『呪われた土地』として、数百年もの間、予算を削り続けてきた場所だな。イザベル、まさかここを耕そうというのか?」
「耕す? いえ、そんな非効率なことはいたしません。私はここを、我が公国が市場を独占するための『高級美容素材・生産プラント』へとコンバージョン(転換)いたします」
イザベルはバインダーから、一枚の緻密な設計図を取り出した。
そこには、太陽光を効率的に集約する魔導ガラスの温室群と、複雑に絡み合うパイプラインが描かれている。
「この土地の塩分濃度と、独特の魔力を含んだ潮風……。これこそが、幻の果実『クリスタル・ベリー』の栽培に最適な環境なのです。この果実は、たった一粒で高級クリーム三瓶分の美白効果(リターン)を生み出しますわ」
「クリスタル・ベリーだと? あれは栽培が不可能と言われ、一粒で金貨一枚は下らない伝説の果実ではないか」
「『不可能』という言葉は、データ不足な人間が使う言い訳に過ぎません。……セバス! 例の魔導式・自動灌漑システムの進捗は?」
「はっ! イザベル様の計算通り、地下水から塩分を分離し、魔力だけを抽出するフィルターの設置、完了いたしました! ……驚くべきことに、設置時間は予定より三分も早まりましたぞ!」
老司書セバスも、今やイザベルの効率主義に完全に染まり、ストップウォッチを片手に現場を駆け回っていた。
「素晴らしいわ。……さて、このプラントの『動力源(労働力)』ですが……。公爵様、例の不良資産をこちらへ」
イザベルの視線の先には、ボロボロの作業着を着せられ、手押し車を引いたウィルフレッド王子と、泥だらけの顔で泣きべそをかいているアリスの姿があった。
「イ、イザベル……! こんな最果ての地にまで連れてきて、私に何をさせるつもりだ! 私は……私は王太子だったんだぞ!」
「『だった』という過去形を強調していただき、ありがとうございます。現状把握ができていて助かりますわ。……殿下、貴方の仕事は、この魔導フィルターに溜まった不純物をひたすらバケツで運ぶことです。単純作業こそ、今の貴方のスペックに最適化された業務ですわ」
「そんな……! これじゃただの雑用係じゃないか!」
「お言葉ですが殿下。草むしりよりは時給を銅貨一分、上乗せしておきました。……それからアリス様。貴方には、このベリーに『愛の言葉』をかけるという重要任務(?)を与えます」
アリスは一瞬、目を輝かせた。
「えっ!? 愛の言葉!? アリス、それなら得意です! やっぱり、最後は愛が必要なんですね!」
「ええ、そうですわね。……厳密に言えば、人間の声による特定の周波数が、ベリーの成長ホルモンに好影響を与えるというデータがあります。……ただし、一秒でもサボれば、即座に『愛(給料)』をカットいたしますわよ」
「……結局、数字じゃないですかぁ!!」
アリスの悲鳴をBGMに、イザベルはアリストテレスに向き直った。
「公爵様。三ヶ月後、このプラントから生産される『クリスタル・ベリー』は、周辺諸国の社交界を席巻します。……その時、我が公国の国庫は、現在の三倍に膨れ上がっているでしょう」
「……恐ろしい女性(ひと)だ。君は、王国の負の遺産を、そのまま公国の黄金に変えてしまった」
アリストテレスは感嘆し、イザベルの腰を抱き寄せて、その耳元で囁いた。
「君のその、徹底した合理主義に、私は何度でも惚れ直す。……イザベル。……このプロジェクトが成功したら、君にはさらなる『報酬』が必要だな」
「報酬、ですか。……現在の私の資産価値からすれば、領地一つ分くらいのリターンが妥当かと存じますが……」
「いや、もっと永続的で、独占的なものだ。……例えば、私の『自由時間』を全て君に譲渡する、というのはどうだ?」
イザベルは一瞬、言葉を失った。
彼女の脳内計算機が、「アリストテレスの自由時間の市場価値」を算出しようとして、エラーを吐き出した。
「……公爵様の、自由時間……。それは、計り知れないコスト……いえ、プライスレスな価値がありますわね。……ふふ、その提案、前向きに検討させていただきますわ」
イザベルは少しだけ顔を赤らめ、彼の胸に顔を埋めた。
潮風に混じる、ほんのり甘いベリーの予感。
それは、非効率な「愛」ではなく、完璧な「信頼」と「実利」に裏打ちされた、最高のロマンスだった。
一方、その頃。
ウィルフレッド王子は、バケツ一杯の泥を運びながら、「愛なんていらない……。今は、腰に貼る湿布(サロンパス)が欲しい……!」と、人生で初めて「健康管理の大切さ」を痛感していた。
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