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「……信じられん。これは本当に、我が息子が吐いた言葉なのか?」
国王エドワード三世は、目の前の報告書を指でつまみ上げ、まるで汚物でも見るかのような目で凝視していた。
そこには、ジュリアン王子とリリィ男爵令嬢の密会時の会話が、一言一句、恐ろしいほどの精度で再現されていた。
「はい。殿下の発言記録でございますわ。あまりに情緒的……いえ、論理性を欠いた発言が多うございましたので、公文書としての体裁を整えるのに苦労いたしました」
クロナは、紅茶を一口啜り、澄ました顔で答えた。
彼女の横では、王妃が顔を両手で覆い、小刻みに震えている。
「『君の瞳はマリスの海より深く、僕はその波に溺れる魚になりたい』……ジュリアン、お前は王子だろう。漁師を目指しているのか?」
国王の呟きに、王妃がたまらず声を漏らした。
「ああ、陛下、もうおやめになって! 私の息子がこれほどまでに、その……ポエムの才能に溢れていたなんて、母親として夜も眠れませんわ!」
「王妃様、ご安心ください。そのポエムの創作活動に費やされた時間は、平均して週に二十時間。その間、殿下が放棄された公務の山は、私が全て処理しておきましたわ」
クロナが淡々と付け加えると、国王の眉間の皺がさらに深まった。
「……クロナ。お前はこれほどの内容を把握していながら、なぜ今まで黙っていた。いや、責めているわけではない。あまりの惨状に、私の胃が悲鳴を上げているだけだ」
「婚約者としての最低限の『情』でございますわ。……といっても、その情も、殿下が私の個人口座からリリィ様のドレス代を演出しようとした瞬間に、霧散いたしましたけれど」
クロナは、もう一冊の薄い冊子を差し出した。
表紙には『不貞行為における経済的損失、及び精神的摩耗の定量的評価』と記されている。
「陛下、こちらが不貞の証拠写真……ではなく、証拠のスケッチですわ。庭師に扮した我が家の隠密が、非常に写実的なタッチで描き起こしましたの。リリィ様が殿下の鼻をつまんで『あーん』としている場面などは、構図としても秀逸ですわよ」
国王が恐る恐るそのページを開く。
そこには、鼻の下を伸ばした息子の、見るも無残な腑抜けた姿が精密に描かれていた。
「……捨てろ。今すぐこのページを破り捨てて、暖炉にくべろ。これは王家の恥だ。国家の危機だ」
「あら、証拠物件ですので、大切に保管していただかないと。……さて、陛下、王妃様。これほど明らかな証拠がありながら、明日のパーティーで殿下に『婚約破棄』という暴挙を許すおつもりかしら?」
クロナの問いに、国王は重い溜息をつき、首を振った。
「ありえん。そんなことをさせれば、マリス王家は周辺諸国の笑いものだ。……だが、ジュリアンは完全にあの娘に毒されている。普通に説得したところで、耳を貸すまい」
「左様でございますわね。殿下は現在、自分を『悲劇の恋に身を投じる騎士』、私を『二人の仲を裂く冷酷な魔女』だと思い込んでいらっしゃいますもの。……実に安上がりな配役ですわ」
クロナは立ち上がり、完璧なカーテシーを見せた。
「ですので、陛下。明日のパーティーの前に、まずは殿下をここへお呼び出しになってはいかがかしら? 現実という名の、非常に硬くて冷たい壁に、一度正面から衝突していただく必要がありますわ」
「……そうだな。……おい、誰か! ジュリアンをここに連れてこい! 今すぐだ! 拒否するようなら、首根っこを掴んで引きずってこい!」
国王の怒号が王宮の廊下に響き渡った。
数分後。
何も知らないジュリアン王子が、期待に満ちた、実におめでたい顔をして入室してきた。
「父上、お呼びでしょうか! 明日のパーティーの打ち合わせですね? 実は僕からも、一つ重大な発表が――」
ジュリアンは、部屋の隅で優雅に紅茶を飲むクロナの姿を見つけ、一瞬で顔を強張らせた。
「……なんだ、クロナ。君もいたのか。ちょうどいい、君にも立ち会ってもらおう。僕たちの関係に、今日こそ終止符を――」
「殿下、お口を閉じて。今、陛下が非常に大切なお話をなさるそうですわよ?」
クロナが微笑みながら指差した先。
そこには、顔を真っ赤にして今にも爆発しそうな国王と、泣き崩れる寸前の王妃の姿があった。
「じゅ、ジュリアン……お前、この報告書の内容に、覚えはあるか?」
国王が、机の上に報告書を叩きつけた。
ジュリアンは、その表紙に書かれた自分の名前と『不貞行為記録』の文字を目にした瞬間、金魚のように口をパクパクとさせ始めた。
「こ、これは……何かの間違いです! 捏造だ! クロナが僕を陥れるために書いた、嘘の塊だ!」
「あら。捏造にしては、殿下の口癖……『リリィ、君は僕の魂の片割れだ(時価総額:金貨三枚分)』というフレーズまで正確に再現しすぎてはいませんこと?」
クロナは、冷ややかな瞳で婚約者を見据えた。
