お言葉ですが殿下、その婚約破棄は非常に合理的です!

パリパリかぷちーの

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「公爵様、おはようございます。本日の『デート作戦計画(DOP)』の最終稿です。ご確認ください」

休日の朝。公爵邸のエントランスに現れたイザベルは、優雅なドレス姿でありながら、その手には分厚いバインダーを握りしめていた。
彼女はアリストテレスの顔を見るなり、迷いのない動作で一枚の工程表を差し出す。

「……イザベル。今日は『公務を忘れて楽しむ日』だと約束したはずだが……。この表にある『〇九一五:最大幸福地点への移動(移動効率三〇%アップ)』とは何だ?」

「お言葉ですが公爵様。楽しみ(エンターテインメント)を最大化するためには、移動という非生産的な時間を最小化する必要があります。これはデートにおけるKPI(重要業績評価指標)の設定ですわ」

アリストテレスは苦笑しながら、工程表に目を落とした。
そこには、王都の主要観光地を回るルートが、渋滞予測や太陽の角度まで計算された上で網羅されていた。

「滞在時間十五分、移動十分、食事五分……。君、これはデートというよりは電撃作戦(ブリッツクリーク)ではないか?」

「時間は有限の資源です。さあ、一秒でも遅れれば、午後の『夕陽鑑賞セッション』のベストポジションが確保できなくなりますわよ。……出発です!」

二人はイザベルが特注した「軽量・高出力」の高速馬車に乗り込んだ。
最初の目的地は、領内でも有名な『恋人の滝』。
通常、カップルが数時間をかけて愛を語らう場所だが、イザベルは到着するなり懐中時計をパチンと開いた。

「絶景ですね。マイナスイオンによるリフレッシュ効果を確認しました。……公爵様、記念写真の撮影に十秒、景観の脳内保存に二十秒。計三十秒で次へ向かいます」

「ま、待て、イザベル! せめて滝の音を聞きながら、将来の夢について語り合うくらいの時間は……」

「将来の夢は昨夜の進捗会議で共有済みですわ。……はい、時間です! 次は特産品の市場調査を兼ねた食べ歩きセクションへ移行します!」

イザベルはアリストテレスの手を引き、風のように滝を後にした。
市場では、イザベルの「効率脳」がさらに加速する。

「この屋台の串焼き、提供まで四十五秒。合格です。……公爵様、あちらのジェラート屋は行列ができていますが、列の進み具合から推測するに一人当たりの決済時間は十五秒。並ぶ価値(バリュー)がありますわ」

「……君といると、市場が戦場に見えてくるな。だが、確かに君の選ぶ店はどれも待ち時間が少なく、かつ質が高い」

「当然です。私は事前に全店舗の回転率と顧客満足度をデータ化してありますから。……はい、ジェラート摂取完了。予定より二分早まりました。この余剰時間を活用して、公爵様に『個人的なリサーチ』を敢行いたします」

イザベルは少しだけ歩調を緩め、アリストテレスの顔を上から下まで、スキャンするように見つめた。

「……公爵様。本日のデート開始から三時間。貴方の心拍数と表情筋の弛緩具合を観察する限り、現在の『満足度』は八十パーセント程度と推測されます。……残りの二十パーセントを埋めるために必要な要素は何ですか?」

アリストテレスは立ち止まり、不意に彼女の腰をぐいと引き寄せた。
市場の喧騒の中、二人だけの密着した空間が生まれる。

「……私の満足度を百にする方法は、データには載っていないのか?」

「……ええ。感情という変数は、時に私の計算を狂わせますわ。……お、お言葉ですが、公爵様。公衆の面前での密着は、周囲の歩行動線を妨害し、交通効率を低下させます……」

イザベルの頬が、リンゴのように赤く染まる。
彼女は必死に理屈を並べようとするが、アリストテレスの熱い視線に、言葉がしどろもどろになっていく。

「……イザベル。私は、効率的に名所を回るよりも、こうして君の計画が狂って、顔を赤らめる瞬間を見る方が、ずっとリターンが高いんだ」

「……っ。……その、……非論理的な発言、却下……できませんわね。……ふふ。……わかりました。では、これより十五分間、『無目的(ランダム)な抱擁タイム』をスケジュールにねじ込みます。……文句はありませんわね?」

「ああ。最高のスケジュール変更だ」

二人は周囲の視線も気にせず、しばらくの間、甘い時間を過ごした。
結局、その後の予定は大幅に遅延したが、イザベルは手帳にバツ印を書き込みながらも、どこか満足げな微笑みを浮かべていた。

「……予定外の事態(トラブル)こそが、デートの真髄……。新たな学習データとして記録しておきますわ」

夕暮れ時。二人はようやく、最終目的地の丘に到着した。
そこからは、黄金色に輝く領地が一望できる。

「イザベル。……見てくれ。君が整えたこの領地は、こんなに美しい」

「……ええ。……インフラ整備が進み、物流が安定したことで、夜の街明かりも以前より十パーセント増光していますわ。……ですが、そうですね。……この景色を公爵様と眺めることの価値は、数字では表しきれないようです」

イザベルはアリストテレスの肩にそっと頭を預けた。
彼女の計算機が、初めて「無限大」という答えを導き出した瞬間だった。

一方、その頃。
王国の廃材置き場では、ウィルフレッド王子が「デート……? 何だその非効率な響きは……。今は、一秒でも早くこの重い木材を運び終えて、睡眠という名のメンテナンスに入りたい……」と、完全にイザベル化(悪い意味で)した思考回路で泥にまみれていた。

アリスに至っては、「イザベル様たちがデートなら、アリスもウィルフレッド様とデートしたいですぅ! さあ、この重いバケツを二人で持つ『愛の共同作業』ですよ!」と、絶望的な方向にポジティブな暴走を続けていた。
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