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第37話 空の脅威、克服
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崖の中腹、吹き付ける強風の中、アルトの渾身の一突きが、体勢を崩したロックホークの翼の付け根を捉えた!
確かな手応えが、ショートソードを通してアルトの手に伝わる。
「ギャアアアッ!」
ロックホークは、これまで以上の甲高い悲鳴を上げ、傷ついた翼を激しくばたつかせた。
深手を負ったのは明らかだ。
これで勝負あったか、とアルトが思った瞬間、ロックホークは最後の力を振り絞るかのように、アルトに向き直った。
その目は、傷の痛みによるものか、あるいは純粋な憎悪か、赤く充血し、凶暴な光をたたえている。
狙いは、アルトの頭部。
ロックホークは、最後の武器である鋭く尖ったくちばしを、槍のように突き出してきた!
それは、アルトの反応速度を超える、捨て身の突撃だった。
「しまっ…!」
咄嗟にショートソードで受け止めようとするアルト。
しかし、不安定な足場と、先ほどの攻撃でわずかに体勢が崩れていたため、完全には受け止めきれない。
ガキンッ!という衝撃音と共に、ショートソードが弾き飛ばされそうになる。
アルトの体は大きくよろめき、背後の崖っぷちへと追いやられる。
眼下には、遥か下の地面。
落ちれば、助からないだろう。
絶体絶命。
死の恐怖が、アルトの心を凍てつかせようとした、その刹那。
アルトの体は、もはや意識とは別のところで、生存本能に従って反応していた。
ギフト、【ダメージ反射】!
アルトの全身が、かすかな光に包まれる。
あの、攻撃を受ける瞬間に現れる「硬くなる感覚」。
それが、今までにないほど強く、全身を鎧のように覆った。
ロックホークのくちばしが、アルトの胸の革鎧に突き刺さる寸前、その硬化した体表面に激突した!
ゴッ!という鈍い衝撃。
革鎧はわずかにへこんだが、アルトの体は、まるで岩のようにその場に踏みとどまった。
そして、ギフトはただ守るだけでは終わらない。
受けた衝撃を、増幅させて相手に返す。
アルトは、ロックホークの目を真っ直ぐに見据え、心の底で叫んだ。
(――反射ッ!!)
受け止めきれなかったはずの衝撃が、反射ダメージとなってロックホーク自身を襲う。
くちばしから伝わる強烈な反動に、ロックホークは苦悶の声を上げ、その巨体が大きくのけぞった。
そして、バランスを完全に失い、傷ついた翼ではもはや空を掴むこともできず――
「キィィ……」
最後の弱々しい鳴き声を残し、崖下へと、真っ逆さまに墜落していった。
その姿が、崖下の霧の中に消えていくのを、ただ呆然と見送っていた。
やがて、崖には、吹き付ける風の音だけが残された。
「………助かった…………」
アルトは、その場にへたり込み、荒い息をついた。
全身は汗でびっしょりになり、手足はアドレナリンが切れた後のように、がくがくと震えている。
崖の上という、逃げ場のない場所での死闘。
一歩間違えれば、自分もあのロックホークと同じ運命を辿っていたかもしれない。
生きて帰れる。
その安堵感が、じわじわと全身に広がっていった。
しばらくの間、動けなかった。
空を見上げ、風の音を聞きながら、ただ呼吸を繰り返す。
落ち着きを取り戻すと、彼はまず周囲を見回し、他のロックホークの気配がないかを確認した。
幸い、別の個体が現れる様子はないようだ。
つがいだったのか、あるいは単独で縄張りを守っていたのか…。
疲労困憊の体に鞭打ち、立ち上がった。
まだ、依頼は終わっていない。
無事に地上へ戻るまでが、冒険者の仕事だ。
彼は、採取したクリフハングが入った袋を背負い直し、崖に固定したロープを手繰り寄せた。
下山は、登り以上に慎重さが求められた。
疲労で集中力が切れかかっている上に、一度、足をかけた岩が崩れて、ヒヤリとする場面もあった。
それでも、一歩一歩、確実に、ロープとハーケンを頼りに崖を下りていく。
ようやく、麓の地面に足が着いた時の安堵感は、筆舌に尽くしがたいものがあった。
アルトは、村への帰路を急いだ。
ロックホークの死骸から、討伐の証拠として大きな羽根でも回収できれば良かったのだが、崖下に降りて探す余裕も体力も、今のアルトにはなかった。
幸い、採取したクリフハングは無事だ。
これで依頼達成は証明できるだろう。
