【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

4.目覚めると

　
「ぅん……」
「起きたかい？」
「えっ？　ここは……？」
「私の部屋だ」
「えっと、僕はなぜここに？」

　知らない部屋に知らないベッド、目の前には知らないお兄さん。
　たぶん僕より10個くらい上、25歳くらいに見えるサラサラな銀色の髪とサファイアのような深い青の瞳の人。
　誰だっけ？一体僕に何が起きているんだろうか。


「私はメレディス。昨夜、君に助けてもらった」
「僕に？」

　記憶を辿ってみる。
　怪我をした人を治療中に僕は魔力切れで倒れた。
　助けてもらったということは、この人はあの時の人なんだろうか？


「そう。刺客に襲われて、周りには人もいないしもうダメかと思ったところで、君が現れて治癒魔法をかけてくれた」
「怪我は、大丈夫ですか？」
「うん。君が止血してくれていたし、治癒をかけてくれたから。この通り」

　その男の人は僕の目の前でくるりと回って見せた。
　よかった。助かったんだ。


「そっか。よかったです」
「魔力切れになるまで治癒をかけてくれたんだろう？」
「すみません。あまり治癒魔法が得意ではないので、魔力切れになってしまって、恥ずかしい……」

「君は私の命の恩人だ」
「そんな大袈裟な……」
「君の名前を聞いてもいいだろうか」
「レスター、です」

　家名も名乗ろうとしたけど、もう家は無いんだった。だから僕はただのレスター。


「レスターか。それでその服はどうしたんだ？」

　服？　僕は自分の服を見ると、服は襟元から下に向かって裂けており、胸元が露わになっていた。

「あ……」

　破れた服の左右を寄せて必死に隠したけど、昨日学園長にされたことが脳裏に蘇ってきて、その手は小刻みに震え始めた。


「いや、今は聞かないでおこう。きっと恐ろしいことが起きたんだろう。
　ここは君に危害を加えるような者はいないから安心してほしい」
「……はい」

　この人も何か僕を貶めようとしているんだろうか。そんなことをしても何の得にもならないと思うけど。
　目的が分からない。

　どこにも行く宛てがないし、ここがどこなのかも分からない。
　こんな破れた服で、外に出て大丈夫なのかも分からない。
　見ず知らずのこの人に頼る？
　信用していたニコラスの優しさも嘘だった。学園長の優しさも嘘だった。今は優しそうに見えるこの人も嘘の優しさなのかもしれない。
　じゃあ僕はどうすればいいの？　……分からない。



　やっぱりこの人は貴族みたいで、使用人が来て僕に新しい服を着せてくれた。

「ん？　君も貴族なんだな。人に着せてもらうことに慣れている」
「僕は、もう貴族ではありません」
「どういうことだ？」


　僕は、震える手を握って隣に座ってくれたこの人に話してしまった。
　誰かに頼りたかった。一人じゃ何もできない情けない僕は、手を差し伸べてくれそうなこの人の手に縋った。

　家が無くなったこと、元婚約者のこと、学園長のこと。
　そんなことをこの人に話して何になるわけでもないけど、ただ誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。