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第五十二話:最終決戦・怠け者の王
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二つの戦いが、同時に始まった。
地上では、兄のルドルフとセレスティーナ様が率いる騎士団が、「王城周辺の魔力異常調査」を口実に、王城の警備を担う近衛騎士団と、にらみ合いを続けていた。
「これより先は、国王陛下の許可なく、立ち入ることは許されん!」
「我々は、王国の危機を調査しているのだ!
道を開けよ!」
兄さんと、敵の息がかかった近衛騎士隊長が、一触即発の雰囲気で睨み合う。
セレスティーナ様は、その横で、派手な光の魔法を天に放ち、意図的に騒ぎを大きくして、敵の注意を、完全に地上へと引きつけていた。
全ては、俺が、地下で事を成すための、時間稼ぎ。
その頃、俺は。
古代の秘密通路を、ただひたすらに、駆けていた。
道中、大導師が最後の防衛ラインとして配置したであろう、強力な魔獣や、古代の殺人ゴーレムが、次々と襲いかかってくる。
だが、俺は、もはや一切の力をセーブしなかった。
立ち塞がる全ての障害を、文字通り、一撃のもとに粉砕しながら、ただ、前へ、前へと進んでいく。
(さっさと終わらせて、帰って寝るんだ)
その、極めて個人的で、しかし、今の俺にとっては、何よりも強い動機が、俺の足を、さらに加速させた。
やがて、俺は、ついにその場所へとたどり着いた。
王城の、さらに地下深く。
巨大なドーム状の、荘厳な地下神殿。
天井には、王都の地下を流れる膨大な魔力の奔流、『龍脈』が、まるで満天の星空のように、青白く輝いている。
そして、その中央。
祭壇の上で、一人の男が、最後の儀式を行っていた。
「……来たか、イレギュラーよ」
大導師が、ゆっくりと振り返る。
その姿は、嘆きの山脈で見た、穏やかな老賢者のものではなかった。
龍脈から吸い上げた、莫大な魔力によって、その肉体は、力に満ち溢れた、壮年のものへと、完全に若返っていた。
「我が宿願の成就を、その目に焼き付けるために、わざわざやってきたか」
「あんたの自己満足に、これ以上、付き合ってやる気はないんでね」
俺は、静かに剣を構えた。
「さっさと終わらせて、俺の平穏な日常を、返してもらうぜ」
大導師は、そんな俺を見て、楽しそうに、自らの正体と、その目的の全てを語り始めた。
彼は、やはり、あの初代宮廷魔術師本人だった。
人々が、神々の庇護から離れ、魔法の力が、時代と共に衰退していく未来を憂いた彼は、世界を、再び、神秘が支配した『古き理』の時代へと『回帰』させるため、自らの時を止め、数千年という、永い、永い時を超えて、この計画を実行に移したのだ、と。
「そして今、この龍脈の全てのエネルギーと、散らばった『封印の欠片』の力が、我が手に集う。
私は、新たな世界の、新たな理となるのだ!」
「理を書き換える者」アレンと、「古き理に回帰させる者」大導師。
俺たち二人の、世界の運命を賭けた、最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。
大導師が手をかざすと、神殿の龍脈そのものが、巨大な竜となって、俺に襲いかかってくる。
神話級の魔法が、次から次へと、俺を襲う。
俺もまた、全ての力を解放した。
俺が、一歩踏み出せば、神殿の大地が、俺の盾となって隆起する。
俺が、剣を振るえば、大気が、嵐となって、敵を討つ。
俺の存在そのものが、一つの巨大な『理』となって、大導師の掲げる『古き理』と、真っ向から衝突した。
その頃、地上では。
地下から伝わる、天変地異のような凄まじい衝撃に、兄さんたちが、俺の戦いを悟っていた。
「行け、アレンッ!
お前を、俺の弟を、信じているぞ!」
「あなたの剣は、私たちが守る!
行ってください、アレン様!」
隠れ家では、ソフィアが、小さな通信機を握りしめ、ただ、ひたすらに、俺の無事を祈り続けていた。
彼らの、その強い想いが、まるで追い風のように、龍脈を通じて、俺の元へと、確かに、届いていた。
「見ろ、イレギュラー!
我らの力は、完全に互角!
このままでは、世界そのものが、我らの力の衝突に耐えきれず、崩壊するぞ!」
大導師が、叫んだ。
「だが、それもまた一興!
共に来い、アレン・フォン・ヴァインベルク!
二人で、この瓦礫の上に、新たな神話の時代の、王として君臨しようではないか!」
その、甘美な誘いを。
俺は、一言のもとに、一蹴した。
「――断る。
王様なんて、世界で一番、面倒くさい仕事じゃないか」
俺は、最後の力を、振り絞った。
それは、全てを破壊する力でも、全てを支配する力でもない。
ただ、俺が、心の底から望む、たった一つの、究極にして、最もシンプルな『理』。
「俺が望むのは、たった一つだ」
俺の体から、黄金色の光が、溢れ出す。
「――ただ、静かに、誰にも邪魔されず、ソファの上で、昼寝のできる世界だ!」
俺の、そのあまりに個人的で、しかし、何よりも強い願いが、黄金色の奔流となって、大導師の掲げる、禍々しい『古き理』を、優しく、そして、完全に、飲み込んでいった。
地上では、兄のルドルフとセレスティーナ様が率いる騎士団が、「王城周辺の魔力異常調査」を口実に、王城の警備を担う近衛騎士団と、にらみ合いを続けていた。
「これより先は、国王陛下の許可なく、立ち入ることは許されん!」
「我々は、王国の危機を調査しているのだ!
