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20.レスターの想い2/2
しおりを挟むある日、温かくてメレディス様に包まれているみたいな感触がして起きると、本当にメレディス様が僕を抱きしめて寝ていた。
やっと会えた。あぁ、僕はメレディス様のことが好きなんだ。そこで僕は確証を得た。
書類整理が認められて秘書官になってほしいと言われた時は歓喜に震えた。
必要とされていることが嬉しかった。
仕事の合間や、帰宅した後に、メレディス様はたまにキスをしてくれるようになった。
だから、もしかしたらって期待してしまったんだ。
それなのに、僕を捨てようとするから、感情的になってしまったんだ。
「邪魔などと思ったことはない。仕事ができないと思ったこともない。君は自分の意思で自由に選んでいいんだ。」
「僕の意思……」
「そうだ。大人になるんだ。誰かに決められた道ではなく、自分の意思で選びなさい」
僕の意思を言っていいの?
僕はメレディス様の側にいたい。
ふと思った。僕が伯爵になれば、貴族になれば、メレディス様と結婚できるようになるかもしれない、そうすればずっと一緒にいられるかもしれないと。
「僕は、メレディス様の側にいたいです。秘書官の仕事をしたいです。メレディス様に抱きしめてキスしてほしい。僕が伯爵家を再興したら、貴族となったら、メレディス様と結婚できますか? 僕のこと、愛してなくていいんです。信頼してくれるならそれでいい」
これが僕の意思です。
メレディス様はどう思うか分からないけど、僕の意思を伝えた。
もし捨てられるのだとしても、伝えたいと思った。
「レスター、それが君の意思なんだな?」
「はい」
「結婚しよう。レスターが私のことを好きになってくれるなら、結婚したいと思っていた。
レスター、私にとって君はもうなくてはならない存在で、実を言うとレスターがどのような未来を選ぶのかが怖かった。
愛してなくていいなんて言うな。私はもう随分前からレスターのことを愛している」
「嘘……だって今の僕は平民ですよ」
「それがどうした?私がレスターを想う気持ちは、そんな事で揺らぐようなものではない」
ニコラスは僕が貴族でなくなったら僕を簡単に捨てたのに、メレディス様は平民の僕のことを愛していると言った。
結婚しようと言ってくれた。
僕はメレディス様のためにも、家族のためにも、なんとしてでも伯爵家を再興させなければならない。
「メレディス様、僕は伯爵家を再興させます。それで、堂々とメレディス様の元に嫁いでくるので、待っていて下さい」
「はは、レスターは格好いいな。私よりずっと男前だ。もちろん待っているよ。
いや、待てずに迎えに行くかもしれない」
メレディス様は僕が格好いいって言ったけど、いつも格好いいのはメレディス様だよ。
サラサラの銀糸のような髪も、サファイアみたいな深いブルーの瞳も格好いいし、何より仕事をしている時の真剣な表情、怖そうな貴族に囲まれても堂々と意見を言って一歩も引かない姿、全部格好いいよ。
そんなメレディス様に憧れて、少しでも近づきたくて、僕はメレディス様の真似をしてるだけなんだ。だから一番格好いいのはメレディス様です。
そんなこと恥ずかしくて言えないけど、僕が好きな人は世界一格好いい。
僕は、結婚してくれるって言ってくれたメレディス様との生活を守るために頑張る。
胸を張ってメレディス様の隣に立てるように頑張る。
待てずに迎えに行くかもしれないって言ったメレディス様は少し慌てた様子で、可愛いって思った。
「レスター、おいで。抱きしめてキスしてほしいんだろ?」
「はい」
手を広げて待っていてくれるメレディス様の胸に飛び込むと、ギュッと抱きしめてくれた。
「メレディス様、キスしていいですか?」
「ん? いいよ」
僕は前にメレディス様に教えてもらったように、メレディス様の首に腕を回して上を向いて目を閉じた。
唇が重なると、ふわっと柔らかい唇の隙間から舌が僕の口に入ってくる。
僕は少し覚えた。メレディス様の舌に舌を絡めるとメレディス様の温かい吐息がはぁーっと吐き出されて、きっと気持ちいいんだろうって。
一生懸命に舌を絡めるけど、メレディス様の舌は僕の拙い動きと違って、僕の気持ちいいところばかり撫でてくる。だから僕の口からもはぁーって吐息が漏れて、甘えたような声が出て恥ずかしい。
唇が離れる時、名残惜しいって言っているみたいにツーっと糸が引いて、凄く淫らなことをしているんじゃないかとドキドキする。
「レスター、大好きだよ。ずっと一緒にいよう」
「はい。僕もメレディス様のことが大好きです」
「ずっとレスターの心が欲しかった」
「え? 心?」
「レスターが一緒に寝てくれるのも、キスに応えてくれるのも、断れないからかもしれないと思っていた。恩義を感じていると聞いていたから、そのせいかと。
一度、身を差し出そうとしたしな」
「あの時は、そうでした。
こんなによくしてくれるのだから、僕にできることはそれしか無いと思って。
メレディス様、僕のこと今でも抱いてもいいと思ってくれますか?」
「そりゃあね。好きな人のことを抱きたいと思うよ。抱いてもいいじゃなく、抱きたい」
「どうぞ」
少し怖いけど、メレディス様が相手なら大丈夫だと思った。
「ダメだ」
「え? なぜです?」
「私たちはまだやり遂げなければならないことがあるだろう?それが先だ」
「はい」
そっか。やっぱり貴族でない僕のことは抱けないのか。
「そんな顔をするな。何を憂いているのか知らないが、私がレスターを手放すことは無い。
私が付いている。大丈夫だ」
「はい」
大丈夫。ニコラスとは違う。僕はメレディス様のことを信じる。
知ってしまったからには、汚名を着せられ命を落とした父上や兄上のことを、このままにはしておけない。
僕にしかできないこと、僕がやらなきゃいけないことをやり遂げよう。
僕は負けない。
僕はすぐに動いた。
メレディス様が集めてくれた証拠書類は全部読んでしっかり頭に入れたし、メレディス様が探し出してくれた僕の味方になってくれる貴族の名前もしっかり覚えて手紙も書いた。
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