【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan

文字の大きさ
5 / 62

5.無知なこと

しおりを挟む
 
「ごめんなさい。こんなつまらない話をして。
 用意していただいたこの服の代金は、必ず働いて返します。少しだけ待ってください」
「そんなのは返さなくていいんだが、君を一人で外に出してやることはできないな。君は閨事の教育を受けていないのか?
 その学園長という男が君に何をしようとしていたのか、分からないのか?」
「ねやごと? そのような授業はとっていませんでした。無知ですみません。
 学園長が何をしようとしたのかは分かりません。僕を殺そうとか、切り裂こうとかそういうことだと思いますが、逃げてしまったので分かりません」

「うーん、そうか。教えてもいいが、今教えても君を怖がらせるだけだよな。
 君は宿代を節約していたと言ったが、君は綺麗だから危ない目に遭ったりしたんじゃないか?」
「危ない目……誘拐されそうになったり、知らない人と間違えられたりはしました」
「知らない人?」
「ダンショウさんという人です。きっと僕はその人に似ているんでしょう」
「あぁ、本当に知らないんだな。男娼は職業だ。身を売って稼ぐ人のことをそう呼ぶ。よく無事だったな。ますます君を一人で外に出すわけにはいかなくなった」
「無知で恥ずかしいです……」

 職業。知らなかった。僕は本当に何も知らないんだな。
 学校での成績が良くても、お金の価値も分からなかったし、身を売る職業というのがあるのも知らなかった。身を売るってなんだろう?
 まさか、人肉を食べる人がいるんだろうか?
 怖い。体の一部を切り取って売って、再生の魔法でもかけるんだろうか?
 体が再生するなんて可能なんだろうか?
 逃げられてよかった。



「どうした? 顔が真っ青だよ」
「身を売るって、体の一部を切り取って売って、買った人はそれを食べたりするのかと思ったら、怖いと思いました」
「いや、そんな奴はいないと思う。今度どんな仕事なのか教えてあげるよ。もう少し君の心が元気になったらね」
「はい」

「君は色々辛い目にあって、心が疲れているから、ここに住んで心を癒すといい。
 信じた者に裏切られて不安だと思うが、私には君に優しくする理由がある。
 命を救ってくれたお礼だと思って受け取ってほしい」
「分かりました。ありがとうございます。メレディス様」

 理由があるなら、少しは安心だ。
 ただ優しくされるだけなんて、やっぱり無いんだ。
 僕はちゃんとそれを知って、人を見極められる大人になりたいと思った。




 メレディス様はとても優しい。
 学園を退学することになった僕のために、マイストという教師を呼んでくれた。

「なるほど。レスター様はとても優秀でいらっしゃいますね。
 あのメレディス様が大切にされているだけのことはある」
メレディス様というのは?」
「メレディス様はとても優秀な宰相だが、秘書官などを置かないんですよ。
 誰も信じないというか、なので孤高の宰相と呼ばれているんです」
「そうなんですね。宰相様とは知りませんでした」
「おや、知らないということは他国出身の方でしたか」
「はい。隣国から学園に留学していたのですが、訳あって退学することになり、今はメレディス様の元でお世話になっているところです」
「そうでしたか。しっかり学んで良き伴侶となられませ」
「伴侶?」
「あれ? 違うのですか?」
「メレディス様は僕の境遇に同情されて優しくしていただいているだけですよ」
「そうなんですね。てっきりそうなのかと」
「まさか。そんなわけないですよ。でも、いつかご恩はお返ししたいです。なのでしっかり学ぼうと思います」
「微力ながら協力させていただきます」

 教師のマイストさんもとてもいい人。とても優しく教えてくれるし、学園の教師よりも色々なことを知っている気がした。
 それにしてもメレディス様が宰相様だったなんて全然知らなかった。
 言わなかったってことは、知られたくなかったんだろうか?それとも、そんなの当然すぎて知らなかった僕がおかしいのかもしれない。



「おやすみ。レスター」
「メレディス様、おやすみなさい」

 メレディス様は、寝る前に必ず僕が借りている部屋までおやすみの挨拶をしに来てくれる。少し早く帰ってきた日には、僕がその日に何をしていたのかを聞きたがる。
 勉強したり、庭を見せてもらったり、魔法の練習をしたり、本を読んだりしているだけだから、聞いても面白くないと思うんだけど、メレディス様は毎回嬉しそうにニコニコしながら聞いてくれる。

 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

【朗報】無能と蔑まれ追放された俺、実は「聖獣に愛されすぎる体質」でした ~最強の騎士団長が毎日モフモフを口実に抱きついてくるんだが?~

たら昆布
BL
鉄血の重執着ストーカー騎士団長×無自覚もふもふ(聖獣使い)な元雑用係

【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥
BL
 気が付いたら『光の神子は星降る夜に恋をする』略して『ヒカミコ』の悪役令息ラファエルに転生していた。前世の頼りない記憶によると、一般的に王子殿下の婚約者は断罪必至だよね? どんな断罪なのかわからないけど、大切なラインハルト様の幸せのためなら断罪されるように頑張ろうと思う。主人公のシモン、もっと頑張ってください!/悪役令息としてはうまくいきません/ムーンライト様にも投稿しております。 本編は完結しました。番外編を更新しております。

ラストダンスは僕と

中屋沙鳥
BL
ブランシャール公爵令息エティエンヌは三男坊の気楽さから、領地で植物の品種改良をして生きるつもりだった。しかし、第二王子パトリックに気に入られて婚約者候補になってしまう。側近候補と一緒にそれなりに仲良く学院に通っていたが、ある日聖女候補の男爵令嬢アンヌが転入してきて……/王子×公爵令息/異世界転生を匂わせていますが、作品中では明らかになりません。完結しました。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

処理中です...