道を開けよ!」
兄さんと、敵の息がかかった近衛騎士隊長が、一触即発の雰囲気で睨み合う。
セレスティーナ様は、その横で、派手な光の魔法を天に放ち、意図的に騒ぎを大きくして、敵の注意を、完全に地上へと引きつけていた。
全ては、俺が、地下で事を成すための、時間稼ぎ。
その頃、俺は。
古代の秘密通路を、ただひたすらに、駆けていた。
道中、大導師が最後の防衛ラインとして配置したであろう、強力な魔獣や、古代の殺人ゴーレムが、次々と襲いかかってくる。
だが、俺は、もはや一切の力をセーブしなかった。
立ち塞がる全ての障害を、文字通り、一撃のもとに粉砕しながら、ただ、前へ、前へと進んでいく。
(さっさと終わらせて、帰って寝るんだ)
その、極めて個人的で、しかし、今の俺にとっては、何よりも強い動機が、俺の足を、さらに加速させた。
やがて、俺は、ついにその場所へとたどり着いた。
王城の、さらに地下深く。
巨大なドーム状の、荘厳な地下神殿。
天井には、王都の地下を流れる膨大な魔力の奔流、『龍脈』が、まるで満天の星空のように、青白く輝いている。
そして、その中央。
祭壇の上で、一人の男が、最後の儀式を行っていた。
「……来たか、イレギュラーよ」
大導師が、ゆっくりと振り返る。
その姿は、嘆きの山脈で見た、穏やかな老賢者のものではなかった。
龍脈から吸い上げた、莫大な魔力によって、その肉体は、力に満ち溢れた、壮年のものへと、完全に若返っていた。
「我が宿願の成就を、その目に焼き付けるために、わざわざやってきたか」
「あんたの自己満足に、これ以上、付き合ってやる気はないんでね」
俺は、静かに剣を構えた。
「さっさと終わらせて、俺の平穏な日常を、返してもらうぜ」
大導師は、そんな俺を見て、楽しそうに、自らの正体と、その目的の全てを語り始めた。
彼は、やはり、あの初代宮廷魔術師本人だった。
人々が、神々の庇護から離れ、魔法の力が、時代と共に衰退していく未来を憂いた彼は、世界を、再び、神秘が支配した『古き理』の時代へと『回帰』させるため、自らの時を止め、数千年という、永い、永い時を超えて、この計画を実行に移したのだ、と。
「そして今、この龍脈の全てのエネルギーと、散らばった『封印の欠片』の力が、我が手に集う。
私は、新たな世界の、新たな理となるのだ!」
「理を書き換える者」アレンと、「古き理に回帰させる者」大導師。
俺たち二人の、世界の運命を賭けた、最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。
大導師が手をかざすと、神殿の龍脈そのものが、巨大な竜となって、俺に襲いかかってくる。
神話級の魔法が、次から次へと、俺を襲う。
俺もまた、全ての力を解放した。
俺が、一歩踏み出せば、神殿の大地が、俺の盾となって隆起する。
俺が、剣を振るえば、大気が、嵐となって、敵を討つ。
俺の存在そのものが、一つの巨大な『理』となって、大導師の掲げる『古き理』と、真っ向から衝突した。
その頃、地上では。
地下から伝わる、天変地異のような凄まじい衝撃に、兄さんたちが、俺の戦いを悟っていた。
「行け、アレンッ!
お前を、俺の弟を、信じているぞ!」
「あなたの剣は、私たちが守る!
行ってください、アレン様!」
隠れ家では、ソフィアが、小さな通信機を握りしめ、ただ、ひたすらに、俺の無事を祈り続けていた。
彼らの、その強い想いが、まるで追い風のように、龍脈を通じて、俺の元へと、確かに、届いていた。
「見ろ、イレギュラー!
我らの力は、完全に互角!
このままでは、世界そのものが、我らの力の衝突に耐えきれず、崩壊するぞ!」
大導師が、叫んだ。
「だが、それもまた一興!
共に来い、アレン・フォン・ヴァインベルク!
二人で、この瓦礫の上に、新たな神話の時代の、王として君臨しようではないか!」
その、甘美な誘いを。
俺は、一言のもとに、一蹴した。
「――断る。
王様なんて、世界で一番、面倒くさい仕事じゃないか」
俺は、最後の力を、振り絞った。
それは、全てを破壊する力でも、全てを支配する力でもない。
ただ、俺が、心の底から望む、たった一つの、究極にして、最もシンプルな『理』。
「俺が望むのは、たった一つだ」
俺の体から、黄金色の光が、溢れ出す。
「――ただ、静かに、誰にも邪魔されず、ソファの上で、昼寝のできる世界だ!」
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