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第11話 冒険者としての第一歩
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決意を固めたアルトは、翌日、冒険者ギルドの重い木の扉を押し開けた。
昼間だというのに薄暗く、酒と汗の匂いが混じり合った独特の空気が漂っている。
ギルド内にいた数人の冒険者が、アルトの姿に気づき、ちらりと視線を向けた。
以前のようなあからさまな嘲笑はないが、まだ好奇と値踏みするような目が向けられているのを感じる。
アルトはそれに臆することなく、まっすぐにカウンターへ向かった。
カウンターには、いつもの恰幅の良いギルドマスターが、帳簿のようなものとにらめっこしていた。
「あの、すみません。依頼を受けたいのですが」
アルトが声をかけると、ギルドマスターは顔を上げ、少し驚いたような表情を見せた。
「ほう、君がか。珍しいな。どの依頼だ?」
「これをお願いします。『スライム討伐』の依頼です」
アルトは、壁の依頼掲示板から剥がしてきた、一番難易度の低い依頼書を差し出した。
ギルドマスターは依頼書とアルトの顔を交互に見比べ、ふむ、と顎鬚を撫でた。
「スライム討伐…まあ、今の君なら、大丈夫かもしれんな。よし、受理しよう。場所は村はずれの湿地帯。目標は5匹だ。討伐の証拠に、魔石を持ってくるのを忘れるなよ」
ギルドマスターは依頼書にスタンプを押すと、アルトに手渡した。
そのやり取りを、ギルドにいた他の冒険者たちが遠巻きに眺めている。
特に何か言ってくる者はいなかったが、その視線は「本当にあいつにできるのか?」と問いかけているようだった。
アルトは、彼らの視線を振り払うように、しっかりと依頼書を握りしめ、ギルドを後にした。
家に戻ったアルトは、初めての正式な依頼に向けて、いつも以上に念入りに準備を始めた。
父の形見のナイフを砥石で丁寧に研ぎ上げ、その切れ味を確かめる。
兄のヨハンがくれた、丈夫な革の腕当ても、緩みがないかしっかりと装着した。
水筒には新鮮な水を満たし、保存食である硬い黒パンを数切れ、小さな布袋に入れる。
そして、もしもの時のために、リナが薬草から作ってくれた塗り薬も忘れずに加えた。
「よし、準備OK!」
アルトは自分に気合を入れ、依頼書に記された村はずれの湿地帯へと向かった。
そこは、アルトにとって因縁の場所でもあった。
初めて冒険者パーティに参加し、そして、自分のギフトの無力さを思い知らされた場所。
足元でぬかるんだ土がぐちゃりと音を立てる。
少しだけ、苦い記憶が蘇りそうになる。
「ううん、今は違うんだ」
アルトは首を振り、前を向いた。
あの時とは違う。
自分は、あの頃よりも確実に強くなっているはずだ。
湿地帯を進んでいくと、やがて、青白く光る半透明の塊がいくつか目に入ってきた。
スライムだ。
全部で6、7匹はいるだろうか。
アルトはナイフを抜き放ち、慎重に距離を詰めていく。
一番手前にいたスライムが、アルトの存在に気づき、ゆっくりとした、しかし独特の弾むような動きで体当たりを仕掛けてきた。
ぽよん。
「まずは、これでどうだ!」
アルトは、まずナイフでスライムを切りつけてみた。
しかし、手応えは鈍い。
ぶよん、としたゼリー状の体に、斬撃はほとんど効果がないようだ。
ナイフの刃が、ただスライムの表面を滑るだけ。
「やっぱり、斬るのはダメか…じゃあ、突きは?」
次に、ナイフの先端で突きを繰り出す。
これも、手応えは薄い。
ナイフはスライムの体にめり込むが、すぐに元の形に戻ってしまい、決定的なダメージにはなっていない。
その間にも、スライムは構わず、ぽよん、ぽよんと体当たりを繰り返してくる。
「こうなったら…!」
アルトはナイフでの攻撃を諦め、反射に切り替えた。
腕で体当たりを受け止め、意識を集中させる。
ドンッ、という微かな衝撃と共に、反射!
スライムの体が、ほんのわずかに震える。
ダメージは確実に通っている。
しかし、致命傷には程遠い。
これを繰り返して倒すとなると、かなりの時間がかかりそうだ。
以前、ガレスたちと来た時、シルヴィアさんが矢で一撃で倒していたのを思い出す。
それに比べて、なんと効率の悪い戦い方だろうか。
「もっと、効率的な方法は…何か、弱点とか…そうだ、核(コア)!」
アルトは、以前どこかで聞いた話を思い出した。
スライムの中心部には、その魔力の源である魔石、通称「核(コア)」があるという。
あれを破壊すれば、スライムは即座に活動を停止するはずだ。
問題は、どうやってその核を狙うかだ。
ぶよぶよした体の中にある核を、正確に突く必要がある。
アルトは、再び体当たりしてくるスライムの動きを、今度はより注意深く観察した。
体当たりしてくる瞬間、わずかに体の中心部が硬直するような気がする。
そこだ!