村に戻ったアルトは、泥と汗にまみれた姿のまま、ギルドへと直行した。
カウンターで、採取袋からクリフハングを取り出し、ギルドマスターに提出する。
「ギルドマスター、依頼完了しました。クリフハング、5本です」
ギルドマスターは、アルトのやつれた様子と、わずかに血の滲んだ傷を見て、眉をひそめた。
「うむ、薬草は確かに受け取った。だが、アルト、お前、ただならぬ様子だな。まさかとは思うが…」
「はい。崖で、ロックホークに襲われました。それで…なんとか、倒しました」
アルトが正直に報告すると、ギルドマスターは言葉を失い、目を丸くしてアルトを凝視した。
「なんだと……?ロックホークを、討伐した、だと……?あの崖の上で、君が、一人でか!?」
その声は、驚愕に満ちていた。
マスターは、しばらくの間、アルトと提出された薬草を交互に見つめていたが、やがて、深い、深い感嘆のため息をついた。
「信じがたいが……報告を疑う理由もない。君なら、やりかねんのかもしれんな……。クリフハングの採取だけでも、Eランクに値する難易度の依頼だ。それに加えて、あの獰猛なロックホークまで単独で討伐するとは……」
マスターは、アルトを改めて見つめ直した。
その目には、もはや単なる新人を見る色はなく、確かな実力を持つ一人の冒険者として認める、尊敬の念すら含まれているように見えた。
「アルト。君は、もはやただの新人ではない。ギルドが認める、立派な冒険者だ。Eランクへの昇格は、間違いなく正しかった」
マスターはそう言うと、依頼報酬の銅貨に加え、危険な魔物の討伐に対する特別報酬として、さらに数枚の銀貨をアルトに手渡した。
周囲で話を聞いていた他の冒険者たちも、アルトの成し遂げた偉業に、驚きと称賛の声を隠せないでいた。
今回の依頼を通じて、アルトは計り知れないほどの経験を得た。
登攀という新たな技術。
高所での平衡感覚。
そして、不安定な足場という極限状況での戦闘。
ギフトの応用である「衝撃波(仮)」は、飛行する敵への牽制として有効だったし、危機的状況で発動した「硬くなる感覚」と反射による防御は、文字通り彼の命を救った。
しかし同時に、アルトは常に予期せぬ事態に備える必要性と、自分にはまだ足りないものが多くあることも痛感した。
特に、空中を自在に動き回る敵に対する、有効な攻撃手段の乏しさ。
これは、今後の大きな課題となるだろう。
Eランク冒険者として、最初の依頼で大きな試練を乗り越え、予想以上の成果を上げたアルト。
その自信は、彼のさらなる成長への、強い意欲へと繋がっていく。
確かな手応えが、ショートソードを通してアルトの手に伝わる。
「ギャアアアッ!」
ロックホークは、これまで以上の甲高い悲鳴を上げ、傷ついた翼を激しくばたつかせた。
深手を負ったのは明らかだ。
これで勝負あったか、とアルトが思った瞬間、ロックホークは最後の力を振り絞るかのように、アルトに向き直った。
その目は、傷の痛みによるものか、あるいは純粋な憎悪か、赤く充血し、凶暴な光をたたえている。
狙いは、アルトの頭部。
ロックホークは、最後の武器である鋭く尖ったくちばしを、槍のように突き出してきた!
それは、アルトの反応速度を超える、捨て身の突撃だった。
「しまっ…!」
咄嗟にショートソードで受け止めようとするアルト。
しかし、不安定な足場と、先ほどの攻撃でわずかに体勢が崩れていたため、完全には受け止めきれない。
ガキンッ!という衝撃音と共に、ショートソードが弾き飛ばされそうになる。
アルトの体は大きくよろめき、背後の崖っぷちへと追いやられる。
眼下には、遥か下の地面。
落ちれば、助からないだろう。
絶体絶命。
死の恐怖が、アルトの心を凍てつかせようとした、その刹那。
アルトの体は、もはや意識とは別のところで、生存本能に従って反応していた。
ギフト、【ダメージ反射】!
アルトの全身が、かすかな光に包まれる。
あの、攻撃を受ける瞬間に現れる「硬くなる感覚」。
それが、今までにないほど強く、全身を鎧のように覆った。
ロックホークのくちばしが、アルトの胸の革鎧に突き刺さる寸前、その硬化した体表面に激突した!
ゴッ!という鈍い衝撃。
革鎧はわずかにへこんだが、アルトの体は、まるで岩のようにその場に踏みとどまった。
そして、ギフトはただ守るだけでは終わらない。
受けた衝撃を、増幅させて相手に返す。
アルトは、ロックホークの目を真っ直ぐに見据え、心の底で叫んだ。
(――反射ッ!!)