史上最高に滑稽で、そして容赦のない「説教」の時間が、今始まったのである。
国王エドワード三世は、目の前の報告書を指でつまみ上げ、まるで汚物でも見るかのような目で凝視していた。
そこには、ジュリアン王子とリリィ男爵令嬢の密会時の会話が、一言一句、恐ろしいほどの精度で再現されていた。
「はい。殿下の発言記録でございますわ。あまりに情緒的……いえ、論理性を欠いた発言が多うございましたので、公文書としての体裁を整えるのに苦労いたしました」
クロナは、紅茶を一口啜り、澄ました顔で答えた。
彼女の横では、王妃が顔を両手で覆い、小刻みに震えている。
「『君の瞳はマリスの海より深く、僕はその波に溺れる魚になりたい』……ジュリアン、お前は王子だろう。漁師を目指しているのか?」
国王の呟きに、王妃がたまらず声を漏らした。
「ああ、陛下、もうおやめになって! 私の息子がこれほどまでに、その……ポエムの才能に溢れていたなんて、母親として夜も眠れませんわ!」
「王妃様、ご安心ください。そのポエムの創作活動に費やされた時間は、平均して週に二十時間。その間、殿下が放棄された公務の山は、私が全て処理しておきましたわ」
クロナが淡々と付け加えると、国王の眉間の皺がさらに深まった。
「……クロナ。お前はこれほどの内容を把握していながら、なぜ今まで黙っていた。いや、責めているわけではない。あまりの惨状に、私の胃が悲鳴を上げているだけだ」
「婚約者としての最低限の『情』でございますわ。……といっても、その情も、殿下が私の個人口座からリリィ様のドレス代を演出しようとした瞬間に、霧散いたしましたけれど」
クロナは、もう一冊の薄い冊子を差し出した。
表紙には『不貞行為における経済的損失、及び精神的摩耗の定量的評価』と記されている。
「陛下、こちらが不貞の証拠写真……ではなく、証拠のスケッチですわ。庭師に扮した我が家の隠密が、非常に写実的なタッチで描き起こしましたの。リリィ様が殿下の鼻をつまんで『あーん』としている場面などは、構図としても秀逸ですわよ」
国王が恐る恐るそのページを開く。
そこには、鼻の下を伸ばした息子の、見るも無残な腑抜けた姿が精密に描かれていた。
「……捨てろ。今すぐこのページを破り捨てて、暖炉にくべろ。これは王家の恥だ。国家の危機だ」
「あら、証拠物件ですので、大切に保管していただかないと。……さて、陛下、王妃様。これほど明らかな証拠がありながら、明日のパーティーで殿下に『婚約破棄』という暴挙を許すおつもりかしら?」
クロナの問いに、国王は重い溜息をつき、首を振った。
「ありえん。そんなことをさせれば、マリス王家は周辺諸国の笑いものだ。……だが、ジュリアンは完全にあの娘に毒されている。普通に説得したところで、耳を貸すまい」
「左様でございますわね。殿下は現在、自分を『悲劇の恋に身を投じる騎士』、私を『二人の仲を裂く冷酷な魔女』だと思い込んでいらっしゃいますもの。……実に安上がりな配役ですわ」
クロナは立ち上がり、完璧なカーテシーを見せた。
「ですので、陛下。明日のパーティーの前に、まずは殿下をここへお呼び出しになってはいかがかしら? 現実という名の、非常に硬くて冷たい壁に、一度正面から衝突していただく必要がありますわ」
「……そうだな。……おい、誰か! ジュリアンをここに連れてこい! 今すぐだ! 拒否するようなら、首根っこを掴んで引きずってこい!」
国王の怒号が王宮の廊下に響き渡った。
数分後。
何も知らないジュリアン王子が、期待に満ちた、実におめでたい顔をして入室してきた。
「父上、お呼びでしょうか! 明日のパーティーの打ち合わせですね? 実は僕からも、一つ重大な発表が――」
ジュリアンは、部屋の隅で優雅に紅茶を飲むクロナの姿を見つけ、一瞬で顔を強張らせた。
「……なんだ、クロナ。君もいたのか。ちょうどいい、君にも立ち会ってもらおう。僕たちの関係に、今日こそ終止符を――」
「殿下、お口を閉じて。今、陛下が非常に大切なお話をなさるそうですわよ?」
クロナが微笑みながら指差した先。
そこには、顔を真っ赤にして今にも爆発しそうな国王と、泣き崩れる寸前の王妃の姿があった。
「じゅ、ジュリアン……お前、この報告書の内容に、覚えはあるか?」
国王が、机の上に報告書を叩きつけた。
ジュリアンは、その表紙に書かれた自分の名前と『不貞行為記録』の文字を目にした瞬間、金魚のように口をパクパクとさせ始めた。
「こ、これは……何かの間違いです! 捏造だ! クロナが僕を陥れるために書いた、嘘の塊だ!」
「あら。捏造にしては、殿下の口癖……『リリィ、君は僕の魂の片割れだ(時価総額:金貨三枚分)』というフレーズまで正確に再現しすぎてはいませんこと?」
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