アルトは、スライムが腕に接触する寸前を狙い、ナイフの先端を素早く、正確に中心部へと突き込んだ。
グニュッ、という鈍い感触の後、カツン、と硬いものにナイフの先端が当たった。
核だ!
アルトがさらに力を込めると、プシュッ!という空気が抜けるような音と共に、スライムはその形を保てなくなり、どろりと溶けて消滅した。
後には、指先ほどの大きさの、青みがかった魔石が一つ残されていた。
「やった!これだ!」
アルトは思わず声を上げた。
コツを掴んだ。
スライムの核を直接狙えば、一撃で倒せる。
アルトは残りのスライムにも同じ方法を試みた。
動きを見極め、タイミングを合わせ、ナイフで核を突く。
何度か失敗して体当たりを受け、反射で応戦することもあったが、確実に一体ずつ仕留めていく。
最後の5匹目を倒した時には、西の空が茜色に染まり始めていた。
額には汗が滲み、体には心地よい疲労感があった。
そして、手の中には、討伐の証拠である5つのスライムの魔石が握られていた。
「依頼、達成だ…!」
アルトは、安堵と達成感に満たされながら、急いでギルドへと戻った。
カウンターで、ギルドマスターに5つの魔石を差し出す。
ギルドマスターは、一つ一つ魔石を手に取り、鑑定するように眺めると、無言で頷いた。
そして、カウンターの下から銅貨を8枚取り出し、アルトの前に置いた。
「ご苦労だったな。次もその調子で頼む」
最低限の言葉だったが、その声には以前のような侮蔑の色は微塵も感じられなかった。
ただ、依頼を達成した一人の冒険者として、対等に扱ってくれている。
それが、アルトには何よりも嬉しかった。
アルトは、しっかりと銅貨8枚を受け取った。
ずしりとした重み。
それは、アルトが冒険者として、初めて自分の力で稼いだ報酬だった。
額はわずかだ。
スライム討伐は、最も簡単な依頼の一つに過ぎない。
それでも、この銅貨は、アルトのこれまでの孤独な努力が報われた証のように感じられた。
「冒険者としての、第一歩だ…!」
アルトは、銅貨を握りしめ、喜びを噛み締めた。
昼間だというのに薄暗く、酒と汗の匂いが混じり合った独特の空気が漂っている。
ギルド内にいた数人の冒険者が、アルトの姿に気づき、ちらりと視線を向けた。
以前のようなあからさまな嘲笑はないが、まだ好奇と値踏みするような目が向けられているのを感じる。
アルトはそれに臆することなく、まっすぐにカウンターへ向かった。
カウンターには、いつもの恰幅の良いギルドマスターが、帳簿のようなものとにらめっこしていた。
「あの、すみません。依頼を受けたいのですが」
アルトが声をかけると、ギルドマスターは顔を上げ、少し驚いたような表情を見せた。
「ほう、君がか。珍しいな。どの依頼だ?」
「これをお願いします。『スライム討伐』の依頼です」
アルトは、壁の依頼掲示板から剥がしてきた、一番難易度の低い依頼書を差し出した。
ギルドマスターは依頼書とアルトの顔を交互に見比べ、ふむ、と顎鬚を撫でた。
「スライム討伐…まあ、今の君なら、大丈夫かもしれんな。よし、受理しよう。場所は村はずれの湿地帯。目標は5匹だ。討伐の証拠に、魔石を持ってくるのを忘れるなよ」
ギルドマスターは依頼書にスタンプを押すと、アルトに手渡した。
そのやり取りを、ギルドにいた他の冒険者たちが遠巻きに眺めている。
特に何か言ってくる者はいなかったが、その視線は「本当にあいつにできるのか?」と問いかけているようだった。
アルトは、彼らの視線を振り払うように、しっかりと依頼書を握りしめ、ギルドを後にした。
家に戻ったアルトは、初めての正式な依頼に向けて、いつも以上に念入りに準備を始めた。
父の形見のナイフを砥石で丁寧に研ぎ上げ、その切れ味を確かめる。
兄のヨハンがくれた、丈夫な革の腕当ても、緩みがないかしっかりと装着した。
水筒には新鮮な水を満たし、保存食である硬い黒パンを数切れ、小さな布袋に入れる。
そして、もしもの時のために、リナが薬草から作ってくれた塗り薬も忘れずに加えた。
「よし、準備OK!」
アルトは自分に気合を入れ、依頼書に記された村はずれの湿地帯へと向かった。
そこは、アルトにとって因縁の場所でもあった。
初めて冒険者パーティに参加し、そして、自分のギフトの無力さを思い知らされた場所。
足元でぬかるんだ土がぐちゃりと音を立てる。