受け止めきれなかったはずの衝撃が、反射ダメージとなってロックホーク自身を襲う。
くちばしから伝わる強烈な反動に、ロックホークは苦悶の声を上げ、その巨体が大きくのけぞった。
そして、バランスを完全に失い、傷ついた翼ではもはや空を掴むこともできず――
「キィィ……」
最後の弱々しい鳴き声を残し、崖下へと、真っ逆さまに墜落していった。
その姿が、崖下の霧の中に消えていくのを、ただ呆然と見送っていた。
やがて、崖には、吹き付ける風の音だけが残された。
「………助かった…………」
アルトは、その場にへたり込み、荒い息をついた。
全身は汗でびっしょりになり、手足はアドレナリンが切れた後のように、がくがくと震えている。
崖の上という、逃げ場のない場所での死闘。
一歩間違えれば、自分もあのロックホークと同じ運命を辿っていたかもしれない。
生きて帰れる。
その安堵感が、じわじわと全身に広がっていった。
しばらくの間、動けなかった。
空を見上げ、風の音を聞きながら、ただ呼吸を繰り返す。
落ち着きを取り戻すと、彼はまず周囲を見回し、他のロックホークの気配がないかを確認した。
幸い、別の個体が現れる様子はないようだ。
つがいだったのか、あるいは単独で縄張りを守っていたのか…。
疲労困憊の体に鞭打ち、立ち上がった。
まだ、依頼は終わっていない。
無事に地上へ戻るまでが、冒険者の仕事だ。
彼は、採取したクリフハングが入った袋を背負い直し、崖に固定したロープを手繰り寄せた。
下山は、登り以上に慎重さが求められた。
疲労で集中力が切れかかっている上に、一度、足をかけた岩が崩れて、ヒヤリとする場面もあった。
それでも、一歩一歩、確実に、ロープとハーケンを頼りに崖を下りていく。
ようやく、麓の地面に足が着いた時の安堵感は、筆舌に尽くしがたいものがあった。
アルトは、村への帰路を急いだ。
ロックホークの死骸から、討伐の証拠として大きな羽根でも回収できれば良かったのだが、崖下に降りて探す余裕も体力も、今のアルトにはなかった。
幸い、採取したクリフハングは無事だ。
これで依頼達成は証明できるだろう。
村に戻ったアルトは、泥と汗にまみれた姿のまま、ギルドへと直行した。
カウンターで、採取袋からクリフハングを取り出し、ギルドマスターに提出する。
「ギルドマスター、依頼完了しました。クリフハング、5本です」
ギルドマスターは、アルトのやつれた様子と、わずかに血の滲んだ傷を見て、眉をひそめた。
「うむ、薬草は確かに受け取った。だが、アルト、お前、ただならぬ様子だな。まさかとは思うが…」
「はい。崖で、ロックホークに襲われました。それで…なんとか、倒しました」
アルトが正直に報告すると、ギルドマスターは言葉を失い、目を丸くしてアルトを凝視した。
「なんだと……?ロックホークを、討伐した、だと……?あの崖の上で、君が、一人でか!?」
その声は、驚愕に満ちていた。
マスターは、しばらくの間、アルトと提出された薬草を交互に見つめていたが、やがて、深い、深い感嘆のため息をついた。
「信じがたいが……報告を疑う理由もない。君なら、やりかねんのかもしれんな……。クリフハングの採取だけでも、Eランクに値する難易度の依頼だ。それに加えて、あの獰猛なロックホークまで単独で討伐するとは……」
マスターは、アルトを改めて見つめ直した。
その目には、もはや単なる新人を見る色はなく、確かな実力を持つ一人の冒険者として認める、尊敬の念すら含まれているように見えた。
「アルト。君は、もはやただの新人ではない。ギルドが認める、立派な冒険者だ。Eランクへの昇格は、間違いなく正しかった」
マスターはそう言うと、依頼報酬の銅貨に加え、危険な魔物の討伐に対する特別報酬として、さらに数枚の銀貨をアルトに手渡した。
周囲で話を聞いていた他の冒険者たちも、アルトの成し遂げた偉業に、驚きと称賛の声を隠せないでいた。
今回の依頼を通じて、アルトは計り知れないほどの経験を得た。
登攀という新たな技術。
高所での平衡感覚。
そして、不安定な足場という極限状況での戦闘。
ギフトの応用である「衝撃波(仮)」は、飛行する敵への牽制として有効だったし、危機的状況で発動した「硬くなる感覚」と反射による防御は、文字通り彼の命を救った。
しかし同時に、アルトは常に予期せぬ事態に備える必要性と、自分にはまだ足りないものが多くあることも痛感した。
特に、空中を自在に動き回る敵に対する、有効な攻撃手段の乏しさ。
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