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アルマ
迷い
しおりを挟むいつものように夕食を静かに食べた後、俺の部屋で酒を飲む。
「ヴィーはどんな酒が好きなんだ?」
「私は酒に好き嫌いはありませんが、甘い果実酒よりは蒸留酒の方が好みです。アルマ様は?」
「俺も同じだな。甘いものより強い酒が好きだ」
「同じ……」
呟くようにそう言いながら、ヴィーが僅かに微笑んだ気がした。
お互いのグラスが空になると、ヴィーは立ち上がり、そのまま部屋を出ていくのかと思ったら、俺の頬に手を当てて唇に触れるだけのキスをして「おやすみなさい」と告げると部屋を出ていった。
また俺は何も言えず、何もできず、されるがままにキスをされて、ボーッと見送ることしかできなかった。
俺は自分の手で口を押さえ、とても温かい気持ちが体に広がっていくのを感じた。
ヴィーはなぜ俺にキスをしたんだ?
分からない。しかし全く嫌じゃなかった。むしろ少し嬉しかった。
したければ自分からすればいいとも思うんだが、なぜかヴィーからしてくるのを待っている自分がいる。
その流れるような所作で近づいて、サラッと挨拶のようにされるのがいい。
よく分からない持論を頭の中で展開しながら、夢見心地で眠りについた。
次の日からヴィーは、朝食前に軍部の朝練に参加するようになった。
共に朝食を取ると、その後はずっと俺の側にいる。
少し執務を手伝ってもらうようになると時間に余裕ができたため、ヴィーを狩りに連れて行った。
ヴィーは狩りの経験も豊富なようで、俺をメインで動かして、欲しいところで的確に援護をしてくれる。
思うように周りが動いてくれず、歯痒い思いをすることもなく、スムーズに狩りをできることがとても楽しかった。
ヴィーはいつも側で俺のことを見ているが、ただ見ているだけではないようで、戦いにおいても狩りにおいても、俺の癖や動きを観察して瞬時に俺に合わせてくる。
初めはそれが分からず、ヴィーと俺は気が合うんだなと思っていたが、俺が自分の思うように好き勝手動いてもそれに付いてくるのはおかしいと思って色々試してみると、ヴィーが俺に合わせてきてくれているのが分かった。
能力が高いからできるということもあるが、自分の力に誇りを持っているものが他者にわざわざ合わせてくれているというその気持ちが嬉しかった。
『俺も好き勝手やるからお前も好き勝手やれ、何かあれば助けてやらなくもない』
強いもの同士であればそんな感じになるはずなのだが、ヴィーはなぜか俺を立ててくれる。
まるで俺を支える嫁のように。いや、一応嫁なんだが。
なぜ俺にそこまでしてくれるのかが分からない。嫁だからか?
その後も夜伽については一切触れず避けていたが、彼は夜寝る前には毎日キスをしてから俺の部屋を出て客間へ戻っていくようになった。
いつの間にかその行為を楽しみにしている俺がいて、自分でも驚いた。
俺は女性が好きだと思っていたし、女性と結婚したいと思っていた。
手を繋いでデートしたり、テラスでお茶をしながらのんびりしたり、ピクニックに行ったり、馬に相乗りしたり、穏やかな日々を過ごしたいと思っていた。
しかしそれは、相手が女性でなければできないというわけでもないんじゃないかと思えてきて、自分の気持ちが分からなくなった。
ヴィーは俺の行く場所には全て付いてくる。
別に嫌というわけではない。俺のやることをジッと見ていたりはするが、邪魔をしたりすることもないし、執務は手伝ってくれるので助かっている。
訓練場では打ち合いをすれば楽しいし、狩りに行っても楽しいし、よく考えたら馬に相乗りなど、スピードがあまり出せない。それぞれが馬に乗って駆けた方が速い。
心穏やかに過ごしたいと思っていたが、ヴィーのおかげか最近は悪夢を見ることも、夜中に目が覚めることも減った。
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