少しだけ、苦い記憶が蘇りそうになる。
「ううん、今は違うんだ」
アルトは首を振り、前を向いた。
あの時とは違う。
自分は、あの頃よりも確実に強くなっているはずだ。
湿地帯を進んでいくと、やがて、青白く光る半透明の塊がいくつか目に入ってきた。
スライムだ。
全部で6、7匹はいるだろうか。
アルトはナイフを抜き放ち、慎重に距離を詰めていく。
一番手前にいたスライムが、アルトの存在に気づき、ゆっくりとした、しかし独特の弾むような動きで体当たりを仕掛けてきた。
ぽよん。
「まずは、これでどうだ!」
アルトは、まずナイフでスライムを切りつけてみた。
しかし、手応えは鈍い。
ぶよん、としたゼリー状の体に、斬撃はほとんど効果がないようだ。
ナイフの刃が、ただスライムの表面を滑るだけ。
「やっぱり、斬るのはダメか…じゃあ、突きは?」
次に、ナイフの先端で突きを繰り出す。
これも、手応えは薄い。
ナイフはスライムの体にめり込むが、すぐに元の形に戻ってしまい、決定的なダメージにはなっていない。
その間にも、スライムは構わず、ぽよん、ぽよんと体当たりを繰り返してくる。
「こうなったら…!」
アルトはナイフでの攻撃を諦め、反射に切り替えた。
腕で体当たりを受け止め、意識を集中させる。
ドンッ、という微かな衝撃と共に、反射!
スライムの体が、ほんのわずかに震える。
ダメージは確実に通っている。
しかし、致命傷には程遠い。
これを繰り返して倒すとなると、かなりの時間がかかりそうだ。
以前、ガレスたちと来た時、シルヴィアさんが矢で一撃で倒していたのを思い出す。
それに比べて、なんと効率の悪い戦い方だろうか。
「もっと、効率的な方法は…何か、弱点とか…そうだ、核(コア)!」
アルトは、以前どこかで聞いた話を思い出した。
スライムの中心部には、その魔力の源である魔石、通称「核(コア)」があるという。
あれを破壊すれば、スライムは即座に活動を停止するはずだ。
問題は、どうやってその核を狙うかだ。
ぶよぶよした体の中にある核を、正確に突く必要がある。
アルトは、再び体当たりしてくるスライムの動きを、今度はより注意深く観察した。
体当たりしてくる瞬間、わずかに体の中心部が硬直するような気がする。
そこだ!
アルトは、スライムが腕に接触する寸前を狙い、ナイフの先端を素早く、正確に中心部へと突き込んだ。
グニュッ、という鈍い感触の後、カツン、と硬いものにナイフの先端が当たった。
核だ!
アルトがさらに力を込めると、プシュッ!という空気が抜けるような音と共に、スライムはその形を保てなくなり、どろりと溶けて消滅した。
後には、指先ほどの大きさの、青みがかった魔石が一つ残されていた。
「やった!これだ!」
アルトは思わず声を上げた。
コツを掴んだ。
スライムの核を直接狙えば、一撃で倒せる。
アルトは残りのスライムにも同じ方法を試みた。
動きを見極め、タイミングを合わせ、ナイフで核を突く。
何度か失敗して体当たりを受け、反射で応戦することもあったが、確実に一体ずつ仕留めていく。
最後の5匹目を倒した時には、西の空が茜色に染まり始めていた。
額には汗が滲み、体には心地よい疲労感があった。
そして、手の中には、討伐の証拠である5つのスライムの魔石が握られていた。
「依頼、達成だ…!」
アルトは、安堵と達成感に満たされながら、急いでギルドへと戻った。
カウンターで、ギルドマスターに5つの魔石を差し出す。
ギルドマスターは、一つ一つ魔石を手に取り、鑑定するように眺めると、無言で頷いた。
そして、カウンターの下から銅貨を8枚取り出し、アルトの前に置いた。
「ご苦労だったな。次もその調子で頼む」
最低限の言葉だったが、その声には以前のような侮蔑の色は微塵も感じられなかった。
ただ、依頼を達成した一人の冒険者として、対等に扱ってくれている。
それが、アルトには何よりも嬉しかった。
アルトは、しっかりと銅貨8枚を受け取った。
ずしりとした重み。
それは、アルトが冒険者として、初めて自分の力で稼いだ報酬だった。
額はわずかだ。
スライム討伐は、最も簡単な依頼の一つに過ぎない。
それでも、この銅貨は、アルトのこれまでの孤独な努力が報われた証のように感じられた。
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