落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

文字の大きさ
11 / 125

第11話 冒険者としての第一歩

しおりを挟む
決意を固めたアルトは、翌日、冒険者ギルドの重い木の扉を押し開けた。
昼間だというのに薄暗く、酒と汗の匂いが混じり合った独特の空気が漂っている。

ギルド内にいた数人の冒険者が、アルトの姿に気づき、ちらりと視線を向けた。
以前のようなあからさまな嘲笑はないが、まだ好奇と値踏みするような目が向けられているのを感じる。
アルトはそれに臆することなく、まっすぐにカウンターへ向かった。

カウンターには、いつもの恰幅の良いギルドマスターが、帳簿のようなものとにらめっこしていた。

「あの、すみません。依頼を受けたいのですが」

アルトが声をかけると、ギルドマスターは顔を上げ、少し驚いたような表情を見せた。

「ほう、君がか。珍しいな。どの依頼だ?」

「これをお願いします。『スライム討伐』の依頼です」

アルトは、壁の依頼掲示板から剥がしてきた、一番難易度の低い依頼書を差し出した。
ギルドマスターは依頼書とアルトの顔を交互に見比べ、ふむ、と顎鬚を撫でた。

「スライム討伐…まあ、今の君なら、大丈夫かもしれんな。よし、受理しよう。場所は村はずれの湿地帯。目標は5匹だ。討伐の証拠に、魔石を持ってくるのを忘れるなよ」

ギルドマスターは依頼書にスタンプを押すと、アルトに手渡した。
そのやり取りを、ギルドにいた他の冒険者たちが遠巻きに眺めている。

特に何か言ってくる者はいなかったが、その視線は「本当にあいつにできるのか?」と問いかけているようだった。
アルトは、彼らの視線を振り払うように、しっかりと依頼書を握りしめ、ギルドを後にした。

家に戻ったアルトは、初めての正式な依頼に向けて、いつも以上に念入りに準備を始めた。
父の形見のナイフを砥石で丁寧に研ぎ上げ、その切れ味を確かめる。

兄のヨハンがくれた、丈夫な革の腕当ても、緩みがないかしっかりと装着した。
水筒には新鮮な水を満たし、保存食である硬い黒パンを数切れ、小さな布袋に入れる。

そして、もしもの時のために、リナが薬草から作ってくれた塗り薬も忘れずに加えた。

「よし、準備OK!」

アルトは自分に気合を入れ、依頼書に記された村はずれの湿地帯へと向かった。
そこは、アルトにとって因縁の場所でもあった。

初めて冒険者パーティに参加し、そして、自分のギフトの無力さを思い知らされた場所。
足元でぬかるんだ土がぐちゃりと音を立てる。
少しだけ、苦い記憶が蘇りそうになる。

「ううん、今は違うんだ」

アルトは首を振り、前を向いた。
あの時とは違う。
自分は、あの頃よりも確実に強くなっているはずだ。

湿地帯を進んでいくと、やがて、青白く光る半透明の塊がいくつか目に入ってきた。
スライムだ。
全部で6、7匹はいるだろうか。
アルトはナイフを抜き放ち、慎重に距離を詰めていく。
一番手前にいたスライムが、アルトの存在に気づき、ゆっくりとした、しかし独特の弾むような動きで体当たりを仕掛けてきた。

ぽよん。

「まずは、これでどうだ!」

アルトは、まずナイフでスライムを切りつけてみた。
しかし、手応えは鈍い。
ぶよん、としたゼリー状の体に、斬撃はほとんど効果がないようだ。
ナイフの刃が、ただスライムの表面を滑るだけ。

「やっぱり、斬るのはダメか…じゃあ、突きは?」

次に、ナイフの先端で突きを繰り出す。
これも、手応えは薄い。
ナイフはスライムの体にめり込むが、すぐに元の形に戻ってしまい、決定的なダメージにはなっていない。
その間にも、スライムは構わず、ぽよん、ぽよんと体当たりを繰り返してくる。

「こうなったら…!」

アルトはナイフでの攻撃を諦め、反射に切り替えた。
腕で体当たりを受け止め、意識を集中させる。
ドンッ、という微かな衝撃と共に、反射!
スライムの体が、ほんのわずかに震える。
ダメージは確実に通っている。
しかし、致命傷には程遠い。

これを繰り返して倒すとなると、かなりの時間がかかりそうだ。
以前、ガレスたちと来た時、シルヴィアさんが矢で一撃で倒していたのを思い出す。
それに比べて、なんと効率の悪い戦い方だろうか。

「もっと、効率的な方法は…何か、弱点とか…そうだ、核(コア)!」

アルトは、以前どこかで聞いた話を思い出した。
スライムの中心部には、その魔力の源である魔石、通称「核(コア)」があるという。
あれを破壊すれば、スライムは即座に活動を停止するはずだ。
問題は、どうやってその核を狙うかだ。
ぶよぶよした体の中にある核を、正確に突く必要がある。

アルトは、再び体当たりしてくるスライムの動きを、今度はより注意深く観察した。
体当たりしてくる瞬間、わずかに体の中心部が硬直するような気がする。
そこだ!
アルトは、スライムが腕に接触する寸前を狙い、ナイフの先端を素早く、正確に中心部へと突き込んだ。

グニュッ、という鈍い感触の後、カツン、と硬いものにナイフの先端が当たった。
核だ!
アルトがさらに力を込めると、プシュッ!という空気が抜けるような音と共に、スライムはその形を保てなくなり、どろりと溶けて消滅した。
後には、指先ほどの大きさの、青みがかった魔石が一つ残されていた。

「やった!これだ!」

アルトは思わず声を上げた。
コツを掴んだ。
スライムの核を直接狙えば、一撃で倒せる。
アルトは残りのスライムにも同じ方法を試みた。
動きを見極め、タイミングを合わせ、ナイフで核を突く。
何度か失敗して体当たりを受け、反射で応戦することもあったが、確実に一体ずつ仕留めていく。

最後の5匹目を倒した時には、西の空が茜色に染まり始めていた。
額には汗が滲み、体には心地よい疲労感があった。
そして、手の中には、討伐の証拠である5つのスライムの魔石が握られていた。

「依頼、達成だ…!」

アルトは、安堵と達成感に満たされながら、急いでギルドへと戻った。
カウンターで、ギルドマスターに5つの魔石を差し出す。
ギルドマスターは、一つ一つ魔石を手に取り、鑑定するように眺めると、無言で頷いた。
そして、カウンターの下から銅貨を8枚取り出し、アルトの前に置いた。

「ご苦労だったな。次もその調子で頼む」

最低限の言葉だったが、その声には以前のような侮蔑の色は微塵も感じられなかった。
ただ、依頼を達成した一人の冒険者として、対等に扱ってくれている。
それが、アルトには何よりも嬉しかった。

アルトは、しっかりと銅貨8枚を受け取った。
ずしりとした重み。
それは、アルトが冒険者として、初めて自分の力で稼いだ報酬だった。
額はわずかだ。
スライム討伐は、最も簡単な依頼の一つに過ぎない。
それでも、この銅貨は、アルトのこれまでの孤独な努力が報われた証のように感じられた。

「冒険者としての、第一歩だ…!」

アルトは、銅貨を握りしめ、喜びを噛み締めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...